表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

1. いろいろあって死にました

テンプレ的なやつです。

 雑草刈りの英雄の朝は早い。夜明けとともに起きだし、まず家族で朝食をとる。午前中は祖母と森に向かい木の実や山菜、薬草などをとって帰宅し軽食をとる。そして、午後は父から譲り受けたナイフと革手袋で、村内と外周部の雑草を刈り続けるのだ。


「ここら辺は聖気(瘴気)が濃いですからね。雑草も時折、魔物化し噛みついてきたり毒を撒くようになることもあるんですよ。そうならないように雑草を刈ってしまうのが私の日課です。」


 そう言いながらも手元では素早く雑草を刈り続けていた。ダークグレーの肌、深紅の瞳、魔族と呼ばれる彼らは瘴気あふれるこの地で雑草にすら気を使い逞しく生きているのだ。


 愛想笑いを絶やさない雑草刈りの英雄だが、その顔に不安の色をのぞかせることがあった。この少年は何かに怯えているのだろうか。それを私たちが知る由もない。

 

 って、雑草刈りながら適当にナレーションつけてみたけど、実際これで良いんですかね神様。モンスター倒すどころか毎日山菜とって雑草刈ってるだけなんですけど…



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「あ、あれ?なんだこれ?」


 さっき電車に飛び込んで死んだはず。

 ぶつかったと思った瞬間に意識を失ったからよくわからないけど。

 

「マジか…死に損なったのか…」


 そもそも、ここどこだ?病院でないことは間違いないけど…

 

 ざっと辺りを見渡すとプラスチックの椅子に沢山の人が座っている。身体に感じる遠心力や揺れからフェリーのようなものに乗っているようだと推測できた。外は濃霧に覆われ薄暗く見通せない。乗客は老人ばかりで中年や若者は少ない。

 

 まったく何が何だかわからん。乗客も何だか生気を感じないしホラー映画か? 


 このままでは拉致があかないので、意を決して隣の席の婆さんに声をかけてみることにした。


「あ、あ、あの、すみません。ここはどこですか?すみません。気づいたらここに座ってて。申し訳ありませんが、ここがどこか教えていただけませんか?あのえっとすみません。」


 我ながら陰キャっぽい喋り方だなと思うが、知らない人に話しかけるのは緊張するのだ。


 婆さんは生気のない目でこちらを見つめながら優しく語りかけてきた。


「なにも謝ることは無いのよ。ここは三途の川よ。みんなであの世に向かっているの。あなたも若いのに大変ね。おいくつなの?」


 そうかやっぱり俺は死んだのか…まぁあれで生きてたら奇跡だわな。


「30歳です。」

 俺は目をそらしながら答えた。他人と目を合わせると緊張するから仕方がない。


「そう、まだまだこれからという時に残念だったのね。」

 婆さんはそう言ってから、聞いてもいない自分の人生を語りだした。


 貧しい幼少時代の思い出。夫との出会いと結婚。出産。育児。大変だった反抗期。子供が初めてのボーナスで旅行に連れて行ってくれたこと。初孫と対面したときの喜び。家族に囲まれて生活する幸せ。ガンと診断されたときの驚きと絶望。闘病生活の辛さ。支えてくれた家族の優しさ。夫を残して先立つ無念。


 途中からは感極まったのか泣きながら語ってくれた。正直、最初は面倒な婆さんだと思っていたが、俺も途中から貰い泣きしながら聞き入っていた。人生って山あり谷ありストーリーがあって素晴らしいものだと改めて感じ入った次第だ。


 ちなみに俺はブラックとはいわないグレーな企業で働いていたが、仕事が終わらないので責任を感じて自主的にサービス残業しまくった結果、ノイローゼになって衝動的に電車に飛び込んで死んだ。仕事が終わらないのも、他の人に任せるべき仕事を自分で抱え込んでしまっていたからだった。コミュ障だから人にお願いする気苦労より自分が苦労する方を選んでしまうのだ。仕事を後輩にうまく任せることもお前の仕事の一つなんだ、と上司に口を酸っぱくして言われたが無理なものは無理だった。


 そして、俺がサービス残業しまくるものだから、サービス残業があたり前という雰囲気が徐々に浸透し、グレーな職場がブラック化してしまった。しかもブラックにした張本人である俺は、さっさと死んで逃げたのだから始末に負えない。せめて俺の死を切っ掛けにみんなの目が覚めたらいいなぁ。


 そんなわけで、仕事漬けかつコミュ障な俺は結婚もせず彼女いない歴=年齢のまま死んだ。そんな俺だが婆さんの感動ストーリーを聞きながら、もしかしたら俺もこんな素敵な人生を送れたかもしれないなと、今さらながら後悔の念を抱いていた。


 せめて両親に孫の顔を見せてやりたかった。今となってはもう後の祭りだが。でも孫に関しては優秀な弟が何とかしてくれるだろう。あいつもコミュ障だが学歴だけは良いからな。


 そんなしょうもない事を考えていると婆さんは

「随分お若いけれど貴方はどうして亡くなられたのか伺ってもよろしいかしら?」

 などと爆弾をぶっこんで来た。


 孫の話とか聞かされた後に両親より先に自殺したなどと言えるわけが無い。ここは適当な嘘で誤魔化すしかあるまい。


「あ、あ、えっと急にトラックがですね、あの、そうです。通勤中に子供がトラックに轢かれそうになっていたので、こうバババっと走りこんでドンっと子供を突き飛ばしたんです。その直後にトラックにドグワチャアっと轢かれちゃいまして。気づいたらここに座っていました。あの子、ケガしてないと良いなぁ。なんて、ハハハ……」


 ここで嘘をついたところで傷つくのは俺の自尊心だけなので問題はないと思う。


 そんなこんなで、婆さんと情熱的な人生の語り合いをしているうちにあの世についたらしく、誘導係の鬼っぽいお兄さん(以下、鬼いさん)たちに従って岸に降り立った。鬼いさんに促されるまま岸から歩きつづけると、四面四角なビルディングが目にはいった。入口には【転生管理庁 極東支部】の看板が掲げられていた。


 輪廻転生って本当にあるんだなぁと感心しながら、鬼いさんの誘導に従い受付番号をもらって待合室で待つこととなった。区役所を思い出させるような内装で職員がせかせかと働いていた。


 あ~早まった事しちゃったなぁ。今更だけどやり直せないもんかねぇ。転生したら何になるんだかな。次も人間だったら、もうちょっと上手くやれる気がする。人間に生まれ変われるかどうかもわからないし考えても仕方ないな。


 マンガみたいに剣と魔法の世界に転生しないかな。いっそもうゴブリンで良いよ。ゴブリンから産まれたゴブ太郎になって、ケルベロス、イエティ、ロック鳥をお供にしながらオーガ島のオーガを倒しちゃう感じでいこう。このメンツだとお供のほうが格上感あるな。ってか俺いらない子だわ。ままならんなぁ。


 などと益体もない事を考えていると、俺の番号が呼ばれ窓口に案内された。窓口の職員はちょっと老けた鬼いさんだった。


「どうも、おはようございます。転生課の高橋と申します。山田さんですね。よろしくお願いします。」


「あ、あのおはようございます。ゴブリンのごぶ…えっとあの山田和仁(やまだかずひと)です。」


 いかん。俺の中のゴブリンが出てきそうになった。落ち着け俺、相手は高橋だ。見た目は鬼だが高橋だ。ただのモブに違いないケルベロスなら勝てる。


「ゴブ?ちょっとよくわかりませんが。少し混乱されているようですので落ち着いて聞いてください。まず最初にお伝えいたしますが貴方は死にました。」


「は、はい、存じております。」


「それは良かった。では次に、ここではあなたの魂の今後について説明させていただきます。選択肢は大きく分けて3つあります。

 1つ、完全にランダムに次の身体を決定する。

 2つ、哺乳類や爬虫類など、種を指定して次の身体を決定する。

 3つ、地球以外に魂を送る。

 まず、ここまではよろしいですか?」

 

「え、は、はい…」


 地球以外ってなんだ?異世界か?となるとやはりゴブリンか?ついにゴブリン運、略してご武運が回ってきたというのか!?

 

「まず1つめの完全にランダムに次の身体を決定するについてですが、こちらは運任せです。深海魚から人間、はたまた空飛ぶハヤブサまで何になるかはわかりません。ただ脊椎動物という制限がありますので、甲殻類や昆虫にはなりません。」


「な、なるほど、あの脊椎動物ですよねわかってますよ。」


 脊椎動物ってなんだ?少なくともプランクトンとかゴキブリにはならないってことか?


「次に2つめの場合は、種の中で何になるかは山田さんの人生の善行および悪事から決まった動物となります。例えば、魚類を選んだ場合、山田さんの来世はサバとなります。」


「サ、サバですか。ちなみに、哺乳類の場合は人になるんですか?」


 ここにきてサバとか言われても混乱するわ。こっちは魚類におけるサバのポジションがわかんねぇんだよ。説明下手くそだな高橋。


「哺乳類の場合は豚ですね。」


「豚!?え、あの豚って、私そんな悪い事しました?」


 オオウ!?豚?端的に事実を突きつけてくるなんて分かりやすいぞ高橋。説明下手とか思って悪かったな。豚にもわかるように説明してくれて感謝だブー!

 

「厳しい話ですが、自殺は罪が重いとされています。山田さんの場合、特に悪事を働いてはいらっしゃらないようですが、若くして自殺されたので人には戻れません。豚は哺乳類の中でも上位になりますので、悪い選択ではないと思います。」


「そ、そうですか…」


 ブヒブヒ…


「最後に3つ目ですが、こちらはやや特殊な案件です。イーガルンドという世界に魂を送り、人種に転生して使命を果たしていただきます。」


「い、イーガルンド?使命?」


 聞いたことない地名だけど、人間になれるのかブー?


「所謂ファンタジーのような世界です。そちらで神から与えられた使命を果たしていただきます。もし、人生をやり直したいと思っていらっしゃるようでしたら、こちらを強くお勧めいたします。人生に未練もなく記憶を消して豚でもサバでも何でも良いから地球に残りたいのであれば、1つめか2つめの転生がおすすめです。」


「えっと、やり直せるのですか?それに、記憶も消されないのでしょうか?そのイーガルンドとかいうところにいけば。」


「はい、記憶を保持したままやり直すことができます。イーガルンド行きの詳細な説明はここではできかねます。まずは3つのうちどれかを一つを選んでください。次にお待ちの方も大勢いらっしゃいますので。」

 

 早く決断させてイーガルンドに行かせたいのが伝わってきてるブヒよ高橋。俺は人の顔色を伺うのが得意ブヒ!伊達にイエスマンを8年もやってないブヒ!


 使命とか言うのが正直なところ胡散臭いブー……でも人間としてやり直せるならやり直したいブヒ!それにファンタジーの世界ならゴブ太郎にもなれるかもしれないブー!べ、別に高橋のためなんかじゃないブヒよ!


「あ、あのそれじゃイーガルンドとかいう所に転生します!ブヒ!」


「ブヒ……?山田さんご英断いただきありがとうございます!イーガルンドへ転生される方には別室にて説明がございます。係の者に案内させますので。少々お待ちください。」


 そう言って高橋は顔に安堵の色を見せた。そして、俺は案内されるがままに会議室のような部屋に通された。

ノリと勢いで書き始めました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ