4. で、あんたら何になりたいの?早く決めてね
ぼくはユーチューバーになりたい!
英雄候補が人派とゴブリン派に分断されてしまったことを知ってか知らずか、卑弥呼様がイーガルンドの”人”について説明し始めた。
「イーガルンドでは地球における人類以外に、同等の知性をもった人型の生物がいます。それらを総称して"人族"と定義しています。具体的には、ヒューマ、エルフ、ドワーフ、パンタル、ドラゲンの5種が存在します。皆様には、そのうちのどれかに転生して頂きます。しかし、一極集中することで自然災害等により全滅などと言う事になっては話になりません。従いまして、各自の種族は重複しないように決定してください。また、各種族の特徴は以下のとおりです。
ヒューマ:いわゆる”人”。最も人口が多い。
多様性があり居住地域によって性質が異なる。
エルフ :細身で耳が尖り美しい容姿。魔法の扱いに長ける。
自然を愛し、プライドが高い。寿命はヒューマの2倍程度。
ドワーフ:背丈が低く筋肉質で頑健な肉体をもつ。
手先が器用でモノづくりに長ける。
頑固。寿命はヒューマの1.5倍程度。
パンタル:ネコ科の動物が人型になったような容姿。瞬発力の高い肉体をもつ。
五感が鋭い。性格は奔放。寿命はヒューマと同程度。
ドラゲン:龍が人型になったような容姿。強靭な肉体を持つ。
龍の末裔を自称し他種族を見下している。
寿命が最も長く、ヒューマの2倍程度。
以上です。ただし、このような傾向があるというだけです。例えばドワーフよりも筋肉質なエルフがいないわけでは無いそうです。みなさんでご相談のうえ、ご決定ください。それではどうぞ。」
ヒューマの多様性って肌の色とかのことかね。それにしても、人口が多い以外の取り柄ないじゃん。これだと、他の下位互換にしか思えないんだが。でも人口が多いってことは何かしら理由があるから繁栄しているってことだよな。でも貧乏人の子沢山で、少数のドラゲンに多数のヒューマが支配されているとかもありえるな。考えると不憫になってきた。考えるのはやめよう。
さっきみんなで話した流れだと、神内先輩がエルフ、京極先輩がドワーフ、鏑木くんがパンタルになるのかな。じゃあ俺はドラゲンに決まりじゃないですか。強靭な肉体と長寿、これは勝ち組ですわ。みんな俺のために最強種族を残してくれてありがとう。ついに馬鹿にされる側から馬鹿にする側にまわれるのか。これが異世界名物成り上がりってやつなんだな。イーガルンド行きを推してくれてありがとう高橋。この恩は忘れんぞ。
「さぁどうしましょうか。ジャンケンして勝った人から選んでいくとかどうでしょうか?」
「そうっすね。それが後腐れなくて、良いんじゃないっすか。」
「そうだな、ここで揉めても面倒だからな。」
「あ、えっと、私は一応それでかまいません。」
ジャンケンの結果、1番 鏑木、2番 神内、3番、京極、4番 俺、になった。まぁどうせやる前から決まってるようなもんだし、俺は何番でも構わないんですけどね。フヒヒ。
「それじゃあ、自分はドラゲンにします!」
「あー私も狙ってたのに~。ドラゴンの末裔ってロマンがあるわよね。」
「オレも狙ってたんだがなぁ、仕方ねぇや。」
おやおや、様子がおかしいですねぇ。私がドラゲンのはずでは?鏑木くんの主人公補正でジャンケンに勝ってしまったのは許しますが、ドラゲンを選んでしまうのは許されませんよ。鏑木くんは獣人サンダーライ〇ーのはずでは?こういう子供のワガママは絶対に認めませんよ。ここは大人の私がビシっと言ってやらないといけませんね。
「あ、あれ?鏑木くん、さっき獣人になりたいって言ってませんでした?あの、そのパンタルとか一応それっぽいけど良いんですか?」
「いや~強靭な肉体に長寿って最強じゃないっすか。それに自分は犬派なんでパンタルは無いっすね。」
「あ、そうなんだ。そそ、それならいいんだけどね。いや、なんとなく意外だったからね。」
完全に俺のドラゲン無双終わった。何が成り上がりだよ。夢みさせやがって。とりあえず高橋は許さねぇ。みんな持ち上げてから落としてくるよな。俺の心を折って何が楽しいってんだ。俺の心は繊細なんだからもっと丁寧に扱えよ。ここにはチクショウしかいねぇのか。みんな死んだ時に優しさを置いてきちゃったんだな。優しい心をまだ保ってるのは俺だけか。悲しいね。これだから幽霊どもは嫌なんだ。
「わたしは、エルフにする。エルフの美人魔法使いになっちゃう!」
なにが美人魔法使いだよ。調子乗んなよ。魔法使いじゃなくて魔眼使いだろ。その怖い目つきで何人殺してきたんだよ。クソ!
「じゃあ、オレはドワーフだな。」
”じゃあ”ってなんだよ。仕方なく選んだみたいじゃねぇか。ドワーフに謝れよ。ドワーフにさせてくださいお願いしますだろうが。立場わきまえろよ。チクショウ!
「あ、あとは私だけですか、ヒューマかパンタルですか。ちょ、ちょっとだけ考えさせてください。」
「山田さん、ゴブリンが無くて残念なのはわかるけど、気落ちしちゃだめだぜ。」
もう俺のゴブリンキャラは覆せないところまできたってのか!?ゴブリンなんざクソほども興味ねぇんだよ!いや、ゴブリンの事を考えるのはダメだ。冷静になれ俺。落ち着いて考えよう。まず、パンタルがヒューマの上位互換なのは間違いない。だが猫耳だ。猫耳の男に需要はあるのか?いや、いつでもモフモフできるメリットを考えれば猫耳ぐらい我慢できる。いや需要とかの話ではない。強さが重要なんだ。そう考えれば、自ずと答えは決まる。パンタルだ。しかし待てよ、そもそも猫耳だけで済むのか?人の身体に猫の頭が乗っかってるパターンもあり得る。そのパターンは不味い。異形すぎる。街中で目立つ。フードを被っても鼻が突き出る。仮面もかぶれない。とにかく目立つ。目立ちすぎる。目立つのはダメだ。俺の精神がすり減る。もはや日常生活に支障が出る。となると、もうヒューマしかない。一番人口が多いのだから目立たないし無難だ。無難なのは良い。ノーリスクノーリターンだ。きっとドラゲンも人間の身体に龍の頭が乗っかったトカゲ人間に違いない。そう考えれば諦めもつく。素晴らしい。俺は天才だ!よしヒューマにするぞ!
「あ、あの!ヒューマにします!」
「みなさん、決められたようですね。それでは今から魂をイーガルンドにお送りいたします。イーガルンドの受け入れ担当者から、別途説明があると思います。では、よい人生を。いってらっしゃいませ。」
「えっもう出発するんで…………」
急に目の前が真っ白になった。有無を言わさぬ強制転送だった。
山田、イーガルンドへ死出の旅