表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恒星の黎明姫  作者: ポルゼ
水の国・プレウス
3/34

運命の少女

 水の国、プレウス。そこは街の中央に大きな川が通っており、その川からいくつも小さな川が派生している。だが、どの川も非常に綺麗に整備されており、美しい街の景観の一つになっている。全体的に白っぽい建物が多く、その建物も国の中心に向かうにつれ、かなり立派で大きくなっている。

 そして何より、面積がとても大きい。周囲はそこまで高い訳ではないが、しっかり城壁で囲まれており、その城壁はずっと先まで続いているように見える。

 果たしてここまで国を成長させるのにどれだけの時間がかかったのだろう。それを考えるだけで国の歴史に想いを馳せることができる歴史学者が沢山いるのではないだろうか。


「プラナ! 早く、早く行こう!」

「ちょ、ちょっと待て! そんな急がなくても国は逃げないぞ!」


 アステはプラナの手を掴んで駆け出す。身長差のせいもあって、プラナはとても大変そうだ。

 そのことに気づいたアステは強く手を引っ張り、プラナをお姫様抱っこする。


「お、おい!」

「急ぐよ!」


 子供とはいえ、人を抱えて走るというのはかなり大変なことなのだが、アステはどこ吹く風といった表情である。

 大きい道が通っており、その道の先には門があった。そこから入れるのだろう。

 そうして門の前にたどり着いた時だった。


「止まりなさい!」


 二人は武装した門番だろう男性に止められた。

 アステは驚いた表情で立ち止まる。


「な、なに?」

「何って、誰でも簡単に通れてしまったら色々問題だろ」

「それもそっか……」


 プラナの冷静なツッコミで流石に落ち着いたアステはプラナを降ろした。


「君たちは入国希望か?」


 複数の門番と、何やら紙に記入している入国管理をしているであろう人が近づいてきた。なんとなく、アステは緊張してしまう。

 既に夜になっているためか、他に通ろうとしている人はなかなかいない。


「そうだ。もう夜になってしまったが、入ってもいいか?」

「とりあえず、名前と入る目的を教えてください」


 それから二人は門番の質問にいくつか答えていった。それらしいことをスラスラと話すのはプラナで、アステはそんな姿に感心しながら完全にプラナに任せていた。


「分かりました。外に女性が二人でいるのは危険ですしね。入国を許可します」

「ありがとう」

「いえいえ。それにしても、出来たお嬢さんですね。感心しましたよ」

「そうだろうそうだろう。それでは失礼するよ」


 そうして二人はついにプレウスに入ったのだった。ちなみに、二人は姉妹ということにしている。正直全く似ていないが、プラナが機転を利かせてなんとかなったようだ。


「うわぁ……すごい」


 改めて、街を見渡す。街灯が多いため、夜でも明るい。それ故に外出している人が多くて随分賑やかだ。

 人の多さ、建物の精巧さ、夜でも明るい街など、どこを見てもここが大国であることがとてもよく分かる。

 整備された小川から心地よい水の流れる音が聞こえる。

 とにかく美しい国、そういう感想を抱くのは当然だろう。


「プラナは来たことのあるの?」

「分からん。国に関する知識はあったが、現状のあたしの記憶だと来たことはないな」

「そっか」


 二人は少しの間、街を歩きながら雑談をする。先ほどまで森の中で彷徨っていたことなどもう忘れてしまっている。


「……あー、そういえばアステはアレ、持ってるか?」

「アレ?」

「まぁ、そのなんだ。あたし達は無事プレウスに入れた訳だが、野宿ではなく、しっかり寝泊まりできるところ探す必要があるだろう?」

「そうだね。あっ……」

「そうだ。金が必要だ」


 至極当然のことだが、宿に泊まるにはお金がかかる。せっかく国に入れたというのに、結局外で寝ることになるなんてことは勘弁願いたいだろう。


「お金ってどういうやつ?」


 アステはお金の概念は分かるが、流通しているお金がどういうものかは覚えていなかった。


「メルという大陸で統一された貨幣がある。まぁ、宿に泊まるんだったら二人合わせて一万メルくらいは欲しいな」

「それって今すぐ稼げたりする? というかプラナは持ってないということだよね?」

「残念ながらあたしも無い。それと、今すぐ稼ぐのは難しい。とはいえ稼がなきゃ宿に泊まることができない……となると、少しでも可能性のあるところに行ってみるしかない」

「それは?」

「冒険者ギルドと国の中央にある城だ」

「冒険に城って最高じゃん!」


 冒険者ギルドと城。どちらも胸が踊る単語である。アステは分かりやすく目をキラキラさせた。


「どこにあるかは分からないから、その辺の人に聞いてみよう」

「うん!」


 二人は近くを歩いている人に冒険者ギルドのことや、城に行く方法などを尋ねることにした。

 何人かに話を聞いたところ、冒険者ギルドの場所は分かったが、時間的に城へ入ることはできないという。

 城では衣食住、仕事、お金についてなど、様々な悩みを聞いて対処してくれる場所があり、ただ既にそこは閉まっていて今から行っても意味がない。


「よし、それじゃあ冒険者ギルドに行こう。城へは明日行くぞ」

「了解! じゃあすぐ行こう!」

「落ち着けよ。冒険者ギルドは交代制でずっとやっているみたいだし、時間的な制限は考えなくていい」


 冒険者ギルドは、真夜中に深刻な依頼が入ってくることもある。中には国の方でも対応しなくてはならない重大事案の場合があるため、常に誰かしら対応できる状態にしてあるのだ。

 二人はしばらく歩き、ついに冒険者ギルドへやってきた。


「この建物を見るだけでも、この国にとって冒険者ギルドがどのような立場にあり、どれだけ影響力を持っているかが想像できるな」


 冒険者ギルドの建物は、明らかに他の建物より大きく立派だ。しっかりお金をかけて作られていることが分かる。


「国にとって冒険者ギルドは重要な立場にあるんだね」

「そうだな。冒険者ギルドにデカい顔をさせたくないのなら、こんな立派なもんを作るのを許可しないだろうよ」


 ギルドに入るための扉がとても大きく、開放されている。そして夜でもギルドを出入りする人が多い。


「なんか、いい匂いするね」

「あぁ、飯も食べられるんだろうな。夜間でなくては依頼達成できない依頼を受ける者、飯を食べる者、情報収集をする者……色々な奴がいるだろう」


 この賑やかさが冒険者ギルドらしさを強く表していると言えるだろう。

 二人が中に入ると、より冒険者ギルドの建物の大きさが分かる。大分奥にも広がっており、横にも縦にも大きいことが分かる。


「どうする? まず何する?」

「まぁ、とりあえずあそこの受付嬢に色々聞いてみよう」

「うんうん!」


 受付嬢は何人かおり、それなりに列もできている。これから冒険に行く者、報酬を貰っている者、何やら書類を書き込んでいる者など、色々な対応をしているようだ。


「本当に規模が凄いな。これはあたし達の番が来るまで時間がかかりそうだぞ」


 プラナがだるそうにため息をついている間、アステはキョロキョロと周囲を見渡していた。


(本当に色々な人がいるなぁ。あ、あの武器かっこいい。あの人は体格が凄くて強そう。他には……)


 色々な人を観察して、色々なものにとにかく興味を持っていくアステ。そんなアステだが、一人の人物を見た時、その目を奪われた。

 そこには一人の少女が端の方で黙々と食事をしていた。食事のマナーなど覚えていないアステだが、そんなアステでも上品だなと思うような綺麗な食べ方をしている。

 白髪に金髪が混じったくらいの色素の薄さで長い髪、肩の出た膝上くらいの淡い青色のワンピースを着ていて、そのワンピースの背中側は少し長めに伸びていて、濃い青色になっている。胸には紺色のリボンをつけている。黒のブーツに、耳あたりの髪をかき上げた際にシルバーのイヤリングをつけていることが分かる。また、ネックレスもつけているようだ。

 そして、あまりにも美しい顔立ち。

 視力も非常に良いアステにはそこまで見えた。そしてその少女から目が離せなくなっていた。

 

(なんでだろう……彼女のことが凄く気になる。とても美しいから? うーん、分からない……)


 アステ自身、こんなにも惹かれる理由が全く分からない。ただ美しいからというだけではないことは確かだった。

 だが、その少女が気になっているのは決してアステだけではない。周囲にいる冒険者の男達も、明らかにその少女を意識している。

 良いところのお嬢さんのような少女はそもそも場違いな雰囲気が漂っているため、多くの人から注目されるのは当然である。しかし、いつ男達に絡まれたりしてもおかしくない。一人でいるのは危険ではないかと思う者もちらほらといた。

 そんな少女を見ていると、いつの間にかアステ達の番がきていた。しかし、そこでアステはせっかく並んでいた列を抜け出していた。


「あ、おい!」

「ごめん、そっちは任せた!」


 プラナはアステを呼び止めるが、勝手に任してどこかへ行ってしまう。そんなアステに呆れつつも、プラナは自分のやるべきことに集中することにした。

 そしてプラナに色々と任せてしまったアステが向かう先は決まっている。


「なぁ、嬢ちゃん」

「……何ですか?」


 凛とした声がアステの耳に届く。その声色からして、嫌そうな気持ちが伝わってくる。


「こんなところで何してんだ? ここは冒険者ギルドだ。別に冒険者ではない人間が入っちゃいけないなんて決まりはないが、嬢ちゃんみたいのが来るのはどうかと思ってな」


 絡まれている。屈強で力の強そうな男にだ。周囲にいる冒険者達は楽しそうにしていたり、下品な声をかけたり、心配そうに見ていたりなど、反応は様々だ。


「私みたいなのがここにいると不利益を被ることでもあるのですか?」

「いやいや、俺達は何にもねーよ。ただ、お嬢ちゃんにとって面倒なことがあるかもしれねーって話だ」

「例えば?」

「嬢ちゃん、身なりやその上品な食べ方からしても身分が高いだろう? 要は金を持っているように見えるんだ。その上こんな美人でしかも一人でいたら、狙われるぞ。色々な奴に、色んな意味でな」


 男は一見心配しているかのような言葉を吐いているが、明らかに酒に酔っており、決して心配しているから声をかけている訳ではないとその表情や目線を見れば分かる。


「ご安心を。仮に暴漢に襲われようとも、私一人で対処できます」

「……プッ、ガッハッハ!」


 男は大きな笑い声をあげ、その男の仲間であろう男達もゲラゲラと笑っている。


「面白かったですか?」

「あぁ、面白いね! 現実を知らない嬢ちゃんがあまりにも滑稽でな。自分の力を過信してしまうような都合のいいことでもあったのか? 調子に乗ると痛い目を見るぞ」

「それもご安心を。私はきちんと自分の実力を把握しております。決して自分の力を過信している訳ではありませんし、日々精進しているところです」


 その少女はいい加減立ち去ってくれないかという目線を向けるが、男には全く通じていないようだ。


「おいおい、精進って何をだよ。嬢ちゃん、武器も持たずにどう精進するんだ?」


 そう、少女は武器を持っていない。勿論、冒険者とて、常に肌身離さず武器を持っている訳ではないだろうが、冒険者ギルドにいるのであれば武器を持っているのは普通のことである。


「武器ならあります」

「どこにだよ! 嬢ちゃん、いい加減強がるなよ。あぁ、なんならこの後良い武器屋に連れて行ってやる。初心者向けの武器も取り揃えているから安心しろ」

「結構です」

「大丈夫、金は俺が払ってやるから。ただその代わり……」


 男は明らかにそういう目で少女の体を隅々まで舐め回すように見る。


「おい、独り占めはダメだぞ!」

「そうだそうだ、お前だけ良い思いしようだなんて絶対許さねーからな!」


 男の仲間が下品な言葉をかける。そんな場面で、絡まれている少女に向かっていたアステは周りの野次馬達がいるあたりで立ち止まっていた。

 本当は助けようと思っていたのだが、アステは直感的に感じたのだ。

 自分の助けなど、必要ないと。それは、少女に近づくにつれて強く感じるようになった。とても不思議な感覚で、アステ自身困惑しているところはある。

 そして、アステのその直感は間違っていなかった。


「なぁ、どうだ? 一緒に行こうぜ?」

「はぁ……」


 男はしつこく言い寄っている。良い加減腹立たしいようで、少女は大きくため息をついた。

 すると少女は食事を中断して膝の上に置いていた手を机の上にあげ、不自然に手のひらを上に向けた。

 それが何を意味しているのか、目の前にいる男とその仲間、そしてアステも分からなかった。

 しかし、その答えをすぐに知ることになる。


「なっ……!?」


 突如、少女の手の平の上に美しい白い剣が現れたのだ。剣の柄を握り、刃先がちょうど男の喉元に向けられた。


「あれは……」


 そこでアステはプラナの言葉を思い出す。


『アノーツを扱える者だけができることがあるな』

『自分が愛用し、心から信じている武器を顕現させることができるというものだ』


 そう、つまり絡まれている美しい少女は、アノーツを扱えるということである。


(アノーツを扱える者は少数派という話をプラナはしていたけど、男達の反応や、武器を持っていないということはアノーツを使えるのかもしれないという思考にならない、なりにくそうなところから見るに、少数派というよりもっと珍しい存在なのかな?)


 アステがそう考えていると、絡んでいた男が少女から離れた。


「まさか、アノーツを使えるとはな……。チッ」


 男はすっかり酔いが覚めた様子だ。周囲の野次馬達はザワザワしており、これまでの雰囲気が一変した。

 困惑と驚嘆の雰囲気の中、アステは足を進めた。


「全く動じてなかった理由はそれか。ふん、結局選ばれた人間だったってか。……ん?」


 男が不満気な表情で何やら言っている横をスッとアステが通り過ぎる。

 そして、少女の目の前に立って言った。


「私はアステ。今日貴女に出会えたことは、きっと運命なんだと思う。どうか貴女の名前を聞かせて欲しい」


 心の底から、貴女に出会えたのは運命なんだと純粋なキラキラした表情で、そう話しかけたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ