24. 俺の土地か? 欲しけりゃくれてやる!
開拓王に俺はなる!
なんやかんやあって年齢もレベルも上がっている。レベルが上がっているという事実が、何となく向上心を発揮させる。年を食ってる割に何もできないと言う、悲しい大人にならずに済むと言うことがわかるからだ。森にいる大抵の魔物も一人で殺せるようになった。このまま頑張っていれば
『先輩、何年この仕事やってるんすか? 逆になんならできるんすか?』
なんて悲しい言葉を聞かずに済むだろう。これは人の精神を壊す禁忌魔法だ。常人が扱うことは許されない。ちなみに俺はこの禁忌魔法を行使されて電車に飛び込んだのではない。俺のあずかり知らぬところで行使している不心得者が居た可能性もあるが、俺の耳に入らない限り行使していないものと見なしてよい。観測して初めて存在が確定されると物理の先生が言っていた。正確な意味は知らないが、俺が知覚していないことは、この世に存在しないのと同義なのだと都合よく解釈している。
ともかく、俺は無能なおっさんと言う悲しい人種にならなそうだ。とにかく希望に満ちた未来があるのだ。無能なおっさんは誰にも同情されない。無能なおっさんは誰にも支援されない。ただただ、無能であることを責められる。自己責任だと責められる。こんな悲しい人種はいない。不憫で仕方がない。
だが俺は違う。そう思うと俺の人生は綺羅星のごとく輝いているように思える。自分より下が居ると言う事が俺の心に安寧をもたらす。無能なおっさんは俺の癒しだ。自由とか言う地平線の彼方まで何も見えない薄暗い荒野を進もうとする俺のオアシスなのだ。数年前まで、心のオアシスが別にあったような気がするが気のせいだ。そんな存在はいなかった。アルなんて存在は最初からいなかった。俺の不安が生み出した偶像だ。形而上の幼女だ。壁に向かって会話していたようなものだ。俺はそんな存在は知らない。知らないったら知らない。知らないということを知っている。無知の知だ。
迷走し始めたが、とにかく俺は成長しているということを報告したかっただけだ。何となく考えておくだけでシーウォや神様に伝わっている気がする。報連相だいじ。
最近、スヌオル村近郊の開拓事業が行われている。勉強し始めてわかったことだが、スヌオル村はカサラヒ王国の南端に位置している。この村から南には、広大な樹海が瘴気吹き出すザイヌン山脈の麓まで続いている。人類未踏の地と言うわけでもないが、少なくとも生存圏ではない。その樹海を開拓しようという国家事業が始動したらしい。樹海は魔物が跋扈する世界だが、あえて開拓に挑もうというのだ。ラーウィー大陸の土地を分捕るという手段をとって痛い目にあった過去の反省から、政府のドクトリンが変わったらしい。魔族以外が住めないダッカリア大陸を開拓してしまえば、他国から干渉されることなく国土拡大が可能だということだ。そもそも海の向こうに領土を持つより地続きの領土の方が維持管理がし易いのは当たり前なのに、それでも昔の人はラーウィー大陸に領土を持ちたかったのだから相当に魅力的な土地なのだろう。ラーウィー大陸に渡ることが少し楽しみだ。俺が前向きになるなんて珍しい。
男たちは未開拓地を目指し夢を追い続ける、世はまさに大開拓時代――。
そんなわけで、海のものとも山のものともつかぬ、どこぞの馬の骨どもが村に流入してきている。それに屯田兵も派遣されてきている。仮設ながらも木製の長屋が立ち並び、一家族一部屋が与えられている。単身者はタコ部屋らしい。複数人の男が一つの部屋から出入りしているのが見られる。きっと一日の作業を終えた後は、男同士の夜の大格闘大会、くんずほぐれつポロリもあるよ、が開催されているに違いない。想像しただけで心が乾く。これはいけない。
どこぞの馬の骨と言うが、スヌオル村が最南端なのだから、馬の骨のほうが都会人であるのは間違いない。なにがそんな都会人たちを開拓に駆り立てるのかよくわからない。確かに土地は豊からしいし、山脈から流れてくる水資源も豊富なので農業には適している。ただ、死ぬほど魔物が居る。結界の外に出ると死ねる。運が悪いとかそういうレベルで片づけられないぐらい死ねる。そんな危険を顧みない彼らのフロンティアスピリッツには脱帽だ。もしかしたら、その危険度を知らずに来たのかもしれない。まぁ彼らが死のうが夢破れようが俺には関係ない。
ところで開拓予定地で魔物を狩って屯田兵の詰め所に持っていくとお小遣いがもらえる。ゲームだと魔物を倒すとお金を落としたりするが、きっとこういう仕組みなんだろうな。近頃は巨大ウサギやら巨大リスやらを狩っては詰め所に持って行っている。ただし、狼てめぇはダメだ。てめぇだけは野ざらしだ。狼が俺の前に現れたら死ぬのが自然の摂理なのだから、それでお金をもらったら自然から逸脱してしまう。神のご意思に反するような真似はできない。俺は信心深いのだ。
今日も狩りに出かけようとしたところで、声をかけられた。どうも年のころは俺とそう変わらないように見える10歳前後の女の子だ。ひっつめ髪で富士額が目立っている。一重瞼に三白眼で一見猛禽類のように見えるが、涙袋が可愛らしい。瞳はもちろん深紅で、肌はダークグレーだ。頬がぽっちゃりしていて幼い顔立ちの児童だ。
「あんたが、ゴブリンのガズね。わたしとそんな変わらない歳みたいだけど、ホントに魔物なんて狩れるの?」
「え、あの、え、ごぶ、ゴブリン? なんの話でしょうか。よくわからないのですが。」
ゴブリンってなんだ? この世界にもゴブリンはいるのか? 俺がゴブリンなのか? ヒューマでは無かったのか? どういうこと? ヒューマだと思ってたけど実は違ったパターンなの? 見た目はヒューマなんだけど、俺がヒューマだと思い込んでるだけ? 俺は産まれてこの方ずっと勘違いしたまま生きてきたのか? シーウォの手違いか? あいつの手違いで俺はゴブリンになってしまったのか? 異世界転生したらゴブリンでしたパターンか? 俺が知らない間にゴブ太郎伝説が始まっていたのか? ゴブリンの村を作って人間と仲良くする感じのストーリーか? そもそもスヌオル村はゴブリンの村だったのか? ゴブリンたちを教化するためにナーシル先生は派遣されて来たのか? 野蛮なゴブリンどもに農業を教えたのもナーシル先生だったりするのか? 婆さんが豹のように俊敏に森を駆けるのも、俺が子供ながらにスラムダンクできそうなほど跳躍できるのもゴブリンだからか? レベルのおかげだと思っていたが勘違いか? すべてはゴブリンに帰結してしまうのか? 俺がゴブリンになりたいと考えてしまったからか? あれはちょっとした思い付きだったんだが? マジにとらえられると困るんだが? 俺はヒューマになりたいって宣言したよね? どういうことなの?
謎の児童から、謎の問いかけを受けて俺のシステムはダウンしてしまった。不正な入力に対して、例外処理しないポンコツマシンの本領発揮である。
謎の少女登場
死神山田の新たな被害者となるか、それともヒロインとなるか




