表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

第3話「メイドの住む家」

透子が目を開けると、周囲の世界が微かに歪んでいることに気づいた 天井の木目が揺らいで見える 疲れ目だろうか、それとも何か別の原因があるのだろうか ゆっくりと上体を起こそうとするが、身体の重さに圧倒される


昨日の夢が、まだ現実と混ざり合っているような感覚が残っていた 肌にまとわりつくような疲労感 まるで自分がもう一度、何かに取り込まれてしまったような不安が湧き上がる


目を横にやると、そこにニャルが座っていた


黒いメイド服を身にまとい、無言で寝ている その姿はまるで静止した時間の中にいるかのようで、息すらしていないように見える まるで死者のようだ それでも異常なまでに美しく、透子は無意識に目を背けた 彼女は眠っているのか、それともただ存在しているだけなのか



透子は、心の中で何かが揺れるのを感じ、無意識に唇を噛んだ


──この部屋、昨日と何か違う


ベッドから静かに降り、室内を見回す 昨日の記憶にあったものが微妙にずれている気がした 壁紙の模様が違う ドレッサーの位置がほんの少しずれている 窓のカーテンの柄が記憶と一致しない


小さく息を吐き出し、考えすぎだと自分に言い聞かせる それでも腹の奥でじわじわと不安が広がっていく


──この部屋は、本当に自分の部屋だったのだろうか?


深く息を吸い、その感覚を振り払おうとするが、疑問は消えなかった 朝の準備を始めようとした、そのとき


──ガクン


空気がわずかに震えたような感覚が背中を走る 振り向いた瞬間、耳元で囁かれたような声が響いた


「……いってらっしゃいませ、ご主人様」


透子は驚きのあまり飛び退いた 震える手が壁に触れ、背中には冷たい汗が流れる


ニャルは依然として静かに横たわっていた その姿に動きはない しかし確かに、彼女の声は聞こえた 現実なのか、それとも夢の中の声だったのか、透子には分からなかった


逃げるように部屋を出た



夜、帰宅した瞬間、息を呑む


部屋の空気が異様に澄んでいる 「綺麗」とは違う どこか異国の館に足を踏み入れたような静けさがあった 立ち止まり、ゆっくりと足を踏み入れる


──昨日と違う それなのに、どこか「当然」のことのように思えてくる


「おかえりなさいませ、ご主人様」


思わず足が止まる ダイニングテーブルには湯気を立てる料理が並んでいた ロールキャベツの香りが広がる


「今日はお仕事、お疲れ様でした」


ニャルの声は静かで穏やかだった その微笑みが透子に不安を与える 言葉を交わさず椅子に座り、食事を取る 料理は温かく、味は心地よい しかしその温かさが、かえって異常に思えてくる


無意識に喉を鳴らした


──違和感が、どんどん薄れていく それが、最も恐ろしいことだった


しばらく黙って食事を続けた後、静かに声をかける


「……ねえ、ニャル」


「はい、ご主人様」


少し考えてから言葉を続けた


「部屋……少しずつ変わってない?」


ニャルは静かに微笑んだ その表情は、まるで何も知らないかのように穏やかだった


「ええ、ご主人様が住みやすいように、最適化しております」


「……最適化?」


疑念を隠せなかった


「ええ、ここはご主人様の家です だから、ご主人様の理想の形へと近づいていくのです」


自分でも理解できないほど冷たく感じた喉を意識する


──私の、理想?


部屋を見回す 確かに壁紙が昨日とは違っている しかし、それが変わったと認識できることこそが異常だと気づく 何度も記憶を辿るが、これが元からこうだったのだと考えようとするたび、違和感が薄れていく


思考が次第に曖昧になり、意識が滲む ふと、耳元で甘やかな声が囁かれた


「おやすみなさいませ、ご主人様」


その言葉が、透子の意識を深い闇へと引きずり込んでいった



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ