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8. 雑草刈りの英雄

幼馴染がほしい

 私は山田和仁ことバヌゥイ・ガズ、7歳です。バヌゥイが名字でガズが名前です。カサラヒ王国スヌオル村の農家の次男です。


 まぁそんなことはどうでも良いんだ。ここは”剣と魔法のファンタジー世界”イーガルンド。プラチナブロンドやエメラルドグリーン、アクアマリンなんかの奇抜な髪色の奴らや猫耳のお姉さんが闊歩する中世ヨーロッパ風の世界だ。と思っていた頃が私にもありました。


 実際のところ、周りには黒髪の人しかいない。そして肌はダークグレーで、ついでに瞳が真っ赤である。さらに言えば黄金色の小麦畑の代わりに、水田が広がっている。もっと言えば空が紫色だ。完全に騙された。


 空が紫なのはレイリー散乱がどうのこうのでは無い。3つの霊峰、レーワ、カユラホ、シルチャから瘴気が垂れ流されているからだ。瘴気って何よって言われても分からない。とにかく紫色のガスが噴出している。どう見ても体に悪そうだという事だけは分かる。と言うか実際、瘴気は体に悪くて、魔物が狂暴化するらしい。


 よその国では我らがカサラヒ王国とエルフが住む隣国ムワラン帝国があるダッカリア大陸を魔大陸と呼び、魔大陸のヒューマを魔族、エルフをダークエルフと呼んで忌み嫌っているらしい。何しろ、ダッカリア大陸では魔族とダークエルフ以外は生きていけない。瘴気によって体が蝕まれてしまうからだ。そんな地獄のような土地に住んでいる上に奇異な容姿をしているため、悪魔と契約した者たちの子孫などと思われているらしい。北のラーウィー大陸には、地球でいう所の"人"や、肌がダークグレーではないエルフも住んでいて、空は青いらしい。本当かどうかは知らない。元傭兵のおっさんの情報でしかない。そもそも俺は村を出たことが無い。


 ともかく、ダッカリア大陸は瘴気に満ちている。その瘴気に順応したのが我々なのだ。なぜ瘴気に順応すると肌がダークグレーになって瞳が真っ赤になるのかは知らない。俺は学者ではないので興味もない。興味があるのは幼馴染のアルとレベルアップだけだ。


 俺は婆さんの言いつけ通り、毎日雑草を刈ってアルと遊んで、魔法の練習をしている。それだけだがレベルは上がっている。農家としての働きと、瘴気で魔物化した雑草を刈り取っているからだろう。ちなみに今はこんな感じ。


バウゥイ・ガズ ヒューマ 男性 7才

見習い農家lv10/15


HP  18

MP  13

STR  8 VIT 10

MAG  6 MND  8

DEX  6 AGI  7

加護ポイント 10

エルフ語2 基礎魔法3


 クソ雑魚も良いところである。まぁ7歳児だし仕方がない。そもそも農家に戦いを求めるのが間違っている。ちなみにステータスは能力を知りたいと願うと頭の中に浮かんでくる。最初は浮かんできた文字が読めなかった。当時、読み書きを習っていなかったので理解できるわけがない。日本語を世界の標準語にするぐらいの配慮が必要なのではないだろうか?と頭の中で愚痴っていたら、俺が読める文字に変換された。やはり神様はいるのだ。あとこの加護ポイントとかいうの神様に捧げれば、様々なスキルを覚えられるらしいが、まだ使ったことは無い。俺はエリクサーを残したままラスボスを倒すタイプなのだ。なんにせよ英雄には程遠い。


 だがしかし、人は周りに目標を宣言することで自分を追い込むことができるらしい。と言う訳で、この前村の皆に俺は英雄になると触れ回った。悪神の話はしていない。英雄になると言った割に、実際にやっているのは雑草を刈っているだけだ。そうなると必然的に、

『未来の英雄様は今日も雑草刈りに精をを出してるのかい?』

とからかいの対象となる。


 なるほど確かに追い込まれる。俺のメンタルが追い込まれている。37歳児だがつらい。人から注目されるのは好きではない。何でこんな事をしてしまったのかと、今でも思うがやってしまったものは仕方がない。


 そんなストレスフルな村内だが、幼馴染のアルだけは癒しだ。俺のオアシスだ。まだ、ただの幼女だが10年後には俺の嫁になっているかもしれない。幼馴染ヒロインである。この娘との未来を守るためにも、悪神を倒せる実力を身につけねばならない。そうでも思わないとやっていられない。婆さんとアル以外、俺の味方がいないのだ。英雄パーティーなのに貧弱すぎる。


 父親と兄は俺の事を嫌っている。母が俺を産んだ時に死んだからだ。彼らも悪い人間ではないので最近は面と向かって罵倒してきたり手をあげてきたりはしない。ただ、俺には冷たいし積極的に関わってこない。確かに、それなりに恵まれない家庭だ。婆さんが死んだら家に居場所が無くなる。婆さんが俺の生命線である。つまり、俺は婆さんに生殺与奪を握られている。くっ……殺せ!


 と言う訳で、現在組めるのは、俺、幼女、ババアの謎の3人パーティーだけだ。だが侮るなかれ、婆さんは農家lv50の高レベルババアである。序盤は婆さんの大活躍が期待される。ババア無双、ババアTueeee、チートババアとなること間違いなしである。序盤のお助けキャラと言えるだろう。問題は何も始まっていないので序盤もクソもないところだな。


 ともかく現状はこんな感じ。そんなわけで、今日も雑草刈りの後にマイオアシスと戯れている。


「ガズ!今日も一緒に魔法の練習するわよ!」


「わ、わかってるよアルちゃん。」


「魔法使いになってガズを守ってあげる。ガズは英雄になるんでしょ。」


「ありがとうアルちゃん。で、でも僕が強くなってアルちゃんを守るんだ。」


「ダメ、ガズは私が守るの。見てて今から私の魔法を見せてあげる。」


 アルの手からチョロッと水がでた。アルは最近魔法の使い方を教わったばかりだというのに呑み込みが早い。俺なんか最初は水を出そうとしても、ただの手汗なのか魔法が出たのか判別できない程度だったというのに。小娘のくせに、なかなかやりおる。


 アルはいつも俺を守ってくれると宣言する。英雄を守るなんて、きっと聖女様に違いない。神に愛された女なのだろう。そして将来的には俺にも愛される。ロジカルに三段論法で考えると俺は神だという結論になる。やはり俺は天才だ。とにかく俺の光源氏計画は、はかどっている。


「アルちゃん僕も魔法使うから見て。」


 俺の手が湿り気を帯びる。手汗程度に水を出した。


「やっぱりガズは私が守ってあげないとね。でもガズも頑張るのよ。英雄になるんでしょ。」


「うん、が、頑張ってアルに追いつくよ。僕は英雄になるんだ!」


 2年前から練習しているので、本気を出せば1リットルぐらいの水を出せるがアルの前では出さない。アルのやる気が無くなると困る。俺がポンコツでないと、アルの俺を守るというモチベーションが維持できなくなるのではと危惧している。俺は英雄になると大言壮語しながらも、幼馴染の女の子に守られているというポンコツポジションを確保している。正直、俺の承認欲求とプライドが37歳児としての本領を発揮させようとするが、これはひとつの仕事なのだと割り切り頑張ってポンコツしている。これはパーティーの能力向上を左右する大事な仕事だ。俺がポンコツである限り、アルの能力は向上し続けるだろう。俺は密かにポンコツチートと名付けている。


 魔力をある程度使えるようにはなったが、今のところ戦闘で利用できそうな魔法は使えない。俺はファイアーボール的な奴を撃ちたくて仕方ないので色々試行錯誤しているがどうも上手くいかない。せいぜいバーナー程度の火を出せるぐらいだ。それも身体の表面からしか出せないので、上手く使わないと火傷を負う。運良く対象の真下に潜りこめれば攻撃に使えるかもしれないが現実的ではない。加護ポイントを使う手もあるがポイントが全然たりない。そもそも使わなくても習える可能性があるものにポイントを使う気になれない。


 村一番の魔法使いの爺さん”畑の錬金術師”(俺が命名)に魔法の使い方を聞いても頭の中でイメージしろと言うだけだ。ちなみにこの爺さんは魔法攻撃ができるわけでは無い。畑を耕せる。両手のひらを地面にくっつけて魔法を使うことで、結構な範囲の地面が耕される。圧倒的な農家力でノー火力である。


 つまるところ、うちの村にはまともな魔法使いがいない。そんな魔法が使えたら田舎で農家をやるわけがないのだ。魔術書等があれば良いのだが少なくともうちの家にはない。あったとしても俺は簡単な読み書きしかできないので、専門書が読めるとも思えない。ちなみに、書籍類はある程度普及している。高価ではあるが貴族様しか買えないほどではないらしい。うちの家にも童話集ぐらいはある。


 まぁでもあと十数年あるし気長にやろうと思う。明日やろうは馬鹿野郎だと、上司が言っていたな。懐かしい。何もかもが懐かしいが、地球のことは忘れよう。この紫色の空が俺の故郷(ホームタウン)なのだ。

今回はメインヒロインの婆さんを出せなかったので、次回は婆さんを活躍させます。

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