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18. ジャパニーズニンジャスタイル

ニンジャはロマン

 早いもので気づけば、俺は8歳となった。相も変わらず魔物を殺し、魔法の練習をして、読み書きの練習をしている。ただ変わったこともある。得物がナイフから山刀に変わったのだ。山刀もナイフの一種じゃないかって? うるせぇ、そういう人の揚げ足をとって喜ぶような奴は俺の山刀の錆にしてやる。俺の山刀は血に飢えておるのだ。ともかくニューウェポンを手に入れた。サブウェポンがナイフから山刀に変わったのだ。メインウェポンは相変わらず婆さんだ。婆さんが半殺しにした獲物を俺の得物でとどめを刺すというシステムは変わっていない。婆さんは人間兵器としての悲しい宿命を背負わされているのだ。いつか俺が一人で魔物を狩れるようになったら、婆さんは人性を取り戻すだろう。それまで待っててくれ婆さん。


 ちなみに山刀は、なんと父親がくれたのだ! 父親は無言で押し付けるように渡してきた。俺もそうだが父親も何を話していいのかわからないのだろう。不器用な男を気取っているのだろうか。男は背中で語るものだとでも思っているのだろうか。俺はちょっとばかし優しくされたからといってほだされたりなどしない。こいつのやってきたことはネグレクトだ。子育てを舐めている。こういう子供を造るというような人生の重大イベントを何の覚悟もなく行ってしまうような、甘えた奴にはなりたくない。そんなクソ野郎のくせに結婚して(死別したが)子供までいるなんて、世の中腐っている。決して俺が彼女いない歴=年齢のまま死んだから妬んでいるのではない。俺はこういう人生を舐めた甘え野郎どもを許せない性分だと言うだけだ。そう言う人間なのだ。別に妬んでなんかないもん。本当だもん。あんたに山刀なんか貰ったって全然嬉しくなんかないだからね!


 貰った山刀は、マチェットのようなものだ。刃渡りは30cmほどもある。緩いカーブを描いた刀身は飾りなど無く厚みがあり無骨な印象を受ける。切っ先は鋭利に輝き、先端部分だけ諸刃になっている。持ち手は麻縄が巻かれ、かなりのフリクションを感じる。金属製の鍔もついているので、手が滑るのを恐れることなく全力で刺突することができる。こいつは殺せる道具だ。なにをとは言わないが、完全に殺せる道具だ。こいつからは、殺意の波動が漏れ出ている。俺が親ならこんなものを8歳児には渡さない。実際、今の俺には大きくて重いので持て余してしまう。刀身が厚く重心が切っ先側に寄っているため、山刀に振り回されてしまう。危なっかしい事この上ない。自分で自分の足を切りそうになる。なので今のところ刺突専用武器となっている。もったいないが仕方がない。こいつを十全に使いこなせるようになるころには婆さんも人性を取り戻すだろう。それまで待っててくれ婆さん。


 ニューウェポンを手に入れた俺は、新しい玩具を与えられた子供のようにテンションが上がっている。魔物を殺すのも若干楽しくなってきている。前世であれば狂気に染まっていく子供として矯正が試みられただろうが、この世界では褒められることなのだ。そう言う訳で、人生に潤いが生まれた。オレ、マモノ、コロス、タノシイ、モット、コロス。


 最近は、飛び道具として投擲武器も検討している。本当は弓か鉄砲が良いのだが、家に無いのでどうしようもない。魔法で石ころを出す応用として手裏剣ライクな石を生成して投げる練習をしている。記憶頼りだが、十字型で忍者の玉子たちが使っていたようなものができていると思う。某先輩が使っていた輪っかの手裏剣にもロマンを感じるが、作るのも投げるのも難しそうなので保留だ。なぜ急に飛び道具の練習を始めたかと言うと、簡単に言ってしまえば、オレ、マモノ、コロス、タノシイ、モット、コロス、ためだ。魔物はよく言えば狂暴、悪く言えば阿呆なので攻撃されても逃げずに、こっちを殺しにかかってくる。なので、魔物に先んじて攻撃を仕掛けて、先にダメージを与えてしまおうという考えだ。それと、将来傭兵になった時(別になりたくは無いのだが)のために飛び道具が欲しいからだ。弓矢やら弾丸やら魔法やらが飛び交うであろう戦場で、一人で剣を片手に突っ込むような真似はしたくない。敵にたどり着く前に死んでしまう。この世界の戦争がどんなものかは知らないが、遠距離攻撃の手段があって損はあるまい。中二病? うるせぇ、ロマンがあると言え。それに俺は変わり身の術が使える。殺したと思っても、こっそりどこかで生き返っているのだ。元日本人としては当然のことだ。転生者はみんな変わり身の術が使える。きっと神様はこのために日本人を選んだんだろうな。間違いない。


 そして今、俺の前方には子狼が寝転がっている。こちらにはまだ気づいていない。俺の手には手裏剣。となれば、やることは一つだ。殺す。絶対に殺す。あの子狼がアルを殺した狼と関係あるかどうかは関係ない。俺は狼は絶対に殺す。絶対だ。赤ん坊だろうが、手負いだろうが、絶対に殺す。見つけ次第殺す。それが俺の使命だ。生きる意味だと言っても良い。成長した狼は、まだ無理だが子どもなら俺一人で殺せるはずだ。


 音をたてないように気を着けて、そろりと手裏剣を構える。じわじわと汗が額に浮かぶ。心拍数が跳ね上がり鼓動が高鳴るのを感じる。息を殺し狙いを研ぎ澄ます。正午の太陽は俺をぎらぎらと焼き付けている。子狼は木陰で涼やかに目を閉じている。穏やかな風が吹き、木々が揺らめいて、さらさらと音を立てる。子狼が、あふりと欠伸をした。その瞬間に、俺はふっと息を吐きながら手裏剣を投げた。


 手裏剣は子狼の前足の付け根に突き刺さった。甲高いうめき声が聞こえる。俺は子狼の方に向かって駆け出した。手裏剣は深く突き刺さったらしく、前脚一本は使い物にならないようだ。子狼は俺に向かって這いずりながら威嚇してくる。ここまで怪我を負わせれば俺の敵ではない。腰の山刀を振り抜くと逆手に持って子狼に突き刺した。深々と首に山刀が突き刺さる。


 この程度で終わらせない。俺は殺す。狼を殺す。絶対に殺す。何度も何度も突き刺した。血が飛び散り、肉が削げ、内臓があふれ出す。真っ白な骨の茎に、真っ赤な肉の花が咲き、鉄に似た異臭が立ち込める小さな地獄が生まれた。

「やってやったぞ。このクソ野郎が!」

かろうじて狼だったとわかる肉塊を前に、俺は高笑いをあげながら吐いた。


 俺は何をやっているんだ。子狼をミンチにして何が楽しいんだ。自分で自分が気持ち悪い。生きものを殺して楽しいなんてあるはずがない。しかも子どもだ。だけどアルも子どもだったけど殺された。何十年もある人生を壊されたんだ。こいつの十年程度の寿命じゃ足りない。もっと殺さないと。もっと、もっと、もっとだ。もっと狼を殺すんだ――。


 ダメだ。冷静になろう。このままだと、血の匂いを嗅ぎつけて他の魔物がやってくる。とにかく逃げよう。そうだナーシル先生のところで、本を読もう。本を読んで落ち着こう。それがいい。本を読んで本の世界に入り込もう。こんな血生臭い世界から一度離れないと、おかしくなってしまう。インクの匂いだけが漂う静かな世界に逃げ込むんだ。俺のいるべき世界はこんな血生臭い世界じゃない。もっと穏やかで優しい世界のはずだ。


 俺は肉塊をそのままに神殿に向かって駆けていった。

山田のキャラが崩壊していく

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