1-2
レウリオ自信の髪も金に近いはちみつ色で明るく見える。
しかし、彼女の髪はあまりにも美しい金であり、それ自体が光を発しているかの如く輝いていた。
月から降りてきた天女……
そんなイメージが、あてはまりそうな雰囲気を持っていた。
その少女がこちらに気付いたように、ゆっくりと顔を向ける。
髪と同じように、その瞳も金色。
レウリオを見つめる少女は、まるで現実味の無い存在に見えた。
夜の海辺に人がいることに、少なからず少女も驚いていた。
少女を見つめる眼差し……
この島の住人ではないことは確かだ。
ああ、そう言えば、昼間に本土から人が来たという話を聞いたわね……
少女は心の内で呟く。
だが自分と同じくらいの年齢の人だとは思っていなかった。
腰に下げているのは剣だ。……騎士には見えないけれども…見習いさんかしらね。
ところで島民は誰も彼に「夜は出歩くな」と言わなかったのだろうか?
少女は、軽い足取りではちみつ色の髪をした彼の方へと歩み寄った。
あまりにも現実離れした雰囲気の少女と目が合ったレウリオは動けなかった。
自分の見ているその少女は、今にも消える幻のように思えた。
しかし、その幻はゆっくりと軽い足取りで近づいてきて目の前で立ち止まる。
そして、その可憐な唇を開いた。
「こんばんは。旅人さん、かしら?
夜には出歩かない方が良い、って島の人に注意をされなかった?」
綺麗な細い声でそう言うと、にっこりと笑った。
微笑みすら、どこか現実的ではない。
とっさに声が出てこなかった。
確かに、この島に上陸した時に言われてはいた。
『夜には、出歩かない方がいいよ。…夜になっても何もないから』と。
そして、その言葉どおりものの見事に何もなく、それでも探索がてら歩き回っていたのだ。
「悪いことは言わないわ。もう、夜には……特にこの付近は歩かない方が良いわ。
ロクなことが起きないわよ」
金色の瞳をきらめかせながら、少女はそう言った。
「君は…?」
「私……?」
少女は、その金色の瞳を少しおもしろそうに輝かせた。
「私は守り人……見張り役よ」
多分、自分に名前を聞いているのだろうと少女は思ったが、あえて名前は言わなかった。
それに守り人というのも見張り役というのも嘘ではない。
「…守り人?オレはレウリオという」
「そう…。レウリオさん、早く宿にお戻りなさいな」
少女はもう一度、帰るように促した。
「この島は何故夜になると人がいないのですか?ロクなことが起きないというのは…」
「この島には、とてつもない財宝が眠っていてね」
くすくすと笑いながら少女はレウリオの言葉をさえぎるように言う。
「その入り口は夜にだけ現れるの。
けれども財宝に近づく者には、たとえ島の人だろうと、容赦なく呪われるようになっているのよ」
そう言いながら、いたずらっぽく光る金の瞳。
どこまでが本当なのか…?
「それで、夜はその入り口の近くはおろか、街の中でさえ、めったなことでは島の人は出歩かないのよ」
「本当の話ですか?」
疑わしそうなレウリオの声に少女は肩をすくめた。
「さぁ?けれども昔からこの島では信じられてきていることよ」
少女は、レウリオの目を真っ直ぐに見つめて答えた。
「では、どうして君はここにいるのですか?」
「私は守り人。見張り役で特別だから」
少女は繰り返し、そう答えただけだった。
レウリオはこの時に決めた。
もうしばらくこの島に居ようと。
そして、もう少しこの少女の話を聞いてみようと。