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恒星の黎明姫  作者: ポルゼ
水の国・プレウス
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シュペルノヴァ

「シュペルノヴァ、焦熱死灰烈火(ガフネティッカ)


 システィが城の最上階に到着する前、カペラはアノーツ使いの中でも一部の強者しか使うことのできない奥義、シュペルノヴァを発動させる。それは、同じくシュペルノヴァを発動させたロイデに対抗するための処置であった。

 アルフェラッツとシェラタン、ルデルと冒険者達は急いで最上階の端の方へ退避したが、ロイデは必殺技と言っても過言ではないシュペルノヴァを発動した以上、退くことができない状況にあった。

 そしてアステは、カペラの大きな背中を見ていた。

 ロイデは今までの冷静な様を崩し、なんとかカペラを打ち倒さんとした形相でタランのアノーツで生成された巨大な騎士を操り、カペラを潰すために動かす。


「え?」


 しかし、次の瞬間、強大なアノーツによる暴風で生成されているはずの巨大な騎士の胴体が真っ二つにされていた。

 そのすぐ後、炎によってできた線が綺麗に空中に描かれ、その先にはカペラがいた。

 カペラの移動をかろうじて目で追えた者は、この場においてはアルフェラッツだけであった。他の者にとっては、カペラが突然瞬間移動でもしたかのように目に映った。

 ロイデは何が起きたのか分からず、目の前の巨大な騎士が一瞬で敗北し、自身に狙いを定めているカペラの姿を呆然と見ていた。


(なんだ、これは? ここまで力の差があるというのか……?)


 ロイデにはカペラの攻撃を避ける、という選択が当然頭にはあったが、それを実行に移すことができなかった。

 単純に体が動かなかったのだ。理由として、そもそも避けたくても避けらないと直感したから、ということや、恐怖を感じているからなど、当然と言えるようなものがある。

 しかし、一番はそこではない。フェンガリに入ることができるかもしれないポテンシャルを持ち、幼い頃から優秀で、まだ完成形ではないがシュペルノヴァまで会得しているロイデには高いプライドがある。

 ロイデが頭脳的にもアノーツが使えるという部分においても優秀な人物であることは間違いない。そしてそれはロイデ自身もよく自覚している。

 そんな優秀なロイデは、カペラが戦闘面に関して自分の実力よりも上であることは理解しており、真正面から戦っても勝てないことは分かっていた。

 しかし、状況によっては自分がカペラを倒すことは決して不可能ではないと考えていた。

 極端な話、アルフェラッツと同程度のレベルのアノーツ使いが十人いたら流石のカペラでも勝ち目はない。そこでロイデが最後の美味しいところを頂くことができれば、それはロイデの勝利と言えなくもない。

 実際にはそんな状況を作ることはできないが、ロイデの手札と全貌は教えられてないがフェンガリの企む計画を組み合わせれば、カペラに打ち勝つことができると本気で考えていた。

 だが、そうはならなかった。その理由は、単純な圧倒的な力量の差である。


「無理だ……」


 ロイデの口から情けない声が漏れる。

 その直後、ロイデの四肢と腹から血が吹き出していた。


「貴方はもう黙っていなさい」

「クソ……」


 ロイデの武器である杖が光を失っていき消え、その場に倒れた。

 カペラは元々ロイデを殺害するつもりはなかった。ロイデを拘束し、フェンガリに関する情報を出来る限り引き出すことが重要であると考えているからである。

 そのため、ロイデに致命傷は与えなかった。四肢と腹を斬られて戦闘不能になってはいるが、アノーツを使える者特有の頑丈さがあるため、常人であれば致命傷になる傷でもアノーツ使いであればそこまで深刻な傷にはならないのだ。

 しかし、今のロイデでは戦闘を続けることはできない。


(この様子だとロイデはあれ(・・)を使うことはできなそうね)


 カペラは戦闘不能になって敵意が喪失している様子のロイデを見てとあることを考えて安堵する。

 だが、状況的にはまだ無視できない要素がある。


「さて……」


 それがヴォジャノーイの暴走によるアデスのアノーツの無差別攻撃である。

 

「凄い……」


 そんな風に次の行動の事を考えているカペラを愕然としながらも感動すら覚えているのはアステであった。


(今の私には正直遠すぎて、感覚を掴むことすら難しすぎるけど……、目に焼き付けておこう。まだカペラのシュペルノヴァは終わっていない)


 カペラはタンっと軽くジャンプすると、またもその姿が消えた。

 次の瞬間、最上階に無差別に降り注ぐヴォジャノーイの攻撃の大半が蒸発し、消え去った。

 空中には幻想的な炎の線がいくつも残っており、そこだけ見れば戦闘以外の何かにも見える。カペラは空中の炎の線の中心あたりで美しく舞っている。


(カペラのシュペルノヴァは実に単純明快だ。身体能力も含めた様々な能力が上昇するフロガ・シルキュラーションを更に強力にしたような技。ただそれだけなのに恐ろしい脅威になるのはその能力上昇の上がり幅が異常なほど大きいからだ。何も使っていない状態であってもロイデレベルの相手ならシュペルノヴァでも使われない限り大した障害にはならないだろうに、そこからどんだけ上乗せしてるってんだよ……)


 アルフェラッツは冷静にカペラのシュペルノヴァを分析しているが、その頬には一滴の冷や汗が流れている。

 横にいるシェラタンも今のカペラとの力量差をひしひしと感じていた。

 するとカペラはヴォジャノーイの方を向く。ヴォジャノーイの無差別の攻撃は決して最上階に降り注ぐ範囲だけではない。街全てを覆うほどではないが、最上階以外の場所にも被害が及ぶような広範囲の攻撃である。


「雲外蒼天!」


 カペラは猛々しく言い放ち、ヴォジャノーイの背後で着々と街へ降り注いでいくアデスのアノーツ一つ一つに狙いを定める。

 一旦床に着地し、その後高く跳躍し、深呼吸をする。


「真似させてもらうわよ!」


 その挙動を目に捉えることができたのは、またもアルフェラッツだけであった。

 カペラはケルトのアノーツを斬撃の形にして凄まじい速度で飛ばした。それはアルフェラッツの飛ぶ斬撃に似ている。

 また、その飛ぶ炎の斬撃に当たったアデスのアノーツは次々と一瞬で蒸発して消え去っていく。

 あんなにも多くの無差別攻撃が一気に消えていくその様は異様であると同時に、カペラの力量がどれだけ高いレベルにあるのかをアステ達に思い知らせるには十分であった。


「貴方にも見せるのは初めてだったわね」


 ケルトのアノーツが場を支配するかのように熱気に満ちた空気の中、カペラは華麗に床に着地し、アルフェラッツを見て言う。

 その目も体も、どこか輝いているように見えるのはアノーツの影響か、カペラの存在感の大きさがそう見せているのか。

 

「……お前、いつ会得した?」

「んー、少なくとも貴方の知らない間よ」

「そうかい。その若さで会得するだけでも稀有な存在なのに、その熟練度はなんなんだよ」

「さぁ? 真面目に修行したからかな?」

「それでその領域に到達できるなら皆会得してるだろうよ」


 アルフェラッツが難しい顔をしてカペラと話していると、ヴォジャノーイの様子が変わった。


「無差別攻撃が止まった……!」


 ルデルの言う通り、先ほどまでのヴォジャノーイの暴走が止まったようで、攻撃も止まった。

 カペラの圧倒的なアノーツや攻撃によってヴォジャノーイが何らかの影響を受けた可能性や、シンプルにタイミング良くヴォジャノーイの攻撃が止んだだけという可能性も考えられるが、とにかく街への被害を抑えつつ動きやすくなったのは確かだ。


「さて……、この戦いもそろそろ締めかしらね」


 剣を軽く振り、アルフェラッツに狙いを定めるカペラ。現状、ロイデは戦闘不能で、明確な残りの敵はシェラタンとアルフェラッツのみである。

 仮にシェラタンを倒したとしても、やはり圧倒的な実力を持つアルフェラッツを倒さない限り戦いは終わらない。


「貴方も使う?」


 カペラの問いの意味は至極簡単で、アルフェラッツも奥義のシュペルノヴァを使わないのかと問いているのだ。


「お前に見せたことは無いし、俺が使えるとも限らないんじゃないか?」

「何馬鹿なこと言っているの? 貴方が使えない訳ないでしょう」


 一見有利に見えるカペラ陣営だが、実はカペラの内心は全く有利だとは思ってはいなかった。


(ヴォジャノーイの暴走は止められたし、ロイデも戦闘不能にした。私ならシェラタンとかいうフェンガリの一人も倒せるでしょう。ただ、やはりアルフェラッツは違う。奴がシュペルノヴァを使用したら、また状況が一変するかもしれないし、最悪私も含めて全滅するわね)


 しかし、カペラはアルフェラッツがシュペルノヴァを使う可能性を考慮しつつも、そこまで悲観的にはなっていない。


(けれど、アルフェラッツの性格的に複数人に見られてる中でシュペルノヴァを使うようには思えない。そういうのを嫌う奴だから)


 カペラはアルフェラッツを前から知っている。そのため、アルフェラッツの性格についてもある程度理解しているのだ。


「さぁて、どうだろうな。正直困り果ててはいるが」

「困り果てているなら撤退したら? 正直、もう貴方でもコントロールできない状況でしょう? もしもコントロールできるならもう私達は負けているだろうしね」

「まぁ、そうだな。もう俺にできることは少ない。けど、まだ目的は達成してねぇんだ」

「そう? じゃあ貴方たちフェンガリの目的を教えてもらってもいい?」

「……そうだな、お前がフェンガリに入れば教えられるぞ」


 その言葉を聞き、一瞬キョトンとした顔をするカペラだが、すぐに笑みを浮かべて言う。


「お断りよ。情報だけ吐きなさい」

「じゃあ何も教えることはできないな」


 そんな二人の問答の中、他の者は動けないでいた。

 シェラタンは、少しでも妙な動きを見せれば即座にカペラに捕捉され、戦闘不能状態にまで追い詰められるのが容易に想像できてしまっているから動けないでいる。

 またルデルや冒険者たちも、最早手を出せる状態でないことはよく理解している。

 しかしそこで戦闘不能状態で倒れているロイデが口を挟む。


「私の……、私のアノーツを上回っているのはよく理解しましたが、その状態は長くは続かない! アルフェラッツさん、少しでも時間を稼いでカペラを消耗させ、その後確実にトドメを刺すのです!」 


 大きな声でアルフェラッツに助言のようなものをするロイデだが、肝心のアルフェラッツは呆れた表情をしている。

 しかし、ロイデの言っていることは決して間違いではない。


(ま、それはそうね。この状態は長く続けられるものではない。だからこそ、短期決戦で決めるしかない)


 カペラ自身も、ロイデの言うことが正しいことを理解しているし、だからこそ冷静な状況判断をしている。

 また、そんな中でアステだけはカペラをじっと見ながらそのアノーツについて理解を深めようとしていた。


「カペラのアノーツ、凄い綺麗……。この濃度や練度に到達しなければ、シュペルノヴァは完璧に会得することはできない……」


 アステはカペラのアノーツを感覚的に掴むため、アノーツを感じ取ることに集中していた。

 技術やスキルを磨く際、自分よりも優れている者のそれを間近で見ることはイメージをより鮮明にするためにも非常に大事なことである。

 そして、アステは理論的に物事を習得するタイプではなく、感覚的に習得するタイプであることはなんとなく分かるだろう。


「今の私にできること……」


 アステは傷を負ったままであるが動けない訳ではなく、自分のアノーツにはまだ余裕があることも自覚している。そのため、アノーツへの理解を深めながら、少しでもカペラの助けになるためにはどうすればいいかを考えている。

 カペラとアルフェラッツは互いを見据え、静かに武器を構える。アルフェラッツがシュペルノヴァを使用するかどうかは不明だが、今まで以上に熾烈な戦いになることは確実だろう。

 そして、二人が動き出そうとした瞬間にとある影が一つ、アルフェラッツとシェラタンのいる場所の近くに現れ、アステが一番に声をかけた。


「システィ!」


 それがエラと共に城まで戻ってきたシスティであった。


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