○8
部屋の中でアリシアを待ち続けていても、あまり面白い事は無い。
暇つぶし的にスマホを使う事は無論できないため、結局僕は勝手に行動してみる事にした。
宿屋から外に出ると、いい感じに風景が広がって居る。
しかし、自分が出来る事はそれほどあるのだろうか。町の前に銃剣を持った衛兵が居たけれど、見た目は17世紀か18世紀のフランスに近い雰囲気はあった。
恐らく、都市部へ行けば物凄く大きな宮殿は建って居るとおもうけれど。
「冷静に考えたら、いくら異世界だからって別に豊ってわけでもないんだよな。」
空気の寒さとは別の虚無感というか、本来あるべきものが無い世界観のため無駄な時間だけが無限にあるような気がしていた。
「正直、一体僕は何のためにやってるのか分からないけど。」
大きな能力が自分の中に秘めているわけでもないし、アリシアは普通に何処かに行ってしまった以上は仕方が無い。
「そういう意味では、ゲームの中の異世界も十分歪ではあるけど。」
食べ物や衣服、建物が十分に供給されている見た目は中世の世界観でも人々の争いは起きている。
普通なら飢餓や病気等により人が多く死んでいて、それから国の状態が良くなくなって戦争という繰り返しが起きるはずなのだけれど。
その人間が十分に生きていける状態が強引に確保されている状態があった場合、他の民族に侵略される場合を除いて争う原因は殆どなくなる。
「まぁ、ゲーム内でも餓死者とか伝染病が出るのを心配するのは嫌だけれど。」
仮にゲームの中で数万人の餓死者や病死が出るようなシステムがあったとしても、それをプレイしたがる人はあまりいないと思う。
無意味にゲームが難しくなるだろうけど、でもゲーム内の世界観だとすぐに人口が溢れる気はする。
根本的にゲームの世界は現実とは別だし、そもそも争っている理由自体が意味不明だったりする事もあるのだからそう深く考えない方がいいけれど。
「まぁ、魔物に一日当たりに伝染病や餓死と同じ規模で人間が殺されていると思えばいいか。」
適当に自分の心の中で抱いた疑問を強制的に解決させて、田舎の風景をのんびり満喫していた。
道並みを歩いているだけでもいいが、恐らく一週間も経てば飽きてしまうだろう。
そうなる前になにかいい事があればいいのだが。
ふと、何か女の子の声が聞こえた気がしたのだけれど。一体何かあったのだろうか。
曲がり角、そこを曲がろうとした時だった。僕は誰かと衝突してしまい、転んでしまう。
「あいたたた。まさか誰かが居るなんて。」
目の前に同じように転んでいたのは、ピンク髪の少女だった。
「大丈夫か?」
「いいえ。平気ですけど、私急いでて・・。捕まりそうなんです。」
「誰かに追われているのか?」
「はい。物凄く悪い人に。」
どうやら割と一大事のようだ。
「分かった、一緒に何処かに行こう。」
「いいんですか?」
「割と暇だからな。」
そう言って彼女と逃げる事になってしまったのだけれど、冷静に考えたらこの後の事は全然考えていない気がしていた。
そのまま走って逃げる。
「一体どういう奴に追われてるんだ?」
「わ、悪い人です。」
「それじゃ分からないだろ!?」
「見れば分かりますから。私は何も悪くないんです!それより、貴方はここの人なんですか?」
「いや。初めて来た。」
このまま走って村の外へと出てしまうが、道は多分戻れるだろう。
「私、エクレールっていいます。」
突然接近して名前を言ってきた。
彼女の腰にある剣が派手に見えて、彼女は恐らくアリシアに近いタイプかもしれないと感じる。