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侍女

4話完結、毎日1話更新の予定です。

 彼が出かける前の晩、秘かに二人で過ごしました。

 王宮の空き部屋で待ち合わせて口吻を交わし、身体を寄せ合って、窓から二人で夜空を眺めたのです。

 月がとても綺麗でした。

 真珠のような淡い輝きを見つめながら、湧き上がる幸せを感じていました。

 このまま死んでも良いと思えるほどに。


 王様に率いられて彼が属する騎士団が視察に出た後、王妃様の首飾りが盗まれ、私に疑いがかかりました。


 王妃様は、前の晩に開かれた壮行の宴で、特別な首飾りを身に着けられました。

 王家に代々伝わる秘蔵の品で、細やかな金細工が施された真珠の首飾りです。


 この国では、真珠は、聖なる島の入江に生息する貝の中で育てられます。

 聖別された乙女が、銀の盥を持ち、月の女神の気が満ちる満月の晩に、貝を集めて真珠を取り出すのです。

 月の光を集めたような白い珠は、真呪とも呼ばれ、昔から、女神の力により、真実を為すための呪に用いられて来ました。


 そのように貴重な真珠の首飾りを、王妃様付きとはいえ、私のような侍女が盗めるものでしょうか。たとえ盗んだとしても、王宮から持ち出すことも、まさか売り払うこともできないでしょうに。


 宴の後、部屋に戻られた王妃様から首飾りを受取り、小部屋に片づけるように命じられたのは、確かに私です。

 深夜に部屋を抜け出して彼に会う約束に胸を弾ませてはおりましたが、仕事は確実に行いました。小部屋の奥に置かれた、花の彫刻を施した宝石箪笥の中に、絹布に包んで収めて、鍵は侍女頭様に渡しました。


 翌日、侍女頭様から手入れを命ぜられた者が、首飾りの不在に気づきました。

 盗まれた首飾りは、私の荷物の中から見つかったということです。

 すべては、捜索に携わっていた、王妃様付の騎士様の証言です。

 ですが、私はその場には居りませんでした。


 盗んではいないとの訴えは、一蹴されました。

 なぜ、部屋を抜け出したのかと、と何度も問われましたが、答えることはできませんでした。

 たとえ答えられたとしても、それを証明してくれる人は、今ここには居りません。

 俯いて両手を握りしめる私に、王妃様が厳しい言葉を投げつけ、護衛の騎士が私を手荒く引き立てて、地下牢に押し込めました。


 王都は夏を過ぎたばかりですが、石造りの床は底冷えがします。

 常に熱っぽい頭には、王妃様からの叱責の声ばかりが響いています。

 冷たい石の壁に頬を寄せて目を閉じて、あの日の彼の姿と声を思い出そうとしますが、だんだんとその記憶も薄れていくばかりです。



 王妃様の宮殿の地下牢に閉じ込められて、何日が過ぎたのでしょうか。

 彼は、私の窮状など知る由もなく、お勤めを果たしていらっしゃることでしょう。

 視察は、一月程と聞いています。

 王様が不在のため、私の処刑も延期されていると、牢の番をしている騎士様から教えて頂きましたが、それまでこの身が耐えられるでしょうか。



 ある日、侍女頭様が、私を訪ねて来られました。

「王妃様は、お怒りなのですよ」


 噂は聞いておりました。

 王妃様が、彼を護衛につけたいと、王様に何度も強請っていることを。

 見目麗しいあの男を傍らに控えさせて、跪かせてみたいものだと、お気に入りの夫人達とのお茶会で、何度か話していたことを。

 王様は取り合わなかったそうですが、事あるごとに、王妃様が彼を呼びつけていたのは、事実。


 一方、彼と私の関係は、誰にも明かしていませんでしたが、所詮、王宮内の密会です。

 いつか誰かに漏れていたのでしょう。

 王妃様にとって、私と彼との関係は、手酷い裏切りだそうです。

 王妃様はとてもご立腹とのこと。


 「だから、私が首飾りを盗んだことにされたのですか?」

 「そうは言っておりません。首飾りを盗んだのは貴女だという証拠が、いくつも出ています」


 その証拠を集めたのは、王妃様に忠誠を誓っている方達です。

 私はため息をつきました。

 私が、ここに閉じ込められた理由は、わかりました。

 ここから出る手立てがないことも。

 王様がお戻りになれば、正しいお裁きが下されるのでしょうか。

 そもそも、真実を求めることは出来るのでしょうか。

 地下牢には光が差し込む窓もなく、夜空の月を思い浮かべて、私はただひたすら祈るしかありませんでした。


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