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15. オーブリー子爵夫妻への疑念(※sideマクシム)

 そして翌朝。

 俺はかなり早い時間に目が覚めた。体力があり余っている俺はさほど長時間寝なくてもすぐに目覚める。対してエディットは昨夜の姿勢のままで俺の腕の中にいて、まだ規則正しい寝息を立てている。……可愛い。エディットにとって昨日は怒涛の一日だったのだろう。ゆっくり眠るといい。俺は朝の日差しの中のエディットをひそかに堪能しようとして、彼女の肩を見下ろた瞬間、フリーズした。


(……何だこれは……)


 昨夜のあの薄暗さの中では気付かなかった。俺は自分の胸をエディットの背からそっと離して、その体を凝視する。

 向こうを向いたまますやすやと眠るエディットの背や肩口に、いくつかの黒い痣や黄色くなった痣の痕があった。それらは時間が経過したものではあるが、明らかに何かに打ち付けた痕だった。


「……まさか……!」


 その理由に思い至り、思わず声を上げる。すると俺の腕を枕にして眠っていたエディットがもそりと動き、しばらくしてビクッと飛び跳ねると、怖々といった様子でこちらを振り返る。


「……あ、お、……おはよう、ございます、マクシムさま……」

「エディット、この痣は一体何だ。ぶたれた痕じゃないのか?誰にやられた」


 瞬間的に頭に血が上った俺は、エディットの朝の挨拶も無視して彼女を問い詰めた。するとほんの一瞬ポカンとしていたエディットが、突然ハッとしたような表情をし飛び起きた。そして自分が裸であることに気付くと慌てふためいてブランケットをたぐり寄せ、それと長い髪で必死に体を隠そうとする。

 俺も起き上がるとエディットの肩を掴み、強引に自分の方に向き直らせた。腹の底から怒りが込み上げてくる。まさか……、これらの痣は……。


「言うんだ、エディット。この痣は何だ。誰にこんな目に遭わされた」

「ひ……っ!あ……、」


 間近で問い詰めると、エディットは真っ青な顔でガクガクと震えはじめた。歯をカチカチ鳴らしながら、目に涙を溜める。


「……ち……っ、ちがいます……っ!違いますっ!だ、誰にも、何も、されていません……っ!わ、私が……、私が自分で、ぶつけて……、……そう……、か、階段から、落ちてしまって……!」


 その怯え方は尋常ではなく、俺は口を閉じるしかなかった。何かを隠しているのは明白だったが、このまま口を割らせるためにはエディットをもっと怯えさせることになる。

 歯痒い思いを堪え、俺は努めて静かな声を出した。


「……そうか。それならいい。……悪かった。驚かせて」


 そう言ってことさら優しくエディットの頭を撫でると、その細い体をそっと抱き寄せ、こめかみにキスをした。震えるエディットは俺の腕の中ではぁ、はぁ、と荒い呼吸を繰り返している。


 昨日再会してから、俺とエディットはずっとぎこちないままだった。俺は可愛いエディットを目の前にして緊張していたし、エディットは俺に怯えてか、ずっとビクビクしていた。まだろくに話もできていない。


(……焦るな。これ以上この子を怯えさせてはいけない)


 どうせもうエディットはずっとここにいるんだ。ここにはエディットをこんな目に遭わせる人間はいない。落ち着け。まずはエディットの心を開いていかなくては。何でも話し合える関係になれば、いずれ自分の身に起こったことも話してくれるはずだ。


 ……相手への制裁は、それからたっぷりしてやればいい。


 エディットを抱きしめその背に手を回して擦りながら、俺は煮え滾る怒りを必死で抑えていた。


 頭の中には、あの日の夜会で出会ったオーブリー子爵夫妻の顔がまざまざと浮かび上がっていた。






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