ずっと真夜中の町-1話(温かいおふろ)
コツコツコツ……
学生服に身を包んだ一人の女の子が田んぼの広がる一本道を歩いている。
辺りは田園以外何もなく、星空に満ちた世界。
ずっと先には地平線が見えている
くらい夜に照らしてくれている光は月明かりと
道沿いち点々と立ち並ぶ街頭だけだ。
寒い……
リュクサックを背負い、厚手のコートを着ている彼女。
薄水色のの髪は背中に大きな三つ編みを垂らしている。
彼女はスマホをいじっている。
画面にはTwitterで何かのつぶやきを書き込んでいる。
家に帰ったら暖かいお風呂……
彼女の帰宅後の楽しみはお風呂だという。
ん?スマホの画面に通知が入った
「お風呂湧いたよ。マリー」
――――――――― 1話 暖かいお風呂 ―――――――――――
【登場人物】
・マリー
・あさぎ姉
ガラガラガラ……
やった。風呂には誰もいない……
一番風呂をゲットした彼女はほほ笑みを浮かべ、お風呂の椅子に腰掛ける。
…………
ザバァ!!
んん!!勢いよく湯船から水しぶきがちった。
わぁあぁ!だれぇ?
「一番風呂は私が奪ってますよー!」
湯船の中から出てきたのは姉だった。
「なんだ……あさぎもう帰ってたの……」
「あったりまえじゃん!今日も昨日もずーっとバイト攻めで
疲れが蓄積しまくってるんだよ」
「それはそれは、おつかれさんなことで。んでまた新しいバイトに変わったんだって?」
「そうだよ。コンビニのバイト」
「え?この前もコンビニバイトだったよね」
「まぁあの時はブラックだったからな……でも給料いいから他のコンビニで志願したんだ」
「そんなに稼いで体壊れるまでバイトして一体なんのお金になるん……?」
マリーは体にかけ湯を流し、脱衣所から取ってきたバスクリンを風呂に投入する。
「そりゃ、快適なホームオーディオ環境構築のためにお金をつぎ込む。これに決まってるよ……」
「どれで聴いても同じなのに……音質オタクはこれだから……」
バシャ!
いきなり頭にお湯2Lほどが降ってきた。
「プップップッ……」
湯船の中のあさぎ姉はニヤついた顔をする
はぁ……
「子供の頃から変わってないんだから……盛大な掛け流しありがと……おかげでシャワー浴びる手間もはぶけましたよー」
呆れながら湯船に浸かる。
バスクリンを投入した湯船は綺麗なクリーム色にやや青みがかった色をしている。
いい香りに包まれながら浴室の壁にある窓を眺める。
防護柵の間から見える月明かりが綺麗だ。
「ねえ、あさぎ姉……電気消してくれない?」
「えー?なんであたしが……」
「お月見したいの……」
「月なんて365日見えるに決まってるだろ」
「いいーの。」
だるそうに湯船から上がり、脱衣所にある手押しスイッチを押すあさぎ姉。
パチッ!
浴室は暗くなり、月明かりだけで照らされる空間になった。
「今日も綺麗だな……」
再び湯船に浸かるあさぎ姉。
「この月……いつになったら沈むんだろう……」
「さぁ?ICBMでも月に打ち込みゃ砕け散って沈むんじゃね?」
「相変わらず物騒だね……砕けたら隕石になって地球沈むよ……」
「夢がないなぁ……マリーは……」
「バイト無い日はFPSゲームばっかしてるあさぎ姉には言われたくないよ……」
「いいや、私は分艦隊の存命をかけた意義のある戦いをしているんだ!小説ばっか読んでるお前等にはわかるまい事だなぁ……」
「何言ってんだか……」
月明かりは彼女ら2人が浸かる湯船を綺麗に照らす。
ずっと……ずっと……真夜中。こんな生活が現実ならあなたはどうします?現実味と重ねて考えてみるとどうなるでしょうか?
この世界はずっと真夜中。
24時間経過してもお昼は存在しません。
太陽というものが登らず、太陽すら存在があるのか無いのか……証明できない世界です。
彼女ら2人はずっと夜の世界で過ごしています。
生まれてこの方お昼というものに巡り会ったことがないのです。はたして彼女らにお昼の時間帯というものが訪れるのでしょうか……