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心霊写真 後編

 翌日の放課後、俺は新聞部部室の前に立っていた。


 あることを確認するためにここまで来たのだが、急に怖くなってきた。だって俺、人見知りだもの。何度か躊躇った後、勇気を出してドアをノックする。


「……はい」


 痩せた男子生徒がドアを開けた。あれ、初対面のはずなのに見覚えがあるような?


「俺は心霊探偵同好会の烏丸って言います。反怖(たんぷ)先輩に用があるんですけど」


「し、心霊探偵同好会だって」


 勢いよくドアが閉まる。

 逃してなるものか! 俺は閉まりかけのドアに無理矢理足を挟み込んだ。


「ちょっ、なんだよ」


「それはこっちの台詞です。いきなりドアを閉めるなんて失礼じゃないですか」


「部長なら今は留守だ。帰ってくれ」


 ドアを閉める力が強くなる明らかに怪しい。なんとか部室に入り、反怖先輩を問いたださなくては。

 俺はわざと大きな声で、


「痛い! 痛い! 骨が折れる!」


  「えっ」


 閉める力が弱くなった。今がチャンス! 隙間に上半身をねじ込むようにして、部室へ押し入る。


 室内は実に雑多な感じだった。

 壁にはベタベタと無秩序に写真が貼り付けられ、中央に置かれた大きな丸テーブルの上には書類の束や撮影に使うであろうカメラ類が無造作に置かれている。

 床には紙くずやお菓子のカスが落ちていて、とても汚い。結構綺麗好きな俺は思わず顔をしかめる。

 

 そんな掃き溜め、もとい新聞部部室には3人の生徒がいた。

 1人目は俺をドアに挟んだ痩せた男子。

 2人目は太った眼鏡の男子、コーラを片手にポテトチップスをバリバリ食べている。

 そして3人目。部屋の一番奥の席を陣取り、パソコンを操作している見知らぬ女子 ……ってあれ? 反怖先輩がいないぞ。まさか本当に留守だったとは。


 女子生徒が顔を上げた。


「なんだ、来たのか」


 美人だ。しかし黒目に比べて白目が多いという所謂三白眼で、ちょっと近付きがたい印象を受ける。綺麗に切り揃えたショートヘアーで、前髪はピンで留めている。

 しかしこのつるんとした広いオデコから察するに。


「反怖先輩、ですよね?」


「そうだよ。私がこの新聞部部長、反怖だ」


 彼女いや反怖先輩は、ニヤリと意味深に微笑んだ。信じられない、本当に昨日の彼女と同一人物なのか?

 声は低いし、話し方も威圧的で怖いし。共通点がデコしかねーぞ、オイ。


「驚いているようだね。インタビューの時はああいうキャラにしているんだよ。普段の私では、皆遠慮してしなかなか本音で語ってくれないからね」


 先日感じた違和感の正体がそれか。

 俺の中で燻っていた疑念が確信へと変わり、それは自然と口から溢れた。

 

「あの心霊写真、偽物ですよね?」


 その瞬間、部室が水を打ったように静かになった。

 しかしすぐに爆笑の波が押し寄せる。


「あはは、そうだよ。あの写真はね、画像編集ソフトを使用し加工したんだ」


 デブ部員は脂ぎった手でガリ部員を指差すと、


「ふひひ。あの幽霊、実はコイツの顔なんだぜ」


「そうでーす! 俺が幽霊だよーん。なんちゃってー。ギャハハ」


 醜悪な笑顔に、耳障りな笑い声。昔を思い出して少し気分が悪くなる。


「しかし悔しいな。あの写真、作るのに苦労した分かなりの自信作だったのに。どうして分かったんだい?」


 本物の霊能者だから一目見た瞬間に偽物だと見抜ぬきました、なーんて言えないのでその質問は無視。

 そんなことより重要なのはーー。


「なぜこんなことをしたんですか?」


「目的なら先日伝えただろ。新聞記事を書くためだと、な。これが今月の『黄泉坂かわら版』原稿だ。特別に見せてあげよう」


 先輩から原稿が渡される。


 霊能力なんて大嘘!!「あなた呪われます」依頼人の不安煽る巧妙手口 ! ! これが心霊探偵同好会の真実だ!


 極太フォントの見出しに、目線の入った零子の写真。まるで安いゴシップ誌のようでーー。


 俺は無意識のうちに原稿をぐしゃぐしゃに丸めていた。


「あ、コラコラ。好きにしていいとは言ってないぞ。ま、それはどうせコピーだけど」


「最初からそのつもりだったのか?」


「ああ、そうだ。なかなかいいネタが転がってなくてね。廊下に貼ってあった心霊探偵同好会のポスターを見て思い付いたのさ。君たちのおかげでいい記事が書けた。ありがとう」


「ふざけんな! 記事を取り下げろ」


「断る。私は記事を載せることに対しきちんと説明し、同意を得た。記事の内容まで確認しなかったのは、そちらの落ち度だろ」


 反怖先輩の三白眼が細くなる。完全に俺を、零子を、馬鹿にしていやがるーー。

 その瞬間、頭の中で何かが切れる音がした。

 

「零子はあんたのことを本当に心配していたんだぞ!! それについては何も感じないのか! 」


 先日、反怖先輩が部室を去った後。

 除霊と称して、零子は部室で写真を燃やそうとした。前回あれだけ怒られたのに、同じことを繰り返えそうとするのは、単純に反怖先輩のことが心配だったから。

 その後写真の上に大量の盛り塩をする方法に変更し事なきを得たが、そこに至るまでの経過は思い出したくない。殴り合いの喧嘩寸前までいったんだからな。

 除霊が終わった後もしきりに反怖先輩を気にしていたし。そんな零子の思いやりを、ついでに俺の気苦労を無碍にするなんて許せないーー。

(ちなみに盛り塩で使用した塩はスタッフが美味しく頂きました)


 しかし反怖先輩は全く悪びれる様子もなく、

 

「そんなこと知るか。自分が霊能者だなんて嘘をつく方が悪い」


「それは……」


「それにしても傑作だったよなぁ。偽物の心霊写真を見て、真面目な顔で『地縛霊です!』だって。今でも笑えるよ。ふふふ」


 つられて他の新聞部員も笑いだした。

 もう我慢の限界だった。笑い声をかき消すように、俺は叫ぶ。


「零子は嘘をついてません!」


「はぁ?」


 反怖先輩が驚いたように目を見開く。しかしすぐにいつもの調子で、


「君は一体何を言っているんだ。今際さんが嘘を付いていることは明らかだろう。なぜそこまで彼女を庇うんだ?」


 ああ、分かっているさ。零子に霊能力のカケラもないことぐらい。でもアイツは嘘を付いている自覚なんて全くなく、ただ純粋に誰かを助けたいだけで。

 そんなアイツのことが、どうしても嫌いになれないんだ。

 だから俺はーー戦おう。全力で潰してやる!

 反怖先輩を真っ直ぐ見つめると、


「昨日の写真、零子は合成に気が付いていました」


「嘘を付け。彼女の口から『地縛霊が写っている』と言っているのを確かに聞いたぞ」


「合成の幽霊の他にもう一体、本物の幽霊が写り込んでいるらしいです。零子はそっちの幽霊を指していたんですよ」


 よくもまあ、ここまで嘘八百並べられるものだ。心の中で苦笑する。

 反怖先輩は疑わしい眼差しで、


「はぁ? そんなわけないだろ。事前にきちんと確認しているし、そもそも心霊写真なんてものは存在しない。全ては偽物だ」


「いいえ、心霊写真は存在します」


「じゃあこの写真のどこに幽霊が写っているんだ!」


 反怖先輩が、先日の心霊写真(合成)を突き出した。

 俺は大きく首を振る。


「わかりません」


「ほらみろ!」


「なんでも霊気が微弱で普通の人間には言えないらしいですよ」


「苦しい言い訳だな。話にならない」


「あと零子はこうも言っていました。ふざけた加工をされて幽霊が怒っている。今後、先輩が映った写真や撮影した写真に幽霊が映り込みやすくなるので注意して下さい、と。実は俺、そのことを伝えに来たんですよ」


「ハッ、そんな馬鹿な」


「じゃあ先輩、昨日取材で撮影した写真を確認して見てください。何か写っているかもしれませんよ」


「……一応確認してやろう。もし何もなかったら、分かっているだろうな? ほら、お前らも手伝え」


 他の部員を呼び集め、写真をチェック始めた反怖先輩。

 俺には聞こえないくらいの小声で話したり、こちらをチラチラ見て笑ったりと、実に不快だ。いじめっこかコイツらは。ま、以前体験した陰湿ないじめに比べたら屁でもないけどな。

 俺は貧乏揺りをしながら作業を終わるのを待つ。

 突然、3人の動きが止まった。


「な、なんだこれは……」


 よほど驚いたのだろう、反怖の指先から写真が滑り落ちる。


 俺は床に落ちた写真を拾い上げる。

 それは俺と零子のツーショット写真だった。いや、正確にはスリーショット写真か。俺たち以外にもう1人、窓の外から覗き込む白い顔があった。


「ち、違う。たまたま外を歩いていた人間が……」


「お忘れですか? 心霊探偵同好会の部室は2階です」


「うっ、そうだったな。ええと……そうだ!烏丸君、君が何か細工したに違いない! 白状したまえ」


 やれやれ、ずいぶん疑り深い人だ。まあこうなることも想定済みだ。

 俺はテーブルに置いてあったカメラを手にすると、


「これインスタントカメラってヤツですよね。撮ってすぐに写真が印刷されるっていう。へー、ここがシャッターか」


「まだ話は終わっていないぞ。この写真はどうやって」


 俺は反怖先輩にカメラを向ける。


「つまり、このカメラなら細工のしようがないってことですよね。もし何か写ったらそれは……」


 意図に気が付いたのだろう、反怖先輩の顔が大きく歪む。


「や、やめろっ!」


  ーー再び、シャッターは切られた。



 ◇



 トイレの個室に駆け込み、鍵を閉める。洋式便器に腰をかけ、大きく息を吐いたところでようやく人心地ついた。まだ心臓がばくばくしている。やっぱり慣れないことはするもんじゃないな。

 

 俺はポケットから2枚の写真を出した。


 1枚目は俺と零子のツーショット。


 そして2枚目、インスタントカメラで撮影した反怖先輩の写真だ。

 三白眼をこれでもかと見開き、撮影を阻止しようと手を伸ばしている。なかなかの躍動感だ。フラッシュを反射して輝くオデコもいい感じ。

 そんな面白写真に場違いなものが写り込んでいた。


 白い手だ。

 たしなめるみたいに、反怖先輩の肩を掴んでいる。位置的に他の新聞部員の可能性はない。


 この2枚の写真は正真正銘の心霊写真だ。

 しかし先輩が呪われているというのは真っ赤な嘘。

 本当に呪われているのは、この俺だ。

 霊感が強いせいか

 被写体の場合も、

 撮影者の場合も、

 写真に幽霊が写り込んでしまう。

 俺の写真嫌いはそのせいだ。


 今回はそんな自分の体質を逆手にとったというわけ。

 ちなみに写っているのは何の害もない浮遊霊だ。

 そのことはあえて黙っておき、写真の除霊することを条件に記事を取り下げてもらった。

 新聞部部員たちはかなり怖がっていた様子だが、これでおあいこだ。


 だが、これで本当によかったのだろうか?

 零子が霊能者を名乗る以上、これからも同じような輩が出てくるだろう。

 それに何より、零子が現実に向き合うチャンスを奪ってしまったのではないか。


 いや、考えるのはよそう。

 全ては終わったことだ。


 改めて、俺と零子のツーショット写真を眺める。

 笑顔の零子に対して、仏頂面の俺。

 2人笑顔で写真を撮れる日は来るのだろうかーー?

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