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ダンジョン仕草  作者: 埴輪庭


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第24話:妖霧

 君はぐるりと仲間達を見回した。深手を負っているものはいない。精々がかすり傷だ。


 ここで君は思案をする。


 ──進むべきか、戻るべきか。


 逡巡は一瞬だ。


 君は広い玄室の中央に打ち捨てられている灰の元まで歩み寄り、一握を手に取った。布で包み、腰に固定してある物入れへ仕舞う。


 キャリエルが小首を傾げていたので、君はギルドに提出する意図を明かした。


 迷宮で変事が起きている事は明らかであり、君たちが対峙した異形は聖王国が言う所の大悪の萌芽である可能性が高い。ついては探索者ギルドの判断を仰ぎたい。だからここは引き返すとしよう。


 君がそう言うと、キャリエルは非常に失礼な事を言ってのけた。


「え!? お兄さんってそういうの配慮する人なんだね……」


 今度は君が小首を傾げる番であった。


 キャリエルはなおも言う。


「だってお兄さんって国とか組織とかの意向なんて従わずに、わが道を往くって感じじゃない?」


 とんでもない事に、その言葉へルクレツィアやモーブまでもが頷いていた。


 酷い誤解に君の気が遠くなる。


 君は自身の事を遵法精神に富む理知的な人間だと考えている。ギルドや国の方針、施策には極力従うつもりであったし、独善的な行動は慎む意思を持っていた。


 なぜならば『善』であるからだ。


 倫理的姿勢、社会生活を送る上での行動規範。そういったものへの向き合い方で善、中立、悪が分かたれる。


 仮に悪路を前に老婆が進みあぐねているとしよう。


 善の者ならば共に道を歩んでやり、中立の者ならば自身もその道を渡るならばついでに助けるであろう。そして悪の者は、手助けが自身のメリットとなるならば助けてやるはずだ。


 その考えで言えば、キャリエルの言う君の生き様は悪ではないか。


 これは誤解だし、言葉を尽くして解く必要がある。そして、どうしても誤解がとけないのならばキャリエルを殺害する事もやむを得まい。仮にそうなってしまったならば、これまでの付き合いもある。人道的に一撃を以って首の骨を圧し折ってやろう。


 君がそう心に決めた瞬間、キャリエルの両眼がカッと見開かれた。


「で、でも~! お兄さんと接していたら、お兄さんはちゃんと筋を通すというか、我侭な人じゃないっていうのは分かるし! わ、私の事も助けてくれたもんね。ただお兄さんは目つきが鋭すぎるから誤解を受けたりする事も多そうで、そこら辺は大変そうだなって思う、な~……?」


 何故か語尾が疑問調なのが気になったが、君はさもありなんと頷いた。


 自身の目つきの悪さは自覚していた事であり、どうにかならないものかと思い悩んでいた事でもある。だが、大魔術の数々を一呼吸に乱打し、拳一つで鋼鉄をぶち抜き、更には死者の蘇生という奇跡を行使できる君といえども、目つきの悪さだけはどうにもならなかった。


 それは如何なる状態異常でもないからである。


  ◆


 転移の術を使っても良かったが、君は徒歩で地上を目指す事を提案した。


 と言うのも、上層でもなにかしらの異変が発生している可能性があったからだ。それに対応するかどうかはともかくとして、全員無傷である以上、徒歩での帰還も問題ないだろう。


 君がそういうと、ルクレツィア、モーブはレッドカウの様にウンウンと頷いていた。


 レッドカウとはアヴァロン南西の荒地に生息する、赤い体毛が特徴的な牛の魔獣だ。まるで頷くように首を上げ下げしつづけるという奇癖を持つ。


 基本的にこの二人は君の言に一切逆らわない。裸で踊れといえば踊るであろう。


 だが、キャリエルは違う。彼女は結構ズバズバと物を言うため、君の目は自然とそちらへ向いた。


「……ん~……そうだね、私はそれで良いと思う。もしかしたら怖い魔物に襲われているひよっ子がいるかもしれないしね」


 キャリエルは君とは異なるタイプの『善』であった。そしてルクレツィアやモーブの善も、キャリエルや君のそれとはまた異なる善であろう。君たちは各々が異なる、各々なりの善を持ち寄って、それをよすがとし、魔道の底へと挑もうとしている。


 君の心の何かがぶるりと震えた。


 探索者魂に火がついた君は、やおら地面を蹴りだし、物陰に潜み奇襲を窺っていた豚面の魔物の顔面を蹴り飛ばす。


 空気を引き裂く戦慄の上段回し蹴りは、この世界においてオーク・ジェネラルと呼ばれている魔物の顔面へ着弾し、その首から上を血飛沫と僅かな肉片へ変じさせた。


 首のない死体がピュウピュウと血の噴水をあげている。


 君は体に血の雨を浴び、その温かさから命の尊さを感得する。


 そうだ。


 命とは尊いものなのだ。


 君が先刻立ち会った醜悪な怪物は、君の眼をして生物への冒涜だと見てとれた。命を穢さんとする邪悪が迷宮の底で待ち構えている。


 君は仲間達の方へと振り返り、自分達の手で大業を為す事を、命を穢す邪悪を必ずや打倒する事を告げた。


 ルクレツィアは全身を雨に打たれた子犬のように震わせ、片手で自身の乳を揉んでいた。


 モーブは跪き、まるで王へ対するような様子。


 キャリエルは布を取り出し、君に差し出した。


「拭いたほうがいいとおもうよ」


 君は礼を言って布を受取り、体についた返り血を拭い取った。


  ◇


 探索者ギルドのマスター、豚鬼種の英雄剣士であるサー・イェリコ・グロッケンは、手勢の齎した情報の数々、その不穏さに豚面を歪めた。


 ここしばらくの迷宮未帰還率は日に日に高まっている。しかも帰還した探索者もそれまでの性格が一変しているものが珍しくなく、発狂にまで至ってしまっている者もそれなりの数がいた。


 これほどの変事を、探索者ギルドのマスターである自分がなぜこれまで把握できなかったのか。


 一部のギルド職員が情報を差し止めていたからだ。その職員達は王宮からの息が掛かっているものばかり。此度の変事は迷宮そのものもそうだが、王宮が貴族が、王があるいは一枚噛んでいるのでは、とグロッケンは思案に目を細めた。


 受付嬢にして個人秘書であるハノンは心配そうに彼を見つめている。その視線に気付いたか、グロッケンはくしゃりと笑った。


「ブフ~……大丈夫です、ハノン。なにやら陰謀が渦巻いている様ですが、問題とは一つ一つ解決していけば、いずれは消えてなくなるものです。幸い私にも色々ツテはある……この国だけではなくね」


「はい……しかし私はどうにも不安でなりません。ここ最近の街の空気は余りに淀んでいるとおもいませんか。私も過去は探索者でした。だから分かるのです。この街から今、迷宮の匂いがする、と」


 グロッケンはその言葉に返事をする事は無く、窓の外に目をやった。


 霧が濃い。


 そう、霧が出ているのだ。


 グロッケンがアヴァロンの探索者ギルドのマスターとなって、初めての事であった。


  ◆


 地上への帰途、君はモーブが腕に風を纏うのを見て拍手し、賞賛した。


 迷宮の空気がやや淀んでおり、キャリエルが君にそれを訴えたのだ。


 言われて見れば空気の味が悪い。毒性を帯びているというほどではないのだが、吸気にやや抵抗を覚える、そんなよどみである。いずれにしても鬱陶しい事には違いない。


 しかし君にも空調の魔法などは使えない。少し思案していると、モーブが申し出た。軽くでいいなら周囲の空気を攪拌し、風通しを改善出来る、と。


 彼が腕を突き出すとたちまちに風が渦を巻き、君たちの周辺の空気はややその淀みを薄めた。


 モーブ曰く、旋風を纏った腕は飛び道具に対する簡易的な盾として機能し、飛矢程度なら逸らしてしまうそうだ。


 『風渡り』の異名を持つそうだが、なるほど、名に違わぬ妙手の様であった。少なくとも君にはこのような真似は出来ない。風を操る魔法を使えなくは無いが、君の扱うそれはモーブのそれよりも遥かに破壊的で破滅的なものである。


 キャリエルは笑顔で凄いよモーブさんなどと言い、弾けるような笑顔を彼に向けている。モーブもまんざらではないようで、その頬はほんの僅かに赤らんでいた。


「モーブ、お顔がだらしなくなっておりますわよ」


 ルクレツィアが苦笑しながら指摘すると、モーブはたちまちキリっと表情を引き締めた。


 その様がなにやらキャリエルのツボにはまってしまったようで、迷宮に快活な笑い声が響きわたる。


 君はそんな彼等に気を抜くなと注意するどころか、むしろこの空気を引き延ばそうとさえしていた。


 なぜなら君は知っていたからである。迷宮という特殊空間において、何が探索者達をもっとも屠ってきたのかを。


 それは恐るべき魔物でもなく、致死性の罠でもない。探索者達は闇に吞まれて、その尊い命を散らすのだ。そして、その闇は己の心の中にある。


 笑いというものは、迷宮に横たわる無窮の暗黒を照らす仄かな光。ベテランの探索者ならば皆それを知っている。


  ◆


 君たちは地上への階段を上り、迷宮を塞ぐ大扉を開く。


 外には濃い霧が立ち込めていた。


「霧!? 珍しいなあ。というか初めてだよ! 雨でもふったのかな。私は学がないからよくわからないんだけど、雨の後ってこういう靄が出やすいらしいね」


 キャリエルがやや早口で言う。


 ルクレツィアは何か落ち着き無い様子だ。モーブはいつもと変わらず。彼は基本的に無口で無言で、やるべき事をしっかりやる男である。


 君がルクレツィアにどうしたのかを尋ねると、彼女は首を振りながら答えた。


「わかりません、わたくしにも……。ただ、何か、覚えがあるような……この霧に、覚えがあるような気がするのです。心の奥が震え、怖気づいているのを感じます」


 やや顔色を悪くしながら言うルクレツィアに、君は再び尋ねた。


 それは良いものか、それとも悪いものか、と。


 ルクレツィアは答える。


「……邪悪。その一端を担うものかと」


 君はそれを聞いて破顔する。


 望む所であった。


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S E T T I N G G R I M O I R E
ダンジョン仕草
設 定 資 料 集
入った者。堕ちた者。
そして、帰らなかった者たちの記録。
登場人物
迷宮に足を踏み入れた者の数だけ物語がある。だがその大半は、帰らなかった者の物語だ。ここに記すのは帰ってきた者たち──あるいは、帰るつもりのない者たちの記録。
▼ 主要パーティ
君
「君」
ライカード王国 魔導散兵 / 全能者《エルシャダイ》
黒いローブの青年。その実態はライカードという異国より来訪したキチガイである。あらゆる魔術、神聖術を行使するが“この世界の”術ではない。
戒律は善。困っている者は無償で助ける。ただし助け方が常識と噛み合わない。鉄錆びた死生観と人懐こい笑顔を同居させたクレイジーな冒険者だ。
キャリエル
キャリエル
幸運の女神 / ソロ探索者
赤い髪の少女。ソロで探索を続けている。妹の流行り病の薬代を稼ぐけなげな弱者。勘はいいがそれだけだ。
──その勘の精度を考えれば、それだけで十分ともいえるが。
ルクレツィア
ルクレツィア・フォン・エッセンバウム
降る雪の聖女 / 戦闘聖女《バトル・プリーステス》
カナンが迷宮に送り込んだ聖女。白銀の髪。大悪の調査に赴いた彼女を四人の聖騎士が護衛した。
──が、無様にも失敗。肉体を浸食され君に襲い掛かり、上半身をミンチにされて惨敗。おかげで死よりも悍ましい結末からは逃れられた。
固有術式「聖雪」。雪片の一つ一つが問う──あなたは善なる存在ですか、と。悪と判じられた者は自らの罪の重さで圧殺される。恐るべきはその判定が彼女の価値観で行われる事だ。
モーブ
モーブ
風渡りの聖騎士
ルクレツィアを護衛した四人の聖騎士のうちの一人。黒い髪のイケメン。異名は戦い方に由来する。神聖術で強化した肉体に、指向性を絞った風魔法を重ねた高機動戦闘。良く言えば寡黙。悪くいえばコミュ障。
▼ 探索者ギルド
サー・イェリコ・グロッケン
探索者ギルドマスター / 豚鬼種の英雄 / 利き鼻
探索者ギルドの親玉。巨大な体躯を執務机に収めた豚鬼種の英雄。その鼻で相手の帯びる毒、呪詛、悪意を嗅ぎ分ける。現役時代に悪竜を討ち、愛剣『大猪牙』を壁に飾る。脂肪の下には竜種に匹敵する膂力を秘めるが、全力稼働は数分──超えれば餓死するほど燃費が悪い。
ハノン
探索者ギルド受付嬢
金髪碧眼。冷静沈着で愛想がない。グロッケンの愛人という噂を流した者は、割りの悪い依頼しか回されずすぐ謝罪する羽目になったという。
ザンクード
荷持ちの老探索者 / 酔いどれ
いつも酒場で飲んでいる爺さん。喉の矢傷のせいで声が掠れる。半世紀を迷宮で費やした古強者で、流派の名を持たない我流の槍を振るう。型が無いぶん軌道が読めない。
ソニア
「ブルーソニアの隠し牙」リーダー
軽装の女戦士。まともに死ねなかった哀れな女。
ケイセルカット
斥候 / 「隠し牙」メンバー
運が良い若者。仲間がジャーヒルの歌に呑まれていく中、唯一正気を保ち、逃げ切った。
▼ カナン神聖国/オルセイン王国
法皇レダ
カナン神聖国 法皇
年齢抑制の恩寵で三十代半ばの外見を保つが、実年齢は六十を超える。彼女を「お飾り」と呼ぶ者がいる。傀儡の玉座で微笑むだけの女だと信じている者がいる。確かにそうかもしれない。レダは神聖術が絶望的に下手糞だし、政治を知らない。それでも彼女以外に法皇は考えられない。彼女がカナンで最も強いからである。
大主教ヒュレイア・フォン・ハーデン
六大主教 / ルクレツィアの上司
齢三十半ばで六大主教に昇り詰めた才媛。人間を道具として値踏みする。法皇を「お飾り」と見なし、いずれは自身がと考えている。彼女はレダよりよほど政治ができる。ただ、政治では魔を討てない。
宰相ジャハム
オルセイン王国宰相 / 大魔導師《アーク・ウィザード》
この男の全ての行動は、一つの名前で説明がつく。ザビーネ。亡き王妃の名だ。醜悪という言葉が人の形を取ったような男が、全存在を賭けて死者を蘇らせようとしている。クーデターでオーム王を追放し、ベルンハルトを裏切りの駒として迷宮へ送り込む。ただそれだけのために一つの国を大悪に捧げる。
ベルンハルト
近衛騎士団長 → 魔騎士
近衛騎士団長だった。過去形で語るしかない。ジャハムの策略で大迷宮に送り込まれ、大悪の力で魔騎士に堕ちた。
敵対者
囁く者とは人間が名付けた。名前をつけなければ、恐怖を語ることすらできなかったからだ。
囁く者
囁く者
歴史を紐解いてみれば、災厄と呼んでよい厄の陰には必ずこれらの存在があった。
ジャーヒル
ジャーヒル
暗黒の大母 / 二邪の一
肉を堕とす者
シェディム
シェディム
深淵の聖母 / 二邪の一
魂を堕とす者
▼ その他の脅威
エリゴス・ハスラー
カル・ローンの悪魔 / 首狩りハスラー
傭兵国家カル・ローンの筆頭傭兵団長。愛剣ローン・モウアで数え切れぬ英雄首を狩り獲った。最下層の宝剣を求め、第5層でルクレツィア一行と邂逅。情報を交換して一度は引き返したが──
魔将《デーモン・コマンダー》
大迷宮を狩り場とする上位悪魔族
悪魔は悪魔であって魔物ではない。囁く者たちとも無関係だ。彼らには故郷があり、大迷宮はその魔界との境界が薄い。だからこそ顕れる。中位、下位を従える様が将軍のようだから、人間が魔将と名付けた。
グレーターデーモン
上位悪魔
レッサーデーモンと並べて語られる事があるが論外である。レッサーより強大だからグレーターと呼ばれるのではない。その強さ、その恐ろしさゆえにグレーターデーモンと呼ばれるのだ。
その他の人々
主役だけが物語を動かすわけではない。名もなき者たちの選択が、時に世界の天秤を傾ける。
聖騎士サンドロス 異端審問官上がりの偉丈夫。法皇への不敬に義憤を感じ君に掴みかかり、べっこりへこまされた。残念ながら生存。
国王オーム クーデターで追放された元国王。その血は第10層への扉を開く鍵となる。──王の血とはつまり、そういうものだ。
ザビーネ 死者。亡き王妃。ジャハムの愛の歪みは、何人がそのために死んだかで測ればいい。
ゼナ 新米探索者。賊の襲撃で真っ先に立ち向かい真っ先に殺された。まあ、どこぞの冒険者に蘇生されたようだが。
ケージ 上位冒険者として稼ぎは十分あるはずなのに、全て賭博でトバすほどのカス。
ラーナラーナ レダの娘。くりくりとした眼にふわふわの栗毛。歳の頃は十かそこら。
国家と勢力
三つの国がアヴァロンの地下を巡って交わる。一つは戦いを神と崇め、一つは神に戦いを捧げ、一つは戦いの上に街を建てた。
ライカード王国
ライカード王国
超好戦的魔導国家 ── 死は風邪のようなもの
ライカードから来た男に、死をどう思うかと訊いた。少し重い風邪のようなものだ、と笑った。翌日、コボルトに殺された仲間を蘇生教会へ担ぎ込み、三十分後には酒場で一緒に飲んでいた。この男たちの国では、死は本当に風邪なのだ。
魔法体系は七段階の位階制で、各位階の呪文を一日九回まで使える。「絶対的な神などいない。いたとしてもそれは殺せる存在であり、神みたいなかんじの魔物である」と教育する国。
余談だが、ライカードにはNINJAとよばれる者たちがいる。忍者ではなくNINJAだ。全裸で戦い、手刀で首をはねる。諜報活動は行わない。
迷宮都市アヴァロン
迷宮都市アヴァロン
大迷宮の上に築かれた街
不味いエールで知られる安酒場がある。壁際に座ると怒号と笑い声が頭上を飛び交う。生きて帰った者が飲み、帰らなかった者の席には新しい誰かが座る。それがアヴァロンだ。
オルセイン王国に属するが実質は探索者ギルドの自治領。酒場と武具店と命知らずがひしめく。迷宮からは希少な資源、武具、魔法の道具が出土し、それを求めて各国から傭兵が集まる。
カナン神聖国
カナン神聖国
信仰の国 ── 白壁の都ユーガリット
白亜の城壁には退魔の力が込められている。ただし材質は白鳥石で脆い。
神を国として奉じる宗教国家。指導者は法皇レダだが、実質国を動かすのは六名の大主教。神聖魔法は信仰の深さで出力が変わる。応用は利くが不安定で、術者の心が揺れれば威力も揺れる。なお、カナンはヒト種のみで構成される。異種族の姿は見られない。それが何を意味するかは、各自の判断に委ねる。
囁く者とは何か
あなたの中に、それは既にいるかもしれない。
それ
「それ」の正体
見た目は生白くぬらっとした卑小なヒル。踏めば潰れる。焼けば死ぬ。──だが見た目通りの存在ではない。次元間の行き来を可能にする一種の生体ゲートである。一匹では意味を為さない。門を開くには膨大な数が要る。だから「それ」の目的は増えることだ。多く、多く、限りなく多く。それ以外の目的を持たない。
「それ」は増える
増殖手段は寄生。宿主に取り憑きエネルギーを搾取する。宿主が生きようとする限り、その行為は「それ」を守ることにもなる。──エネルギーとは栄養に限らない。感情だ。激しいほど上等の餌となる。信仰、愛、憎しみ、誇り。人間が最も尊いと思うものが、最も美味いらしい。
「改善」
効率よく餌を得るため「それ」は宿主を「改善」する。最初に恐怖を消す。次に哀しみを消す。すると宿主は囁きを天啓と受け止め始める。声に従えば辛いことが消え、喜びに満たされていく。──その喜びが「それ」を太らせているとも知らずに。
門が開く時
限度を超えると宿主の体内で際限なく増殖し、最後には宿主ごと破裂する。──ぱぁん、と。
破裂の直前、宿主は正気に戻る。自分を「こんなふう」にした存在への怒り。戻れない哀しみ。そして恐怖。その爆発が「それ」を爆発的に増やし、膨大なエネルギーが生体ゲートを起動させる。──つまり、絶望が門を開く。
なお「それ」は善でも悪でもない。だから破邪の力は痛痒を与えない。ルクレツィアほどの聖女の信仰すら、むしろ良質な餌だった。
門の向こう
歴史が一定の周期で大災厄を繰り返すのは、門が何度も開きかけているからだ。
アヴァロン大迷宮
潜った者だけが知っている。あの暗闇には温度がある。匂いがある。──息をしている。
第1層
F1 ── 薄暗回廊
松明の光が届く範囲だけが世界だった。石造りの回廊が続き、小鬼の爪が壁を掻く音が響く。新米はここで魔物の血の匂いを嗅ぎ、命の値段を覚える。
第2層
F2 ── 屍涼荒野
地下なのに空が見えた。説明はつかない。魔力の歪みが外界を投影しているとされるが、あれがどこの空なのかは誰も知らない。スケルトンの徘徊する荒野。
第3層
F3 ── 坑道層
至る所の松明は不思議と消えない。が──その影に悪魔が潜む。光が多いほど影も増える。安心と危険が同じ源泉から生まれる、嫌な構造。この辺から新米は遺書を書き始めたほうがいい。
第4層
F4 ── 迷宮層
側壁に装飾の施された「迷宮らしい迷宮」。人の手が入っているが建造者は不明。やけに寒く、湿った空気が流れる。墓場に似ている、と誰かが言った。
第5層
F5 ── 血渇円堂
通路はない。すり鉢状の広間が一つ。観客席に囲まれた円形の舞台。──かつて何者かがここで戦いを見物していた。そう思わせる構造だ。敵は出ない。ただしセーフエリアとは、あくまで人間の線引きである事を思い返すべきだ。
第6層
F6 ── 沼地層 / 下層回廊
上層は沼地。足元は緑と茶の泥に覆われ悪臭が漂う。触手の集合体と保護色のトカゲが襲う。長居すれば体が蝕まれる。下層は石の通路型回廊に変わる。
第7層
F7 ── 黒死聖堂
光が死ぬ。松明を掲げても闇に飲まれる。魔法の光も同じだ。ギルドの記録にすら情報のない未踏の領域。囁き声だけが耳元で鳴り続ける。
奥に至った者は見るだろう。墓石が円形に並び、中央に巨大な石棺が浮いているのを。暗黒の中で、それだけが明瞭に見える。
第8層
F8 ── 肉の回廊
生物的な質感の壁面が呼吸するように収縮を繰り返す。もはや迷宮ではない。上位の悪魔族が跋扈する魔界。
最深部
F9-10 ── 最深部
全ての道はここに至り、ここから先はない。
ダンジョン仕草
この魔導書はギルドの記録、生還者の証言、
そして迷宮から回収された断片から編まれた。
― 新着の感想 ―
エリゴスさんは情報収集のために蘇生とかはされなかったんですね。情報秘匿のためなのか魔剣のためなのか…。
[一言] レッドカウのモチーフは赤ベコかな? シリアスな中に混じるクスッとした笑いが面白いです。
[良い点] サバサバもメメントモリも読みましたが、こっちの主人公もキマってて非常にいいキャラしてますね! 毎日全部更新してほしいくらいです。 [一言] キラキラ"善"スマイルで決意語りながらオークの頭…
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