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火曜日・後編





 ガタッ ダン

   ガタッ ダン


  キー キー


 ガタッ ダン

   ガタッ ダン


  キー キー




 チチ……



 あの駅(丶丶丶)が近づく音が聞こえてきて僕は意識を取り戻した。

 意識を取り戻した僕は、やはり、いつもの女性専用車両のいつもの位置にいた。


 ――こうなるとは予想していた……。


 僕は自分の顔や服を確かめるが、さっきまでべったりあった筈の大量の肉片や血や埃等の汚れが綺麗に無くなっていた。

 どういう現象か分からないが、これはありがたい。



 チチチ チチチ パチッ


  バチッ!



 後ろを振り返ると――今日の犠牲者は学者先生風の『研究助手氏』らしい。

 これまでの二人、『小太りオタク氏』『バーコード氏』達と違い、どうも痴漢があった雰囲気ではないが……。



「「お前は――――私を痴漢したくはないのか?」」



 ――痴漢しなかったんですね。さすがムッツリメガネ。

『ムッツリ』はあくまで僕の印象だけども。



『研究助手氏』は、混乱している様子だが、はっきりと「もちろん」と答えた。


 ――はい(ダウト)

 健康な男性なら痴漢したくてしたくて堪らなかった筈だ。

 それだけの催淫(さいいん)成分か何かが彼女からは発せられている。

 少なくとも『小太りオタク氏』と『バーコード氏』の二人は我慢出来なかった。

 今思えば、僕が我慢出来たのは、単純に僕が女性経験が無かったヘタレだった可能性が高い。


 それはともかく、僕に続き、激しい痴漢衝動を我慢できた『研究助手氏』は素晴らしい理性の持ち主と表彰したい。




 彼女はグニョリと顔を歪め嗤いながら言った。


「「嘘つきは罰として、■■(ザッ……)■――に連れて行きましょうね」」



 なっ……。

 確かに(ダウト)の筈だけども……。

 痴漢しなくても連れてかれるというのか……!?



 女子高生のスカートの中から逆さまに顔を覗かせている老婆がグニョリと嗤い、彼女に同意した様に見えた。

 老婆は新しい獲物を目の前に、黒い舌で舌舐めずりをしているようだ。

 



 チチチ チチチ パチッ パチッ


  バチッバチッ! バチッ! バチッ!


 ヒューヒューウゥゥウヴヴゥ――ルルゥ――


   バチッ! バチッバチッ! バチッ!




 電車が止まり、左のドアが開く。



『研究助手氏』が女子高生に引っぱられるようにして電車を降りていく――。



 何が起こっているか理解していない様子だ。



 ああ、とうとう『研究助手氏』は真っ暗な駅のホームに降りてしまった……。





 パシュン



 そして『深蠢■駅』とボロボロの駅名標が見える真っ暗な駅のホームに二人が降りた途端に扉が閉まる。



 しばらくして電車は走り始める。




『研究助手氏』は何も理解していないのか、呆然としたように電車を見送る。




 ――『研究助手氏』と最後に目が合ってしまったが、その目が『何がどうなっている?』と僕に訴え掛けているようだった……








 チチチ チチチ パチッ


  バチッ!








「次は富師見ふじみ駅、富師見ふじみ駅――」



 またしても、我に返った時には自分が降りる駅だった。

 車内からは『研究助手氏』の姿は無くなっていた。


 これで、女性専用車両の男性客は僕だけになってしまった……。





 食欲が湧かないので、コンビニでおにぎりを2つとペットボトルのお茶だけ購入する。

 


 マンションのゴミ捨て場をふと覗くと、僕のあのテレビがまた返品されていた。

 良くみると画面が叩き壊されていた。

 拾ったものをどうするかは自由だけど、叩き壊すのはやり過ぎじゃないだろうか。

 まだ買ったばかりで新品同然だったんですけど……。



 エレベーターで自分の部屋の階、4階まで上がる。

 角部屋の401号室が僕の部屋だ。


 部屋の前に出していた黒次郎が戻ってきたら食べれる様にしておいた黒次郎のご飯皿のご飯を、ガツガツと食べている黒次郎がいた。



「良かった、黒次郎。お前帰って来ていたのか」



 僕がそう話しかけながら、ガツガツと食べている黒次郎の背中を撫でていたのだが、ある事に気付いて前腕部がゾワリとし、上半身、全身まで総毛立った。



 僕が今撫でているモノが黒次郎で無いことに気付いた――。



 黒次郎だと思い込んでいた猫のような黒い毛を生やした生き物が振り返る。



 その生き物の顔は、あの女子高生のスカートの裾からいつもこちらを見ているあの老婆にそっくりだったのだ。




 その生き物の顔を見たとたん、僕は4階の廊下からその生き物を下に投げ落とした。




 投げ落とした後、実は幻覚を見せられていて、本当は黒次郎だったんじゃないかと心配になった。

 上から顔を出して下の方を確かめてみると、その生き物が気味の悪い嗤い声を上げながら走り去って行くのが見えたので、胸を撫で下ろす。






 ――鳥肌と胸の動悸が治まらない……






 ガチャガチャッ

 ドアの鍵を開ける手が震えて、開けるのに何時もより時間が掛かった。




 黒次郎が出迎えてくれないと、とても寂しい。

 また昨日と同じ様に、黒次郎がいつでも帰ってこれるようにと、玄関のドアにスポーツシューズを挟みこみ、鍵は開けっ放しで眠るしかないか。

 不用心だが仕方ない……。




 玄関のドアを開けていると、外部の音が聞こえてくるので少々寝づらい。

 また、外界と繋がったままの感覚がして守られていないような気になる。

 ――この感覚、理解(わか)ってもらえるだろうか。





 この日は、寝ていると電子レンジや洗濯機が急に「チーン」「ピロリッ」と音を出したり「ヴーン」「ガタンガタン」と回り始めたりするのでので、コンセントから電源ケーブルを抜いたり、ブレーカー自体を落としてみたり、最後は電源ケーブルをハサミで切ったり、何かが部屋の中を駆け回ったりで、ほとんど眠れなった。


 僕はひたすら布団の中で小さく丸まって震えていた。

 何者かにつつかれたとしても、ひたすら寝たフリをしてやり過ごすのだ。












「まだ起きてるよね?」








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吸血娘が下着姿で待ってます。(;´∀`)
アリエス令嬢
▲イラスト制作秋の桜子さん(カスタムキャスト使用だそうです♪)


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― 新着の感想 ―
[一言]  最後の一文でゾっとしましたよ……。(お蔭で気分が高揚しました!)  ありがとうございました!
[一言] うわあああああああああああ!!!!!!!!!
[一言] >玄関のドアを開けていると、外部の音が聞こえてくるので少々寝ずらい。 >また、外界と繋がったままの感覚がして守られていないような気になる。 >――この感覚、理解わかってもらえるだろうか。 分…
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