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3-1

次の日。

島にまた一人、島民以外の人が来た。

続けざまに島外から人が来たということで少々さざめきあっていた。

名前をエイヴァリというらしい。

サナは、あまり興味なさそうに、その噂の飛び交う中を歩いていた。両手でしっかりと本を大切そうに抱えながら、何かを考えているような顔をしていた。

そして、道の角を曲がる。


トン、と誰かにぶつかってしまい、丸い大きな眼鏡がずれる。

あ…また…昨日も人とぶつかって転んだばかりなのに…と慌てながら頭を下げる。

「ご…ごめんなさい」

眼鏡を直しながら謝ると

「おや、また君か」

と苦笑混じりの声がした。

え…?と、見ると昨日ぶつかった人物がどこかあきれた様子でサナを見ていた。


「あ…ご…ごめんなさい、ごめんなさい」

「そんなに何度も謝らなくてもいいですよ…足の怪我は大丈夫ですか?」

サナは、目の前の人物が自分の膝の包帯を見ていることに気が付き、自分も膝を見た。

「まったく大丈夫です。…ああ、すみません、大げさに包帯なんか巻いて…」

何かと言うと謝るくせでもあるようだ。

「だから、そう謝らなくてもいいのだけれど……ところで、この島に図書館などはありますか?」

レウリオは苦笑しつつ、道を聞くことにした。

サナは、ああ、と頷き

「それでしたら、向こうの2つ目の角を左に…」

と言いかけ、

「良かったら案内しますよ」

と、おずおずと申し出た。

はちみつ色の髪の人物も、それはありがたい、と頷いた。


自分はレウリオという、と名乗のる。

…知ってる。

サナは、心の内で呟きながら、私はサナといいます、と答えた。

「あの…この島には何をしにいらしたのでしょうか…?」

こんな時期に、と言外に言われたようでレウリオは苦笑した。

「おれの家、本土のアラス礼拝堂のある家なのですが」

とレウリオに言われ、サナは一瞬きょとんとしたが、すぐに真顔になった。

「アラス礼拝堂…アラス司祭様の!?」

「ああ、知ってました?」

「有名な聖職者のお名前ですよね!?そこの…おぼっちゃま?」

サナがそういうと、レウリオは苦笑しながら首を振った。

「ぼっちゃまはやめてください。

おれはそこの三男なんですよ。家は長兄が継ぐことが決定したんですが、そのことを祖母の縁者に知らせようとしたものの、何度送っても手紙が返ってきてしまうため、おれがこうして直に知らせにきました」


ちなみに、とレウリオは自分の腰に下げている剣に軽く手をやり、自分は聖騎士として兄たちを守ろうと思っている事を告げた。

「なるほど…そのかたと連絡はついたのですか?」

「いや、ずいぶんと前に一家全員亡くなっていたようです」

「ずいぶん前、というと…どれくらい前のことですか?」

「ええと、確か40年ほど昔だったと聞きましたが」

という言葉にサナは、さっと顔色を青ざめさせた。

そして意を決したようにレウリオを見上げる。

「あの…夜は出歩かないほうがいいですよ…」

そう小さな声で忠告をした。


レウリオは、ああ、そのことか、と三度苦笑した。

自分が二晩続けて夜歩いていることは、結構知られているらしい。

「夜歩くことは、そんなに危ないのですか?」

レウリオのその質問に、サナは困ったような目をした。

「ええ…あの…この島には財宝、みたいなものがあって…」

と、気弱そうな声で話すサナに、レウリオは頷いた。

「ええ、聞きました。夜だけ入り口が開いて、それで夜歩く人は呪い殺されるという」

レウリオの言葉に、サナはこくこくと首を縦に振った。

「そうですよ、殺されたら…大変じゃないですか。だから歩かない方がいいです」

心配そうな声のサナに、レウリオは笑った。

「あいにくですが、呪いとかというものはまるで信じちゃいないものでして」


仮にも聖職者の家系の出のレウリオだが、その手の話はほぼ噂や昔話に尾ひれがついた程度にしか思っていなかった。

「そうは言いましても…その、おばあ様の縁者のご家族が亡くなったのは、その呪いのせいかもしれないのですが…」

というサナの言葉にわずかに眉をよせる。

どういう意味なのか…という事だろう。

呪いの類の話を信じてもらえていない事を知ったサナは、ため息をつく。

「そう言えば、見張り役とか名乗る人物がいましたが、あのかたは一体…?」

夜の浜辺にいた彼女からも、呪いの話を聞いたばかりだ。

レウリオのその問いに、サナは何かを言いかけ口を開いた。

しかし、サナの目に一人の見慣れぬ男性が映り、そちらに気を取られた。


この島の住人ではない…あの人が、やって来たもう一人なのだろう。

男性はゆっくりとした足取りで、歩いてくる。25~26歳といったところだろうか?

それほど大柄ではないその人物は、すれ違いざまにサナと目が合った。

その一瞬、サナはビクリと肩を震わせる。

その男性の目が銀色に光ったように見えたのだ。

もう一度その男性の目を見るが、褐色の虹彩と、黒い瞳孔…サナと同じ目の色だ。銀などではない。

見間違い……?

その男性は立ち止まることなく去っていく。

知らず知らず力が入っていたようで、ほっと息をつくと同時に肩が下がった。


「……知り合い?」

サナの様子をみて、レウリオがそう尋ねた。

「え…?…いいえ。見たことの無い人です。今日この島へ来たっていうもう一人の旅の人ですよ。多分」

サナがそう言うと

「いやに緊張していたように見えましたが」

と、レウリオは今の男性の後姿を振り返った。

「だって…知らない人ですし…」

とサナはうつむきがちに答える。

「でしたらオレもそうですね?」

と、にやりと笑うレウリオに、サナは、そうでしたね、と笑って答えようとした。

だが、その笑みは、ぎこちないものとなる。


レウリオは、サナのそのぎこちない笑みには気がつかないようだった。

もともとが気弱そうなサナだ。人見知りが高じていると思われているのだろう。

サナは、今のエイヴァリという人物が気にかかり、もう一度その後姿を振り返った。

エイヴァリは、浜辺の方…あの洞窟がある方向へと歩いていったように見えた。

そのことを不安に思い眉を寄せた。

「…どうかしました?」

レウリオに声をかけられ、はっと我に返る。

「いえ…何でも…」

と首を振ったが、それでも気になり、もう一度振り返る。


そんなサナを見て、レウリオは言った。

「気になるなら行ってみますか?」

え…?とサナは驚いたようにレウリオを見上げた。

「あちらの方角…見張り役とかいう人がいた海辺ですね…向こうに行くのが気になるんでしょう?」

と言い、勝手にエイヴァリの消えた方向へと歩き出す。

「ちょ…ちょっと待ってください…」

サナは、あわててそれを追った。

「気になるというか…あの場所には近寄らない方がいいと思っただけで…あの…聞いてますか?」

浜に行きたくないと思っているサナは、必死にレウリオに向かって声をかけているのだが、レウリオはどんどん先に行ってしまう。



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