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心霊写真 前編

 放課後、部室にて。

 宿題をしていると、視界の隅で何かが光った。

 顔を上げると、零子がニヤニヤしながらスマートフォンを構えていた。


「ほら十夜、こっちむいて! 」


「なんのつもりだ」


「写真を撮っているに決まっているじゃない。ほら笑って、笑って」


「やめろ!」


 零子からスマートフォンを奪い取る。


「ちょっと! 何すんのよぉ」


「それはこっちの台詞だ。勝手に写真を撮るな」


 さっき撮られた写真を確認する。真剣な表情で宿題をしている俺とーー。

 これは消去だ。


「あーーっ、何消してるのよぉ」


「肖像権の侵害だ。ほら返す」


 スマートフォンを返却すると、零子は唇を尖らせた。


「ちょっとくらいいいじゃない」


「よくない。俺は写真が嫌いなんだ。二度とこんなことするなよ」


「なんで嫌いなの?」


「……そんなことより、なんで急に俺の写真を撮ろうとしたんだ」


「頼まれたから」


「は? 誰に」


「撮らせてくれないのなら教えない!」


 零子は頰を膨らませそっぽを向いてしまった。

 俺の写真を欲しい人物がいるってことか? モテる人間ならまだしも、この俺だぞ。一体目的は何なんだ?

 しかし俺の思考は、豪快なノックの音で中断されてしまう。


「相談者が来たみたいね! はーい、今開けます」




 ◇




 相談者は見たことのない女子生徒だった。

 真面目そうな子、それが彼女への第一印象だ。眼鏡に膝丈スカート、三つ折りソックスの優等生フルコース。髪は綺麗に切りそろえたショートヘアーで、前髪はピンで留めて広いオデコを出している。

 顔つきは……厚い瓶底眼鏡を掛けているせいかイマイチ判別がつかない。鼻筋は通っているから、眼鏡を外したら可愛いかもしれない。


「私は2年生の反怖(たんぷ)と言います。その、実は困っていることがありまして」


 反怖先輩は椅子に座ると、そう切り出した。声は小さくオドオド伏し目がちで、見た目通り大人しい性格のようだ。

 零子はドヤ顔で自分の胸をドン、と叩く。


「大丈夫です! この天才霊能者、今際零子がどんな心霊現象もチャチャっと解決してみせますよ!」


「へぇ、あなたが」


 その時、眼鏡の奥の反怖先輩の瞳が怪しく輝いた。なんだ?


 しかし零子は全く気が付いていないようで、話を先に進める。


「で、肝心の相談というのは……」


「説明するより、これを見てもらった方が分かるかと」


 机の上を滑らせるようにして、1枚の紙が突き出される。


 反怖先輩の映った写真だった。背景から察するに、場所はどこかの交差点。フラッシュが反射し、オデコが光輝いているところが印象的だ。

 一見すると何の変哲も無い写真、しかし奇妙な箇所が1点あった。


「ひゃあ! か、顔がぁ」


 零子が悲鳴じみた声を上げる。

 

 若い男だ。

 反怖先輩の肩越しにこちらをぎろりと睨み付けている。しかし先輩のすぐ背後はガードレールで、人が立つスペースはない。さらに奇妙なことに男は半透明だった。青白い肌から透けて見える景色はそこだけ色を失ったようでーー。

 反怖先輩は怯えた様子で、


「これ、心霊写真ってヤツですよね!実はこの交差点、事故がとても多い場所なんです。それで私怖くて怖くて」


「だ、だ、だ、だ、大丈夫、おち、落ち着いいいて。私が、にゃ、なんとかしまふ」


「お前、反怖先輩よりびびってんじゃねーか。無理するな」


「び、び、びびびってなんか無いわよ! 今から霊視をするんだから静かにしてよ!」


 心配してやったのになぜか怒られた。ムカつく。

 それから零子は大きく息を吐くと、目をカッと見開いた。


「破アァーーーーッ!!」


 掛け声とともになぜか両手で目を覆う零子。俺は突っ込まずにいられない。


「いや、霊『視』だろ。写真見ろよ」


「失礼ね、ちゃんと見てるわよ!」


 よく見たら、指が少し開いていた。どうやらその小さな隙間から写真を見ているようだ。チキン過ぎるだろ、コイツ。


 この調子では解決は到底無理だろうな。やれやれ、仕方ない。また俺がひと肌脱いでやるとするか。

 改めて俺も写真を凝視してみる。


  ……?


 あれ、この写真ーー。


「視えたわ!」


 発言しようと口を開いた瞬間、零子が声を上げた。


「本当ですか?」


「もちろん、だって私は本物の霊能者なんですから」


 長い黒髪をかき上げながら、本日最大のドヤ顔を披露する零子。


「写っているのは地縛霊です。交差点で事故に遭って亡くなり、強い怨念に囚われこの世を彷徨っているようです。このまま放っておいたら、反怖先輩に何か悪い影響があるかもしれません」


「そんな、私はどうしたらーー」


 反怖先輩は俯いてしまった。

 どうしよう、なんだか発言し辛い空気になってしまったぞ。

 零子は慰めるように彼女の肩を叩くと、


「安心して下さい、この心霊写真は私がハッキリバッチリ除霊します」


「それはありがとうございます。でも……」


 反怖先輩はブルブル震えながら、


「実はこの交差点、私の家の近所にあるんです。通学路にもなっていて、これからも通らなくちゃいけなくて。また変なことがあったらどうしようって不安で不安で……」


 想定していなかった事態に、黙り込む零子。

 よし、今がチャンス!


「この写」


「魔除けがあります!」


 俺の声は零子にかき消された。

 

「こんなこともあろうかとたくさん魔除けを用意してあったんです! 魔除けを身につけていればもう地縛霊も近寄って来ません。どれでも好きなのを持っていって下さい」


 シーサーの置物、木製の櫛、数珠、ロザリオ、指輪、唐辛子のキーホルダー、鏡、扇子、蹄鉄、なんか変なおっさんの人形……宗教も国籍もバラバラな魔除けグッズが次々にテーブルに置かれていく。

 方位磁石の時も思ったが、こんなものを持ち歩いている女子高生ってなんか嫌だ。

 反怖先輩は少し悩むと、ロザリオを手に取る。


「じゃあこれにします」


「おお、お目が高いですね! それはあの『魔界堂』で買った商品なんですよ」


 いかにも胡散臭い店名で逆に不安を煽るな!

 しかし反怖先輩はにっこり微笑むと、


「ありがとうございます、これで安心できました」


「いえいえ、私は霊能者として当然のことをしただけです」


 口を挟む間もなく解決しちゃったよ! まぁ、反怖先輩が納得しているのならそれでいいか。

 ーーしかし話はそこで終わらなかった。


「それでもう一つお願いが。実は私、新聞部なんです。今回の件を含めて今際さんのことを記事にしたいんですけど、いいですか?」


「え、ええぇ! 新聞部!」


 反怖先輩の提案に目を剥く零子。


「新聞部ってあの『黄泉坂かわら版版』を作っている部ですよね。私、毎回見ています。ちょっと過激なところもあるけどそこが面白いって言うか。先月号のサッカー部の三角関係の記事はすごく話題になりましたよね」


「ありがとうございます。あの記事は特に自信作なんですよ」


 そういえば、掲示板にそんなのが貼ってあったな。俺はちゃんと読んだことないけど。


「実は今月号の目玉になる記事がまだ書けてなくて。今際さんのことをどーんと一面に載せたいんですよ。いいですか?」


「でもぉ私は有名人になりたくて除霊活動しているわけじゃないしぃ〜。変に目立ちたくないっていうかぁ〜」


 こんなことをほざいてるが、零子の口元はニヤニヤと気持ち悪い笑みで歪んでいる。

 コイツ絶対引き受けるつもりだ……。


「そこまで言うなら仕方ないですね。特別です、特別に引き受けます」


「そう、それは良かった」


  再び、反怖先輩の瞳が怪しく輝いた。俺の中で燻っていた疑念を燃え上がらせるには十分で。

 やはりあの心霊写真はーー。


「では今際さん、早速記事に載せる写真を撮りますよ」


「霊能者っぽく、ミステリアスな感じで撮って下さいね!」


  そして鳴り響くシャッターと輝くフラッシュ。俺を無視して2人は撮影会を始めていた。零子のドヤ顔がデジタルカメラのメモリーに刻まれていく。


 零子め、完全に調子に乗ってやがるな。少しは痛い目を見ればいいんだ! 俺はもう知らん。


「反怖先輩! ちょっと待って下さい。その、やっぱり新聞に載せる写真は……十夜と一緒がいいです」


「はぁ?」


 零子の申し出に、俺は素っ頓狂な声を上げてしまう。反怖先輩も不思議そうな顔をして、


「霊能者は今際さんですよね。そっちの彼は何もしていないじゃない」


「確かに十夜は何もしてないし、むしろ私を妨害したりでムカつくことこの上ないです。でも……」


 そこで零子は一旦言葉を切る。

 躊躇うように口をもごもごさせた後、頰をほんのり赤く染めるとこう言った。


「十夜がいてくれたから、私は除霊活動ができるんです。十夜がいなかったら、今の私はいなかったっていうか」


 俺は言葉を失った。コイツ、なんて恥ずかしい台詞を!

 反怖先輩は興味なさげに、


「まぁ今際さんが言うならいいですけど。どうしますか?」


「いや俺は」


 零子と目があった。まるで懇願するような瞳に、お断りの言葉が出てくるはずもなく。


「……わかりました」


「やった!」


「言っておくけど、今回だけだからな」


「うん、うん」


 もっと厳しくしようと思うのだけれど、やはりこの笑顔には敵わない。なんというか、俺も甘い人間だよな。


「じゃあ、撮るので並んで下さい」


 反怖先輩の言葉に従い、俺たちは2人並ぶ。


「はい、チーズ」


 そしてシャッターは切られたーー。

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