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中編

 翌日に、私とマネージャーはオファーの話をまとめるために、あの超有名劇場へと一年ぶりに足を運ぶこととなった。

「お久しぶりです、灰村さん」

「お久しぶりですー。その節はご迷惑をおかけしました、志村社長」

 出迎えてくれたのは、劇場を所有している社長だ。まだ顔は若さを保っていて、スラリと伸びた身長がかなり目立つ印象の人だった。

 若社長っていう感じなんだろうね。

「いえ。あの時は大変でしたね、お互いに」

「あの、オファーは嬉しいんですが、なぜまた私を?」

「ええ。最初にオファーした時は、私も流行にあやかりたいと思い、軽い気持ちだったんです。こんなことを言うのはあまり気分はよくないと思いますがね」

「そんなことないですよ!オファーしてくれるだけで嬉しいです!」

「そういってくれると助かるね。で、今回オファーした理由なんだけど、君が不死鳥のごとく再びこの業界に舞い戻って来たという噂を小耳にはさんでね。そこで私は君に才能を感じたんだ」

「つまり、それでオファーされたということですか?」

「まあ、そうなるね。それにここの所、うちの中が陰気臭くてね、みんな1年前の事故を引きづっているみたいなんだ。だからあえて君を呼んで事件の印象を上書きしたいという狙いもある」

「そういう事ならば、是非協力したいです!もう一度私にチャンスを下さい!」



 話し合いは1時間程度で終わり、ショーの開始は3日後という形で決まった。まさに、とんとん拍子という感じ。

 帰り際、またマネージャーと夜ご飯を食べに行ったんだけど、マネージャーはそわそわするだけで、やっぱり何も起きなかった。

 あと二日間の準備期間。入念に準備して、失敗しないようにしよう。凛子もそれできっと報われる。

 その日はそれ以上何もせず一日が終了した。


 次の日、私は道具の準備をするために劇場へと向かった。

 用意された楽屋で道具を所定の場所に運び込んでいると、奇妙な事が起こった。

 何が起こったかというと、後でちゃんと整理しておこうと思って、乱雑に置いていた道具のいくつかが、望ましい配置で整理されていたんだ。

 おかしいな、スタッフさんが手伝ってくれたのかな?

 私はキョロキョロと部屋内を見回して見たけど、誰も入ってきていないのは明らかだった。

 まさか、ドッキリ?そう思い、ロッカーも開けたりしてみるけど、人は入っていなかった。

 他に隠れられそうな場所も無さそう。

 というかまあ、ロッカーに人なんて入ってるわけないよね。

 となると、さっきトイレに行ったからそういうことだろう。

 私がトイレに行っている間にスタッフさんが入ってきたんだ。なんで道具を整理したのかはよくわからないけど。

 手伝ってくれるならそう言ってくれればよかったのに。

 ちょっと言いに行こう。勝手に部屋に入ってきて、道具を整理されるのは居心地が悪いし。

 私は楽屋を出て、近くに居たスタッフさんを捕まえ問い詰めた。

「あのすいません、私を手伝うよう頼まれたスタッフは居ますか」

 スタッフさんはわざわざ、電話をして調べてくれた。

 しかし、電話を切った後、首を横に振られた。

 スタッフじゃないなら誰なんだろう?もしかして嫌がらせかな。

 いや、冷静に考えてみたら不可能じゃないかな、こんなこと。

 そう思うのには理由があった。

 だってあんなに私がしっくりくるような配置をするなんて、出来るはずないもの。

 私はスタッフとしばらく会話してから楽屋へと戻った。もう一度状況を確認するために。

 やっぱりさっきと同じような道具の配置になっていた。しかもよく見ると、変わっていたのは配置だけではなかったんだよね。

 そのことは私の背筋を凍らせた。ソレから目を逸らしながら、机に置いてあった熱い緑茶を喉に流し込み身体を温める。

 私が一体何を見たのか、それは、バラバラに解体していた道具が綺麗に組み立てられた様子だった。

 こんなこと……ありえない。

 道具の組み立て方を知っているのは私だけ。

 たまたま、組み立てることができたなんてことは、絶対ない。結構複雑なんだから。

「ありえない……ありえないっ!だって私だけしか……!?」

 私はとある可能性に気が付き、お茶を机に置こうとしていた腕の動きを止めた。

 道具の組み立て方を知っているのは私だけじゃない……。

 存在しないはずの人物、凛子。凛子が生きているとするならば可能だ。

「凛子……居るの」

 虚空への問いかけは、壁に反響するするだけで虚しいだけだった。

 疲れてるんだ、私は。

 私はカウンセラーにアドバイスしてもらった方法を使って思考を放棄し、机に突っ伏して休むことに。

 壁に掛けられた時計の秒針が進む音が心地良い。私の意識はすぐに暗闇へと落ちていった。



「灰村さん、起きてください!」

 誰かの声が聞こえる、肩を揺さぶられてるようだ。

 目を開け、机から顔を上げると、さっきのスタッフさんの顔が視界に入ってきた。

「あぇ……、すいませぇん」

 微妙に呂律が回らない。寝てしまっていたか~。

「勝手に楽屋に入るのはダメなんですけど、心配で」

 心配?夜になったら1人での夜道は危険ということかな?

 でもマネージャーが車で迎えてきてくれることは、さっき話したんだけどなぁ。

 ここは率直に聞いてみよう。

「何の心配なんですか」

「はい、まあちょっとこの劇場で悪い噂が流れていまして。私は直接それを見たわけではないのですが」

「どんな噂なんですかそれ」

 スタッフさんはう~んと唸り、少し迷いながらも話してくれた。

「幽霊というようなものでしょうか、夜な夜な出るらしいんです、良くわからないものが。私たちの間では結構有名なんです。危害受けたりとかはしてないんですが、みんなおっかなくて夜が来る前に早めに帰るのです」

「おばけ、ですか。その噂はいつから広まったんですか」

「そうですね~今から一年前ぐらいです。もしご興味があるのでしたら志村社長に聞いてみて下さい。もう帰られているはずなので明日になりますが」

「わかりました。ありがとうございます!もう帰ろうと思いますので大丈夫です」

「はい、では失礼します」

 そう言ってスタッフさんは軽く会釈し、ドアから出ていった。

 噂が流れ始めたのは大体一年前。奇妙な一致だった。

 気にはなるけど、明日志村社長に聞いてみよう。考え過ぎは良くないと学んでいるからね。



 次の日。私はあまり寝付けなかった。

 どうしても昨日の怪現象が気がかりで仕方なかったからだ。

 目を瞑って暗闇で世界を閉ざすと、思考はずっとリフレインし、脳はあの現象を実現するための方法を考え続ける機械と化した。

 マネージャーに車で劇場に送ってもらう途中、助手席でウトウトして寝ちゃった。

 起きた時、マネージャーはまんざらでもない顔してたけどね。私ヤバい寝顔になってたかな?少し恥ずかしい。

 劇場に着くと私は志村社長に会いに行った。

 昨日のスタッフさんに教えてもらった部屋に行くと、志村社長はそこに居た。

「ああ、灰村さん。急にどうされたのですか」

「この劇場で広まっている噂についてお聞きしたいんです」

「なるほど……。わかりました、劇場が明日に控えているのであまり言いたくは無かったのですが」

 一呼吸おいて、志村社長は噂の詳細について教えてくれた。

 話によると事故があったあの日を境に、幽霊が出没するという噂が流れ始めたという。

「最初は私も半信半疑だったんですよ。手品をやっている貴方にならわかると思いますが、どんなに不思議な現象でも必ずタネがあると信じてましたから」

「でも、そうじゃなかったというわけですね?」

「全く、驚きましたよ。あれは私が夜にショーのステージに行った時でした。そこで私も見たんですよ、幽霊を」

「誰かのいたずらとかでは無かったんですか」

「どうしてもそうは思えませんでした。いたずらだとしたらとても悪趣味だ……だって」

 志村社長の額から、汗が流れ落ちるのが見えた。

「その幽霊は灰村凛子さんにそっくりでした。私はあれがいたずらだとは思えません」

 薄々はそうじゃないかと思っていたけれど、その予想は確信へと変わった。

 凛子はこの劇場に”居る”んだ。道具を勝手組み立てたのも、恐らく凛子。

 出来るならば、もう一度会って話をしたい。

「凛子をどこで見たんですかっ!」

「それは……。まだ教えられません」

「何故です!?」

「灰村さんは私が場所を教えたら会いに行くのでしょう。明日のショーに影響が出るような事は控えて頂きたいのです。利益を求める経営者の考えとしてご理解ください。見た場所を教える事は全てのスタッフに禁止させているので、スタッフに聞いても無駄です」

 スタッフに聞いても無駄か。志村社長……中々頭が回るなぁ。

「わ、わかりました。でも、約束してください。明日のマジックショーが成功したら場所を教えてくれると」

「そうですね。約束しましょう」

 こうして、志村社長との対話は終了した。

 私はマジックショーを成功させるべく、なるべく凛子のことは考えないようにして、準備作業に没頭した。

 幸いにも、怪奇現象がそれ以上起きることは無かった。


 次の日、マジックショーは滞りなく終わった。

 鳴り止まない拍手と歓声に包まれて、私は見事に成功させることが出来た。

 これで、私の夢は一歩前進した。でも、何だろう……そんなに嬉しくない。

 凛子のことが気になり過ぎて、全然そういう気分になれない。

 早速、私は志村社長に聞きに行った。そうしたら、志村社長は「灰村さんが立っていた舞台の上だよ」と答えた。

 それを聞いた私は、興奮と恐怖が入り混じった奇妙な気持ちなった。

 あの時、幽霊の凛子と私が重なっていたのかも知れないと。そういった根拠もない想像を張り巡らしてしまうんだ。

 その日、私は楽屋で夜になるまで待つことにした。

きな臭い話になってきましたね。果たして結末はどうなるのでしょうか。後編へと続く。

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