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恒星の黎明姫  作者: ポルゼ
水の国・プレウス
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到着

「はぁ、はぁ……、くそ、やっぱりあたしじゃやりづらいな」


 息を切らし、人気のない物置のような部屋のいるのはプラナである。

 プラナは城の中の権力者達と複数存在する派閥の動向を観察したり、ゼンヘン王子に頼まれた今後の国の管理について若干面倒に思いながらも考えを巡らせている。

 しかし、プラナが子供の容姿のせいで周囲の大人達からどうしてこんなところに子供が一人でいるんだと言われて手を引かれそうになることが何度もあった。

 その度適当な嘘をついて逃げ回っていたが、段々と面倒になって現在は休憩中である。


(あたしに隠密行動に関する技術や知識でもあれば良かったが、そんなのないんだよなぁ。一応派閥や国に関する情報は少しずつ収集できてはいるが、果たしてこれをあたしが必死こいてやる意味があるんだろうか……)


 プラナが現在最もやりたいこととしては、アステの状況と無事の確認、それに伴ってシスティやカペラ達の現状把握である。

 戦う力のないプラナがアルフェラッツのようなレベルの敵がいる戦場にいても役には立てず、むしろ味方の足を引っ張ってしまう。

 それであればプラナの強みを活かす方法と場所で役立てばいい話なのだが、プラナからすればプレウスのことを最優先に考えるのは少し難しかった。


(この国の現状を考えれば確かに助けてやりたいとは思うし、気の毒だなとも思う。けど、あたし達はつい先日プレウスに来たばかりで、所詮は余所者。自身の危険も省みず、命をかけて人助けをするのは人として素晴らしく正しい行動だとは思うが、特に恩を受けた訳でもない国相手に、しかも来たばかりで特に思い入れもない国に対して普通はどこまでできるものなんだろうか。まぁ、そんなの考えても仕方のないことだが、正直自分と自分の大切な人を守るためなら国を出て安全な場所に行く方がいい。他者の救出はそれこそ騎士団などの組織がやればいい話だしな……)


 プラナ的には、これ以上プレウスに深く関わって面倒事や危険な事に巻き込まれるのは避けるべきだと考えている。


(あたしの中には明確に助けるべき存在の優先順位がある。まずは自分、次に家族や友人といった親しい関係の者、そして余裕があれば知り合い程度の関係値の相手や社会に新しい価値を生み出せるような優秀な人物、最後に赤の他人。まぁ、あたし自身に関する記憶がないから、あたしに家族がいたのかどうかも分からないが……、とにかく、あたしの能力的にも性格的にも人助けなんて向いてない。無理なもんは無理)


 アノーツが使えず、体力もないプラナは朝から起きている今回の大災害によってかなり疲弊しており、半ば投げやりな考えになっていく。


(自分の能力では処理できないことに首を突っ込んでも迷惑をかけたり逆に自分が助けられる側になる可能性がある。それならば手を出す出さないのラインは正確に推し量るべきで、それに準じるべきだろう)


 そこまで考えたからプラナはため息を一つ吐く。


(……これは良くない。思考が合理的というより、ただネガティブになっていっている。それに、もうあたし達はこの国に深く関わってしまっている。今更プレウスを見捨てて逃げ出すなんて選択肢はないし、そもそもあたし一人じゃ無理。そしてアステはきっと逃げ出すことはしないだろう)


 眉間を押さえて再び深く息を吐き、少しスッキリとした表情になったプラナはまた情報収集をするために部屋の外に出る。その時だった。


「なんだ……!?」


 大きな音と振動が城の中に響く。プラナはすぐに思い当たることがあった。


「あいつら……、上で何と戦っている? 何が起きている?」


 ほぼ間違いなく城の上の方へ向かったアステとカペラに関係する音だろうと察し、心配になったプラナはゼンヘンの用意した暗部の者を呼ぶことにした。


「あー、えっと……暗部の人、いますか〜?」


 言ってからその間抜けな台詞に恥ずかしさを覚えてしまうプラナだが、少しするとプラナの背後に暗部の者が現れた。


「何用でしょうか」

「うおっ!」


 自分で呼んだとはいえ、突然背後に現れて声をかけられたら驚いてしまうのは仕方のないことだろう。


「すみません、驚かせてしまいましたね」

「い、いえ……」

「それで、要件は?」


 その人は淡々としている口調で要件を尋ねてきた。


「まず先ほどの揺れについてなんですが……」

「それについては現在調査中ですが、ほぼ間違いなく城の最上階で行われている戦闘によるものだと思われます」

「やっぱり戦闘が行われているのですね」

「はい」


 アステとカペラは強大なアノーツを感じて最上階に向かったが、だからと言って必ずしもそこで戦闘に繋がると断言できる訳ではない。しかし、フェンガリが来ていることを考慮するとやはり状況的には戦闘が起きる展開は妥当と言える。


「分かりました。もうこの城も安全ではないですね」

「はい。既に王やゼンヘン王子を含む為政者達の緊急会議は中断され、避難を開始しています」

「そうですか。もうゼンヘン王子からあたしに連絡が来ることはないでしょうね。あたしも避難します」


 この時からプラナは自分の今後の行動をいち早く考え始めた。


(これで王子と色々な情報交換や情報共有のための連絡をする必要がなくなった。自由行動できるぞ)


 だが、現実はそう上手くはいかないものである。


「プラナ様」


 今度は別の暗部の者が現れた。またも少し驚いたプラナだが、すぐに嫌な予感を感じた。


「ゼンヘン王子からの連絡です」

「あー……」


 城が危険な状態になり、重要な緊急会議も中断せざるを得ない状況になったことで協力関係にあるプラナにも何らかの連絡を取ってくるのは何もおかしいことではない。

 

「避難しなくてはならないが、まずは合流しよう、とのことです」

「……はい」


 結局自由行動はさせてもらえそうにないことを薄々分かってはいたが、受け入れた。


(まぁ、アステにはカペラが付いているから過剰に心配することはないだろう。後はシスティだな。途中からバラバラになってしまって、今何をしているのか、全く分からない)

 

 そこまで考えてからプラナは自分自身のアステに対しての想いについて、ほんの少しの疑問を抱いた。


(……何故、あたしはこんなにもアステが気になるんだろう。出会ったのはつい昨日のことだぞ? あいつも記憶喪失で自分や世界のことを全然分かっていなくて、その境遇に似たものを感じているからか? だとしても、ここまでアステを気に掛ける理由としては薄いな。あたしは……、いや、あたしとアステは一体……)


 今考えても答えの出ない思考回路に陥りそうになるが、プラナがすぐに頭を振る。


(だから、今考えても答えの出ないことは後回しだって。切り替えろ、あたし)


 プラナは暗部の者に案内され、ゼンヘン王子と合流するために走り出した。



 **



「もう少しです!」


 一方、システィとエラは城に着々と近づいていた。

 道を走るのではなく、建物の屋根の上をアノーツを行使しながら高い身体能力で駆け抜けているため、ほぼ直線で城に向かうことができている。

 近づくにつれ、城の最上階にいるヴォジャノーイの姿と天から伸びる水の柱という光景があまりにも壮大で現実味のないように感じられる。

 

(恐らく、あそこでは戦闘が行われている。エラさんをこのまま連れて行くべきか……。仮にどこかに待機してもらうとしたら、城の中? でも、上の様子を見ると危険かもしれない)


 システィがエラを置いて行くとしたらどこがいいかを考えている時、思わず足を止めてしまいそうになることが起きた。


「これは……!」

 

 城の方から感じる膨大で強大なアノーツ。このアノーツの急激な高まりを示す現象について、システィはすぐに思い当たった。


(シュペルノヴァを発動させた者がいる……! そして私はこのアノーツを知らないから、シェラタンでもカペラさんでもない誰かが発動させたということ。そんなところにエラさんを連れて行くことはできない)


 城で起きていることを察したシスティはエラにどうするべきか尋ねることにした。


「エラさん。やはりエラさんを城の最上階へ連れて行くことはできません」

「何故?」

「今、強大なアノーツを城の方から感じました。そのアノーツは、一部の強者しか発せないもの。そんなところにエラさんを連れて行くわけにはいきません」

「そうか……」


 エラは少し悔しそうだが、自分の存在が戦いの邪魔になる可能性を考慮し、仕方なく頷く。


「でも、できる限り近いところに降ろしてくれないか? 城の最上階の方は危険だろうが、上の方でなければ……」

「エラさんがヴォジャノーイに対して大きな想いを持っていることは理解しています。状況を見てにはなりますが、城の中のどこか安全そうな場所へ向かいます。その後、私は最上階へ行きます」

「あぁ、すまない。頼む」


 まだ二人は城の最上階にいる何かがヴォジャノーイであることを知らない。しかし、それがヴォジャノーイであることを二人はほぼ確信していた。

 その理由を口に出して説明することは難しいが、やはり幻想的で壮大すぎる目の前に広がる光景を見ているとそうとしか考えられないのだ。

 本当であればヴォジャノーイの元へ向かい、対話を試みたいと思っているが、エラの冷静な理性がそれを抑える。

 そんな時だった。先ほどのシスティの驚きを軽く超える衝撃が走る。


「カペラさん……!?」


 その衝撃は、カペラのアノーツが急激に膨れ上がったことを感じたためだった。 

 先ほどのアノーツの急激な高まりを遥かに凌ぐ、異常なまでのアノーツの濃度、洗練さ。まだ距離が離れているのにも関わらず、そのアノーツの凄さをよく感じ取ることができる。


「カペラがどうしたんだ?」

「恐らく、カペラさんが強大なアノーツを使おうとしています。これでは私が向かったところでカペラさんの足手纏いになりかねない……」

「なるほどな。けど、最上階の状況を知るためにも、システィには向かって欲しい。それに、私にアノーツのことはよく分からないが、システィが足手纏いになるなんてことはないんじゃないか?」

「そうであれば良いですが……。とにかく、私も今更あそこへ行かないなんて選択はできませんから」


 システィは建物の間や上をより速く移動する。自身の身体能力とアノーツの力をこれまで以上に上手く扱い、もう城へはすぐそこという場所まで近づいた。

 

(状況的に考えて、あの場所の戦いの結果によって今起きている大災害の被害や結末が変わる。こちらが勝利すれば恐らくあのヴォジャノーイらしき存在は消え、状況は収束するのでは? まぁ、未だ明確な敵というか原因は確定できないし、分からないことだらけで可能性という範疇を出ないけれど……)


 システィがそんなことを考えていると、ついに城のすぐ隣にある建物の屋上へ辿り着いた。


「エラさん、とりあえず一度城へ入ってみます」

「頼む」

「ちなみに、正規の入り口は下の方にありますよね?」

「そうだな。けど、今は非常事態だ。そんなこと気にしている場合じゃない。やってしまおう」

「はい」


 するとシスティは目に見える範囲でなるべく大きい窓のある場所まで氷を繋げ、走り出す。

 その窓までは現在位置からだと少し下り坂になっているため、氷の上を滑って行く。

 多くの窓をそれぞれ見ていると、中に人はいるが皆忙しなく動いている。最上階で起きている戦闘の影響もあってか、上の方から急いで階段を下る者も多くおり、反対に状況確認のためか上へ向かおうとする者など、色々な人々が城の中にはいた。

 そしてシスティは窓のすぐ近くまで滑ったところで跳躍し、足を窓へ向ける。

 直後、パリンという窓が割れる音が盛大に響き、ついにシスティ達はプレウスの中心である城まで辿り着いたのだ。


「ふう」

「なんだか感覚が麻痺していたが、やっぱりシスティも常人ではないんだと改めて認識したよ」

「そうですか? 私なんてまだまだ経験の浅い絶賛修行中の冒険者ですよ。それより、エラさんはどこで降ろせばいいですか?」

「ここでいいさ。後は私が自分でこれからどう行動するべきかを考える。システィは早くカペラの元まで行ってやってくれ」

「分かりました。決して、危険なことはしないで下さいね」

「ははっ、私は自分のできることとできないことをちゃんと弁えている。安心してくれ」

「確かにそうですね。それでは……」

「あぁ、武運を祈っている」


 そうしてエラは城のより内部の方へ、システィは最上階を目指して走り始めた。


(行き交う人たちから城内の混乱が伝わってくる。想像よりも国があまり機能していないかもしれない。現場で命を張っている騎士団の人たちだけではどうにもならない部分が沢山あるというのに……)


 城内の様子から国の現状をなんとなく察しながらも、足を早めて最上階へ急ぐ。

 階段をどんどん登っていくと、システィが割った訳ではない窓が割れている箇所を見つけた。


(ここから誰かが出たか、もしくは入ってきたか……)


 割れている窓から少し顔を出してみると、外から上に登ることができそうなことを把握する。


(とりあえず行ってみましょう)


 システィは高い身体能力を活かし、楽々と外から最上階のある場所へ向かっていく。


(思っていたよりも多くのアノーツを感じる。一体どこからこんなに集まったのか、敵と味方の人数差は……色々気になるけど、答えはもうすぐそこね)


 そしてシスティは壁を登り切り、最上階へ出た。


「……!」


 その場での戦いは既に最終盤を迎えていた。

 冒険者と思われる男達、水星の騎士団副団長のルデル、倒れているロイデ、システィが戦ったシェラタン、刀を構えているアルフェラッツ、城の最上階の戦いの中心になっているであろうカペラ。

 そして、傷を負っているがその体からアノーツを感じ取れるアステとヴォジャノーイと思われる異様な存在感を放つ存在。

 目に入ってきた情報が多く、すぐには状況を理解できないシスティだが、そんなシスティの存在にいち早く気付いたのは……。


「システィ!」

 

 明るい笑顔になってそう名前を呼んだのはアステであった。


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