人情のない時代ー1分で読める1分小説ー
「なんだ。こいつは」
ファミレスで老人が叫んだ。注文をすると、ロボットが料理を運んできたのだ。
彼の妻が説明する。
「最近は人じゃなくて、ロボットが配膳してくれるそうですよ」
ロボットが角ばった声で答えた。
「はい。私がおもてなしします」
夫が不快そうに吐き捨てる。
「なんだそれは! 人情もへったくれもないじゃないか」
「時代ですね」
妻もそう同意する。
「お父さんはハンバーグが好きですか? キッズもみんな好きです」
「うるさい! おまえは黙って料理を運んでろ!」
ただ夫はロボットを気に入ったのか、毎日のようにこの店に通った。二人がやりとりする様を見るのが、妻は妙に嬉しかった。
夫は口が悪いので人から誤解されやすいが、ロボットはそうではなかったからだ。
しばらくして夫が亡くなった。葬式の参列客は誰もおらず、子供達は早々と遺産相続の話を始めた。
そこにロボットがあらわれた。いつも料理を載せるトレイの上には、綺麗な花が置かれていた。供花だ。
妻が驚きの声を上げた。
「あなた、来てくれたの?」
「……はい。毎日お父さんとお話しできるのが、楽しみでした。お亡くなりになられてとても悲しいです……」
ロボットの液晶画面には、涙のマークが浮かんでいた。
妻が、夫の遺影に顔を向けた。感慨深さと嘆きをまじえて、こう語りかけた。
「お父さん、私たち間違ってたみたいです。
今の時代に人情があるのは、ロボットだけです」




