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恒星の黎明姫  作者: ポルゼ
水の国・プレウス
16/34

アルフェラッツと階級

「この感じ……あのおっさん戦ってんじゃねーか」


 システィとルデルを相手に戦っていた学生の男が少し不服そうにしながらボソリと呟く。

 できるだけ戦わずに注意を引けと言われていたカペラとアルフェラッツが戦闘していることを察したためだ。


「団長がしっかりアノーツを使うほどの相手なんて早々いません。相当な強者が相手のようです」


 システィの元へやってきたルデルが話す。ビリビリと感じるアノーツの衝撃から、途轍も無い戦いが繰り広げられていることは簡単に察することができる。


「そうですね。それであればこれから取るべき行動は……」


 カペラとアルフェラッツの衝突により、三人の戦いは現状止まっている。戦闘を続けるかどうかは男のこれからの行動によって変わるだろう。


(カペラさんに援護……は恐らく必要ないでしょう。むしろ、ルデルさんの言う通り、カペラさんがしっかりアノーツを使わなければいけないような敵を相手してくれている間にできることが色々とあるはず)


 カペラの援護を考える必要はないのでないかと一旦判断し、その間に何ができるかを考える。


(というか、アステとプラナはどうなったのかしら。カペラさんが現在戦っているということは、アステとプラナは恐らくそこにはいないでしょう。まだプレウスの中にいるのか、もしかすると既に千柱神殿に向かっているかもしれない。現状、二人の居場所を簡単に探し出すことはできないから、合流を考えるのは一旦後にするべき。ルデルさんと騎士団に戻り、着々と集まってきているであろうアノーツ使い達とできることを探すか、アステとプラナが向かっているかもしれない神殿へ行くか。いや、それだったらまずはアステと実は合流しているかもしれないカペラさんの元へ向かう方が良いのかもしれない)


 システィがほんの短い時間に色々と思考を巡らせていると、カペラ達が戦っている城壁の方を向いていた男が振り向く。


「本当はお前との戦いの続きをしたいんだが……少し状況が変わったかな。すまないが、今回はここまでだ」


 男は顕現させていた槍を消す。それはもう戦意がなく、戦いを終わりにすることを意味している。

 今なら攻撃して捕えることができる、とルデルは一瞬思案した。しかし、こちらの攻撃が届く前に男が再び武器を顕現させて返り討ちに遭うイメージが湧いてしまい、とても悔しそうにしながら諦めた。

 そしてシスティとルデルも武器を消した。

 男は非常に危険な敵の一人であり、このまま行かせてしまうのは騎士団としてはやってはいけないことだろう。しかし、それはこの戦いに完全に決着をつけることを意味するのだ。

 負ける可能性も考慮してここで決着をつけるのか、逃すのが良くないと理解しつつも一旦は互いに退いて他にできることをするのか。それを考えた時、システィはいち早く矛を収める判断をしたのだ。


「勝負はつかなかったけど、名前くらいは教えてくれない?」


 システィは改めて男に名前を尋ねた。これまでは勝負に勝ったら名前を教えるという話であったが、事態は変わり、勝負はここで終わってしまうため、危険な組織に属する一人である男の名前だけは直接聞きたいとシスティは思ったのだ。

 すると男は真剣な表情で言った。


「フェンガリが一人、シェラタン・エニフ。それが俺の名だ」


 ついにその名を知ることになったシスティは、例え敵であっても礼儀として名乗り返した。


「システィ・ミーティスよ。次会ったら決着を付けましょう」

「あぁ、必ず決着を……ん? ミーティス?」

「……!」


 シェラタンはそこで何かに気づいたようで、首を傾げた後、納得した表情になった。そしてシスティのフルネームを知って驚いたのはルデルも同様であった。


「……なるほど。ははっ、お前の強さの大部分は努力の賜物だろうが、それ以外にも強さの理由があったようだな」

「お互い、秘密を抱えているのは同じようね」

「尚更興味が湧いた。だからこそ、今回で決着がつかなかったのは残念だ。まぁ、楽しみができたと思えばいいか。それじゃあな」

「えぇ」


 そうしてシェラタンは屋根を上を軽快に駆けていった。システィは少しの間シェラタンの方を見ていたが、やがてルデルの方を向く。


「さぁ、これからどうしましょうか?」

「そ、そうですね……」


 ルデルは聞かれたことに答えようとするが、それよりも頭の中を支配していることがあった。


(彼女の冒険者ライセンスカードは冒険者ギルドで協力者を募った時に見せてもらいましたが、あの時は冒険者ランクに目がいってしまい、彼女のフルネームをしっかり見れていなかった。けれど、これで彼女の強さにも納得がいきますね……)


 ただ、今システィの出生や境遇について聞いている暇などないため、ひとまず色々と聞きたい気持ちを抑えて頭の隅に追いやり、これからのことについて考える。


「とりあえず、私は一旦騎士団に戻ろうと思います。元々奴を追いかけてここまで来てしまいましたが、アノーツの使い手を集めて行動するのは団長に託されたことですし、そろそろ戻らないといけません」

「分かりました。それでは私はアステ達を探しつつ、カペラさんの元へ行こうと思います。彼ら、フェンガリに属する者達のことも気になりますし」

「承知しました。もし人手が必要になったり困ったことがあったら騎士団へいらしてください。私は騎士団を出ているかもしれませんが、協力してくれる人は沢山いるはずです」


 システィは頷き、ルデルと別れる。元々システィは逸れてしまったアステを探しに行こうとしていた。

 しかし、この広いプレウスという大国の中で、同じ方向へ向かっていたとはいえアステとプラナを探し出すのは難しいだろう。

 そうなると、アステを探しつつもカペラの元へ向かうというのが次の行動となり、とりあえずは、カペラが戦っている方向へ向かう。その方が、カペラから色々と現状の情報を得ることができ、アステとプラナの居場所も分かるかもしれないからだ。

 飛んでくる強烈なアノーツの余波のおかげで、カペラのいる場所は分かりやすく示されており、そこへ向かうのは難しくない。

 屋根の上を伝って移動し、城壁の方へ向かっていく。

 

(カペラさんもそうだけど、カペラさんと戦えているであろう敵がとても脅威ね。シェラタンの反応からしても、フェンガリのメンバーなんでしょう。しかも、恐らくシェラタンよりも実力は上)


 カペラの実力に関しては、騎士団の団長部屋の中で見せてもらったアノーツからシスティは大体把握できていた。そんなカペラがシスティの元まで届くほどのアノーツを放ちながら戦闘しているという時点で、その戦闘相手はカペラと同等レベルの実力者であると予想できる。

 この時のシスティは当然アルフェラッツのことを知らない。しかし、カペラと同様に鋭く飛んでくるアルフェラッツのアノーツをシスティは覚えつつ向かっていた。


(鋭いアノーツ。主張は控えめだけど、とても洗練されていて鋭く切断されるような感覚。私がこれまで見てきた中ではあまりいないタイプね。そして、強い)


 カペラの元へ近づくにつれ、感じ取れるアノーツがより鮮明になっていく。


(私の力がどれだけ通用するかは不明だけど、もしも私も戦うことになれば基本はカペラさんの補助に回るのが良いでしょう。後は、エラさんがどこにいるのか次第。カペラさんの近くにいるのは危険だし、少し離れたところに待機しているか、どこか別の場所へ移動したか。けど、エラさんが一人で先に神殿へ行くのは無理なはずだから、少し離れた場所に待機していると考えるのが妥当)


 システィが思考を巡らせていると、激しい炎の衝突がしっかりと視界に入るようになってきた。

 剣を顕現させ、いつでも戦闘に参加できるよう準備し、城壁を駆け上がる。そして、城壁の上に辿り着いたシスティの目の前に、火花が散った。

 それは、カペラとアルフェラッツの剣と刀がぶつかり合う瞬間だったのだ。


「……!」


 カペラとシスティの目が合う。カペラは一瞬驚いた表情になるが、すぐに状況を整理して元の集中した表情に戻る。

 それと同時に、アルフェラッツもシスティの方を見ていた。当たり前のように城壁を登ってきた様子のシスティから、アルフェラッツはこの時点でシスティのことをアノーツ使いだとほぼほぼ確信していた。

 

(カペラの援軍か? 水星の騎士団副団長は男だったはずだし、騎士団の制服も着ていない。ということは、恐らくカペラが個人的に協力を求めた相手だろう。そして、カペラに協力を求められるというだけで相当の実力者と見るのが自然だな。こりゃあ厄介なことになった)


 アルフェラッツからすればこの状況は間違いなく不利である。カペラを抑えることが大事な目的であるが、このままシスティに参戦されると困るというのがアルフェラッツの本音である。

 剣と刀で打ち合っていた二人は一旦距離を取る。


「ここに来て援軍か。お前は一人で俺を相手するものかと思ってたよ」

「こんな状況だからね。自分の予想通りに何でも進む訳がないの」


 この状況はカペラにとっては想定内であった。アステとプラナが逸れてしまってからシスティは探しに行った。そのため、アステ達が仮に見つからなかったとしてもいつかは城壁の外のカペラ達がいた場所付近へ戻ってくることは予想できる。

 しかし、カペラにはシスティに参戦してもらう気はなかった。


「カペラさん、アステ達はここに来ませんでしたか?」

「実は来たんだよ。多分、システィと入れ違いになったんだろうね」

「そうでしたか。今はどこに?」

「先に神殿に向かってもらってるよ。私もエラもいないから正直収穫を持って帰るのは難しいと思うんだけど、もしかすると何かがあるかもしれないからね」

「確かに、アステなら何か発見できそうな気もしますね」


 システィはカペラと同様に、剣を構えてアルフェラッツから目を離さないようにしている。


「それで、あの男はフェンガリの一人でしょうか?」

「!」


 フェンガリの存在は世間一般に公表されていない。それをシスティが知っているのは普通に考えればおかしいことである。


「えっと、システィって……」

「あぁ、実はアステ達を探している時にルデルさんと出会いまして、そこで教えてもらいました」

「なるほどね」


 カペラはシスティ達の戦闘からアノーツを感じ取っていた。システィもルデルも大技は使っていないため、二人のアノーツは感じ取れていなかったが、シェラタンの大技によってそのアノーツだけは感じ取れていたのだ。

 つまり、カペラはプレウスの中で戦闘が行われていることは察しており、そこで騎士団員か冒険者の誰かが戦っていると考えていたため、ルデルと出会ったというところから大体状況を理解できたのだ。


「ルデルと一緒にフェンガリの一人と戦ったのね」

「はい、ただカペラさんの戦闘によるアノーツの余波を感じ取り、一旦勝負は中止したのでもう一人のフェンガリは健在です」

「懸命な判断だね。フェンガリの一人を相手に深追いはとても危険だよ。まぁ、システィならなんとかなりそうな予感もするけどね」


 二人の会話を聞き、アルフェラッツが話に入る。


「嬢ちゃん、システィって言ったか? もう一人のフェンガリってのは……」

「シェラタン・エニフ。貴方のお仲間でしょう?」

「だよなぁ。あいつ、普通に名前もバラしたのか……」

「互いに勝負に負けたら名前を教えるという話だったのだけど、どうやら彼のお眼鏡にかなったようで」

「そうかい。やっぱり、只者じゃないみたいだ」


 アルフェラッツはため息をついてどうするか考える。同じフェンガリのシェラタンが認めたシスティを加えた二人を同時に相手するとなると、流石にしっかり力を出さないと厳しいと考える。

 だが、それは杞憂に終わった。


「システィ、ここは私に任せてエラを連れて神殿へ向かってくれない?」

「え?」


 カペラはシスティと共闘するのではなく、エラを神殿に連れていくことを優先的に考えたのだ。


「エラが今回の大災害を抑えられる可能性が高いのは説明したでしょ? そんなエラは今、城壁の下の瓦礫のところに避難している。既に神殿へ向かっているアステ達に合流して、この大災害を止めるヒントの一つでも探してきて欲しい」

「なるほど、承知しました。ただ、神殿へ向かっても絶対にアステ達と出会えるかは分かりません。また入れ違いのようになってしまうかもしれないので」

「うん、そうなったらしょうがないね」


 これに良かったと安堵の息を漏らすのはアルフェラッツである。


「なんだ、二人で向かってくる訳じゃないのか。良かった良かった」

「何を言っているの。貴方なら私たち二人でも相手できるでしょうに」

「だから買い被りだっての。俺はアノーツが使えるだけのおっさんだ」

「へぇ、じゃあ今フェンガリの第何位(・・・)なのかしら?」

「そりゃあ、まぁ……」


 フェンガリの第何位と聞かれ、答えたくないのか口篭る。


「第何位……フェンガリには階級のようなものがあるのですか?」

「うん。そもそもフェンガリに何人いるのかが分かっていないんだけど、彼らは何らかの基準で階級を設けている。まぁ、普通に考えれば純粋な強さ順なんだろうけど」

「なるほど。ちなみに、彼……えっと」

「あぁ、説明していなかったね。彼はアルフェラッツ。フェンガリの一人で、階級はなかなか教えてくれないから分からない。けれど、フェンガリの中でも上位のはず。というより、上位であってくれないと困る」


 システィは元々理解していたが、それでも相対して改めて実感していたことがある。それはアルフェラッツの圧倒的な実力であった。

 アルフェラッツのアノーツはカペラのような分かりやすい強さを示すようなものではない。しかし、すぐ近くに来たことで、その刀に込められた凄まじいアノーツに嫌でも気づいてしまったのだ。

 そんな圧倒的な実力者であるアルフェラッツがフェンガリの中の階級で下位だった場合、あまりにも化け物揃いすぎるのだ。あまり想像したくないことだろう。


「まぁ、いずれは知ることになると思うから、その時を待ってくれや」

「ふーん。じゃあ、システィが戦ったっていうシェラタンって奴は何位?」

「まぁ、あの小僧はまだまだひよっこだからな」

「フェンガリに入れるレベルのひよっこはひよっこじゃないと思うけどね」


 シェラタンもアルフェラッツという化け物レベルの実力者と同じ組織に属しているのだ。既に脅威ではあるが、今後の成長次第ではアルフェラッツ並の大きい脅威になるかもしれない。

 とにかく、フェンガリという組織に属する者は全員化け物、という認識で十分理解できていると言えるのかもしれない。


「まぁいいや。とにかく、システィはエラをお願い」

「はい、すぐに神殿へ向かいます。カペラさん、お気をつけて」

「ふふ、誰に言っているの? 私は水星の騎士団団長だよ」

「そうでしたね」


 システィは城壁を飛び降り、瓦礫の影に隠れるエラを発見する。そして要領をまとめながら手短に話し、エラを背中に乗せて神殿の方へメランのアノーツを利用しながら向かっていく。


「ふぅ。ほんとヒヤヒヤしたよ。あのシスティって子、相当やるな」

「そうね。アノーツの扱い方がとにかく上手いって感じね。仮に出力が小さくても、使い方次第で勝利を手繰り寄せることができる」

「その点、俺たちは違うタイプだな」

「お互い、派手だものね」


 二人は改めて構える。ここから二人の戦いが再び始まり、城壁の上を移動しながらやがて国の裏切り者のスエト・ロイデが参戦してくることになる。

 カペラは当然のこと、アルフェラッツもスエトに対して良い思いを持っていないのか、なんとも言えない表情をしながらも一応味方という立ち位置でカペラと対峙する。

 ここで更にカペラの精神を逆撫でするのはスエトで、明らかに周囲の建物に被害を及ぼしながら街中に入っていく。そのまま放置していては無関係の民間人や建物に危害が加わる可能性が高いため、嫌でもスエトを追わなければならないのだ。

 そうして追いかけた先が時計台であり、その後アステ達と合流することになる。

 この時点で、カペラはかなり怒りに燃えており、実はアルフェラッツも不快に思っていた。

 そんな状態で、アステ達を加えた新たな戦闘が繰り広げられる。


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