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29. ゴブリン探検隊

結界の外にたんけんだー

 そんなわけで、ロアンをナーシル先生に押し付けるべく神殿に足を運んだ。


 待ち構えていたかのように先生が神殿の前に立っていた。恐らく、昨日の話から俺がロアンを神殿に連れてくるのを待っていたのだろう。先生はやはり真面目な堅物だ。だけど、笑顔だけは忘れていない。俺はあれが作り笑いだと知っている。口角を挙げて目を細めているだけなのだ。俺をいじって遊んでいる時とは違う顔だ。


「先生、この子が例の都会っ子です。名前はロアンだそうです。」


「やぁ、君が王都から引っ越してきた子かい。ガズ君に目をつけるなんて見る目があるね。彼はきっと将来大物になるからね。」


 先生が唐突に訳の分からないことを言い出した。嘘くさい笑顔で何を言い出すんだ。冗談でも辞めて欲しい。


「はい? このゴブリンが大物になるって言うんですか? オーガにでもなるって言うんですか?」


 言ってる内容はともかく、ロアンも敬語使えたんだな、と変なところに感心してしまう。


「そうだよ、必ず大物になるよ。」


 ちょっと待てや。マジで先生は急にどうしたんだ。


「このゴブリンに何ができるって言うんですか。魔物を倒せるっていう噂ですけど、怖がって結界の外に出ようともしないですし。」


 お前が居るから出ねぇんだよ。と、心の中で抗議するものの、口には出さない。口に出すと面倒なことになりそうだからだ。だいたい女子に口喧嘩を挑むのは愚策だと30年前には学んでいる。俺は同じ愚は二度おかさない。やはり俺は賢い。


「ガズ君、彼女を森に案内してあげなよ。それで、カッコいい所を見せてあげれば良いじゃないか。」


「はぁ? えっちょ、ちょっと先生なにを言っているんですか? 結界の外に子どもだけで出ていくなんて有り得ないですよ。」


 マジで、死人が出るぞ。良いのか先生。不愉快な奴は、森でこっそりと抹殺しろと言う事なのか? 先生が何を考えてんのかさっぱりわからん。


「だってさ、結界の外も案内してよ。あんたが魔物を本当に倒せるのか見させてもらうから。」


 完全に、俺はロアンの下に位置付けられてしまっている。もうどうしようもない。なんでこうなるんだ。これが陰の者とパリピの差なのか。こいつがパリピなのかどうかはわからないが、俺は陰の者だ。クラスの隅っこで地味地味している人間だった。もう染みついているから仕方ない。今さらどうこうしようと言う気も起きない。本気を出せばワンパンで沈められると言う心の余裕が、ぎりぎりで俺の心の平衡を保っている。


「はぁ、まぁ、その良いですけど、死んでも知りませんからね。」


 もう俺から言えるのはこれだけだ。口答えは許されない雰囲気になっている。とりあえず、死んでも俺の責任ではないと保険をかけておくことしかできない。


 こうしてロアン隊長率いるゴブリン探検隊が結成された。隊員はロアン隊長とゴブリン隊員、以上だ。心もとない事この上ない。先生は何がしたいんだ。訳が分からない。英雄に成るための試練だとでも言うつもりなのだろうか。俺は死んでも蘇るから最悪なんとかなるけど、ロアンは死んだら生き返らない。また、俺のトラウマが増えてしまいそうで不安しかない。


 先生は笑顔で俺たちを送り出してくれた。笑顔で子供を死地に送り込む先生はサイコパスなのではないだろうかと不安になる。サイコパスなアナーキストとか、どこに需要があるんだ。


 送り出すときに先生は、本当の笑顔を見せながら俺に耳打ちしてきた。


「これでうまい事やれば、ロアン君もガズ君に振り向いてくれるよ。」


 はい? 先生はどうやら、俺がロアンに対する悪口を言うのは、気になる女の子に意地悪したくなる心境だと勘違いしているらしい。とんでもない勘違いだ。俺はガキには興味が無い。あと10年たってから出直してきて欲しい。


 仮に気になっていたとしても、気になる女の子を死地に連れ出すなんてことは絶対にしないと思う。先生は完全にサイコ野郎だ。先生の属性がどんどん増えていく。精霊の声を聴くことができて、笑顔で子供を死地に送り出すサイコなアナーキスト、と言う、その笑顔からは想像できないヤバい奴になってしまった。ただの堅物であってほしかった。俺の育成ミスなのか?


 もう何が何だかよくわからないが森への探検が始まってしまった。

人の心がわからぬのだ……

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