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6. エディットと結婚する(※sideマクシム)

「ふむふむ。あの壁際にいる、栗色の髪の女性ですか。へーぇ……、可愛い。意外ですね団長。ああいうタイプがお好みでしたかー。へーぇ」

「黙れ。何度も言っただろう。あのバロー侯爵夫妻の娘ならば、きちんと挨拶をしておきたいだけだ。先にお前から声をかけ、これから挨拶に来るデカい男は妙な人間ではないと安心させてやってほしい」

「いや、バレバレですよ。目つきが違いますもん、団長。さっきからずーっと彼女のことばかり見つめて。もう惚れちゃったんですか?そうでしょう?そもそも、いくら昔お世話になった方の娘さんだからって、社交嫌いの団長がわざわざ王宮の夜会にまで出向いてきて会おうとするなんてやっぱり……」

「セレス!」

「はいはい。行ってきますよ。しかし団長がここまで女性を気遣うことがあるとは……。すごいなぁ。面白い」


 セレスタンは俺を揶揄するようなことをぶつぶつと言いながら、広間の人波を優雅にすり抜けていともあっさりとエディットの元に辿り着いた。……自分が話すわけでもないのに、やけに緊張する。


(……。…………?)


 どうしたんだ。


 あのセレスタンが話しかけたというのに、エディットの様子がおかしい。

 怯えるようにセレスタンから視線を逸らし、ひどく苦しげな様子で肩を揺らしながら浅い呼吸を繰り返しているように見える。


(……具合が悪いのか……?)


 何を考える余裕もなく、気付けば俺はエディットのそばに行き、彼女に話しかけていた。

 ますます怯えた表情で俺を見上げるエディット。

 そして、次の瞬間だった。

 エディットは突然口元を手で抑えたかと思うとガクリと崩れ落ち、その場に倒れそうになった。俺はすばやく反応しエディットを支え、彼女の吐瀉物をモロに体に浴びた。だが、そんなことはどうでもよかった。俺はそのまま彼女を抱き上げ、できる限り誰にもその醜態を見られずに済むようにと考えるのに必死だった。レディがこんな姿を人前に曝すなど、きっと恥ずかしくてならないだろう。


「セレス!どこか彼女を休ませられる部屋がないか聞いてくれ」

「了解です。そっちの隅の扉から出ましょう」


 気の利くセレスタンが即座に目立たない扉を見つけ先に歩いて開けてくれる。俺はそこからエディットを連れ出し、王宮の客間に運んだのだった。




 結局、ほとんどまともに話すこともできないままに、エディットはオーブリー子爵一家とともに帰っていってしまった。

 だがセレスタンの言う通り、この短い時間で彼女の今の暮らしが満ち足りたものではないことがよく分かった。

 不健康なまでにか細い体。貴族家の若い令嬢とは思えない、ひどく荒れた指先。おどおどと場慣れしていない態度。子爵夫妻への怯えきった眼差し……。


(……クソ……。もっと早くに知っていれば……)


 苛立った俺は乱暴に髪をかきあげた。たった今帰ったばかりの彼女を、今すぐ迎えに行きたい。一刻も早く助けてやりたい。俺のことを気に入ってくれるかは分からんが、少なくとも俺の元へ来れば、今よりはずっと良い暮らしをさせてやれるはずだ。


「……準備を急ぐぞ、セレス」

「?……何のですか?」

「俺はエディットと結婚する」

「……。…………はい?」






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