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私は楽しく生きたくて  作者: めのおび
2章 東の国イルミール
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24話 私は今パーティーでボスに挑みます

 今、小夜世 黒(さよせ くろ)達3人は5mほどの大きな扉の前に立っていた。ボス部屋に繋がる扉である。


 「そういえば3層に入ってからは同業者を見かけんかったのう」


 レェーヴはふと気になったことをつぶやく。

 レェーヴの言う通り、3層に入ってからは冒険者を1人も見ていない。かといって、1、2層では多く見られたのかというとそうでもなかったりする。黒の記憶では10人にも満たない。


 「なんかこのダンジョンは全然人気ないんだって。魔物の強さに比べて魔魂は小さかったり、今いる3層なんてめんどくさい魔物ばっかりだったでしょ?だからここに来るのは余程のもの好きか人目が嫌いな人ぐらいらしいよ」


 「そうだったんだ。私もちょっと気になってたんだよね。こんなもんなのかなーって」


 「私もこういうちゃんとしたダンジョンに入った経験全然ないから普通はどれぐらいなのかは分からないんだけどね」


 3人とも会話をしながら各々体の調子を確認する。慢心はしないと話し合っているので、万全を期して望む。

 

 「よし、私は大丈夫だけど2人はどう?」


 「ワシも大丈夫じゃ」


 「私も」


 「じゃ、いこっか!」


 そう言って、黒は扉に手を当てて前方へ少し力を入れる。すると、入ることを歓迎しているかのように扉は見た目に反して軽く押され、部屋の中の様子を窺わせる。

 

 ボスの部屋の中もやはり真緑であった。このダンジョンは攻略されているので、ボスについての情報はもちろんあり、マップと共に記載されていた。

 ちなみに、このボスを倒したら永久にボスが不在になるということはなく、新たにボス部屋への扉が開かれる際に生まれ落ちるのだという。基本的に1度誰かがボス部屋へ入ったら、戦闘が終わるまでボス部屋への扉は不動であり、破壊することもできなくなるらしい。そのためボスが2体存在するような事態は起こらないのだそうだ。


 「シュテンちゃん、前方7mぐらいのところにいる」


 「分かった!」


 その言葉を聞いてシュテンは走り出す。それと同時に、敵を可視化するために黒は魔法を唱える。


 「赤への服従(レッドペイント)!」


 何もいないようにしか見えない場所に赤色の水が降り注ぐ。いわゆるペンキのようなものである。ここに来るまでにボスへの対抗策にと3人が考えた方法だ。


 降り注ぐペンキを浴びた何かの全体像がはっきりとしてくる。それは表皮が毛で埋め尽くされている丸い生き物であった。名をグリーンボールというらしい。黒が知っている中で一番近いのがマリモだ。このグリーンボールは見た目無害そうに見えるが、実は結構えげつなく対策を講じていない冒険者は知らぬ間に飲み込まれ内部の消化器官で溶かされるらしい。

 

 グリーンボールは自身の身に降り注ぐ水を受け、動揺しその場から飛びのこうと体を震わせる。しかし、すでに目の前にはシュテンが迫っていた。


 「っせい!」


 シュテンから走った勢いを利用したパンチが繰り出され、直撃し、グリーンボールは殴られた方向へ飛んでいく。触れただけで飲み込まれるため、今シュテンの両手両足には黒によって風のコーティングが成されている。


 「やはり物理技は効果が薄いようじゃな」


 レェーヴがそういいながら見つめる先では殴られたグリーンボールが身を弛ませているところだった。


 (え、ダメージあまり受けてないって分かるの)


 正直黒にはその判断が出来ていなかった。殴る前も後も変わらず見た目はマリモで動きはスライムのようなので、どこで判断しているのかが謎である。


 そんな疑問のまなざしでグリーンボールを見ていると、身を弛ませた反動を使い、こちらに跳びかかってくる。


 「なっ!?」


 前方にいたシュテンを軽く飛び越え、一直線にこちらに向かってくる。ギルドからの情報通り魔法を使う者を襲う傾向にあるようだ。

 

 「ごめんクロ!」


 「大丈夫!」

 

 ここまでは実は打ち合わせ通りである。黒が襲われるのが分かっていたため、レェーヴは普段よりも離れた位置で後衛をしている。


 黒はギリギリまでグリーンボールを引きつけ、すんでのところで回避する。その瞬間、レェーヴが妖術を発動する。


 「迷い道(まよいみち)!」


 肉眼で見た限り、何も変化はない。しかし、着地したグリーンボールは先ほどまでの俊敏な動きが嘘だったかのように硬直している。今まさにグリーンボールは妖術による幻術にかけられているらしい。

 

 続いて、黒が魔法を発動する。


 「守護する乙女(バル・ガルディエーヌ)!」


 グリーンボールの周囲に結界が展開され、閉じ込めた形になる。


 「上手くいったね」


 「うん」


 シュテンが黒の元に走って戻ってくる。レェーヴもそのあと合流する。


 「まだあやつは彷徨い歩いておるようじゃの」


 レェーヴの言う通り、グリーンボールはまだ硬直している。


 「じゃあ、やるね」


 パーティーでの戦闘において、黒の強力な魔法は前衛のシュテンを巻き込む可能性があったりなどして使いどころが難しかったのだが、シュテンの『この障壁で魔物を閉じ込めて外から魔法で攻撃できないかな?』という言葉によって、対応策が生み出された。レェーヴは障壁内部に魔法を発生させることが出来なかったが、黒は成功したのである。障壁を展開した者ならばいけるという結果になった。


 黒は右手をグリーンボールへと向け、魔法を唱える。


 「音速の風刃(かまいたち)!」


 突如として、障壁内部に風が生まれ、それは無数の刃となってグリーンボールを襲う。瞬く間にグリーンボールは解体され、その姿を魔魂へと変えていく。


 「なんじゃ...こう...何故じゃろうな、ここまで一方的じゃとちょっと憐れみを抱いてしまうの」


 「食うか食われるかだよレーちゃん」


 「あはは...」


 黒にはわかったのだが、どうやらレェーヴは黒がレェーヴのダンジョンでボコボコにした魔物達を思い出しているらしい。


 何はともあれ、パーティーでの初のボス戦が終わりを迎えたのだった。

いつも読んで下さり有難うございます。

感想、ブックマークとても励みになっております。


次回もよろしくお願い致します。

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