我が姫様と五令嬢、凶暴につき
とある王国では、大層麗しい姫と五人の令嬢が共同生活を送っていたという。皆容姿だけでなく、魔法の才能にも恵まれ、至極お淑やかに、しかししっかりと国を支えていたそうだ。姫の名は、サラチア・ルーチェ。サラチアが姓、ルーチェが名。令嬢は、バイレット・ファルル、カヤナイト・ソラ、アーシー・カーレス、ヴィエトル・ウィンディ、ドゥンケル・クロスの五人だった。それぞれ、光、炎、水、土、風、闇を司っていたそうだね。ねえ、時に君、そんな彼女達がどう暮らしていたかに興味はあるかい?ある?あるなら時空魔法で、特別に少し見せてあげよう。時空魔法、スクロール!さあ、下へスクロールするといい。え、メタいって?言うなよ…。
さあ、魔法は成功した。とりあえず、窓の外を見てみるといい。空色の髪で逃げているのがカヤナイト・ソラ嬢、それを禍禍しい闇魔法を展開しながら追う、灰色の髪に一房だけ黒い編み込みがあるのがドゥンケル・クロス嬢だ。ソラ嬢の瞳はサファイアのような濃紺、クロス嬢の瞳はアメジストのような深い紫。二人で鬼ごっこだなんて、ほら、とってもお淑やかだろう?え、お淑やかの意味知ってるかって?知ってるさ、でも日常茶飯事だから仕方ないじゃないか。大方、ソラ嬢がクロス嬢に悪戯し過ぎたんだろう。ウィンディ嬢など、この有様を「きゃっきゃうふふってしてる」とおっしゃる位だ。今クロス嬢が展開したのは即死魔法だが、気にしてはいけない。まあ、きっと本気で殺す気はないさ…きっと、多分、恐らく。
ほら、君の左手の部屋には、ウィンディ嬢とファルル嬢がいらっしゃるはずだ。異国情緒を感じさせるペリドットのような瞳と、焦げ茶色だが毛先にかけて若草色に変色する髪を持つのがウィンディ嬢、金色に光る髪と紅水晶のような瞳を持つのがファルル嬢だ。そうそう、今爆笑してるのがウィンディ嬢、つられて笑い出したのがファルル嬢さ。
その隣で「尊い…」と言いながら机に突っ伏しているのが、ルーチェ姫とカーレス嬢だ。白銀の髪にルビーのような瞳を持つのがルーチェ嬢、燃えるような赤い髪にアクアマリンのように透き通る瞳なのがカーレス嬢。ほら、四人ともとってもお淑やかだろう…?………ああでも、この国、大丈夫なんだろうか。
不安になってきたから、もう少し様子を見ていこう。ソラ嬢とクロス嬢が帰ってきたから、お茶会が始まるはずさ。ああ、お茶会といったって、身構えなくて構わないよ。君がどんなものを想像したのか分からないけれど、彼女達のお茶会はそんな格調高いものじゃない。紅茶は高級品だけれど、お茶請けはポテトチップスやポッ◯ーだから。ね、お淑やかだろう?……お淑やかって、なんだったかな。それはそうと、始まるよ。
「手加減してくれよ姉様、死ぬかと思った…」
「ソラが悪戯してくんのが悪いんやん。」
口火を切ったのはソラ嬢だね。ソラ嬢は、クロス嬢を姉様あねさまと呼ぶ癖があるよ。また、お嬢様方は全員訛りがあるし、今の二人はまるで男のような話し方をすることが多いね。ね、お淑やかだ(ry…遂に省略されてしまったね。
「今日もきゃっきゃうふふしとったなー。」
「あれはきゃっきゃうふふじゃないで、ウィンディ。姉様今日即死魔法展開してきたからな?あれ、一応禁術だぜ?」
「…ええ?」
「引かんといてーや、ハル。」
うん?ハル、って誰かって?ああ、ハル、というのはファルル嬢のあだ名だよ。説明不足ですまないね。
「うちは一応闇の家系やからな。最近まで存在も明らかにされてなかったし。禁術も黒魔法もお手のもんよ。」
「クロスやっぱすごいな!で、ルーチェは何描いてんの?見してーや!」
「秘密ー。」
カーレス嬢はいつも元気だねぇ。あと、実はルーチェ姫はイラストを描くのが趣味なのだけれど、カーレス嬢はいつも見せてもらえないんだ。ソラ嬢もあまり見せてもらえないみたいだね。なんでなんだろう?ああ、見よう、だなんて思わない方がいいよ。カーレス嬢、ソラ嬢除いた全員から総攻撃を食らいたくなければね。もしかしたら、カーレス嬢は協力してくれるかも知れないけれど。
「ちぇー。じゃあさ、皆最近事件とか無いの?ソラとクロスとか、前に国外行ってたじゃん。なんかいつも雪降ってるとこ。」
「ああ、襲撃受けたな。そういや」
「せやったなー。」
「へぇ、襲撃…えっ!!」
「だから、襲撃。そんな驚かんといてーや、ハル。」
ソラ嬢もクロス嬢も飄々としているけれど、襲撃とは物騒だね。ほら、ルーチェ姫も驚いていらっしゃるよ。
「いやいやいや、驚くわ!」
「逆になんでそんな平然としとんの!?」
「なんかもう日常茶飯事やしなー。」
そう、残念なことにこれも日常茶飯事なんだよ。特にクロス嬢は、王家の血を引いているけれど、姫よりは外に出るから狙われやすいみたいだ。よく護衛として着いていっているソラ嬢も同様だね。ご令嬢にはそれぞれちゃんと護衛が着いているのだけどなぁ。
「正直、護衛より私らの方が強いしなー。」
「つか、反射的に守っちゃったしな。」
「ああ、馬車に放り込んで、出てくるな!ってな。」
「流石に後で怒られたわ。」
「なんなら泣かれた。」
「ご令嬢はもっとお身体を大事にして下さい!って?まあ確かに私らの方が強いけどな。」
常識人よりのファルル嬢まで同意したあたり、護衛より強いのは本当のようだね。でも、他国じゃ彼女らはお淑やかってことになっているんだ。え?遂にお淑やかだって言うの諦めたなって?様式美ってことで言っておこうか?ワア、トッテモオシトヤカダネー。…もう僕も諦めたさ。このサルチア王国では、彼女らはお淑やかじゃないって有名だしね。流石に他国にも知れ渡ってしまうと王国の権威が下がるから秘密だけれど。王国内じゃ、公然の秘密ってやつさ。
「でもクロス、外では私らお淑やかってことにしてるやん?どうやって倒したん?」
「ああ、簡単やで。それはな、」
なんだろう?
「とりあえず、キャーって叫ぶねん。」
「へ?」
「叫んどいたら、遠くの人は怖がってるように思うやろ?」
「実際は、叫びながら至極冷静に刀の鯉口切って馬車から飛び降りたけどな」
「私は叫びながら傘でシールド出したな。」
…トッテモオシトヤカダネー。はっ、ついつい言ってしまった。因みに彼女達にはそれぞれ得意な武器があって、ソラ嬢は日本、という国風の刀、クロス嬢は傘なんだ。日本って、どこにあるんだろう?いつか行ってみたいね。え?君の出身、日本なの?
「そこからは瞬殺やったで。私が刀で威嚇しつつ水魔法の応用で動き止めて、姉様が闇魔法で意識奪っておしまい。」
「ちゃんと通報も報告もしといたで。」
「…もうやだ、この姉妹…。」
…オシトヤカ(ry。君、今この義姉妹凄いなって思ったろう?でもね、他もなかなかなものだよ。
「いやでもハルもさ、好きな野球選手に危害与えようとした人殲滅してたやん。一瞬で。」
「ウィンディだって、なんだっけ、推し?が狙われた時凄かったやん。」
「や、それはしゃーなくない?でもルーチェもカーレスも、好きな漫画の作者さん狙われた時えげつなかったで。特にルーチェ、あんまり城の外でたらあかんのに。」
「あれはしゃーないって!」
…ね?他もなかなかに濃いだろう?まあただ一つ僕から言えるのは、我が姫様と五令嬢、凶暴につきご注意下さいってことぐらいかな。
読んでも読まなくてもいい設定
サラチア王国
魔法が使える架空の王国。ルーチェが王位第一継承権を持つ。
得意武器
その人ごとに異なる、自分の扱いやすい魔道具。
使い魔
飼い主と以心伝心で、主の手助けをする動物。
サラチア・ルーチェ
真っ白な長髪に赤い目を持つ美少女。サラチア王国に伝わる光魔法の使い手で、回復魔法などが使える。得意武器は代々伝わる杖で、使い魔はドラゴン。王女でありながら親しみやすく、イラスト、漫画が大好き。
バイレット・ファルル
金色の髪に桃色の目を持つ美少女。髪は肩と腰の中間程度まであり、ルーチェと同じくらい。サラチア家に次いで二番目の権力を持つバイレット家の長女である。バイレット家は炎の魔法を得意としている。得意武器はレイピアで、使い魔は梟。五人の中では常識人よりで、野球が大好き。
カヤナイト・ソラ
空色の髪に濃紺色の目を持つ美少女。肩まである髪を、邪魔だからと縛っている。また、ぱっと見は黒い瞳に見えることも。もとは近衛騎士の家系であったカヤナイト家出身で、よく皆の護衛をしている。カヤナイト家は水魔法が得意。得意武器は日本刀で、使い魔はシロイルカ。周りに他人がいる時は常識人よりだが、そうでないときは友達に悪戯をしてまわっている。
アーシー・カーレス
赤い短髪に水色の目を持つ美少女。髪は顎までで、活発な印象を受ける。大地や土を操るアーシー家の長女。得意武器は弓で、使い魔は蛇。よく「尊い!」と叫んでいる。何が尊いのかは不明。
ヴィエトル・ウィンディ
焦げ茶色で、毛先にかけて黄緑色に変化する髪と、同じく黄緑色の目を持つ美少女。髪は肩までで、よく風になびくが髪型は崩れない。その髪質はサラチア王国七不思議の一つ。風を操るヴィエトル家の長女。得意武器は扇で、使い魔は二匹の小鳥。その独特な笑い声は、周りを巻き込むことで有名である。
ドゥンケル・クロス
白みがかった灰色の髪に、一房だけ黒い髪があり、紫色の目を持つ美少女。美少女、と呼べる年齢であるが大人っぽく、美女、と呼んでも差し支えがない。髪の長さは、ルーチェ、ファルルと同じくらい。王家の血を引きながら影で王国を支えてきた闇魔法の名家、ドゥンケル家の出身。得意武器は蝙蝠こうもり傘で、使い魔は鷲。猟奇的な発言も多いが、虫が大の苦手、という一面も。
以後、このアカウントの作品で「サラチア」とつくものは以上の設定を使用するものとします。