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恒星の黎明姫  作者: ポルゼ
水の国・プレウス
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協力と野望

 アステの隣にいたカペラの体が赤く美しく光り始める。それはアルフェラッツと一対一で戦っていた時に見せた技、「フロガ・シルキュラーション」である。

 体にケルトのアノーツを循環させ、純粋に様々な能力を上昇させるシンプルながら強力な技である。


「ほう。相当洗練されているな。これほどの使い手はそういないだろう」


 カペラの纏うアノーツを見て、ディアは驚いた様子だった。間違いなく只者ではないディアでさえそう思うほど、カペラの実力は高いレベルにあるということだ。

 次に、ディアはアルフェラッツの方を見る。


「しかし、あの者も同様にそうそう見かけることはできない使い手だよ」


 ディアは腰に手を当てて優雅に能力の高さの分析をしている。明らかに余裕のある姿に、カペラは少しの警戒心を抱きつつ、二人の明確な敵に集中する。

 だがここで、アステはハッとして思ったことを正直に口に出した。


「私って、この状況で何ができるんだろう……」

「む、無策?」


 そう、アステには戦う力がない。身体能力や体力に関しては異常な化け物クラスであるが、肝心のアノーツを使うことができない。

 いくらアノーツ以外の能力が高くとも、カペラやアルフェラッツといった圧倒的な強者の戦いに割って入るのはあまりに無謀と言えるだろう。

 カペラは何かしら策があるものだと思っていたため、アステの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。


「えっと、まぁ……」

「じゃあ、どうしよっか……」


 アステのどうしようという顔を見て、カペラは今後の動きを考えようとする。だが、アステが無策でも問題はないのである。


「安心してくれ。あたしが考えている」


 相変わらずアステに背負われたままのプラナが言った。まずカペラと合流し、協力するという話はまとまっていたが、実際に合流して戦闘に参加するのかどうかまでは話し合っていない。

 勿論、ディアがいるため戦闘に関してはなんとかなると思われるが、アステとプラナは何をしていればいいのか、何をするべきなのかは考えないといけない。ただただ邪魔にならないように隅にいても時間がもったいないだけである。


「だよね。良かった」


 カペラは安堵の表情を浮かべる。例えアステが何も考えていなくとも、プラナが側にいれば頭脳の部分では問題ない。それはこの短い付き合いでもなんとなく理解できていたカペラであった。


「残念ながらあたしとアステに戦う力はない。だから基本的にはこの場を少し離れている必要がある。そうじゃないないと単純に邪魔になるからな」

「まぁ、そうな……!」


 まだ話の途中であるが、敵からしたらそんな会話を待ってやる義理はない、とでも言わんばかりにロイデが攻撃を仕掛けてきた。

 ロイデはタランのアノーツ、つまり風を扱うことができる。数人を巻き込めるほどの大きさの風が迫っていることをカペラは即座に感じ取っていた。

 このロイデの行動をわざわざ責めるような真似は誰もしない。ここは正式な決闘や立ち合いの場ではなく、戦場である。戦場にルールなど存在しないのだ。

 当然、そんなことは分かっていても、ロイデに更なる嫌悪と不快感を感じたカペラは真っ先にロイデを排除するべきかを考える。

 実際、アルフェラッツを打倒するよりロイデを打倒する方が確実に楽であろう。

 ロイデの攻撃が当たる前に、アステ達は素早く動いてそれを避ける。避けたことによってその風の攻撃は壁に当たり、軽々と破壊した。

 ロイデにとって、今の状況は言わばフェンガリに入る試験である。そしてその試験を受けることができている時点でロイデの実力は相当なものである。壁を破壊する程度の攻撃をすることなど、造作もないということだ。


「アステ、さっきも言ったが、基本的にあたし達は足手纏いだ。相手のレベルが低ければやれることはもっとあっただろうけどな」


 攻撃を避けてからプラナはアステに小さな声で話し始める。 


「分かってるけど、それじゃあ逃げるだけ?」

「いいや、流石にそれはない。まずはディアにカペラと共闘するよう言ってくれないか?」

「え? ……あぁ」


 アステは何故、自分で言わずに人に任せるのかという当然の疑問を持つが、二人の関係からなんとなく察せられた。


「多分あいつはあたしの言うことになんて従わないだろう。だが、敵が二人に増えたこともあるし、ディアにはカペラにしっかり協力してもらいたい。ディアの実力なんて計りきれていないが、恐らく大丈夫だろう」

「まぁ、カペラに協力してもらうって話だったしね。分かった」


 了承したアステはロイデの攻撃を華麗に避けていたディアに向かって言った。


「ディア! カペラに協力してあいつらやっつけちゃって!」


 そんな頼みを聞いたディアは口元に笑みを浮かべた。


「我などに期待はしないでほしいが、可愛いアステの頼みだ。微力ながら協力させてもらおう」

「えぇ、よろしく」


 カペラはディアに背中を預ける展開になる場合の不安が少しばかりあったが、ここで協力を断るほどの理由ではない。


「なぁ、カペラ。ここは一旦お互いに退かないか?」

「何を言っているの?」


 いよいよ両者が激突するかと思いきや、アルフェラッツが意外な提案をしてきたことにカペラは驚く。


「こっちの……、いや、俺の都合で申し訳ないが、こんな展開は望んでいなくてな。参戦者もどんどん増えてきちまったし、どうせやるなら一対一でやろうや」

「本当に貴方の都合でびっくりしたわ。そんなこと知ったこっちゃない」

「そうですよ。僕の実力を見せる絶好の機会です。それにここで彼女を倒せれば最高の収穫ではないですか」


 カペラの後にロイデまでもがアルフェラッツの意見に反対した。

 元々あまり気分の乗っていない状態のアルフェラッツだが、今は更に嫌そうにしている。


「ほら、お仲間も言っているわよ!」

「!」


 そんなアルフェラッツのことなど意に介さず、カペラは遠慮なく攻撃を仕掛ける。

 様々な能力値が上がっている状態のカペラのスピードは凄まじく、アルフェラッツは反応できるがロイデには難易度が高いと言わざるを得ない。

 そのため、カペラが先に向かったのはやはりロイデである。


「まぁ、そう来ますよね!」


 ロイデはタランのアノーツを自らの前方に発生させ、体を後ろに吹き飛ばすことでカペラの薙ぎ払う攻撃をなんとか避けることに成功した。

 だが、カペラが薙ぎ払っただけで衝撃波と風が発生し、その威力の高さをロイデは思い知らされる。

 そのまま勢いを利用し、カペラはアルフェラッツの斜め後ろまで移動して攻撃する。それを真正面から受け止めるアルフェラッツは、やはりロイデとは格が違う。

 ロイデを先に倒そうかと考えていたカペラだが、ディアが協力することが明確になった。それであれば、ディアの実力を測る意味も込めて、ひとまずロイデはディアに任せることにしたのだ。

 そこから数度、常人では目で追えないほどのスピードで剣のぶつかり合いが起こる。しかし、今は二人だけの戦いではないのが城壁の上での戦いと異なる部分だ。

 ロイデは自身の力不足を嘆いたり悔やんだりする前に、少しでもアルフェラッツに自分の有能さを示すため、すぐさま態勢を立て直してアルフェラッツと剣戟を繰り返すカペラにアノーツを使う。


「例え力が及ばずとも、アノーツはアノーツ。完全に無視することはできない……!」


 ロイデは自分の前に発生させた風を回転させて範囲を絞り、貫通力を高めて放つ。それはシェラタンがシスティに使っていたものと類似しているが、これはタランのアノーツを使う者の中では非常に汎用的な技の一つである。

 汎用的だからと言って弱いなどということは決してない。汎用的だからこそ、どれだけ洗練して技術を磨いたかが如実に威力として表れるのだ。

 そして、ロイデのその技の熟練度や技術は間違いなく高いレベルにあると言える。


「チッ……!」


 だからこそ、カペラは無視できない。自分へ向かってくるそのアノーツを処理する必要があるが、アルフェラッツを相手にしながらとなると流石に難易度は上がる。

 だが、そのロイデの妨害とも言える攻撃がカペラに届くことはなかった。


「そんなそよ風じゃ彼女らの戦いには大した影響を及ぼさないのでは?」


 その理由はディアであった。回転するタランのアノーツを寸分の狂いなく水で覆い、完全に技を消し去った。


「一体なんなんですか、貴方は」

「別になんでもないさ。我のことは気にしないでくれ」

「……っ」


 ディアの目を見て、ロイデは底知れない不気味さを感じ取っていた。表情がない訳ではない。しかし、アステと話していた時と比べてあまりに感情がないように見えるのだ。

 まるで、自分のことなど存在を認識する価値もない、とでも言うような非常に冷たい目である。

 ディアが何者なのか、当然知らないロイデにとってはつい先ほどまではカペラ側の人間の一人程度の認識であった。だが、その認識を無理やり改めさせられた気がしていた。


(もっと有用性を示さなくてはならないのに……!)


 とはいえまだまだロイデは諦めていないし心を砕かれるはずもない。さっさと立ち直り、またもカペラを追い詰める補助的な役割に徹するために行動する。

 未だ凄まじい攻防を繰り返すカペラとアルフェラッツにまた割り込もうとするロイデに対し、ディアはすぐには動かない。

 というより、ディアは未だに最初のロイデの攻撃以降全く動いていない。完全にサポートに徹するつもりであり、アルフェラッツとロイデを倒すつもりはないという意思に感じてしまうのは仕方のないことである。


(彼女は私と共にこいつらを倒すつもりはないようね。まぁ、それでもさっきはロイデの攻撃を防いでくれたし、最低限の働きはするみたい。多分、アステのためだったらもっと力を出すんだろうな)


 ディアのアステへの好意はかなり分かりやすい。アステがいなかったら何もしてくれなかったろうとカペラは思案する。


「ったく、互いに集中が削がれて大変じゃないか?」

「それには同感よ!」


 絶え間ない攻防の中、アルフェラッツはうんざりした様子でカペラに尋ね、カペラはそれに答える。

 やはり、アルフェラッツにとってもディアだけでなく、ロイデの存在も集中を削ぐ要因の一つになっているのだ。

 しかし、この状況において有利になるのはカペラである。


(私は水星の騎士団団長。一人で行動することも多いけど、集団での戦闘演習や実戦もきちんと行ってきた。勿論、状況や相手のレベルの高さから考えれば参考になることは少ない。けれど、アルフェラッツは基本一匹狼だから、実力者と戦う際は一対一が得意。連携だとか近くにいる他人を気にしながらの戦闘なんて苦手でしょう)


 カペラも複数人で戦うような集団戦よりも、一対一の戦闘の方が得意である。それは協調性がないだとかそういう話ではなく、自分について来れる者が極端に少ないのと、一人で戦う方が周囲を気にしなくて済むというのが大きな理由である。

 アルフェラッツの場合、そもそもの気性が群れを嫌う一匹狼なため、というのが最も大きい要因になっている。

 どちらも一対一の方が得意であるという点は共通しているが、より気が散ってしまうのはアルフェラッツなのだ。


「だから嫌なんだよ……」

「ロイデが来てからずっと不満気だったものね。彼をフェンガリに入れるの?」

「……さぁな」


 少しずつ、少しずつではあるがアルフェラッツが押され始めた。そもそもフロガ・シルキュラーションという技を発動しているカペラに対し、刀にアノーツを込めているだけの状態で対抗できているアルフェラッツが異常とも言える。

 

「クソ……!」

「だからそんなものでは話にならないって」


 そして以前として、ロイデの補助及び妨害のアノーツは悉くディアに阻まれている。

 これらのことから、現状有利なのはカペラ側に見える。

 アルフェラッツの目的はあくまでプレウスの中でも最上位クラスの警戒が必要なカペラを足止めし、時間稼ぎをすることである。時間稼ぎさえすればいいのであれば、力は出し過ぎずに上手いこと捌く必要がある。

 しかし、このような状況でそんな時間稼ぎを喰らっている場合でないのはカペラである。どうにかしてアルフェラッツという巨大な障害を押しのけ、国を守るために奔走しなくてはならない。


(このまま押し除けることができれば……、なんて無理でしょうね)


 カペラは分かっていた。少なくとも、この戦いでアルフェラッツを完全に倒すことはできないだろうと。むしろ、自分が倒されないかが問題であった。

 そして、これからはその可能性をより強く感じることになるだろうことも、分かっていた。


「はぁ、仕方ないな」

「……!」


 雰囲気が変わる。それにいち早く気づいたカペラはふぅと息を吐き、集中を更に高めていく。


「おっと、彼もそろそろ力を出すかな?」


 ディアはアルフェラッツの実力を見れることを少し楽しんでいる様子であった。実力の底まで見せることは無いだろうが、それでもこれから見る力は今までよりも更に上の次元の力であることは確かである。

 それは、アノーツを扱える者であれば嫌でも感じられるだろう。

 一方、ロイデはその姿に感嘆と羨望の思いを抱いていた。


「やはり、フェンガリは規格外すぎる組織なのですね。あぁ、この領域に僕もいつか……」


 カペラとアルフェラッツは今でも剣を交えている。そこでアルフェラッツはカペラの剣を急激に強く弾き、一旦距離を取った。そして、カペラにだけ聞こえる程度の声で言った。


「ウォルフライエ」


 辺りに緊張が走る。

 アルフェラッツは今回の戦いの中で初めて明確に技を披露することになる。


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