3. 転生者同士でお話してみた
あっさり自己紹介
卑弥呼様は投げっぱなしで、会議室からログアウトされてしまった。
「皆さん色々と思うところはあるかもしれませんが、それぞれ自己紹介しあいましょう。次の世界でもお世話になるわけですからね。それでは、わたしから自己紹介させていただきます。」
神内さんが早速仕切りだした。できる女である。流石、俺が見込んだだけはあるな!
「わたしは、神内桜子です。生前は、商社に勤めていました。仕事が楽しすぎて、うっかり過労死しちゃいました。てへっ。ちなみに33歳独身で~す。趣味は海外旅行です。もちろん英語は得意ですよ。よろしくお願いします。」
目つきが怖いが茶目っ気はあるらしい。仕事が楽しすぎて過労死とかいうところに戦慄したが、見た目よりも感じの良い人の様だ。そして年上だった。完全に年下だと思っていた。騙された。みんなすぐ俺を騙そうとする。誰を信用していいのかわからない。つらい。
「じゃあ次はイケてる高校生に自己紹介してもらおうかな。」
「はい!自分は鏑木京次、17歳っす。踏切で転んじゃったお爺さんを助けようとしてたら巻き込まれて死にました。高校ではテニス部で部長やってたっす。悪い神を倒すために頑張りますよ!いやーまさか自分が異世界転生するなんて思ってもみなかったっすよ。魔法とか超楽しみっすね。チートなスキルがもらえないのが残念っすけど。」
細眉まさかの善良だった。しかもテニス部の部長。さぞかしモテたんだろうな。二重だし。鼻筋も通ってるし。身長高いし。初対面でも物怖じしないし。若くて責任感があって善良って細眉の事だったのか。こいつが主人公か。なるほどな。死ねばいいのに。小悪党枠だと信じていた細眉が、まさかの主人公という裏切りに俺は激おこですよ。お前ひとりで倒しに行けよ。チクショウ!
「わかる。魔法使ってみたいよね。エルフとかいるのかな。年甲斐もなくわくわくしてきちゃった。えっと次は渋いおじさんどうぞ。」
「おう、オレは京極伊織、54歳だ。町工場を経営してたんだが、倒産しちまって借金まで背負っちまった。せめて嫁と二人の娘に迷惑かけたくなくて、保険金を受け取ってもらおうと自殺しちまった。褒められたもんじゃないが、今さら後悔してもしかたない。次の世界じゃ、みんなに笑って見送ってもらえるような人生を送るつもりさ。そのためには神様だって何だって倒してやるさ。ファンタジーはドラゴンク〇ストぐらいしか知らないがやってやるだけさ。」
「大変だったんですね。わたしも自分を追い込みすぎて死んだんだから自殺みたいなもんですよ。あまり自分を責めないでください。一緒に頑張っていきましょう。」
なん……だと……同族だと思っていた京極先輩が既婚者で娘が二人だと!しかも思ったよりも前向きで気さくなおっさんだった。もっとジメジメしろよ。それに何がドラゴンク〇ストしか知らないだよ。チェーンソーとか言ってたじゃねぇか。これは酷い手のひら返しですわ。仲間だと信じ込ませてから後ろから刺すタイプの一番傷つくやつだわ。お前ら3人で寄ってたかって俺を騙しやがって。絶対に許さんからな。お前ら3人で神様倒せよ!俺は草葉の陰で見守っててやるからな!神様倒すなんて怖い事できるわけないだろ。マジで頑張ってくださいよマジで。
「それじゃ最後は、ゴブリン?のお兄さん」
「ご、ごぶ…えっと、あの、え~ゴブリンの山田和仁と申します。いやえっとちがう、えっとゴブリンではないです。一応、電機メーカーに勤めてました。30歳です。え~あの、仕事が辛くて電車に飛び込みました…」
「…………」
「……ん~と、ゴブリン?についてすごく興味もってたけど、あれはどうして?」
気まずい……完全に気を使われている。一瞬で、場が凍り付いた気がする。しかし、やるじゃないか神内桜子。上手く会話を続けようとしている。流石、俺が見込んだだけはあるな!お前の妹を紹介してくれてもいいぞ。
「えっとですね。一応、ファンタジーの世界って聞いたんで、ゴブリンになれるならなりたいなぁ、なんて思ったりしてたんですよ。」
「ゴブリンって、よくわからないんだけど妖精とかなの?」
神内先輩はよくわかっていないようだが、鏑木くんと京極先輩は明らかに引いている。ドン引きである。
「桜子さん、ゴブリンっていうのはファンタジーでよく出てくるで緑色の肌の醜い小鬼のモンスターです。男は殺して、女は巣に連れ帰って乱暴するような酷いモンスターです。」
鏑木くんが変な入れ知恵ををしたせいで、神内先輩が俺の事を汚物を見るような目で見始めた。ヤバい。早くもパーティ崩壊の危機だ。始まる前から終わってしまう。それに鏑木くんが神内先輩のことをサラッと名前で呼んでやがる。距離の詰め方が早すぎじゃないですかね。もっと探り探り行きましょうよ。俺みたいな陰キャが付いていけるペースで仲良くなってもらえませんかね。ホント頼みますよ。
「あ、えっといや、違うんですよ。ゴブリンのゴブ太郎になってですね。そ、それから一応、お供を連れてオーガを倒してゴブリーヌと結婚するんですよ。だ、だから大丈夫なんです。」
「ちょっと何をおっしゃっているのか理解しかねますねぇ……」
「山田さん超ヤバいっすね……」
「価値観は人それぞれだからな、オレからはなんとも言えねぇな……」
相変わらずみんなドン引きである。冷や汗が止まらない。お家帰りたい……
なにが違うのか、なにが大丈夫なのか。言った自分でもよくわからない。ゴブリンになりたいと言ったことを否定すべきだった。悪手を打ってしまった。そもそもゴブリンがオスしか居ないみたいな風潮を作ったやつが悪い。ゴブリーヌはメスだぞ。人の嫁をオスにするんじゃないよまったく。これ以上ゴブリンについて考えるのはやめよう。またボロがでる。何とか話題を変えよう。
「えっと、あのさっきエルフとかの話が出たじゃないですか。その、も、もし普通の人間以外になれるとしたら何になりたいですか?」
「わたしは、さっき言った綺麗なエルフになりたいかな。」
「自分は、獣人になりたいっすね。狼みたいに素早く走り回って敵を翻弄するようなのがいいっす。」
「オレはよくわかんねぇけどドワーフつうの?職人みたいな奴がいいね。モノづくりが好きだからな。山田さんはゴブリンだよな……まぁそのなんだ頑張れよ……」
話題は変わらなかった。
結局、俺はゴブリンなんだなぁ。肌が緑色って新緑の季節を思い起こさせて風流ですよね、と無理やり持ち上げようかと思ったがやめた。墓穴を掘るだけなのは俺でも何となくわかる。俺は孤独なゴブリンなのさ。さすらいの一匹ゴブリン イーガルンド編だ。
そんな生暖かい雰囲気の中、卑弥呼様が会議室にログインなされたのだった。
特に掘り下げないスタイル