2-2
夜。
結局レウリオはまた出歩いていた。
昨夜と違い、今夜は雨がぱらついている。
それが人の影のない、寂しい風景をより一層寂しくさせた。
雨が降っているし、彼女も今夜はいないのかもしれない。
無駄足だったのか?
と、帰りかけた時だった。
「……懲りない人ね」
後ろから声がした。
振り返ると、目立つ金の髪と金の瞳の少女が、傘もささず雨の中を歩いてきた。
そして、小首をかしげじっと金の瞳で見る。
「わざわざ雨の中、何をしているの?」
夜は出歩くなと言ったはずじゃないの、と心の中で付け足しているのがありありとわかる。
「もう、夜は歩かないで。本当にロクな事が起きないから」
ため息をつきつつ金の瞳をきらめかせながら、夕べと同じように言った。
「ロクな事が起きないとは、どんなふうに?」
レウリオがにらむような目で聞くと、少女はその目を真っ直ぐにとらえ見つめた。
「死ぬわよ」
その言葉に一瞬ひるむ。
冗談にしては悪質だ…しかし、少女は笑っていない。
金の目に、物憂げな表情を含ませている。
「それはどういう…?」
「それは…」
少女は、何かを言いかけたが、ふいっと、暗い沖へと目を転じた。
「……船……?」
いぶかしそうに眉を寄せ沖を見つめている。
レウリオも少女の見ている方向を見た。
しかし、そこには黒い海があるだけで、船の影など一つも見えなかった。
「何も見えませんが…」
そう言ったが、少女は固く唇を結んだまま沖を見つめていた。
何だか、イヤな予感がする……
少女は、背筋がゾクリとするのを感じた。
今、一瞬見えた確かに帆影が見えた。
何なの、もう、この人は夜に出歩くし…と苛立たし気に沖から視線を外した。
「もう宿へ戻って。そして、もう夜は出歩かないで」
あと数日でいい、大人しくしていて欲しい。それが、この人のためなのだ。
少女は、レウリオをその場において一人歩き出した。
「あ、君の名前は?」
少女の背に向かって呼びかけると、立ち止まり振り返った。
「カイ」
そう一言だけ言い、再び歩き去って行った……。
カイ…
それは守り人を示す相称。
鍵の番人と言う意味であり、本当の名前ではない。
今の自分はカイ…守り人で見張り役だから……だから、嘘は言っていない。