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TALOS  作者: 猪口茂(ちょこも)
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1ー0:それはスラムのプロローグ

 TALOS、カタカナで表記すればタロスやタロースと呼ばれる自動人形が人類の生活の大部分を支えている時代。それは、人類の夢をかなえ続けた結果ともいえる。

 衣食住の保証は当然として、さらなる利便性を求め続けた人類は、肉体を電気的に分解、転送して再構築することによって、一瞬で遠くの場所へと移動する手段を手に入れた。

 もはや半機械化といっても過言ではない今の彼らは、自らを『新人類』と呼称している。

 では、もうこの世におよそ20と数世紀を生きた旧人類とも呼ぶべき生命は存在しないのか。

 

 答えは否だ。世界の9割以上が電子空間によって支配されてはいるが、未だにその恩恵を受けていない地域もある。

 それは格差であり、差別であり、だがしかし最後の希望でもある。

 自己修復機能を持つTALOSはそれほど多くはなく、また、TALOS以外の自動人形はそのほとんどが最終メンテナンスを人の手によって行われている。

 最終メンテナンスとは、重大な故障や欠陥が見つかったときや、自己修復機能を多用した場合に行われるメンテナンスであり、TALOS達自動人形が暴走しないようにともうけられている保険ともいえる。

 この仕事に携わるのは、作業のAI化によって早々に職を失った者達の子孫であることが多く、そもそも機械化されていない唯一の仕事である以上、それはもはや義務による強制労働ともいえる。

 

「まったく、今のこのご時世に『労働』なんて言葉を使っているのは僕くらいだろうに」


 人気のない街中、しかも数百年物の建築物ばかりが並んでいる大通りを歩きながら、僕は思わず呟いた。

 ひとり暮らしが長くなると、独り言が増えるというが、他者との関わりを積極的に絶っている僕には確かめようもなかった。

 


 3月22日、もはや暦の必要性もないこの世界ではあるが、文化保存だのなんだので大昔からの風習や伝統を継続・再現している地域も少なくはない。

 とはいえ、そんな話もこのスラム街とも呼べる廃れた田舎には関係ない。

 

「だからどうってわけじゃないけどさ……って、結構来てるな」


 いつもの修理工場、ではなく、街の入り口には数体ほどの自動人形が倒れていた。

 すこし違和感のある表現だろうが、本当にそのままの意味である。

 『倒れていた』つまり街に入ろうとして『力尽きた』彼らがそこにいた。という話だ。

 この街は人類の最後の砦、つまりはシェルターのような役割をはたしていて、従来のように充電が切れるまでは稼働できるロボットとは違い、自動人形たちは空間に溢れている電気で充電と稼働を両立している。つまり、この街には彼らが充電できるほどの電気が空気中に存在しないのである。

 いや、この辺の詳しい話はあまり得意ではないのだが、確か外の世界ではいたるところに空気中に電気を発生させる杭のようなものが打ち込まれているのだとかなんとか。

 だから、一見外の世界と何の隔たりもないように見えるこの場所だが、自由に出入りできるのは人間だけになっているらしい。いや、厳密に言えば自動人形以外の全ての生き物と言える。


「それにしても、今日は一段と多いな。いつもなら週に1、2体だぞ……今週これで何体目だよ」


 そう。本来であれば一日にこれほど、もっと言えば一週間毎日数体ずつなどあってはならない事態である。

 一度にすべての機体に老朽化の波がきたとでもいうのだろうか。

 しかし、今一番の問題はそんなことではなく、この数体の自動人形を『誰』が『どうやって』運ぶのかである。

 TALOSはかなり軽量化が進んでおり、人の体重の3分の2ほどだが、一般的な自動人形はそうはいかない。なにせ、人の体重の倍近くはあるのだ。

 今の僕にできることは、手押しのカートにTALOSを可能な限り乗せ、残りの自動人形は明日の回収班に任せるくらいか。


「……悪く思うなよ。これも将来的にはお前らのためだ」


 全く持ってそんなことはなく、そもそも彼ら自動人形に感情などないのだから言うだけ無駄という物だった。




「持って来い」

「……はい」

 

 修理工場の上司に怒られたことはいうまでもない。


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