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ホラーゲーム 後編

「はぁ、セーブしてなかったからまた最初からか」


「今後はこまめなセーブが必要ね」


「あのさぁ」


「何よ」


「くっつきすぎじゃないか?」


 俺のすぐ左隣に座った零子。互いの足と肩とがぶつかるくらい距離が近い。


「仕方ないじゃない。こうしないと画面が見えないんだから。何か問題でもあるの?」


「べ、別に」


 本当は大ありだった。

 ズボンの布一枚隔てて感じる零子の太ももは柔らかくも適度な弾力があり、それでいてほんのり温かくて。


  ……まぁ本人がそう言うならこのままにしておこう。激しく拒否したら空気悪くなるし。別に零子の太ももを感じていたいからじゃないんだからな! か、勘違いするなよ!


  ムービーをスキップし、さっそくプレイを再開する。2回目のためサクサクプレイが進み、すぐに図書室までたどり着いた。


「よし、ここでセーブだ。アイテムを拾うぞ」


「き、気をつけてよね」


 床に落ちているハンマーを拾うと同時に操作が効かなくなった。さっきはとっさのことで対処できなかったが、今度はうまく逃げてみせる!

 

「よし、今だ!」


 操作ができるようになったので、方向キーを素早く押す。部屋の外に出るため、ドアに向かい猛ダッシュ!

  黄オーガもすごい速さで追いかけてくる。しかも最悪なことに、行く手を本棚の迷宮が邪魔をする。少しでも操作を誤れば捕まってしまうだろう。このゲームよく考えて作られているな!


「行け行け! そこを右、右よ。あー違う違う、捕まっちゃうわよ!」


 激しくうるさい零子。くそ、気が散る!


「あっ、しまった」


 案の定、手元が狂い本棚にぶつかる。黄オーガが見逃してくれるはずはなく、あっという間にゲームオーバーになってしまった。


「あーあ、捕まっちゃった。アンタ下手くそね」


「っく……! お、お前が騒ぐからミスしたんだよっ」


「自分のミスを他人のせいにするなんて女々しいわね。プークスクス」


「じゃあお前がプレイしろ」


「調子に乗ってすみませんでした! 今後は静かにします」


 そして3回目のチャレンジ。


「行けー!」


  掛け声と共に方向キーを押す。

 右、下、左、上、右、下……。


 先程の脅しが効いたのだろう、零子は両手で口を押さえ静かに成り行きを見守っている。方向キーを連打する音だけが部室に響く。


 よし、迷路を抜けた! ドアまでもう少し、もう少しだーー。


「脱出成功だ!」


「おおーっ!」


「はぁ、意外と簡単だったな。この調子で進め……ってアーーッ!」


 なんと黄オーガがドアから出てきた。安心してキーから手を離していたため、何の抵抗もできず捕まってしまう。そして無情に映し出されるゲームオーバーの文字。


「部屋の外まで追いかけてくるのかよ!」


 黄オーガは思っていた以上に強敵だった。素早いこともさることながら、かなりしつこい。撒くためにはある程度の歩数が必要なようで、屋敷の中をグルグル逃げ回らなくてはならなかった。

 操作に慣れていないこともあり、結局10回以上やり直した。


「ふぅ、ようやく撒いたようだな」


 逃げ込んだ先の寝室でセーブする。


「じゃあアイテムを使える場所を探しましょう。ハンマーだから何か壊すのかしら?」


「アイテムが使える場所ならもう分かってる」


「え、どこ? そんな場所あったかしら」


「ほら、ここだよ」


 女の子を窓際まで移動させる。


「特に変わった箇所はないし、何も落ちてないじゃない」


「出口が開かないのなら新しく作ればいい、だろ?」

 

 零子は首を傾げる。コイツ察しが悪いな。やれやれ最後まで説明してやる羽目になるとは。


「つまり窓を割って外に出ればいいってことだ!」


 ッターン!!


 俺は軽快にキーを押す。これでゲームクリアーだ!


「あれ、何も起きない」


「当たり前でしょうが! それでクリアだったらとんだクソゲーよ!」


「でもハンマーがあったら窓を割って逃げようとするのが普通だろ」


「いい? 脱出系ホラーゲームで窓から脱出できないことはお約束なのよ」


「なんで?」


「なんでって言われても。きっとすごい霊力とかで窓が保護されているんじゃないかしら」


 なんじゃそりゃ。

  納得できずキーを連打する。頑張れ、主人公。頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る!


「いい加減諦めたらどう?」


「……そうだな」


「それにしてもさっきの十夜は面白かったわねーー。『つまり窓を割って外に出ればいいってことだ』だって!あんなに自信満々で、ダッサ。うぷぷぷ」


 何も言い返せねえ。俺は歯ぎしりをしながら、ゲームを進める。


 部屋を出て、廊下を歩き、また別の部屋へ。何もなければそれを繰り返しーー。この洋館、5階建で無駄に広いからなかなか大変な作業だ。しかも黄オーガがいつ襲ってくるか分らないから気も抜けない。


 神経質になっている俺に比べ、零子は完全にリラックスしていた。ポテトチップスをぽりぽりかじりながら、気怠げにぼやく。


「もう、まだぁ? 早くしてよぉ」


 くそ、そうしてられるのは今だけだからな! 黄オーガが出てきたらお前なんか……。黄オーガ、早く出てこい!


 ゲーム本来の目的を見失いかけた頃、畳の敷かれた和室で再び光り輝く場所を発見する。

 調べてみると、メッセージウィンドウが表示される。


『陶器の人形だ。振るとカラカラと音がして、中に何か入っているようだ。ハンマーで割ってみますか?


 はい

 いいえ』


「なんか選択肢が出てきたぞ」


「あら、ようやく進展したじゃない。正解だと思う選択肢を選べばいいのよ」


 俺は迷わず『いいえ』を選択した。


「あれ、なにも起きない」


「当たり前でしょうが! 中にアイテムが入っているのよ! それを手に入れないと先に進まないでしょう」


「いやでも、陶器の人形だぞ? 壊すのは躊躇するっていうか。なんか可愛そうじゃないか」


「窓の件といい、アンタゲームと現実を混合し過ぎ! いい? マリオを想像しなさい。クリボーを潰した時いちいち罪悪感に苛まれるかしら?」


「いや、それはないけど」


「それと同じよ。早く割りなさい」


 そんなもんなのか? いまいち納得できなかったが、他にヒントもないので『はい』の選択肢を選ぶ。ごめん、陶器の人形……。恨むなら零子を恨んでくれ。


『音楽室の鍵を手に入れました』


「……わからない。この屋敷の主人は一体なにを考えているんだ。こんなところに鍵を入れたら不便でしょうがいないじゃないか」


「だから現実と混合するなっつーの。ほら、さっさと音楽室に行くわよ」


「それがさ、また操作が効かなくなってるんだよ」


「えっ」


  次の瞬間、押入れの障子が音を立てて開いた。無論、中から出てきたのは黄オーガである。


「ぴゃーっ!」


 悲鳴をあげる零子。あはは、ざまぁ!




 ◇



 その後も、暗号を説いたり、増殖した黄鬼に追いかけ回されたり、座敷牢にとじこめられたり、ゲットしたナイフで黄鬼に立ち向かい返り討ちに合うなど、とにかく様々な困難が待ち受けていた。

 零子は口だけで全く役に立たないので、実質俺1人でもくもくと攻略していきーーそしてその瞬間は訪れた。


「よっしゃぁ!」


「おおー!」


 ついに洋館を脱出! エンドの文字と共にスタッフロールが流れる。


 ふと窓の外を見ると、すっかり夜の帳が降りていた。ゲームに夢中になっていて気がつかなかったが、ずいぶん時間が経っているようだ。そういえば目とか肩のあたりが痛い。

 結構楽しかったし、達成感もあるな。これで終わりと思うと少し寂しいようなーー。


 零子は俺の肩をポンと叩くと、


「十夜よ、よくぞ試練を乗り越えた。でもこんなのまだ序の口、更なる修練があることを忘れるな」


 そしていつものドヤ顔である。俺は激しくイラッとした。


「……師匠キャラみたいなこと言ってるけど、お前何の役にも立ってないからな。あと叫び声禁止って言ったのに滅茶苦茶叫んでいただろ。罰ゲームだからな」


「さ、叫んでないもん」


「叫んでたろうが!」


「証拠はあるの? 何時何分地球が何回回った時よ!」


 頑なに認めない零子。こんなことなら録音でもしておけばよかった。何か、一矢報いることはできないだろうか。


「ん?」


 スタッフロール終了後に何か出てきたぞ。これは、製品情報?


「……黄オーガに続編があるのか。2に3、番外編に完全版かぁ」


「な、なによ急に」


「お前、このゲーム怖くなかったって言ったよな?」


「当たり前でしょ! だって私は霊能者なんだから」


「じゃあ他のシリーズも今度一緒にプレイしようぜ」


「え、えーと、それはちょっと。お金ももったいないし」


 零子の目が大きく泳いだのを、俺は見逃さなかった。


「馬鹿め、黄オーガシリーズは全部フリーソフトだ!」


  零子はその場で崩れ落ちるとこう呟いた。


「……タダより高いものはないわね」

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