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黒悦のフリントロック  作者: 猫丸 玉助
第1章 隔絶の少女
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第5話  血上の再会

私は前を全力で走るハリーに手を引かれて、それに必死についていく。

そして、ハリーは突然立ち止まると私の頭を押さえてその場にしゃがみ込ませた。


「ユノ、今の状況は理解出来ているか?」


その問いに静かに首を縦に振る。

おそらく、何者かに襲われたのだろう。

それが何かまではわからなかったが、その事だけははっきりとわかっていた。


「おそらく、襲撃者は解放軍の連中だ」


解放軍・・・私の目的の相手だ。

その人達を倒すのが私の仕事。


続けてハリーが口を開いた。

「わかるなユノ、仕事の時間だ」


大丈夫、わかっている。それが私の最初の役目。私の自由への第一歩なのだから。

そして、ハリーに深く頷いた。

それを見てハリーが言った。


「私が前へ出て牽制する。ユノは後方から術で攻撃しろ。奴等は妙な飛び道具使う。それに気をつけるんだ」


私がもう一度頷くとハリーと私は立ち上がった。

これから私は人を殺すのだ。でも、それが私の役目。そうしなければ私に未来はないのだ。

私はもう一度楽しい時間を過ごすんだ・・・。

そう言い聞かせて自分の不安な心をねじ伏せる。

そして、一切の感情を消し去った。





「これで全部っすかね」


シーデがこちらに呟いた。

一面には複数の衛兵の亡骸が横たわっており、その中に動く者の気配はない。


「まだだ、逃げた奴がいた。それも倒しておく必要がある」


遅れてこちらへやって来たグレースが口を開く。


「はい、確かいました。確か、二人が走り去るのを私も見ました。でも、逃げたのなら放って置いてもいいのではないでしょうか?」

「いや、奴等の目的が村の偵察かもしれない以上、放置はできない。それに目に入った以上倒しておくべきだ」


そう言ってから自分の口にしている事の異常さ気が付く。


倒す・・・。それはまるで部屋に出た虫を殺す程度に簡単に口に出していた。

しかし、その考えに萎縮しそうになる自分に叱咤を飛ばす。

考えるな! 臆するな! これは必要な事だ。

そうやって自らを奮い立たせた。


「あぶない!!!」


その声と同時にグレースはシーデに突き飛ばされて森の中へ激しく転がった。

そして、視線の先に紅蓮の炎の道が出来た。


その炎の根元にすぐさま目を向ける。

そこには、少し遠方にフードを被った人物がこちらに手を翳して立っていた。

さっきの奴か! あいつが術を放ったんだな。

その人物に直ぐ様古式銃を構えようとしたが、その人物の身体が発光を始める。


くそっ! 間に合わない!

今にも術が発動しそうな光景に、苦虫を噛み潰す。


しかし、突然発光は収まり、その人物はこちらに声を上げてくる。


「・・・レンガ? レンガだよね?」

その人物の言葉に怪訝な表情を浮かべる。


「誰だ?」


その声が届くとすぐに被っていたフードを下ろした。


「私、ユノだよ」


そこに現れたのは先程まで一緒に過ごしていた少女だった。

驚きに目を見開いた。他の二人も同じく驚き固まっている。


「おまえこんな所で何やってるんだよ?!」


思わず声を大にしてしまう。


「私は仕事でここにいるの」


まさか・・・。

ユノのその言葉に恐ろしい想像をした。ユノが追手の一人・・・。

すると、突然その場に男の声が響き渡る。


「ユノ! 何を突っ立ている。早く始末しろ。」


その声にユノは振り向き、怪訝な顔を浮かべた。


「え? だってあの人達は私の友達でーー」

「そんな事は聞いていない。役目をはたせ」


ユノの言葉を遮るながら男は冷たく言い放つ。


そんな二人のやり取りを見て、ユノの置かれている状況がわかった気がする。


「わわ・・・レ、レンガさん! どうするっすか?」


珍しく慌てるシーデが早口に尋ねてくる。

グレースはあまりの事態に座り込み、その場に固まってしまっている。

俺は二人に聞こえる位の音量で喋り始めた。


「おそらく、ユノはあの男に無理矢理、戦わされているんだ」


シーデはそれに納得した様に掌を合わせた。

グレースは固まったままだが、聞こえてはいるだろう。


「だから、あの男を倒せば方が付く筈だ」

「りょうかいっす! 分かりやすくていいっすね」


シーデはそう言うと、武器を構えて腰を落とした。


グレースは・・・ダメだな。

彼女は今だ地面にへたり込んでしまっている。とても戦える状態ではなさそうだった。





「おい。返事をしろユノ」

ハリーが私に声を何かを言っている気がする。

私が、レンガ達を殺すの・・・?

そんな考えが頭に浮かび、思考能力が止まっていく。

その時、ハリーにシーデが襲いかかるのが見えた。


「くっ!」

ハリーはシーデのクローを手にしている槍で受け止めながら小さく呻き声を上げるが、すぐさま受け止めている槍をそのままシーデに差し出すように突き出して距離を開ける。

しかし、直ぐ様走り込んできたレンガの古式銃が火を吹いた。

ハリーはすぐに低木に身を隠し、その弾丸を防ぐ。

すると、ハリーは身を隠したまま今度はレンガ達に向かって声を張り上げる。




「おい。おまえ達、ユノとどういう仲かは知らんが、私を殺したらその娘も死ぬ事になる」


その男の思わぬ言葉に自分とシーデの動きが止まる。

そして、直ぐ様に男に尋ねる。


「どういう事だ? 言ってる意味がよくわからない」


それはただの必死の狂言とも考えたが、内容が内容なだけに一歩を踏み出す事が出来ない。

それはシーデも同じらしくクローを構えたまま動きを止めている。


「その意味のままだ。ユノは私や王国なしでは生きている事も出来ないという事だ」

男は吐き捨てる様に言い放った。


「おまえ、ユノに何かしたのか?」


男のその言葉から少し思い当たる節があった。

日中見たユノの術・・・。

本来では考えられない術の発動方法とその威力、それは術に精通する種族のグレースが驚愕する程だった事。

すると、男は少し感心した様な素振りを見せて口を開く。


「察しがいいな。その娘は先に貴様らが葬ったマンティコアと同じ、王国が作り上げた生物だ。姿こそ普通のエルフだが、我々が与えている聖水がなければすぐにあの様な姿に変貌する。これで意味がわかるだろう」


男の言葉を聞いて驚愕した。

こいつら、何て恐ろしい事をしてるんだ。男の口ぶりからして人体実験を経て生まれたがユノと言う事。

そして、そのユノの延命は王国が握っていると。

そんなあまりにも悲惨で残酷な行いに怒りが込み上げてくる。

しかし、ハリーはこちらのそんな胸中も知らずに再び口を開く。


「それでも、私やこの娘と闘えるのか?」


出来ることなら今すぐにでも男に飛びかかりたい。

しかし、男のその冷たい言葉と突きつけられた現実に動けずにいた。





「ユノ、わかったか? 彼ら結局のところおまえとは違う。友達にはなれない。それにここで彼らを倒さなければお前は死ぬ事になるぞ」


私に向き直ったハリーは小声でそう言った。

私がレンガ達を殺さないと、私もサラも死ぬの?


でも、私はまたレンガたちと遊びたい・・・。

でも、私が死んだらそれも出来ない・・・。

じゃあ私がレンガ達を殺すの?


そんな答えが見えない問いを呪いの様に木霊させる。


私はどうしたらいいの?

わからない・・・わからない・・・。さっきまであんなに楽しかったのに、今はすごく辛い・・・。

何で私はいつもこんな思いばっかりするの・・・。誰か、たすけて・・・


どうにも出来ない現実からそんな思いだけが頭を駆け巡り、その場に立ち尽くす。

そして、その瞳からは大粒の涙が溢れ出した。



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