8=異世界、長い夜 後編
月を雲が隠す。辺りが暗くなると同時に人骨達は行動を開始した。人骨達が一斉にキルに向かって歩き出す。人骨だからか動きは遅かったが、だからこそ、妙な不気味さをかもしだしていた。
迎撃する為に地面に降りながら、キルは思う。
(人骨………スケルトンか。納得は出来るけど、よりによって………)
キルはこの戦闘に乗り気ではなかった。スケルトンといえば、ラノベに出てくる冒険者からは不人気魔物の一つだった筈である。
その理由は、無意味さだ。スケルトンは何度バラバラにしても再生する。再生させないためには、全身の骨を粉々にするしかないのだ。スケルトンは大抵群れで出現するから、そんなに時間はかけられない。だから、魔石を砕く。それが最善策だった。
不人気なのもわかるだろう。なんせ、収入源を破壊しなければならず、大した素材も手に入らないのだ。
キルが乗り気じゃないのも同じ理由。不死だからだろうか?死後に生成される筈の魔核が、スケルトンの胸の中に浮いていた。たぶん、倒し方も一緒だろう。
そんなこんなキルが考えている内にスケルトンが随分近づいてきた。キルは短剣を構え、スケルトンの群れに飛び込む。
キルは無駄な動きをせず、魔核だけを狙って攻撃していた。たまに外れる事はあれど、どんどん魔核を破壊していった。
(ああぁぁ、勿体ない。あれがあれば……………ん?)
内心涙を流しながら魔核を破壊していると、キルの目にある光景が飛び込んでくる。
キルが見ていたのは、破壊したばかりの魔核だった。亀裂が入った魔核は砕けちり………………煙のような何かを放出していた。
それを見たキルは考える。あれは何だ?魔核から出た。じゃああれは…………魔力?なら、あれを吸えば…………。
キルの口が笑みの形に歪む。キルは先程と変わらぬ様に魔核を破壊した。ただ………魔核を、魔核から発生した魔力を吸った。それと同時に、力が溢れるあの感覚が沸き上がる。
あの煙が魔核と同じ効果を持つと確信したキルは、どんどん遠慮なくスケルトンを駆逐していった。
魔核を、破壊して、破壊して、破壊して、破壊して…………。数時間経って朝日が昇る頃、その場にはキルだけが立っていた。辺り一帯には、汚れた骨が大量に転がっていた。
「はは、は。終わっ、た……………」
キルは精神的な疲労が限界を迎え、その場に崩れ落ちた。地面に転がっていた骨が、日光に照らされ灰になっていく。
大量の灰が空へと散っていく。その様子からは、解放してくれた事に対する、死者からの感謝の念が溢れていた。