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2. 転生合同説明会に参加した

合説に行ったら、質問してアピールしよう。

 通された会議室らしき部屋には既に4人が座って待っていた。スーツでバシッと決めた卑弥呼様みたいな髪型の怪しいおっさん。禿げた作業着のおっさん。目つきが怖いスーツの女。眉毛の細い男子高校生。


 みんなの視線が俺に集まる。俺を見るな。注目されると顔が真っ赤になっちゃうだろ。居心地の悪さを感じながらも、とりあえず席にすわると卑弥呼様が説明をはじめた。


「どうもお集まりいただきありがとうございます。転生庁 極東支部長の秦と申します。これからイーガルンド転生についての説明をさせていただきます。よろしくお願いします。」


 支部長自らのお出ましである。どうでもいいが、卑弥呼様は意外にもパワーポイン〇を使いこなしていた。ライセンス関係は大丈夫なのだろうか。


「皆さんが転生される予定のイーガルンドは、およそ20年後に神域より悪神がくだり、支配されてしまう予定です。そこで皆様にはイーガルンドに転生していただき悪神を倒す英雄候補となっていただきます。」


「悪神に支配されてしまう予定?予定ってどういうことです?」


 すかさずスーツ女が食いついた。その横で細眉高校生がニヤニヤしている。おっさんはポカンとしている。俺はゴブリンしか頭にない。


「そういった点につきましてもご説明いたしますので、まずは最後までお付き合いください。」


 スーツ女の食いつきをいなす卑弥呼様。不満げなスーツ女。ニヤニヤな細眉。ポカンなおっさん。ゴブゴブな俺。不穏な雰囲気のまま説明は続いた。


 長々と説明されたが、話の内容は以下の様だった。

・イーガルンドの神様が目を離している隙に何者かによって神域とイーガルンドが繋がれてしまった。

・その結果、悪神が下界に降りイーガルンドが支配されかけた。

・イーガルンドの神は慌てて神の力で20年ほど時間を巻き戻した。

・緊急事態だったため具体的にいつどこに悪神がくだるかは不明である。


 目を離した隙に支配されそうになっちゃった、ってずいぶんうっかりさんだな。神様ぐらいになるとちょっと目を離た隙にの、”ちょっと”が10年ぐらいだったりするのだろうか。うっかりしちゃうところに若干の親近感を覚えた。ただ”20年ほど”ってなんだよ。あやふやすぎるだろ。


「なるほど、なので予定ということなのですね。質問が3つほどあるのですが、よろしいでしょうか。」


 説明後、間髪を入れずスーツ女が手を挙げた。手がピンとまっすぐ上に伸び背筋も伸びて姿勢が良いので様になっている。仕事ができるのだろうと感じさせる。しかし目つきが怖い。彼女も若くして亡くなっているのだ。つらい過去でもあるのだろうか。まぁ俺には関係ないけどな。


「神内さんどうぞ」


 あのスーツ女は神内って言うのか強そうな苗字だな。苗字コンプレックスをくすぐられる。


「まず1つめに、なぜイーガルンドの人ではなく我々地球人が転生して悪神を倒す必要があるのでしょうか。イーガルンドの人に神託等で英雄になってもらうことはできないのですか?

 次に2つめ、神様を倒すということがそもそも可能なのでしょうか?どうみても皆さん一般市民です。少なくとも私は戦う力などもっていません。

 最後に3つ目、ここにいる人たちは全員日本人のようですが、何か意図があって集められているのですか?また送られるのはこの4人だけなのでしょうか?多ければ多いほど良いと思われますが?以上です。」


 なんでそんなすぐにたくさん疑問点みつけられるの?頭いいの?キャリアウーマンなの?早速、頭角を現すのはやめてもらえませんかね?俺なんかイーガルンドが大変!頑張らなきゃ!ぐらいしか考えてなかったのに。あと目つきが怖い。


「まず1つめにつきまして、イーガルンドの神は時を巻き戻したことで力を使い果たしてしまったという背景があります。普通の人間では悪神を倒すことは難しいので、加護を与えた魂から英雄を生み出すことで確実性を高める必要があります。しかしながら、イーガルンドの神には魂に加護を与える力が残されておりません。そこで、我々地球の神に依頼されたようです。加護を与えた魂をイーガルンドに送ってくれと。地球の神はここ数千年、世界を静観するにとどめ神の力を使うことがなかったため力がありこの願いを聞き入れたのです。」


 ”慌てて時間を巻き戻して力を使い果たしちゃいました~助けて先輩”ってポンコツにもほどがあるだろ。すげぇ親近感わくわ。もう好感度急上昇しちゃいますよ。


「次に神様を倒すことができるのかについ「チェーンソー……」……京極さん?どうされました?」


「いえただの独り言ですんで続けてください。」


 作業着のおっさんがボソッと呟いたのを卑弥呼様は聞き逃さなかった。このおっさんは神はバラバラできるものだと認識しているタイプらしい。神内さんと違っておっさんは背筋が丸まっている。そして今は気持ち悪いくらいニヤニヤしている。というか気持ち悪い。こいつは同族だ。匂いでわかる。陰キャ同士仲良くしような京極先輩。


「では続きを、悪神そのものと戦うわけではありません。何故ならば、神は神域を出ることができないからです。そもそも、神が自由に下界に降ることができるのであれば、人に倒させる必要はありませからね。悪神は何かしらの依り代に降りることになります。神そのものではないため、その力は大きく制限されます。その依り代を倒すというのが今回の使命です。とは言っても、依り代となったものは人並み外れた力を発揮します。そのため、魂に加護を与え使命を記憶したまま転生して頂きます。皆様ならば、使命を果たすために自らを鍛えあげ、きっと打ち勝つことができると信じております。」


 信じておりますって、ずいぶん投げやりだな。


「最後になりますが、日本人である理由及び4人である理由はわかりません。極東支部に対し、若く責任感があって善良な者を4名選出しろと上から指示が下ったため、あなた方4名が選ばれました。上層部で何か意図をもって極東支部を選出したのかもしれませんが、私にはわかりかねます。以上です。これでご理解いただけましたでしょうか?」


 ホント投げやりだな。わかりかねますじゃねぇよ。ちゃんと理由聞いとけよ。言われたからやりましたが通用すんのは新人だけだぞ。それに俺は責任感ないし、京極先輩は若くない。どうみても五十路を超えてる。そしてきっと細眉も善良ではない気がする。眉毛を補足してる奴は陰キャを馬鹿にしても許されると勘違いしている奴ばっかりだからな。俺の3年間の高校生活からいって間違いない。あの細眉はきっと俺のことも陰気なおっさんが遅れて入ってきたとか思ってるんだ。遅刻したくせに俺に挨拶もなしかよ!とか言って絡んでくるんだ。もうお家に帰りたい……


「ご回答いただきありがとうございました。おおむね理解できました。加護という力を与えられ悪神を倒すという使命を記憶した人間を転生させたい。しかし、イーガルンドの神に力が残されていない。そのため、地球人である我々4人が集められた、ということですね。」


「その理解で間違いございません。何か他に質問はございませんか?」


「続けてで申し訳ありませんが、我々4人だけで悪神を倒す必要があるのでしょうか?軍隊を動かすか、もしくは自分たちで軍隊を作るなど、大軍で挑めば勝率もあがると思われますが。」


 流石、神内さんだぜ。そこに気づくとは天才か。英雄=少数精鋭の固定概念が頭にあったせいか、単純なことに気が付かなかった。別に4人パーティで戦う必要は無いんだ。数でごり押しすれば良いんだ。戦いは数だよって昔の人も言ってたしな。神内さんに軍隊作ってもらって、俺は兵隊Aとしてこっそり戦おう。いっそみんなが戦ってるのを応援する村人Aになるのも悪くないな。目立つのは良くない。俺はひっそりと生きていきたいのだ。


「悪神を倒す方法は特に指定されていません。全てあなた方に委ねられています。精強な軍隊を組織するのも良いでしょう。自身を一騎当千の強者に鍛え上げ、その身一つで倒しても構いません。1人の英雄が数万の軍勢を圧倒できる神話のような世界なのかもしれません。そもそも、どういう経緯で神域とイーガルンドが繋がり悪神に支配されてしまったのかが、わかっておりません。ですので、先んじて神域と繋げようとする者を倒してしまうのも一つの手かもしれません。」


 結局、私は何も知りませんし、わかりませんって言ってるだけじゃねぇか。卑弥呼様も上から指示されたからやってるだけで、興味もやる気も無いんだろうな。そりゃ地球には関係ないもんな。そもそも上の方も乗り気じゃないのかもしれない。神様が引き受けちゃったから、ちゃんと約束守りましたよっていう形が欲しいだけなのかもしれないな。


 ダメだ疑いだすときりがない。モチベーションが下がる。やる前からやる気を無くすのは良くない。”ぼくのかんがえた さいきょうのえいゆう”を妄想してモチベーションを上げよう。すごい!強いぞ俺、神様が即死した!なんか逆に虚しくなるな。妄想はほどほどにしておこう。


「他に何か質問はございませんか?」


 よしここで社会人歴8年目の質問力を見せてやる!神内さんだけに良い格好はさせねぇぜ!見とけよ細眉!


「は、はい!えっとファンタジーみたいな世界だと聞いてきたのですが、ご、ゴブリンは!ゴブリンはいますか!?」


「ゴブ?すみません山田さん、そういったものがいるかは分かりかねます。ただファンタジーゲームのように魔法がありレベルなどの概念がある世界だと聞いています。そして能力や技能が可視化されているようです。イーガルンドの神は、神としては新しく地球のファンタジー小説やゲームを参考に世界を作ったようです。」


「あ、ありがとうございました。」


 俺的に重要な情報なのにさらっと流された……ゴブ太郎伝説は幕を開けることなく消滅してしもうたゴブゴブ……

 

 みんなが”なに言ってんのこいつ”みたいな目で俺を見ている気がする。つらい。たださっきの話だと魔法、スキル、ステータスがあるって事だな。これは重要な情報ですよ皆さん。俺の8年のキャリアが無ければこの情報は聞き出せなかったんだから敬えよ。特にそこの細眉。


「加護ってなんすか?チートで無双できるんすか?」


 出たよチートで無双とかさ。細眉、お前は家に帰って黒歴史の編纂にいそしめば良いよ。どうせ自分に秘められた特殊能力とか考えてるんだろ。学校がテロリストに占拠された時の対処法とか考えてるんだろ。わかってんだよ。俺も通ってきた道だからな。あと言葉遣い気をつけろよ。社会に出てから苦労するからな。


「加護というのは神から特別な能力を授かることです。皆さんには3つの加護が与えられます。

 1つめは、疾病に罹患しない。せっかく加護を授けたのに若くして病死なんてことになっては意味がありませんからね。

 2つめは、職業を任意に変更可能というものです。イーガルンドでは特定の職業に就くためには神殿で儀式を執り行う必要があるようです。しかし、あなた方はいつでもどこでも神に祈りを捧げれば変更できます。

 3つめは、今ここではお伝えできかねます。その時がくれば分かるとしか言えません。

 そして、チートで無双とは何でしょうか?すみませんが教えていただけますか鏑木さん。」


「チートってのは凄い能力のことっす。それで無双、他の人より圧倒的に強くなれるのかなって期待したんすけど期待外れっすね。結局、病気にならないのと、どこでも転職できるだけですか?あと3つめは何で教えてくれないんすか?」

 

 いいぞもっと言ってやれ細眉!なんで可動式ハローワークで巨悪に立ち向かえると思ったの?馬鹿なの?俺たちにどんな可能性を見出してるの?信じる者は救われるの?イーガルンドは転職無双なの?とんでもない魔法が使えるとか、聖剣みたいなのを与えられるとか、もっと何かあっただろ。病気にかからないのはすごいけど、強さと関係ないじゃないか。これなら現地人に戦わせるのと変わんねぇだろ。ついでに3つめも”その時がくればわかる(ドヤァ)”じゃないよ。教えろよ。あと細眉のくせに鏑木とかちょっとかっこいい苗字してるじゃないか。苗字がかっこいいからって調子に乗るんじゃないぞ。俺はお前が小学生のころから社会人やってんだぞ。なめんなよ。


 もはや俺のモチベーションはマイナスの領域に達してしまった。ファンタジーみたいな世界とかいう素敵ワードで心踊らされてしまったのが悔やまれる。それに加えて高橋からの無言のイーガルンド行けよ圧力があったとはいえ、迂闊な選択だった。端的に言って、こいつはヤバい案件だ。


「与えられる加護は先ほど申し上げた3つです。そして繰り返しになりますが、3つめについては、ここではお伝えできません。神の使命を果たすというご立派な志をもって、この場にいどんでいる皆様であれば、必ずや使命を果たせると信じております。

 念のため申し上げますが、転生の辞退は受け付けられません。そうですね。ここで一旦、休憩いたしましょう。その間に各自で自己紹介などをされてはいかがでしょうか。それではまた。」


 そう言って卑弥呼様は会議室を出て行った。拒否権は無かった。


 卑弥呼様が我々に寄せる信頼が厚い。厚すぎる。俺には受け止めきれない。高橋に行けって言われたから来ただけなのに。もし俺が使命を果たせなくても、イーガルンドに行けって言った高橋が悪いな。うん、俺は悪くない。全部高橋のせいだ。よし!

いつになったら転生できるのやら。

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