第二章
「その…良かったら食べていいから」
「えっ?」
「昨日のお礼。アタシこんくらいしか出来ないし…いや、やっぱキモいから良い「なーに日和ってんだよ裕美子ぉ〜!」バカ真白!取んな!」
皆さんに連れて来られたのは屋上。
開いてないことで有名な場所だけど、赤い髪の子が何でか持ってた鍵で入っちゃった。
そしたら銀髪の子が、三段位のお重を出してくれて、蓋を開けたら、凄い美味しそうなお弁当が所狭しと並んでたんだ。
「あ…ありがとうございます!すっごい美味しそうです!本当に食べて良いんですか!?」
「そ、そっかな?もち沢山食べていいかんね!」
「やったぁ〜!…って、そうだ」
「どうした?」
「あの…今更なんですが、皆さんのお名前よく分からないんですけど…」
『!!!』
「あー…そうだったわゴメン。アタシら滅多にちゃんと名前言わないから昨日言い忘れてた…」
「ちなみウチは紅林姫奈ね〜!ヒナで良いよ〜!」
「あーし黄山真白、マシロさんなー」
「勝手にさん付け強要すんなし…アタシ…黒井裕美子ね。ヨロシク。壱正」
皆それぞれ個性的に自己紹介してくれた。
見た目はやっぱり派手だけど、凄い明るく優しく教えてくれて、ホッとした。
「えっと改めて…結城壱正です。よろしくお願いします。紅林さんに、黄山さんに、黒井さ「だーかーら、名前で良いって」…姫奈…さんに真白さんに…裕美子さん」
「…ん。改めてヨロシク。壱正」
「もーとっとと食おーよー!」
「それな。早くしないとヒナあーしらのメシ食い尽くすし」
「うーがー!」
「あはははは…」
そんなこんながあって、一番最初の冒頭に戻る訳なんだけど…。
「あ、あの自分で食べられるので…」
「だってさ裕美子ー。いっくんあーんしてやれんねー」
「誰もアタシやりたいとか言ってねーし…」
皆、特に姫奈さんと真白さんが凄い僕にくっつきながら、食べ始めちゃって、その、屋上で解放的なのに、変な窮屈さを感じちゃってたりする…。
「まー気にすんなよイッチー。おっぱいは触れられる内に触れとけー」
「真白…いい加減に「あ、この卵焼き凄く美味しいです」!マジか…良かった。壱正甘いの嫌いじゃなかったか…」
「あー…実は、そんなに食べたこと無いんですけど、今日初めて甘い卵焼き美味しいって思いました!」
「!…へー…変なヤツ」
アレ?…裕美子さんちょっと俯いちゃって…なんか…気を悪くさせちゃったかな…?
あんまり食べないって言わない方が良かったのかな…?
「なー真白ー、いっくんってタラシだな」
「それな。しょーがねーから、おっぱいもう少し当てとくか」
「りょ」
「ちょ!お前ら「裕美子も当てときなー乳は活かさんと勿体ねーぞ」…あーもう。ほら、どんどん食べな壱正」あ、はい…!」
右肩に真白さんのおっぱい。左肩に姫奈さんのおっぱいが当たってて、真正面に裕美子さんのおっぱいがある…。
ていうか、裕美子さんが膝の上に別のお重を置いてるんだけど、その上におっぱいが乗っかっちゃってる状態になってる…。
凄い光景だなぁ…。
「…う、うん。この俵おにぎりもシャケが入ってて美味しいです!」
「そっか」
「こっちの唐揚げも凄くジューシーで美味しいです!」
「良かった………ってあのさぁ!二人共!」
「あんだよ裕美子ー」
「凄い楽だったのにー」
怒る裕美子さん。それもそのはずで、ヒナさんとマシロさんは上手い具合に僕の肘をおっぱい置きにしてたんだけど、僕が腕を動かす度にゆさゆさ揺れちゃうから、その…目に入っちゃうんだよね…。
「だーってこんなラクなおっぱい置きねーって」
「ホントそれ、マジ一時の癒しだわ。ありがとなーいっくん。爆乳まぢ疲れっからさ〜」
「そうなんですね…」
「壱正まともに聞かんで良いから…」
「裕美子もちょっとは置いときなよー。クーパー靭帯伸びんぞー」
「気軽に男に胸当てねーのアタシは…」
「気軽に弁当作って来るのに」
「それな」
「コレは…お礼だっつってんじゃん!!もーどけー!」
無理矢理二人を退けて、隣に座ってくれた裕美子さん。
お重全部膝の上に並べてくれたら、凄く色とりどりで綺麗だった。
「壱正、嫌いなモノ無いか?」
「はい、大丈夫…あ、ミニトマトはちょっと苦手ですけど、頑張れば食べられます」
「そっか。偉いな」
「こんなに沢山お弁当作ってくれる裕美子さんの方が偉いですよ」
「アタシは…普段から作り慣れてっし、大丈夫」
「そうなんですね。凄いなぁ…あ、このアスパラベーコンもおいしいです!」
「っ…お前、美味しそうに食うな」
「おばあちゃんにも良く言われます」
「壱正もおばあちゃん子なのか?」
「一緒に暮らし始めたのは昨日からですけど、遊びに来てた時はおばあちゃんに付きっきりで」
「そっか、優しいんだな。壱正は」
「裕美子さんもじゃないですか」
「ばか…アタシの事はいいんだよ…」
学校で会話をしながら、しかもこんな風に楽しく食べられたの、凄く久しぶりな気がした。
それが昨日会ったばかりの女の子と、しかもその手料理と一緒なのもだけど。
でも凄く、安心出来る昼休みだったのを、後で思い返しても良く覚えてるんだ。
「なーあーしら蚊帳の外じゃね?」
「それなー」
「あー食った食ったー。乳も久しぶりにちょっとラクだったし」
「だーからマシロ「あれ?真白さん…」?どした壱正?」
「そのお弁当の袋、手作りですか?」
食べ終わった真白さんの刺繍の入ったお弁当包みを見て、凄く可愛いっていうか、売り物じゃなさそうに見えたから、思わず訊いてみた。
「おーそーだよ。あーしの手作り巾着。可愛いっしょ?」
「因みにウチはコレねー」
「姫奈さんのは水筒のケース…お二人も器用なんですね」
「おん?まーね。だってウチら、家政部だし?」
「えっ?」
思わずびっくりしてしまった。
まさかこのギャルの三人の女の子達から出て来るとは思わなかった部活の名前な手前、ちょっと失礼かなとは思いつつも。
「まー…壱正的にはビックリするよな。こんなメイク濃いめで色々デコってる三人が家政部とかさー」
「でも好きな事出来るの一番向いてっからやってんだ〜。裕美子は料理でねー、ウチとマシロが洋裁!」
「まーあーしら以外部員居ねーけど。アハハハハハハ」
皆ちょっと自虐的に、だけど凄く楽しそうに言ってくれた。
本当に、好きなことしてるんだろなって。
「ううん。素敵だと思います。やりたい事やってるって。だから皆さん活き活きしてるんですね」
『…』
「(あ、あれ?なんか変な事言っちゃったかな…?)」
「あんさー…いっくん。めっちゃ良い子だね」
「それな。親御さんの育て方が素晴らしいわ」
「あ、ありがとう…ございます」
急に黙っちゃって、怒らせちゃったかな?なんて思ったけど、逆に褒められてしまった…。
「…」
「裕美子…さん?」
「ありがと…アタシ等そうやって褒められんの、慣れてなくてさ。どうせ周りの人らにはチャラいギャルがヒマする為とかテキトーにやってるとか思われてたから、めっちゃ嬉しい」
「だって…裕美子さんのご飯凄く美味しいですから、適当だなんて思える訳ないですよ」
凄く、心の籠った味がした。
食べた人が喜んで貰える様にって考えながら、作ってくれた様な味がしたんだ。
それが、凄く伝わって来るお弁当だった。
「壱正…お前、素直な気持ち出し過ぎなんだよ…」
「よーしじゃあもっかいおっぱい乗せとくか!」
「ん!いっくんおっぱいスタンドせーっと!」
「だからお前等は直ぐ乳を置くなよ!」
「あ、あははは…」
コレがやりたい事だからすぐやっちゃうのは、流石に僕もよく分からないけどね…。
「ん。ココな。アタシ等の部室兼活動場所」
「わ…」
放課後、裕美子さん達に案内されてやって来たのは、皆が使ってるっていう家庭科室。
オーソドックスな、キッチンと裁縫台が兼用になってるタイプのテーブルが、九台位ある、シンプルな家庭科室だった。
「で、ココがあーしの机で」
「コッチがウチの机ー」
「コレがアタシのね」
「皆さん机は別々なんですね?」
てっきり、同じテーブルで話しながらやるのかと思ってた。
「あーイッチー、一つのテーブル囲って駄弁りながらやると思ってたべ?」
「すいません…」
「まー駄弁りはすっけどね?でも時間勿体ねーし、割と集中してる時は黙々だよ〜」
「それが楽しいしさ」
皆明るく説明してくれるけど、何処か真剣さも垣間見えて、ちゃんと『部活』をやってるんだって伝わって来た。
「まーじゃ、とりあえず今日は見学ってこって、いっくんは裕美子のテーブルねー」
「ちょヒナ勝手に決めんな「じゃねーとおっぱい置きにしよっかなー…」…壱正、ココ、座んなよ…」
「あ、はい…」
裕美子さんの使うテーブルに案内された。
そのまま三人は作業に取り掛かって、真白さんと姫奈さんはミシンを出して。
裕美子さんはエプロンを着けたら、手を洗って…あ、ネイルが取り外し式だ。
「ん?あーコレ、ジェルネイルだから剥がすの楽なんだ」
「へー…」
「何、似合わない?」
「違くて…寧ろ凄い似合ってるなって」
「!…」
「そーなんだよイッチー、こーいう所キッチリしてんだよ裕美子。家庭的なギャル目指してっから〜」
「ギャップ萌え堪んねぇよな〜」
「もーうっさい。早くせんと終わらんからやれし」
『はーい』
最初こそそんな風なやり取りをしてた三人だけど、直ぐに皆黙って、自分の作業を淡々とこなし始めてた。
真白さんは、大きな布生地を、大きな鋏で切って、そこに当て紙をして、鉛筆で線を引いて、形を作ってく。これは…服の原型なのかな?
姫奈さんは、編み棒を使って編み物を進めてる。それでもまだ未完成とはいえ色んな種類の糸を使って、複雑な模様を作ってるみたいだ。
そして裕美子さんは…。
「…ダメだ」
冷蔵庫から取り出した人参に、細かく包丁を入れてって、花の形を作ってた。
いわゆる飾り切りってやつだと思うんだけど、僕の目からはどう見ても上手いのに、裕美子さんは納得いってないみたいだった。
「…」
「拘ってんなって思う?壱正」
「あ、ハイ…普通に綺麗な飾り切りに見えるんですけど…」
「ありがと。でもホラ、ココ花びらの厚み不揃いっしょ?近くで見っとカッコ悪いんだ」
「…?」
ちょっと位な違いで、殆ど気にならないけど、裕美子さんには大事な違いなんだろうな。
真白さんと姫奈さんも、凄い集中してやってる。片手間な感じも、和気藹々とした感じも一切無くて、本気でやってるのが伝わって来る。
皆、カッコいいな…。
「ふぃー…あーもう終わりか〜!」
「ホントはえーし」
一時間経って、部活終了の時刻。
やってる方もだけど、見てる僕もあっという間に時間が経った気がした。
そんな中でも裕美子さんは。
「…あー…うん。しゃーないか」
「裕美子相変わらず厳しーよな。コレでダメなん?」
「ダメ。なんか角立ってるし」
「なるー」
「つーか疲れたー。いっくんおっぱい乗せさせてー」
「えっ、あの…」
「うーんラクだわ〜」
姫奈さんに思いっきり頭の上におっぱい乗せられてしまってる…。
お、重たくて、熱いなぁ…。
「ヒナ、次あーしねー」
「遊んでないで片付けろし…」
そう言って自分の中では失敗だって言う飾り切りをタッパーにしまう裕美子さん。家に持って帰って自分で食べるのかな…?
「つか見学してもらったのに会話無さすぎてごめんな壱正」
「いやいや、凄く面白かったです。皆さん一生懸命で!」
「アハハ、イッチーハズいからそんなダイレクトに言わんでいいから」
「でも裕美子はいっくんに見られてたから何時もより気合い三割増しよな〜」
「別に関係ねーから…」
終わればさっきまでの雰囲気に戻る皆。
ちょっとの間だけでも、三人の仲の良さがしっかり伝わって来た。
こんな風な友達同士で居られるの、ちょっと羨ましいな。
「壱正、大丈夫か?バイク押して重くね?」
「大丈夫ですよ。それなりに軽いバイクですから」
下校になって、皆で帰る事になったんだけど、昨日の今日だから、大通りに出るまで僕もついてく事にした。
「つーかイッチーこの単車カッケーね」
「原チャじゃねーじゃんスゲー」
「ありがとうございます」
姫奈さんと真白さんがシートをペシペシ叩きながら珍しそうに見てくれた。
確かに駐輪場も大体原付スクーターだから、ちょっと目立つけど。
「そもそもウチの高校こんなバイク乗れんの知らんかったわ」
「姫奈バカ過ぎて免許取れねーしな」
「名前に白って入ってんのに赤点族に言われたくね〜」
「うるせ〜」
「…壱正殆ど隣町だもんな。大変だろ?」
「まぁでも、その分乗れますから」
「そっか。壱正はコレが好きなんだな」
「折角おじいちゃんが買ってくれましたし」
「でも、そういうの抜きに好きそーな顔してんじゃん」
「!…そう、見えますか?」
「…うん」
ニコって笑って答えてくれた裕美子さん。
さっきの調理中の時と同じ様な、好きな物に向き合ってる時の顔に見えた。
自分の好きな物だけじゃなくて、他人の好きな物も認めてあげるのが、この人達の素敵な所だなって思う。
「なーハラ減らね?どっか寄ってこーよ」
「昨日の今日だから帰るよ。また壱正に迷惑かけらんねーし」
「僕は迷惑じゃないですけど…そうですね。今週は早めに帰っといた方が良いかもしれませんね」
「っとにムカつくわあのひったくりヤロー」
「…じゃね。壱正」
「はい。皆さんもお気をつけて」
「あんがとイッチー。明日またおっぱい乗っけてやっからなー」
「ウチも〜」
「あはは…」
人通りの多いところに出て、今日は解散。
転校一日目から、凄く楽しかったな。
明日もまた…!あ、その前に。
「裕美子さん」
「?」
「ごちそうさまでした!」
「っ……どういたしまし…て」
お礼、ちゃんと言っとかないとだよね。
今日もまた三人が見えなくなるまで見送った後エンジンを掛けて、二回目の下校路を帰った。
ーーーーーーーーー
「ただいまー」
壱正に途中まで送って貰って、真白と姫奈とも別れて家に着いた。
何度も潜ってる『割烹宵月』の暖簾を通ったら、中からおばあちゃんの世話しない声。
「ん?あら裕美ちゃんおかえんなさい」
「おばあちゃんただいま。父ちゃんは?」
「今仕入れに行ったのよ。夜の分のハマチが足りないみたいでね」
「そっか」
「今のうちに練習する?」
「うーん…そだね」
おばあちゃんのちょっと悪そうな顔。
でも父ちゃん帰ってきたら仕込みの手伝いだから、今のうちに自分のやりたい様にやっちゃお。
板場の広い所で出来る時、滅多に無いしね。
「…あら、裕美ちゃんなんか今日は楽しそうね」
「えっ、そ、そうかな?」
「なんかいつもよりテンポが良いじゃない?」
「そんな事無いよ…」
「もしかして…男の子?」
「…は、はあ?あっ!」
急に言われるから、手元狂うじゃんおばあちゃん…包丁使ってる時に止めろし…。「も、もうおばあちゃん!そんなんじゃねーし!」
「こーら裕美ちゃんそんな言葉遣いしないのよ〜第一朝のお弁当で察しついてるもの〜」
おばあちゃんは歳以上に若々しく見えるけど、こういう話する時は凄く楽しそうなんだよな…。
でも、お母さんが早く居なくなっちゃったアタシにとっては、お母さん代わりで、お姉ちゃんみたいで、大事なおばあちゃんだから。
そんな事言ってたら。
「…アレ、ゲンちゃん居ないの?」
「あぁタツさん。父ちゃん今仕入れに行っちゃってる」
「そっかぁ」
準備中の立て札掛かってる中入ってきたおじいちゃん、常連のタツさんだ。
奥さんがアタシのおばあちゃんの同級生で、そのよしみで仲良くなったら、なんでか旦那さんのこの人が通う様になったっていう。
町外れからバスに乗ってわざわざ来て、大体最終便の夜前まで一杯引っ掛けてる。
でも身なりはしっかりしてるから、飲んだくれのダメジジイって訳じゃないんだろな。「ま、じゃあ今度出直すか」
「わざわざ来たんだからお茶くらい飲んできなよ。みっちゃんに無駄な散歩だってドヤされるよ」
「へへっ悪いね」
ってな具合で特に用もなくたむろってる事も多かったりするんだけどね。
「おっ裕美ちゃん今日も精が出るねぇ」
「まーね。もしかしたら新入部員入ってくれるかもだから」
「おぉそりゃめでたいな」
「タツさんトコもお孫さん引っ越して来たんだっけ?」
「ん!俺に似てオートバイの腕が立つ可愛い孫よ」
湯呑みを日本酒みたいな煽り方で呑むタツさん。なんとなく機嫌が良いのは、孫バカ出てるからか。
にしても…。
「(バイク乗ってて可愛い孫…か)」
ふと、アイツの顔を思い浮かべた。
「ふぅ…今日も疲れたぁ〜…」
タツさん帰った後の夜の営業の手伝いも終わって、お風呂入ってスキンケアしたら、部屋で一人、粘土とヘラを持って、飾り切りの練習をする。
包丁一人で使うなって父ちゃんに言われちゃってるから、その代わり。
「…結城…壱正か。ふふっ」
なんか、面白いやつだな。ヘラヘラしてるってか、優男っぽいのに…でも素直っていうか、お世辞とかじゃなくて褒めてくれて…真っ直ぐなヤツだよな…。
「明日のお弁当どうしようかな。ミニトマトは苦手なんだっけ……って何で明日も持ってこうとしてんだしアタシ…」
でも、あんな風に自分の料理認めてくれるの、初めてだったから、凄く嬉しかったな。
壱正、フィルターとか掛けないでアタシ達の事見てくれてんだもん。
ギャルっぽい格好してると、どうしても色眼鏡で見られちゃうから、マイナスからのスタートなのに、壱正、そういうの抜きで見てくれた。
「この飾り切りだってやたら褒めるし…」
タッパーからさっきの取り出して、ジッと見つめる。
凄く嬉しかった。アタシの内面見てくれたみたいで、凄く、凄く嬉しい。
男なんて大体身体ジロジロ見て決め付けて来るから、ロクなもんじゃないと思ってたけど…アイツなら…。
あの時の…顔を見たら…。
「って…あーもう!全部花びらになってんし〜!」
やっぱり…明日もお弁当持ってこっかな。
ーーーーーーーーー
「どうだ壱正。オートバイ少し慣れたか?」
「うん。道ももう結構馴染んで来たよ」
「お爺さんそれより学校の事を聞きなさいよ」
帰ってきたら、夕飯はおじいちゃんとおばあちゃんと三人で食べる。
母さんはいつも夜十時過ぎ位になっちゃうから、先に済ませとく事になった。
それでも前に住んでた所だと独りご飯だったから、こうやって皆で食べられるのが嬉しい。
「すまんすまん。初日はどうだった?」
「うん。えっと…楽しかったよ」
「お友達は出来た?」
「友達…かはまだ分からないけど、知り合いにはなれたかな…?女の子だけどね」
「ほぉ〜…流石俺の孫だ手練れよのう」
「あらあら」
あ…女の子だって事は言わなくても良かったかな?
でも…ちゃんと自分達の事を教えてくれた裕美子さん達の事は、言っときたいって思ったから。
「皆優しい人達だから、多分やってけると思う」
「そうか。壱正は優し過ぎるきらいがあるから心配してたが、それなら大丈夫そうだ」
「何か部活もやるの?」
「えっと…それはまだ考え中かな?」
「うん…僕が入って良いかどうかは、わからないもんね」
ご飯食べ終わって後片付けして、課題終わらせたらお風呂入って、自分の部屋でゴロゴロする。
ココは凄く静かで、車の音も殆ど無くて落ち着くな。だから直ぐ眠くなっちゃうんだけどね…。
「裕美子さんのお弁当…美味しかったな…真白さんに姫奈さんも明るくて…ちょっと…スキンシップが激しいけど…みんな…いい人で良かった…」
ーーーーーーーーー
翌日。今日からは自己紹介も無い普通の登校が始まる日だから、普通に教室に入ったんだけど…。
「…?」
『………』
なんだろう?皆、凄く僕の方を見てる。
アレかな?バイク通学で目立ってるのかな?
でも、バイクってだけなら他の人もそれなりに居るし、なんなんだろう?
そんな中で、自分の席におずおずと座ったら、女の子がゆっくり、僕の方に近付いて来た。
確か…クラスの委員長って人だよね?
「あの…結城君?」
「ハイ…なんでしょう?」
「昨日さ…四組の黒井さん達と一緒に居たよね?」
「ハイ…えっとそれが何か…?」
なんだろう、話が全然見えない。
でも顔がやたら険しい委員長さんだ。
「結城君、悪い事は言わないから、あんま関わり合いにならない方が良いよ?」
「なんでですか?」
「あの人達、中学の頃から素行が良くないから、面倒な事に巻き込まれる前に、距離置きな?」
「そうなんですか?」
「うん…」
多分委員長さんが言いたいのは、裕美子さん達のイメージの話なんだろうな。
確かに僕も最初見た時は関わり合いにはならないと思ったけど、でも、ちゃんと知り合ったら、想像もしなかった部分が見れたから。
「でも…巻き込まれるかどうかは、自分で決めてみます。ありがとうございました」
「っ…そっか。一応忠告はしといたからね」
「ハイ」
そう言ってスタスタ席に戻る委員長さん。
他のクラスメイトの皆もまた話し出して。
ただ…僕に話しかけてくれる人は殆ど居なくなっちゃったな。
でもそれでクラスメイトを取って知り合った人との縁を無くすのは、なんか嫌だったから、それでいいや。
「あ、このサバの塩焼きも美味しいですね!ワカメごはんに合います!」
『……』
昼休みになって、また裕美子さん達に屋上に誘ってもらったんだけど、ちょっと皆浮かない顔をしてる様な…?
「あのー…皆さん?」
「いや…そのさ、壱正のクラスでの話、アタシ等の耳にも入って来てさ…」
「イッチー、イッチーは来たばっかだから、そっち優先でも良いんだぞ」
「ウチ等なんてどうせずっとドベだから、ほっときな〜」
そっか…皆、僕の事で気を揉んで…。
だけど、あのままなぁなぁにするのは、自分が嫌だったから、アレで良いんだ。
「確かに…僕は皆さんの事全然知らないです」
「だろ?イッチーの想像よりめっちゃアタマヤバいよ?」
「それな〜…」
「でも、僕…元々友達が殆ど出来なくて、自分からは勿論、人からの距離の詰め方も、上手く受け取れなくて」
転校が多かった事もあるけど、そんなに仲良くならなくても良いかなって考えが、無意識に人との壁を作ってたんだと思う。
だからこの学校でもそれで良いかななんて、思ってはいたけど。
「壱正…」
「そうしたら、ココで皆さんが思いっきり踏み込んでくれて、嬉しかったんです」
きっかけは中々無い事だったけど、それでも唐突に出来た縁に、心が擽られた気がしたんだ。
今までに、味わった事の無い感情がして。
「いっくん、明るい顔して頑張ってたんな」
「頑張ってもはいないですよ…ただ、とやかく言われたって、こうやって裕美子さんが美味しいお弁当を作ってくれる事と、真白さんと姫奈さんが裁縫に凄く一生懸命な事は、皆さんが昨日教えてくれたお陰で知ってます。僕は、そっちを信じたい…信じてみたいです。それじゃ…ダメですか?」
『!…』
出会って三日目で、大仰かもしれないけど、初めて芽生えた気持ちだから、大切にしたいんだ。
皆には…気持ち悪がられる…かな。
「なーヒナ…」
「んー?」
「あーし母乳出そうだわ」
「それな。出たらいっくんに飲ますべ」
「えっえぇ…」
「アホな事聞かんで良い…でも、ありがとな壱正。アタシも、そんな風に思ってくれたのちゃんと言葉にしてくれて、伝えてくれたの、アンタが初めて」
「!…ハイ!」
良かった…嫌がられなくて…。
少し…不安もあったから。
だけど受け止めてくれるかもっていう期待も、半分ずつあったから、ホントに良かった。
「ってヤッバ昼メシの時間もー殆どねーじゃん!」
「よーしイッチーあーしも手伝うわ!裕美子筑前煮もーらい!」
「ちょ真白勝手に食うな!」
「頑張って急いで味わって食べますね!」
「お、おう壱正…」
「おーいっくんウチ等のノリ分かってきたな!後でおっぱい乗っけてやるよ〜!」
また何時もの三人に戻って、昼休みはあっという間に終わったんだ。
そんなこんなで午後の授業も終わって、今日もまた家庭科室に行かせて貰おうかなって思った放課後。
「えっと確か理科棟三階の…うわっ!」
「おぉ、すまんな少年」
「あ、いえこちらこそ余所見してて…」
「なら私も同じだ。お互い様と行こう」
「ハイ…」
ちょっと急いで小走りで角を曲がった所で、女の人とぶつかってしまった。
白いワイシャツとスラックスをピシッと履いてる、黒い髪が長くて綺麗な、身長の高いカッコいい女の人だ。
生徒…じゃなさそうだから、先生…かな?
「しかし…見ない顔だね?」
「あ、昨日転校して来たばかりでして…七組の結城壱正です。よろしくお願いします」
「転校生だったか。私は青戸玲香。見ての通りの教師だ。よろしくな」
「よろしくお願いします」
見ての通り…と言っても、先生というよりかはバリバリのキャリアウーマンって感じの先生だなぁ。
黒いバインダーを持ってないと分からない位だ。
「しかし…転校生が放課後理科棟三階とは…科学部室なら二階だぞ?」
「その…三階の、家庭科室に用がありまして」
「家庭科室……もしかしてキミ、家政部に行くのか?」
「はい」
答えた瞬間に、ジッと僕の方を見る青戸先生。
やっぱり、裕美子さん達の事を知ってるから、詮索されてるのかな。
止めとけ…とか言われるかもしれないけど、ちゃんと行くって言わなきゃ…。
って心構えをした僕に。
「ヨシ。じゃあ一緒に行こう」
「……へっ?」
ーーーーーーーーー
「イッチーちょっとおせーな」
「それな。やっぱ考え直しちったかな〜?」
「何でアタシの方見んだよ…」
「だってそしたら一番寂しいの裕美子だべ?」
二人からの視線が強い。
そりゃ、さっきの今だから、少しは思う所あるけど…壱正の学校生活は壱正のモノなんだから、アタシがとやかく言うもんじゃねーし。
でも…あんな風に言われて、それで来なかったら、やっぱりちょっと、悲しくはある。
「転校したばっかで忙しいんしょ。いーから始め「おーい、居るかー」!…なんだセンセか…」
ノックの音が聞こえたら、答えるよりも先に入って来る、背の高いカッコいい女の人。
青戸玲香先生。アタシ達家政部の顧問で、家政部を作った時、唯一顧問を引き受けてくれた人。
「なんだじゃないだろ。顧問なんだから」
「不定期訪問の不良顧問じゃん」
「あーしらよりワルだよねー」
「先生は嫁入り修行しないタチだから良いんだよ」
「なんそれズルー」
「てか先生三日ぶりだよ?もう少し顧問やってよ」
あんまりアタシ等の事を見てはいない先生。
生徒の自主性を大事にするとか言ってるけど、サボりたいのが見え見えなんだよね。
でも、何やってても尊重してくれる、良い先生でもあるんだけどさ。
「すまんすまん黒井。ただ今日は新人部員候補連れて来たゾ!」
『?』
三人一斉に頭にハテナを浮かべる。
けどそれは、直ぐに解消されて、昼間も見たばっかりの…ちょっと可愛い顔してる、男子の姿だった。
「すいません皆さん…青戸先生に捕まっちゃいまして」
「コラ人を国家権力見たく言うな」
「おじいちゃんがそうだったモノで…」
「そうだったのか…」
「…もう、壱正」
「ハイ」
「おせーし。早く部活やるよ」
「はい!」