彼女は彼氏が欲しいけど、彼氏が欲しいわけじゃなさそうだ
それはお2人がまだ出会ったばかりの頃である。
「んー…………」
沖ミムラ。
「あと一時間……むにゃむにゃ」
沖ミムラにある超能力。”天運”と呼ばれる力は、彼女に様々な天運をもたらす。あくまで彼女自身にもたらす運は、全てが幸運とは限らない。
いや、平日の2度寝って最高ではあるけれどね。
「んー……お母さん、まだ起こさないで~」
こうして彼女は、3日連続で寝坊遅刻をするのである。
◇ ◇
「広嶋くん、私と寝てください!」
「は?」
二度寝という幸せ。幸福。それがミムラの持っている”天運”の力によるものだとしたら、”天運”を超えられる強者が必要である。
いくら幸せの二度寝とはいえ、自分の成績にも影響が出ている。ここらで対処をしなければと、相談したのであるが。
「それ、お前の私生活が悪くね?」
「えーーーーっ?私が悪い?」
長い髪をいじりながら、寝る前の自身の様子を広嶋は何事もなく尋ねられ、答えるミムラ。
「学校終わったら、メイクして、バイトいってー」
まぁ。分かるかな?
「バイト終わったら、夕飯食べてー、SNSやら動画見てー、」
うん
「髪の手入れしながらゆっくりお風呂入ってー、1時間?」
「……………」
「上がったら、美容パックしてお笑い番組観てー、お菓子食べながら、体重をキープするためのストレッチしてー、漫画見てー」
「……………」
「寝るのは結局3時頃かな?」
「やっぱりお前が悪いわ!!」
男には良く分からん事だ。
「バイトと夕飯まではまぁいい!風呂長っ!寝るだけなのにその邪魔くせー、長い髪手入れすんの!?しかも1時間!?」
「お、女の美容は大事なんですよ!男の人には分からないんでしょーけど!」
「美容パックつけながら、お笑い番組観るわ。菓子食いながら、ダイエットとか舐めてんのか!?それでプラマイ0とかほざくのか!?」
「だ、だ、だ、だ、だって!!甘い食べ物は食べるべきじゃん!」
「私生活の悪さを、コントロールできねぇ”天運”のせいにすんな!!知るか!だったら、その”天運”で早く起きて、学校行けや!」
◇ ◇
とりあえず、”天運”を使って、学校に通える時間に起こせるか試してみるミムラ。
まったく構ってくれない広嶋くんが悪いと、あとで思う。
ピシャアアアァァ
ただの目覚まし時計では、彼女の深い眠りを起こすことは難しい。
”天運”はあくまで運。まだ人が偶然などというものしか、測れていないものに左右される力。沖ミムラの目を起こすため、雲は突如として異常な動きをし、早朝にも関わらず、重厚なものとなってミムラが住んでいる街のみに集まって、豪雨を降らせる。
ゴロゴロゴロ
雷の雨。部屋の光すら要らぬ、眩く、長い雷が街を襲う。
「ん~……部屋の電気、つけても起きないよ~……」
起きる気ねぇのかい。
それも当然か。この窓を叩く雨と風すら、ミムラの耳には届かない。
しからば、最終手段と。”天運”はベットを引っくり返すため、
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
日本に震度7の地震を発生させるのだった……。しかし、それでも
「むにゃむにゃ」
ミムラは寝ているのであった。
◇ ◇
「やっぱり広嶋くん!一緒に寝て、私を起こしてください!」
「お前、ふざけてんのか!?」
挙句の果てに失敗。異常気象、大地震をこの日本に引き起こした馬鹿。
こんな理由で都市の大半が機能を停止したとあっては、本当に可哀想である。
「日本の命運は広嶋くんに掛かっています!」
「お前の規則正しい生活に掛かってるんだろうが!目覚まし代わりに地震起こす奴がいるか!?つーか、俺もお前を起こせる自信ねぇわ!!」
とばっちりもいいもんだ。
「今度は大量の隕石が日本に落ちてくるかも、だからお願い!」
「それでも起きねぇだろ!俺をなんだと思ってる!?」
このとんでもない事例、日本の危機に1人立ち向かう男。
断っておくが、こーいうところがミムラの嫌いなところであると、広嶋は思っている。その事をまったく考えていないミムラ。
「あーもう、分かった。寝てやるよ」
「ホント!?ちゃんと起こして!ね!」
と、言ってくれたはいいものの。男の人を入れるような部屋ではなかった気がすると、ミムラは今、後悔している。
バイトが終わって合流し、
「飯はどっかに食べてすまそうぜ」
「えーっ?お礼に夕飯ご馳走しようと思ったのに……」
「お前、料理はあんまりできねぇだろ!」
「えへへへ」
まぁこれは、よかったかな?
「……お前、部屋散らかってるな」
「そ、そうかな?ごめん」
「まず片付け!本は読んだら戻せー!」
「ああぁっ!私の時間が~……」
なんか大掃除始めるし。
「髪の手入れだかなんだか知らんが、俺も入るから手短くな!後が詰まる!」
「えええぇぇっ!?シャ、シャワーだけにしてよ!」
「人呼んでおいて、どーいう扱いしてんだ!元からシャワーだけするっつーの!」
のんびりお風呂タイムは短くされるし
「ストレッチしながら菓子食ってんじゃねぇー!」
「ストレッチだけするの嫌だーーー!」
ちょっと運動をされて、お菓子は没収され。
「動画見ながら、漫画読もー」
「もう1時だから寝ろ!電気消すぞ。俺、寝る!」
パチン
早寝を要求。部屋の電気を消され、一緒にベットの中へ。
なんだかんだ。ベットの中に入ると、あっという間に眠れるのは人の不思議だ。
◇ ◇
トントントン
包丁がまな板を叩く音。
ジュワワ~~
鉄板の上に焼かれる具材の数々。
美味しそうな匂いが部屋の中に届いてくる。
「……ん?」
ミムラ。目が覚める。目覚ましだろうが、雷だろうが、地震だろうが。起きなかった彼女が起きたのだ。
美味しそうな朝食の匂いに釣られて。
ガチャ
「広嶋くん?」
「起きたか。あと2,3分でできるから、準備しとけ」
「う、うん」
疲れた一日に飯、お風呂、適度な運動、睡眠。
寝る時間こそやっぱり遅かったが、それらによって朝食を摂る時間がズレ、ミムラは起きることができたのであった。
「わー、ありがとう」
「はぁ~……」
くそ溜め息をつきながら、一緒に朝食をいただく。
自分が凄く世話好きなのか、ミムラの”天運”の仕業か分からない。
「えへへへ」
「…………」
とはいえ、広嶋にとっては。日本が今日も無事であり、ミムラもこうして笑顔なのだから良い事をしたんだろう。ほとんどこいつが悪いけれど。
◇ ◇
「でねでね。広嶋くんとは一夜を共にした仲なんですよ!それはもう彼氏ですよ!あ。まだそーいう状態になってないですけど~」
そんな出来事も、もう3年くらいも前のお話。
上機嫌に、先輩である山本灯に語ってあげていたミムラ。
「広嶋くんはかっこいいし、強いし、なにより良い人だよね!」
”天運”を持つ、沖ミムラが好きな人。それでちょっと可哀想である、広嶋健吾。
互いの関係を知っている灯は、
「ミムラ。あんたさ、前から思ってたけど」
「なんです?アカリン先輩」
「あんた、彼氏が欲しいとか言ってたけど。彼氏が欲しいわけじゃないよね?」
「?……はい?」
広嶋の扱われ方が、明らかに彼氏という類いではないという事を。ミムラは分かってくれない。だから、広嶋はあまりミムラが好きになれない。
最近、気付いたことですが。(まぁ、8月頃ですが)
この短編集シリーズもなんだかんだで、200作品となりました。我ながらこんなに愚痴があったとは。まぁ、さておき。さすがに1つのシリーズに纏めるのはもうどうかと思い、ここまでで1つの区切りをつけます。今後は、200作品で1”莞”って事で。”巻”でも、”完”じゃなくてね。
その締めって事で、ミムラと広嶋を選びました。
短編が一月ほど作れなかったのは、この影響です。真面目にネタを考えるのは久々でした。
そーいうのは時折にして、自分の愚痴を吐くという意味でのこの短編集。その意味がないのは良くないので、ここで区切ります。
この200作品の中で、読了、感想、ご評価を下さった読者の皆様。改めて、感謝申し上げます。
次回も短編という愚痴を作りますので、今後ともよろしくお願いします。