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公爵令嬢の矜持  作者: 大介
第1章 王立学園1年生

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アンジェリカ 見落とした悪意

完全に浮かれていた。

彼女の視線は知っていたのに。


初めての友達、エイリーとの学園生活が楽しくて仕方がなかった。


1年生の授業も残り少し、学園に通う日数はそれほど多くはなく沢山の授業をする訳ではない。

前提として、基本は家で勉強しているものであり学園で学ぶのは主に社交だと言われている。

そして1年生は学園に慣れる事が大切だ。


最終学年にもなると婚約や結婚が具体性を帯び、令息令嬢としては5年生までには婚約をしておきたいという思いもあるようだ。

家督を継がない者には特にその傾向が強い。

その為だろうか?


学園が終盤に近付くとエイリーは上級生からの視線を集める事が多くなっていた。


長子は親の決めた婚約者がいる事が多い。


その視線に面白くない女性が1人いた。

エイリーの姉、アイリーンだ。

彼女は5年生、婿取りの相手は親が決めた伯爵家の次男だ。


学園の状況がつまらなくて仕方が無いのでしょう。

エイリーに後ろ盾があり手出しが出来ない事に加え、婿になる男がエイリーに夢中だ。


嫉妬なのだろうか?

私には理由が理解出来ない。


私がエイリーの側に付いているといっても常にではない。

必ず隙はあり、普通であれば学園の中で隙を狙うほど恨まれているとは思っていなかった。


そこが私にとっての誤算。


エイリーが目立つのは自分の事のように嬉しく、そして楽しかった。

そして、アイリーンの視線を分かっていて無視した。


事件はエイリーがトイレに立った時に起きた。

偶然トイレにエイリーの姉がハサミを持って入っており、妹の髪の毛を切り刻んだ。

犯人は明確で、場合によっては傷害事件にもなる。


今回は貴族の家庭の問題で、事件を大きくしてしまうと家名を落とす事になってしまう。

アイリーンはそこも計算に入れていたかは定かではない。

結果、傷害事件として取り上げられる事はなかった。


私はトイレから戻ってきたエイリーを見て、声が出なかった。

何が起きたかは想像できる。

誰にやられたかも想像できる。


これ程の悪意があったのか…。

姉が妹にする事がこれですか。


絶対に許せない。

「エイリー、私の部屋に行きましょう!」


エイリーは涙で声が掠れていた。

「分かりました」


部屋に戻るとブレンダが驚いた。

「エイリーン様、これはいったい…」


エイリーは腰まで伸びた綺麗な髪が特徴であった。

それが今や、肩に届くかどうかといった長さである。

切り口もばらばらで、職人に切らせた物で無いのは明らかだ。


私は不安だった。

「ブレンダ、エイリーの髪を整えてあげる事は出来る?」


ブレンダの顔が思わしくない。

「少女らしくなってしまいますが、肩で長さを揃え少し爽やかさを出す方向でなら…」


悔しかったが、顔に出さないように我慢した。

そして聞いてみた。

「エイリー、それでも大丈夫?」


エイリーは笑顔だった。


どうして?

私には分からない。

しかし、エイリーが笑顔なら嬉しかった。

「はい、お任せします」


エイリーは少女らしくなったが、彼女に出来た心の傷は深いと思う。

少し緊張しつつ誘ってみた。

「エイリー、学園が休みになったら私の家に来ない?お茶も勉強も一緒に出来るし…。どうかな?」


悩むエイリーにブレンダが声をかけた。

「お嬢様は入学する前から、お友達が出来たら家に呼ぶ事を決めていましたから。遠慮する必要はありませんよ」


そんな事決めていましたか?

ブレンダが助け船を出してくれたのでしょう。


「もちろん実家には公爵家から手紙を出します。今後エイリーに何もさせません」

「よろしくお願いします」


エイリーは了承してくれた。

少し無理矢理だったかな…。


後は私の責任の取り方です。

「ブレンダ、私の髪型をエイリーと同じに揃えて下さい」


ブレンダは唖然としていた。

「お嬢様、エイリーン様の髪は侍女の基本的な長さです。お嬢様がこの長さになると流石に…」


言いたい事は分かるし、髪を切ってしまえば彼女の責任問題になるかもしれない。

「ブレンダの責任問題にはしません。私のけじめで必ず必要な事です!家に手紙も送ります」


「ではお嬢様の御髪も切らせて頂きます」(天使の涙)

渋々といった表情だが了承してくれた。


エイリーが慌てて声を上げた。

「止めて下さい。私の家の問題です。アンジェ様の御髪を切る様な事になるなんて…。私には責任の取り様がありません」


エイリーの話を聞いて苦笑いをした。

「エイリーは私の友達なんだから、責任なんて何もないよ。責任があるのは私。エイリーは私が守ると言ったのに守れなかったのだから」


髪を切った後に声をかけた。

「これで本当に姉妹みたいだね」


笑顔の私にエイリーは涙を流した。


ごめんね、エイリー。

同じ思いは2度とさせないから。


次の日、1年生は騒然となった。

私もエイリーの髪も侍女の様に短くなっていたからだ。

ロイも言葉をかけようとして止めた。


そして放課後、私にはやり残した事がある。

「エイリーは先に私の部屋に行っててね。私は少し寄る所があるから」


5年生の教室に向かう。

教室の中に入っていくと皆が驚いて私を避ける。

直ぐにアイリーンまでたどり着く事が出来た。


これは本気で脅迫だ。

「アイリーン様、次はありません。覚えておいて下さい」


帰りも皆が私を避ける。

理由は髪型だけでは無かったのかもしれない。

避ける様は、怒る悪役令嬢に怯えている様だった。

少し重たい話になりました。

1つのケジメとして入れる事にしました。

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