第三章
「イッチー今日はあーしの見ろよ。あ、おっぱいじゃねーぞー?」
「真白さんは服を作ってるんですか?」
「そーそー。ココ田舎なのもあっけど、売ってる服ってイマイチピンと来ねーっつーか、なんかモヤッてたから、自分で作ろっかなーって、イッチースルースキルついて来たな…」
今日は真白さんと姫奈さんの作業を重点に見学する事にした。
真白さんは昨日裁断した生地を縫い合わせてく作業みたいだ。ミシンの音がリズム良く響いてる。
「ウチら量産型ギャルにはなりたくねーからねー、バチボコユニークギャルにならねーとなんよ〜」
「髪の色シャアだもんなー」
「ライデンだっつの〜」
「?」
多分、ガンダムの話なんだろうけど、僕はそこまで詳しく無いから、ちょっと分からなかった。
ていうか姫奈さんが詳しいのが意外…ううん。コレも勝手なイメージの決め付けだよな。良くないね。
「姫奈さんはどういう作業なんですか?」
「コレな〜ステッチ編みっつって模様付けてんよ。立体感あった方が3Dって感じだべ?」
「でも凄い複雑そうですね」
「ソコはこの姫奈サマの腕の見せ所だし〜まーでも肩凝っから、後でいっくんおっぱいスタンドよろ〜」
「バーカ先はあーしだっつの」
「あの…」
やっぱり僕が許可しないまま話が進んじゃってるなぁ…。
ココだけは今でもよく分からない…。
「おい黄山も紅林もやめんか」
「先生…!」
あ、先生はちゃんと注意してくれるんだ…!
やっぱり大人の先生はしっかりしてるよね…!
「こういうのは先生が先だ。そういう事してるなら教えとけ」
「え、えぇ…」
「おー楽だ。ありがとうな結城。私も凝りやすくてな」
「あーずりィよセンセー」
「大人の方が深刻なんだよクーパー靭帯」
結局今日も、頭の上におっぱいを乗せられてしまっている…。
今日も、凄く熱い…ホッカホカだ…。
転校して二日、おっぱいの大きい女性のおっぱいはとっても熱いという情報だけが、僕の頭に刻まれてしまっている…。
「(てか…多分このままだとまた裕美子さんに怒られちゃう気が…)っ…」
「……」
チラッとそっちを見れば、裕美子さんが凄い真剣な表情で、一筋一筋ずつ、丁寧に野菜に刃を入れていた。
昨日にも増して、集中した顔で。
「…出来た……なぁ壱正、コレ「綺麗です…」へっ…?」
「凄く…凄く綺麗です。この飾り切り」
「あっ、あぁ…そっか。ありがと…」
素人目でも分かる位に、昨日から更に上手になってる、裕美子さんの作品。
本当に本物の花みたいで、心の声が漏れてしまった。
でも今すぐ伝えたい位に、綺麗だったから。
「おーマジだ。めっちゃじょうずくなってんじゃん裕美子ー」
「愛の力すげー」
「は、はぁ?何でそういうの関係あんだし」
「…しかしコレは中々上手くなったな黒井。この間見たのと違う……なるほど」
真白さんも姫奈さんも、先生も僕の方を見てニヤニヤしてる。
裕美子さんが上手くなった理由に僕が関係してる……?
「(…あ)裕美子さん、褒められると伸びるタイプなんですね!」
「!?お、おー…そうだな。そうだよ。壱正が褒めてくれたし、良く…出来たわ。サンキュ」
良かった。裕美子さん、凄い嬉しそうだ。
中々上手く行かなかったって言ってたもんね。喜びもひとしおだよな。
「いえいえ!どういたしましてです!」
「…なぁ黄山、紅林。結城はタラシなんだな」
「ね、やべーっしょ」
「だからおっぱい乗せがいがあんよね〜」
青戸先生からの妙な視線を感じつつも、今日も部活の時間は過ぎて、あっという間に下校の時間だ。
「さて、そろそろ終わりだな。ところで…結城」
「はい」
「君はこの家政部に入るのか?」
「えっ」
「見学に来るという事は、入部の意志があると見て良いのかな?」
当たり前だけど聞かれる質問。
昨日の流れで今日も見に来ちゃったし、そもそも昼にあんな事言っちゃったし、普通に考えたら、そういう意味だよ…ね。
「僕…は」
『…』
皆、ジッと見てる。特に裕美子さんは…なんか、少し不安そうな顔をして。
もしかしたら、嫌かもしれないし、三人の仲良い空間を、邪魔しちゃうかもしれない。
だけど…。
「裕美子さん。真白さん。姫奈さん。良かったら僕も…家政部に、入れてもらえませんか?」
「……」
「…」
「…よっしゃあ遂に部活として認可じゃおりゃあぁァァァ!!!!」
「…えっ!?」
真白さんが凄く喜んで雄叫びを上げた。
というか部活として認可…ってどういう事?
「あの、どういう「ゴメンな壱正。アタシ等、家政部って言ってたケド、まだ同好会だったんよ…」そうだったんですか?」
「なんよ〜四人からじゃねーと部として認めねーってさ〜」
「だからイッチーが見学してっ時、めっちゃハラハラだったんだわ!あーしら嫌われたらヤバいってさ〜!」
皆口々に安堵の言葉を並べてた。
本当に肩の荷が降りたっていうか、止めてた息を吐いたみたいな。
「だから、もち普段もテキトーにはやってねーけど、ちゃんとしてるトコ見せて、壱正に…興味持って欲しかったから、ホント…ありがとな」
「皆さん……なんか凄く可愛いですね」
「ちょっ、イッチー生意気〜!おっぱいサンドすっぞ姫奈!」
「あーもうギャルにチャラいセリフは許さみ無しだかんな〜!」
あ、可愛いって言っちゃうの、ギャルの女の子達には良くなかったのかな!?
でも、一生懸命魅せようってのは、凄く可愛くて、カッコいい事だと思うな。
「ところで結城は何をする?」
「あー、そっか。壱正部員になんなら何かやらんとか」
「やっぱ服作ろーぜ!」
「雑貨っしょ」
「料理…やりたいなら、教えても…イイよ」
「えっと…」
どうしよう?どれも楽しそうだし興味があるなぁ。
一つずつやって見るのも良いけど、でも皆集中してる中頼りにするのもな…。
「そういえば最近駐輪場に停めてある、見慣れないネイキッドは結城のか?」
「はい。おじいちゃんが買ってくれたバイクです」
ネイキッドってバイクの種類知ってるのは、先生も乗ってたりするのかな?
「フム。ではそうだな…結城壱正。キミはステッカーを作りたまえ」
「えっ?ステッカー…ですか?」
シールみたいなモノ…だよね。
バイクとか、ヘルメットとかに貼るヤツかな。
確かにそれなら、皆の邪魔をしないで、一人作業に集中してやれそうな気もするし、良いかもしれない。
「良いじゃん楽しそーだなイッチー」
「ハイ…ちょっと家庭科ってより図工とか美術な気もしますけど…」
「いや、コレは大事な役目だよ結城。キミに最初に任せたいのは、この家政部のロゴステッカーだからな?」
「…?」
「センセ、壱正にロゴステッカーって…何?なんなん?」
なんだろう、青戸先生、ちゃんと部になったから、話を一つ進めようとしてる…?
「単刀直入に言うとだ、君達の作品、今度沢山の人に見せてみないか?」
『…?』
ーーーーーーーーー
「で、どうすん裕美子?」
「やんの〜?ウチはなんでもおけまる水産」
「うーん…」
部活終わって帰り道。今日も壱正はついてきてくれてる。
律儀っつーか。生真面目っつーか。
「壱正はどうよ」
「そうですね…僕としては…急といえば急ですけど…」
〜〜〜〜〜
「来月の終わり頃にこういうのがある」
「?…ユース…クラフトアート展覧会…?」
青戸センセがバインダーん中から取り出したチラシを読んでみた。
ざっくり見渡してみっと、要は高校生のハンドメイドの発表会みたいなモンっぽい。
「おーん?全国行ったるで的なヤツ?」
「ウチ甲子園より花園派なんだが〜」
「生憎そこまで大きくは無いんだがな。所謂小規模部活の総合展示会みたいなモノだ。君達も部になったから正式に参加出来る」
「タイミング良すぎじゃないですか…?」
疑問に思う壱正。そりゃそうだよな。
自分が入部したなら直ぐちゃんとした部活の体で色々やれとか。
「何、そろそろちゃんと、お前らが真面目に部活やってるって所、私が見せたくなって来たんだよ」
『!…』
「ずっと持ってたんだがな。今日漸く結城が入ってバインダーから取り出せたんだ」
「…いちいちカッケーよな。玲香ちゃん」
「それな〜」
「私だって顧問の端くれなんだぞ?」
じゃあもっと普段の活動見てよって言いたくなるけど、無理に部員集めろって今まで言わなかった辺り、センセー的にも、活動の妨げになるくらいなら、集めなくても良いって尊重してくれたんかな。
「勿論お前達の意思で出る出ないは決めてくれて良い。ただ…」
『ただ?』
「出店形式の出展も出来るから、売上が出る」
『!』
「そして結果が出れば部の予算会議で、部費が上がる!」
『!!』
「ま、そういう事だから、明日までに考えといてくれ」
って言い残して、さっさと帰ってったセンセだった。
〜〜〜〜〜
「でも…僕の入部理由は、裕美子さん達の頑張りを、僕だけでも知ってたいって事なので、もしそれが他の人にも知って貰えたら、僕は嬉しいですね」
「いっくんそれ答えになってね〜」
「何か的外れだぞイッチーウケるわ」
…確かにちゃんと答えにはなって無いけど、壱正はアタシ等の事、知らないヤツに何言われても知らんっつって、家政部に入ってくれた訳で。
それって…逆に言えば。
「アタシ等が結果残しゃ、壱正がおかしな事言ってるヤツじゃねえって、知らしめてやれるって事か」
「!…イイね裕美子。それはおもしれーわ」
「そろそろ材料費切り詰めんのもキチーしね〜。このガッコ、バイト基本出来ねーし」
「皆さん…じゃあ」
「おう。やってやろーぜ。壱正」
「っ…はい!」
元々、好きな事を好きな様に好きなだけ集中してやりたくて作った部活だもの、それを好きな様に見せびらかしたって良いよね。
「ちな何出すん?」
「ウチ今作ってんの量産しまくって売ろ〜」
「あんだよザク女ずりぃー。あーしどうし…!んじゃクラブTデザインすんべ。皆で着んの」
「イイね真白。じゃあアタシは…「出店だから裕美子さんの料理を食べて貰いませんか?」!…先に言うなし壱正」
「あっすみません!でも美味しい裕美子さんのご飯なら大人気ですよ!」
「…変なプレッシャー掛けんな」
「ご、ごめんなさい…」
嬉しいけど、緊張しちゃうのが、アタシなんだもん。
勿論、壱正はお世辞でも何でもなくて、本気で言ってんのは分かるけど…本音過ぎて、ちょっと気構えちゃうじゃん…。
「つっても絶対人気出るべ。ギャルメシ」
「な。裕美子が爆乳エプロンで売り捌けば優勝間違い無し」
「やらねーし、真白のクラブTでやっから…」
「じゃあ、僕もステッカーのデザイン、頑張って考えますね」
「ん。頼むな。壱正」
皆やる事は固まって来たみたいだ。
昨日の今日でいきなりだけど、やる事は今までの延長だから、浮足立つ事もねーし、大丈夫っしょ。
ーーーーーーーーーー
「…おはようございます」
『…』
入部から少し経って、いつも通りに朝、自分のクラスに入って挨拶してみるけど、返事はもう殆ど無い。
やっぱり、皆裕美子さん達のイメージから、一緒に活動してる僕の事も引いた目で見てるのかな。
でも…良いんだ。それで
「(全部の場所で…全部居場所にしなくたっていい…)ッ…」
「オォ、悪りぃな。見えなかったわ」
「…普段の生活も前方不注意だと、いつか大事故になるよ」
「アァ?」
座ってる僕の斜め後ろから、わざとらしく足音立てて歩いて来ては、わざとらしくぶつかった身体の大きい男子生徒。
手には乱雑にステッカーを貼ったハーフヘルメット。
多分だけど、このクラスで僕以外だと唯一のバイク登校の生徒だ。
「ハーフヘルメットはいざって時頭を守り切れないし」
「転校生よォ…一丁前にストファイ乗ってっからって説教する位に偉ぇんだなぁ。ヤンキー女共と連んで気ィデカくなってんのかよ?ハハッ」
「…」
「人差し指、あんまり力入って無いね。フロントブレーキしっかり掛らないよそれだと」
「ッ!……黙ってろ」
胸倉を掴まれた。
だけど、目は逸らさないでずっと見てた。
ココで逸らしたら、三人を馬鹿にする言い方を認めたことになる気がして。
眼は、絶対に逸らさなかった。
「(今度は…椅子からも浮かない位にしなきゃ)」
怖さは無いもの。
おじいちゃんの方が、よっぽどだから。
「イッチーどーよ?」
「中々難しいですね…」
「つーかいっくんは絵とか得意なん?」
「中学の美術は三です…」
「なんだ壱正フツーだな」
「そーですよ普通ですよ僕は。へへへ…」
放課後、もう慣れた様に通りに部室に来て、三人と一緒に活動を始める…んだけど、今日は皆僕のステッカーデザインの作業ばっかり見てた。
でもこうやって、みんなと『普通』に部活動出来るのが一番良いんだ。
「イッチーって得意科目なんなん?」
「えっと…特に無いですね」
「えーそうなん?」
「まーいっくんなんか平均でバランス型っぽいもんな」
「その平均にも届いてねぇアタシ等が言う事じゃねぇっつの」
「インテリギャップ萌えギャルにはなれねー!」
だらーんと机にへばりつく姫奈さん。
大きなおっぱいがクッション代わりになってるなぁなんて思ったりしちゃった。
「で、でも皆さん家庭科は得意じゃないですか!」
「おーんまぁな?」
「分かってんじゃんいっくーん」
「いーよ気ぃ遣わなくて…第一、得意なモン無くたって、壱正にはガッツが……おい壱正、そこどうした」
「えっ?」
裕美子さんがやたらと僕の方を注視して、少しドキッとしてしまった。
でも見てるのは僕の目じゃ無くて…。
「ココ、ワイシャツの襟んとこ」
「?…あ」
「おーどしたイッチー、機械油みたいなんで…指紋?」
真白さんの言葉で、何なのかは大体察した。
多分、今朝のアレなんだと思う。
あの人ライディンググローブも付けないで乗ってるから、車体の何処か触ってついた真っ黒なオイル染みが、指から移ったんだろな。
「いや…大丈夫ですよ「誰だ。壱正」っ…」
「クラスの連中か?」
裕美子さんの顔は凄く落ち着いてるけど、目の奥が、とても震えてる気がした。
震えてる…怒りに。
「…クラスにもう一人、バイク通学してる男子が居て、その人に少し因縁つけられちゃって」
「イッチーのクラスって七組…!オイ裕美子」
「あーだな真白。アレだわ」
「…あの野郎ォ…」
「皆さん…?」
察したかの様な顔をしたら、直ぐに眉間に皺を寄せた三人。
あの男子と心当たりがある…のかな?
「悪りーなイッチー、その木偶の僕、こないだ裕美子に告ってフラれたバカだわ」
「!」
そういう…事だったんだ。
妙に僕に突っ掛かって来る様な態度だったのは。
だけど、それとは別に少し、思ってしまった事があった。
やっぱり…裕美子さん達皆綺麗な人達だから、モテる…よね。
良いのかな。僕なんかが一緒に部活やってて。
「壱正?大丈夫か?やっぱりどっか怪我してんじゃ」
「全然大丈夫ですよ!」
「そっか…ゴメン。アタシのせいで…」
「裕美子さんのせいなんかじゃないですよ。それに…もしそうだとして、僕に因縁を付けてくる様なら、器が小さいと思いますし」
裕美子さんに気負って欲しくないのもあるけど、今の話を聞いて、益々萎縮したくない気持ちが強くなった。
八つ当たりしてくる様な人に、屈したくない。
「おーイッチー言うねー!」
「こーいう所オス臭くてウチすこだわ〜」
「…ん。でもあんまりしつこいならちゃんと言ってくれよな壱正」
「はい!」
裕美子さん達に面倒が掛からないように教室じゃ相手したつもりだったのに、結局気を遣わせちゃったな。
もっと心配させない位に頼り甲斐がある人間にならなきゃ…だ。
「んじゃさ!ココらでいっちょ、団結深めるべ!」
『?』
ーーーーーーーーー
「えっと…こっちの先に…あ、あのショッピングモールかな?」
翌日、土曜日のお昼前。
姫奈さん主導で交換してもらった連絡先から送られて来た目的地を目指して、バイクを走らせて30分。
国道沿いに見えるこの辺りで一番大きいショッピングモールに辿り着いた。
「こんなに大きいトコあったんだ…」
ショッピングモールにホームセンターに、大型家電量販店もあるタイプの広い敷地だった。
コレだけ纏めてギュッと詰まってる所は初めてだから圧倒されるな…。
「駐輪場…ココで良いかな?」
とりあえずショッピングモールの真ん中辺りの駐輪場にバイクを停めて、集合場所の中央入口って所に向かってみる。
中央だから真ん中だよね…。
「…アレ、まだ皆居ないのかな…?」
標識を見るけど合ってるっぽくて、でももう後五分位で集合時間なんだけど、三人とも居ない。
皆、時間ピッタリに来るタイプなのかな?
「まだ全然知らない街の知らないお店に一人…中々寂しいな…」
でも、転校して四日でこんな風に遊びに行く事なんて無かったから、今が変なのかもな…。
「皆、距離の詰め方が早くてビックリしちゃったな…ギャルの子達のバイタリティって凄いなぁ…でも優しくて、凄い面倒見が良い人達で…」
トントン拍子で話が進んで、部活にまで入って、展覧会にまで出ようってなって…凄い密度だ。
「夢みたいな…っ…」
ちょっと不安になる、もしかしたら、夢だったのでは?と。
いくらなんでも色々、事が運び過ぎな気もする。
そんなに、おっぱいを軽々しく乗せる女の子や、手作り弁当を作って来てくれる女の子がいるだろうかって。
出会って間もない僕の身を、あんなに親身に心配してくれる子達なんているだろうかって。
もしかしたら今でも夢を見てて、僕はまだ転校してないのかもしれない。
「それは…嫌だな…もし…全部、裕美子さん達も居なくて「いっくんめーーーっけ!」………あ…」
「えっ?…およっ…?」
視界が塞がれて、声が届く。
背中におっぱいの感触も一緒に。
思わず安心して、目が潤んでしまった僕だった。
「イッチーゴメンな?ちょっと驚かせてやろってヒナがさー」
「あんだよマシロもノリノリだったべ〜…でもいっくんマジごめん」
「いやいや!僕こそ勝手に不安になって恥ずかしいですよね…」
姫奈さんの声に続いて真白さんの声も聞こえて、本当に夢じゃないなって落ち着けた。
勿論…最後には。
「いや、やっぱアタシ等距離感バグってんよな壱正…」
「でも…そこが裕美子さん達の良い所じゃないですか」
「それに裕美子が三十分も早く着いたから思い付いたネタだしね〜」
「なー」
「関係ねぇだろお前らなぁ!」
そうなんだ…そんなに早く…僕が土地勘無いから、なるべく早めに来ようとしてくれたんだ。裕美子さん。
やっぱり、凄い優しい女の子だ。
「ていうか…」
『?』
「皆さん、今日の服、可愛いですね」
「おーいっくんわかってんな〜。イイだろこのマインレイヤー系女子〜」
「マイ…?」
「地雷系なイッチー。ヒナこんなんしか持ってねーのよ」
「な、なるほど…」
ピンクのフリルのついたシャツに、スカートも短いけどフリル付きで、バッグとか小物もみんな可愛い系のなんだな、姫奈さんは。
「こんなんじゃねーし〜。オフショルしか持ってねー風邪引き予備軍に言われたくね〜」
「ワンショルもあるっつーの。つかギャルは肩出してなんぼだし。なぁ?イッチー」
「そう…なんですね!」
真白さんはいわゆるオフショルダー?っていう肩が見えてるタイプのセーターに、ショートパンツでおへそも見えてて露出がかなり多い格好だ。
でも自信たっぷりに着こなしてる感じがカッコいい。
「壱正まともに聞かんでいいから」
「あはは……裕美子さんも、とても良く似合ってますね」
「ん…サンキュ」
裕美子さんはダメージデニムに、シンプルな白いTシャツで、上に黒いライダースジャケットだ。
クールでカッコいい装いだなぁ。
あと…やっぱり皆、私服でも、おっぱいが凄い目立つな…大迫力…!
「つかバイクで来たいっくんがライダース着てなくて、裕美子着てんのなんかウケる」
「おーそれなー」
「バイク乗らなきゃ着ちゃいけねー訳じゃねーし」
「そうですね。ライダース着なくてもバイク乗れますから」
「アッハハハハ!やっぱイッチーあーしらのノリ分かって来たなぁ!」
「よっしゃご褒美に一回おっぱい乗せとくべ」
「もーいーから先にメシ食うかんね!」
『うーい』
大変だけど楽しそうな一日になりそうだ…。
「つー訳で家政部よーやくちゃんと部になってー…あとイッチー入部おめのかんぱーい!」
『かんぱーい!』
「ってもー少し纏めろし真白〜」
「まー何でも良いっしょ?」
「すいませんわざわざ」
先にお昼って事で、モール内のバイキング…ビュッフェ?かな。で腹ごしらえ。
ランチ千円で色々食べ放題だから高校生にはありがたいね。
「良いんだよ。壱正入ってねーとこうやって出来なかったんだから」
「ホントありがとな〜」
「今日はあーしらの奢り!…に出来る程金ねーけどいっぱい食えよイッチー!」
「はい!」
って意気込んではいるけど、皆結構なボリュームでもう盛ってあるなぁ。
唐揚げにグラタンにパスタにハンバーグ。
麻婆豆腐に焼きそばに餃子に春巻き。
天ぷらにお寿司に茶碗蒸し。
和洋中全部取って所狭しと並んでて。
「あーマシロ醤油取って」
「ヒナの方がちけーし、つかあーしのマーボーのレンゲ手元に置くなー」
「…コイツら結構食うだろ?」
「ちょっと…意外でした」
「普段は材料費に当ててっから、昼メシは抑えめなんよ。だからこういう時は全力。ウケるっしょ」
「でも楽しいです。こうやってワイワイ食べるの、とっても久しぶりなので」
「っ……そっか。んじゃ壱正も沢山食べろ!早くしないとミニトマトだけ置いとくぞ〜!」
「それは困るので頑張りま〜す!」
「あー食った食った〜お昼寝すっか〜」
「ヒーナ何しに来てんだよ…」
「イッチーどっか行きてートコある?ってまだわかんねーか」
「はい…やっぱり雑貨屋さんとかが良いんですかね?」
食べ終わって、ショッピングモールの中をぶらぶら歩く。
前に住んでた所はお店毎に店舗が個別にある所だったから、こうやって大型商業施設の中を歩くのも結構新鮮だなぁ。
「んー、まぁ要は一番最初に決めんのは外観?つか全体のフンイキが良い訳なんだろな」
「このちっちぇー…一角がウチらのか〜」
裕美子さんが取り出した薄い小冊子。
それまでの展覧会のイメージが乗ってて、いわゆるミニテントにデコレーションした出店でそれぞれ個性を出してる感じだった。
行った事無いけど、ネットで見るライブとかの物販?の感じにちょっと似てるかな。
「カワイくてー、カッコいいのがいーべ」
「そうですね。見た目のインパクトは大事ですよね」
「じゃあカラーイメージだな〜何色にすん?」
『…』
皆一瞬だけ沈黙する。でも直ぐに言葉が出た
『黒と白だな』
「あっ」
ギャルの皆さんはやっぱりそこに落ち着くんですね…。
「んじゃどうすっか?とりあえずバラけるっしょ?」
「壱正はどうすんだよ?」
「あ、えっと…そうですね。出来れば皆さんのイメージをもっと知りたいです」
その上で、ステッカーのデザインが思い浮かぶ事もあるだろうし…。
「じゃあ、いっくん全員と同伴って事で〜、よろ」
「へっ?」
「じゃー先ずあーしからな!」
「よ、よろしくお願いします!」
てな訳で姫奈さんの提案もあって、皆と一人ずつ、それぞれの買い物を一緒させてもらう事になった僕。
真白さんと二人きりで話すのも初めてだから、ちょっと緊張するね…。
「固くなんなってイッチー。いや、あーし相手じゃカタくなってもしゃーねーけど」
「?」
ど、どういう意味だろう…えっと…多分真白さんの事だからエッチな意味なんだろうな…。
「…ゴメンゴメン。やっぱイッチーピュアでカワイーわ。あっちの生地屋見てこーぜ!」
「はい!」
真白さんが案内してくれたのは大きな筒状に丸まった生地が沢山並んでるお店だ。
基本色から柄物まで色とりどりに並んでる。
「お!この柄いーな!最近入ったんかなー」
「真白さんは生地から服を作る様になって結構経つんですか?」
「おーんそうだな…小五?からだから…結構だな!」
「凄いですね」
アバウトだけど、確か家庭科の授業って本格的に始まるのが小学五年生からだから、ずっと手作りしてるって事か…。
「確かねー、ナップザックかなんかだったんだけどー、家庭科の担当のセンセーがさー、どう見てもヨレヨレな作り方なのに、教科書に書いてあんソレ通り作れってうっさくてさー、そんでもーいーやイチからあーし作ろ!ってなって!その次のエプロンから完全ハンドメイドってなった訳よ!」
じゃん!って感じでそのエプロンの写真をスマホから見せてくれる真白さん。
凄い…かなり細かなフリルが波波とあしらってあって、とても小学生とは思えない細やかさだ…。
「アンミラの制服っぽいエプロンでねー、でももっとギャルっぽくイケイケな感じにしたんよ!ほらココスリットがカッケーっしょ?」
「ホントだかなり深い切れ込みがシュパッって入ってますね」
「このチラ見せ生脚がキモなんだぜーふふん!」
腕を組んで凄いドヤ顔で自信満々な真白さん。
胸を張ってるから、おっぱいも凄く迫力あるなぁ。
だけど自分がカッコいいと思ったモノは絶対に完成させようっていう気概をとても感じた。
真白さんに任せれば、きっとカッコいいイベントTシャツが出来る筈だ。
「あっおじさーん!このマットブラックの生地四メートルねー!コッチのシャンパンゴールドは三・五おなしゃーす!」
「へぇっ!?」
「だいじょーぶ大丈夫!そんなんあっという間だから!イッチー一緒に運ぶのよろー!」
「は、はーい!」
カッコイイし…ド派手なのが出来そうで楽しみだね。
「さーいっくんイチャイチャラブラブちゅっちゅデートしまちょ」
「ひ、姫奈さん!?」
「気にしない気にしな〜い」
と言っても思い切り腕を組んでるのだけれど…。
真白さんと交代して、次は姫奈さんと手芸屋さんを巡る。
生地屋さんの迫力あるラインナップの風景とはまた違った、無数っていうぐらい沢山の小物、小道具が所狭しと並んでる所だ。
「いや〜こういう風なのやってみたかったんよ〜」
「そうなんですか…僕で良ければ…どうぞ」
「あんがとな〜いっくん。いっくん優しくてすきー」
「僕なんかで優しいですか…ね?」
「自信持ちな〜。いっくんは〜良い男だぞ〜ちょっと女タラシでシャアっぽいけどね〜」
相変わらずガンダムの事はよく分かってないけど、とりあえず一番有名なキャラクターのシャアは女の人をよく誑かすんだね…覚えちゃった。
「ウチいっつもこんなノリでしょ〜女子からはウザがられるし〜、男子からはアホでユルそーな手頃女だと思われてるフシあっからさ〜」
「…あんなに集中した顔で細かな作業を精密に行える姫奈さんが…ですか?」
でもそれは僕が見た事あるからで、外面からしか知らない他の人達は、確かにそこまで思い浮かばないのかもしれない。
ううん。僕だってもしこのまま関わり合いにならなかったら…って思ったら、決して他人事では無い事だったんだろうな。
「ウチほらすっとろいっぽい思われてるトコあるし〜、小学校はもち、中学も途中までは鈍臭女扱いでね〜、筆箱とか髪留めとか〜、小物系他の子と被っと、マネすんなとかパクんなとか言われてた訳よ〜」
「…」
真白さんも姫奈さんも、何時も元気で明るいけど、だからってずっとそうだったって訳じゃなくて。
それでも今こうやって明るく元気に居られる…居ようとできる強い女の子達なんだな。
「…わりシリアス勘弁よな〜。でも別に〜パクってねーし?真似する気もさらさらねーのに?なーんでそんなん言われなきゃだし?って思ったらさ〜、んじゃもーウチだけのモン作るしかねーべ?ってなったんよ〜」
「そうすれば…誰にも何も文句は言わせませんものね」
「そ!さすがいっくんよーわかってるわ〜すき〜」
「あはは…」
褒めてくれるのは嬉しいんですけど、ピッタリおっぱいの谷間の所に僕の腕を挟むのは止めて欲しいというか…凄い…やっぱり爆乳のおっぱいの谷間ってとってもほっかほかなんだなぁ…。
「だから、ウチも他の出店と全然被んね〜雑貨、沢山作んね?」
「はい。楽しみです!」
「王の帰還である〜」
「姫奈なげーし、壱正疲れてないか?」
「大丈夫ですよ?楽しかったですし」
「ふーん…」
あれ…裕美子さんを気遣わせまいと思って言ったんだけど、ちょっと不服だったかなぁ…?
女の子の気持ちは中々難しい…ね。
「んでとりま裕美子は何出すん?」
「えっ?アタシ?」
「だってあーしとヒナは今イッチーと周ってきても、つまるトコ、学校でのエンチョー?みてーなもんだし、裕美子が作る料理がキモっしょ?」
「別にアタシのメインにする訳じゃねーケド…うーん…」
悩む裕美子さん。
お昼のお弁当もだし、部活の時の飾り切りもだけど、何でも料理は器用にこなせる人だと思うから、何を出しても美味しいとは思うけど…。
「とりあえず…僕達も一緒に見て回り…ませんか?」
「っ…ん…いいよ」
やっぱり、それが手っ取り早いしね。