日曜日
翌日、日曜日。
今日は糞上司から叩き起こされる事もなく、平和だ。
――何か、ダルいな。今日は一日中、家でじっとしていよう……。
黒次郎の食事皿と水飲み皿をそれぞれ満たしてやる。
――黒次郎、食べに来ないな。まだ寝てるのかな?
朝飯はいらないか。
昼飯は、カップ焼きそばにしよう。
――あっ、時間計るの忘れてた! だいぶ麺が伸びてる……。
僕は、昼飯の麺が伸びて不味くなったカップ焼きそばをどうにか食べ終わり、一人用の簡易ベッドに寝転がった。
――そういえば、今日はまだ黒次郎の姿を見ていないな……。
僕は黒次郎を探すことにした。
「黒次郎。どこだー。くろー? くろじろー? くろやーい?」
部屋のあちこちを探し回るが、黒次郎がいない。
どこに隠れている?
仕方なくベッドのところまでまで戻ってくると、そのベッドの下に光る目が見えた。
「くろ、そんなところ隠れていたのか――」
僕はそう言って下を覗き込んだのだが、そこにあったのは女子高生のスカートの中から僕を見ていたあの黒い老婆の顔が床から半分生えている光景だった。
「ひっ……!?」
思わず悲鳴を上げてしまった。
突然の老婆の訪問にまたしても僕の全身は総毛立った。
そして、思い切り飛び退った僕は、ローテーブルに背中を思い切りぶつけてしまい、床に倒れ落ちる。
突然の全身鳥肌モノの恐怖と背中への痛みを同時に味わい、パニックに陥りかけながら僕がベッドの下をもう一度確めると、――そこには何も無かった。
――見間違いだろう。疲れているから、きっと幻覚でも見たのだろう。
僕は自分にそう強く言い聞かせる。
――それにしては、とても現実感のある生々しさ禍々しさだった……。
僕は、そうだと思い付く。
塩だ。
塩は昨日、効果が実証されましたから。
(何も見えなかったけど)
早速、台所から沖縄の海の塩の袋を取ってきて、部屋全体を清めていく。
「この部屋には何も無いので、どうぞ出ていってください。お願いします。この部屋には何も無いので、どうぞ出ていってください。お願いします――」
そう自己流で唱えながら、お塩をパラパラと撒いていく。
ベッドの下にも振り入れる。
――後で、掃除機掛けよう……。
ユニットバスの中も清めようとすると、バスタブの中に黒いモノが――。
◇
ユニットバスの中を塩で清めようとすると、バスタブの中に見慣れた黒い生き物が潜んでいた。
「おい、黒次郎じゃないか。やっと見つけたぞ。どうしてこんなところに」
黒次郎をバスタブから取り出してバスタブの外に置いたのだが、またバスタブの中に戻っていく。
「どうしたんだ。そこがいいのか?」
バスタブの中からただ黙って静かに僕を見上げる黒次郎。
しょうがなく、黒次郎のご飯の皿と飲み水の皿をバスタブの中に入れてやるとする。
――ああ、お気に入りのタオルケットも入れといてやるか……。
「この部屋には何も無いので、どうぞ出ていってください。お願いします。この部屋には何も無いので、どうぞ出ていってください。お願いします――」
最後に パンパン と、両手を2回打って手を合わせて強く『出ていってください』と念じる。
最後まで塩を撒ききって、僕は満足し、少し疲れたので昼寝することにした。
スマホの時計を見ると、12時34分。
お、良いことありそう――。
――――……
妙に寒くて目が覚める。
なんだ?
スマホの時計を見ると、16時ちょうど。
少しのつもりが結構眠っちゃったのか。
なんだ、この寒さは?
エアコンが何故か最低温度で風量が最大になっていた。
慌てて、エアコンをオフにする。
――それに、なんだこの視線を感じるような感じは……?
ふと気づいたのが、電源が入っていないはずのテレビのスイッチがオンになっている事に気づいた。
僕は、下はボクサーパンツだけだが、その両足からゾワゾワっときて、脛毛もうぶ毛もそして全身までありとあらゆる体毛が全部、逆立ったのが分かった。
消えていると思ったテレビの画面に、あのボロボロの『深蠢■駅』の駅名標が薄暗い中に浮かび上がっていたのだ。
僕はテレビの電源ケーブルをコンセントから引っこ抜いた。
それで画面は消えた――と思いきや、画面は再び映し出された。
僕はテレビをマンションのゴミ捨て場に捨てる事にした。
画面にダンボールを一枚、ガムテープで貼り付け、ゴミ捨て場に持っていく。
最近買ったばかりで、割りと良いものだったのだけど……。
もしかしたら、マンションの他の住人にすぐに拾われるかもしれないな。
その後は海外で活躍している日本人のサッカー選手のニュースをスマホで見て過ごした。
夜ご飯は近くのコンビニで買った冷凍食品の担々麺と焼きおにぎりで済ませた。
黒次郎はあれからもずっと何故かバスタブから出てこなかった。