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25. お察しください

遠回しに断ろうとしたら、退路を断ってくる奴が一定数いる

「あんたがガズでしょ?大人たちはみんなあんたのことをゴブリンだって呼んでる。スヌオル村のゴブリンだって。」


「えっと、たしかに私がガズですけど、ヒューマじゃないかなと思っていました。えっとそのよくわかりませんが、ヒューマだと思って生きてきてしまいました。」


 私はヒューマだと思って生きてきてしまいました。大変申し訳ありません。

 みんなが言ってるなら、やはり俺はゴブリンなのだろう。俺の認識がどうだろうと、みんなが言っていることが正しいのだ。俺は自分のことをヒューマだと思い込んで生きてきたゴブリンなのだろう。とんだ道化野郎だ。村の皆も早く教えてくれても良かったのではないだろうか。皆は俺が傷つくと思って気を使っていたのだろうか。そんな村人たちの優しさを、この少女は土足で踏みにじったのか。幼い顔して、外道にもほどがある。妙に馴れ馴れしい喋り方と言い、イライラする。殺すか。面倒だし殺すか。ここで殺しておくか。人間を殺すことが魔物の性癖なのだ。俺はゴブリンなのだから、何も間違っていないはずだ。神もそれをお望みだろう。


「ゴブリンは、ただの渾名。あんたがゴブリンじゃないなんて、見たら分かるし。あんた、もしかしてわたしのこと馬鹿にしてる?」


「は、はぁ、えっと、その、ゴブリンて呼ばれてるのを知らなかったもので。えっとなんでゴブリンなんて渾名がついているのかよくわからないんですけども。なんかすみません。」


 何故か、怒っていらっしゃる。

 なんなんだ? 俺が悪いのか? 怒りを表に出す奴は嫌いだ。こっちまでイライラする。やはり殺るか。流石に殺るのは不味いか。とりあえずTo Doリストに入れておこう。

 じゃあ、いつやるか? 今ではない。今はその時ではない。雌伏の時だ。今でしょ先生すまん。まだその時では無いのだ。その時がきたら、もう一度、問いかけてくれ。


「子どものあんたが魔物を殺して笑ってるのをみた人が、ゴブリンだって言いだしたの。それからあんたは皆にゴブリンって渾名で呼ばれてるの。わかった?」


 そもそも皆が呼んでるの皆って誰の事なんだよ。馬の骨どもか? 田舎者だと思って馬鹿にしてやがるのか? あいつら一人ずつ魔物に食わせるか? 陰口を叩かれるのは嫌いだ。人生は舐められたら終わりだと言うのが、前世の結論だ。常にマウントをとり続ける必要はないが、少なくとも対等でなくてはならない。舐めた態度をとる奴は許してはいけない。前世の俺は舐められっぱなしだった。今は違う。その気になれば物理的に黙らせられるだけの身体能力がある。

 それよりも、こいつの目的はなんなんだ。煽りに来たのか?


「あ、あの、なんとなくわかりました。それで、そのゴブリンに何の御用ですか。」


「随分おどおどして、私のことを怖いとか思ってるの?こんな田舎に引っ越してきて退屈すぎるから、村でも案内してもらおうかと思ったのに、変な奴に声かけちゃった。てっきりもっと男らしい子だと思ってたのにガッカリ。」


 明らかに俺を見下した、つまらなそうな顔をしだした。目が細まって睨みつけられているかのようだ。と言うか、恐らく睨んできている。メンチを切ってきている。俺がサルなら確実に小競り合いが始まっている。なぜこいつが刃物を腰に佩いたゴブリン野郎に強気な態度をとれるのかわからない。自分に危害が加えられるわけが無いと言う謎の自信があるのか。それとも、性善説を信じているのか。

 もう面倒なので、話を打ち切りたい。俺の理解が及ばない人間とは関わりたくない。


「あの、なんかもう行って良いですか。」


「村を案内してって言ってるんだけど?」


 いや、言ってないし。それに頼み方ってものがあるだろ。まず、タメ口をやめろ。お前と俺は友達ではない。仮に友達であったとしても頼み事があれば、普段より丁寧な言葉を使うだろ。馬の骨どころか、ならず者だな。まともな教育を受けてきたとは思えない。

 もう俺のストレスが大変なことになっている。こいつが生きていて、世界に良い影響を及ぼすとは思えない。やはり殺るか。世界のためだ。これは世界のためなんだ。

 いつやるか? 今かな? 今なのかな? でも、流石に人を殺すのは不味い気がする。”むしゃくしゃしてやった、今は反省している”では済まされない気がする。恐らく俺も世界のために死刑になるだろう。まぁ生き返るんだけどな。このことは、とりあえず保留だ。今でしょ先生ごめん。


 ともかく案内の話は無しだ。


「あの、いや、案内ですか、ちょっと難しいですねぇ。」


「何が難しいの?早く案内してよ。」


 案内したくないって言ってんだろうが。いや、言ってないか。


「いやぁ、知らない人について行っちゃいけないって言われてるんでぇ。」


「はぁ?あんたが付いていくんじゃなくて、わたしがあんたに付いていくんだけど。」


 ならず者のくせに、頭が切れるな。


「いやぁ、今日は時間がないんでぇ、難しいですねぇ。」


「じゃあ、明日ね、明日のこの時間に集合ね。わかった?」


 察しろや! 俺の案内したくない気持ちを察しろや! 空気読めや! なんで勝手に決定してんだよ。明日も、無理かもしれないだろうが。

 クソ! とりあえず、明日だけ我慢してやろう。


「はぁ、わかりました。明日ですね。」


「じゃ、また明日ね。」


 そういうと、彼女は身をひるがえし長屋の方に足早に去って行ってしまった。お下げを尻尾のようにゆらゆらと揺らして歩いていく。その態度とお下げが猫を思わせる少女だった。


 そういえば、彼女は名乗りすらしていない。俺は腹立たしい気持ちを抑えながら、なんとなしに神殿に向かった。

命の重さが軽くなっている。山田にいろいろありすぎた。

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