3-2
「…いない…」
結局、浜辺まで来てしまったサナは、その場にエイヴァリはおろか、人が一人もいないのを見て、ほっとした。
けれども、ここまで一本道なのに、どこに行ってしまったのだろう…。
見渡していると、レウリオは一人で海辺まで行っていた。
「も……戻りましょうよ」
サナの呼びかけはレウリオには聞こえていないようだ。
いやだ…ここにいたくない…。
サナは、そう思って、大きな声でレウリオを呼んだ。
「お願い!! 戻りましょう!!」
あまりに必死なサナの声に、レウリオは何事かと振り返えると、サナは顔色を失くして細かく震えている。
そんなサナに驚くというよりは呆れが勝った。
「そんなに怖いですか、ここが」
そう言われサナはうつむいた。
どう言えば良いのだろうか…
妙な声が聞こえ、血が逆流するような感覚がある事を…
サナは、上手く伝えることができず、ただ、うつむいたまま首を振った。
そんな、ただ首を振るばかりのサナを見てレウリオは息をついた。
「わかった、戻ろう」
あまりにもあきれ過ぎたためなのか、口調がぞんざいになっている。
しかし、レウリオのその言葉に、サナは安堵したように息を吐き頷いた。
歩きながら、顔色が戻ってきたサナを見て、レウリオは聞いた。
「そんなにあの場所がイヤか?」
口調は砕けたままになっている。
サナは、それに気が付きうつむいたままわずかに笑った。
「ごめんなさい…やっぱり、あの場所は…島の人にとっては忌む場所ですから」
そして、立ち止まり
「図書館はあそこです」
と、一つの建物を示した。
「ああ、そうか…ありがとう」
レウリオの言葉に、いいえ、と首を振ったサナは、空が既に色を変えている事に気がついた。
一面のピンクがかった黄金色…
夕暮れ時だ!
街の人も帰路を急いでいる。
しまった!!! 戻らなくては!!!!
サナは、再び顔色を変えた。
「あ…あの、もうすぐ日没なので私、帰ります。図書館ももう閉まってしまう時間です。明日、来ることをお勧めします!」
と少々早口でレウリオへ告げる。
「あ…! 見張り役のことは」
とレウリオが言いかけるが、サナは既に足早に戻り始めていた。
「また、明日にでも」
という一言だけが返ってくるだっけだった。
サナは走り出していた。
…日没まで、戻らなくては…!
眼鏡の奥の黒い瞳がキラっと光る。
日が沈んでも、しばらくの間であれば、なんとかなるが、できれば外にはいたくなかった。
ドアをくぐり、しっかりと閉じる。
…間に合った…。
必死で走った所為で息が上がっている。
しかし、それだけではない鼓動の早さがあった。
一度目を閉じ、息を吸い込んでゆっくりと開ける。
眼鏡を外し傍らの鏡を見た。
そこにいるのは、金色の目と金色の髪の少女。
これはカイ…
夜の島の見張り役、財宝の守り人…
変わったのは目と髪の色だけ。
そして、眼鏡が無くても見えるようになるので外しただけ。化粧をしたわけでも何でない。
しかし、それだけで、まるで違う少女に見える。
サナの時は、常に猫背でうつむきがちなのに対し、カイの時では背すじを正し、相手の目を真っ直ぐに見ることができる。背も5センチほど高くなったように…自分では思える。
見た目が変わると、性格も変わるものなのだろうか?
いや、本当は中身もまるで変わっていない。
ただ…
見張り役、守り人になっただけ。
そうして、自身ありげな微笑みをしてみる。
サナの時ではできない微笑み。
だが、その目はどこか悲しげで物憂げだった……。