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土曜日

 翌日の土曜日、僕は上司からの電話で叩き起こされた。


 ――休日に一体なんの用だ……?


 分かりきった事だが、仕事の緊急連絡だった。

 保守管理をしているクライアントのシステムがダウンしたから、会社まで行ってシステムの復旧を命じられる。



 ――ふざけるなよ、糞上司(クソムシ)がっ。何でいつも僕なんだよ!


 とボヤきながら、ゆっくりと出社の準備をする。

 本来は休日なので、Tシャツにジーパン、スニーカーでいいだろう。



 予想通り、玄関の靴が3足とも裏になっている。

 僕はワザと「はいはい」と明るめに声に出して、3足の靴を表に返した。



 土曜日の電車は空いているので、僕は普通車両に乗って会社まで行った。

 そして華麗にシステム復旧を行い、昼前には会社を後にした。



 帰りの電車も空いていたので普通車両――女性専用車両の2両隣に乗車した。

 すぐ隣の車両は何か嫌なのと、かといって、女性専用車両の事も気になったからだ。




 僕は右側の窓から見える暗い地下鉄の壁を眺めながら、何も考えない様に無心でいた。

 ふと視線を感じ、そちらに目を向けると、連絡部分のドアを2つ挟んだ向こう側に、あの女子高生が立っているのが見える。



 ――浅見無(あさみず)駅はまだなのに……





 長いこと視線が絡み合う。

 僕は、そのまま固まっていた。





 女子高生が、車両をこちらに移動してきた。

 全身の毛が総毛立つ。


 ――だめだ、体が固まったように動かない。

 逃げれない。




 彼女はニヤーっと薄ら気持ち悪い笑みを浮かべながら、連結部のドアを開けてこの車両まで移動しようとしている。






 入ってきた。





  ガチャッ


 トッ

   トッ

 トッ

   ……






   トッ!







 トッ

   トッ

 トッ

   ……





 ガチャッ



 僕の後ろを通り過ぎ、後ろの車両に移っていった様だ。

 寿命が大幅に縮まった気がする……




 


 ヒューヒューウゥゥウヴヴゥルルル――



 浅見無(あさみず)駅が近づいてきて、電車がスピードを落とす。

 あの娘はどうするのだろう……。




 彼女がどうするのかふと気になり、僕は背後の浅見無(あさみず)駅に振り返った。




  ド

 ク

  ン





 僕のすぐ後ろに彼女が立っていた。


 心臓の音が跳ね上がる。







「次は浅見無(あさみず)駅、浅見無(あさみず)駅に止まります。クレジットカードの審査が通らないとお悩みの――」





 彼女は何もせずにそのまま浅見無(あさみず)駅に降りていった。

 電車から降りると、そのまま電車に向かって、僕の方を見て、じぃと薄気味悪い微笑みを浮かべて(たたず)んでいる。





「ドアが閉まります。ご注意下さい。――」



 フシャーッ


       パシュン


  フ

   ィ

   イ

    イ

     ィ

       イ

          ン







 ガタッ ダン

   ガタッ ダン



「次は富師見ふじみ駅、富師見ふじみ駅に止まります。――」


 僕が胸の詰まった息を吐き出せたのは、もうそろそろ降りようかという頃になってだった――。



 ◇



 駅を出た僕は、駅を出て直ぐにある牛丼チェーン店で簡単に昼食を済ませ、帰宅する。



 ガチャ



「ニャニャニャッ」


 トテテッ



「ただいま黒次郎」



 出迎えてくれた黒次郎が、僕の足元にすり寄ってきて顔を擦り付ける。




 普段だと、そのままダラダラとテレビを付けてボーッと過ごすのが僕の生活スタイルなのだが、今日は調べものをするためにパソコンの電源を立ち上げた。




 浅見無駅付近(あのあたり)で何か過去に無かったか調べてみようと思ったのだ。


 そして、『深蠢■駅』も……。







 ――もしかしてこれ(丶丶)かな。



 渋谷しぶたに真莉子まりこ、16歳。プール帰りに痴漢被害に遭い、それを苦に電車に飛び込み命を絶った――。




 顔写真などは見つからなかったが、プール帰りというのが、あの塩素臭がする理由と結び付いた。





 ――女子高生の方は見つかった。駅の方は……と。





 僕が『深蠢■駅』についてどうにか調べようとしている時だった。



 トテテッ




 猫の黒次郎が突然玄関に向かって走り出した。






「シャァ――――ッ フシャ――――――ッ」






 黒次郎が急に玄関で何もない空間に向かってに威嚇し始めた。


 必死に歯を剥き出しにし、毛を逆立てて威嚇している。



 黒次郎が見ている辺りが、まるで人の頭の位置な事に僕は気づいた。



「なんだ、黒次郎。ここに何かいるってのか」



 僕は、黒次郎の手前、まったく怖くない風を装いながら、何もない空間に向かってパンチを繰り出してみた。


 ワンツー。

 スリーフォー。





「フシャァ――――ッ フシャァ――――――ッ」


 黒次郎がどんどん後ずさりしていく。




 とうとう、ワンルームの調べものに使っていたパソコンの前まで来た。





「フシャァ――――ッ フシャァ――――――ッ フシャァァ――――――ッ」




 パソコンが急に、


 ブツッ


 と画面が消えた。






「フシャァ――――ッ フシャァ――――――ッ ……」



 黒次郎は窓のところまで後退りしたかと思うと、そのまま閉めてあった遮光カーテンの裏側に隠れてしまった。

 そして、完全に隠れた状態で静かになった。


 ――黒次郎はそれで隠れたつもりだろうか。



 僕は恐怖を感じる感情をオフに入れ、どうするべきか考える。


 僕の脳味噌は生まれてこのかたあり得ない程の最高速度で解答を導きだす。




 ――なるほど。




 台所に行き塩を取ってくる。




「勝手に調べて申し訳ありませんでした。もう勝手に調べませんので許してください。勝手に調べて申し訳ありませんでした。もう勝手に調べませんので許してください――」



 僕はそう声に出して謝りながら、部屋を清めていくような気持ちで、塩を少しずつ撒いていく。


 そして、少しずつ玄関の方に送り出すような気持ちでゆっくり撒き進める。


 すると、黒次郎がカーテンの裏から顔を覗かせた。



「勝手に調べて申し訳ありませんでした。もう勝手に調べませんので許してください――」


 僕は声を大きくしながら、塩を撒いていく。

 黒次郎も玄関に向かって、僕の後をついてくる。



 最後はまるで黒次郎とドアが開いていない玄関から誰かを見送っているような状態で、一人と一匹でしばらくじっと固まっていたのだった――。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公、ロックオンされとるやん! ん〜、やっぱな、どないに正当な理由がある言うても女性専用車両に乗るっちゅー(男性にとっての)危険行為はしちゃアカンって事やね! ※何故か関西弁ww …
2020/08/01 13:01 退会済み
管理
[一言]  このまま、縁を断てれば良いのですが…………。(それだとホラーには……)  頑張ってくださいね!応援してますよ!
[一言] 主人公、冷静な対応とれました。 黒次郎のためにも頑張って。
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