6=異世界、新しい魔物
キルは山を登っていた。と言っても、キルも一番上まで行くつもりは当然ない。あんな高いところに行ったら、いくら進化した体でも死んでしまうだろう。
キルは、森の時と変わらず、魔物を探して歩いていた。
(あー、いないかなー。丁度良い魔物)
最も、キルが魔物を探している理由は魔核のためだけではない。キルは、服の材料になる魔物を探していたのだ。
キルが身に付けている衣服は、ボロボロの腰布だけだった。進化前は大事な部分も隠れていたが、進化した今は、もう少しで見えそうになってしまっている。
今になって漸く、キルの羞恥心が刺激されたのだ。まあ、キルに服を作る知識などは無いので、毛皮が手に入れば充分だったが。
「おっ」
キルが歩いていると、遠くに動く影が見えた。気配を消しながら近づくと、その正体がわかった。
キルの姿勢の先では、七匹の魔物が戦闘を繰り広げていた。片方は二足歩行の犬の魔物、コボルトが五匹。もう片方は、二足歩行の猫の魔物だった。ケットシーだろうか。
戦況は、なんと五分五分だった。ケットシーの方が強いらしく、コボルトが五匹で対応している。
それを見たキルは、参戦を決めた。どちらかの味方につく為ではない。両方とも倒すためだ。
キルは、最初にケットシーを一匹倒す事にした。コボルトの攻撃が片方に集中する瞬間を見極め、一気に近づいて斬りつける。
ケットシーはそれに気づく事が出来ず、首を狙った一撃は綺麗に決まり、首が飛んだ。
それに気づいたもう片方のケットシーが、キルに向けて怒りの表情を浮かべる。だが、ケットシーがキルに襲いかかろうとした瞬間。コボルトが一斉にケットシーにとびかかった。ケットシーはそちらに対応せざるを得なくなり、キルを睨みつけるだけになる。
このまま放っておけば、ケットシーが負けるだろう。コボルト数匹を道ずれに。だが、それはさせる訳にはいかない。キルは試した事があるが、自分以外のやつが倒した魔物の魔核を食べても、全く効果がないのだ。強くなるのが目標な以上、それは絶対にさせてはいけない。
だから、キルは直ぐに次の行動に移った。ケットシーにとびかかっているコボルトに近づき、後ろから斬りつけていく。ケットシーに群れていたコボルトは反応出来ずに次々と攻撃をくらい、あっという間に全滅してしまった。
だが、そこで安心は出来ない。コボルトが全滅した瞬間、ケットシーが襲いかかってきた。
キルはその攻撃を回転しながら受け流し、そのまま首を狙う。だが、その攻撃はケットシーに避けられてしまった。
ケットシーは近くにいるのはマズイと思ったのか、地面を蹴ってキルから距離をとる。キルも追いかけはせず、その場で迎撃の構えをとった。
ケットシーに相対していたキルは、内心喜んでいた。
(久々だな、自分と同じ位の強さの相手と戦うのは)
キルの口は、知らず知らずの内に笑みの形に歪んでいる。と言っても、キルが戦闘狂という訳ではない。……………少しはそうかもしれないが。
(俺には経験が、技術が足りない。強くなるには、力だけじゃ駄目だ)
キルはそう考えていた。その考えは当たっている。いくら実力が離れていても、技術が優れていれば勝つ事もある。だから、キルにとって同程度の敵は待ち望んだ相手だったのだ。
中々襲いかかって来ないキルに痺れを切らしたケットシーがかなりの速度で近づき、蹴りを繰り出してくる。それをキルは…………刈り取った。
膝から先を失ったケットシーは、地面に倒れながら、悲痛の叫び声をあげる。
「ギニャァァァ!!?」
「………………」
「ニャッ………………」
キルは暴れるケットシーに近づき、そっとその首を刈り取った。
ケットシーに止めを差したキルは、意識を戦闘から切り替えて、魔核の採取に取りかかる。最初に一番近くにあったケットシーから取ろうとして………キルは手を止めた。
丸く見開いたキルの視線の先には、ケットシーの身に付けている衣服があった。服をはぎとって調べてみると、見た目はシンプルなTシャツと短パンだが、充分な強度は持っているのがわかった。
「ラッキー!服を作る手間が省けたな」
そう言いながら腰布を放り捨て、Tシャツと短パンに着替え。サイズは丁度ピッタリだった。気分を良くしたキルは手早く魔核を採取し、全部一気に食べた。
その瞬間、進化前の様な、体に力が満ちる感覚がキルを襲う。
「おお!やっときた!これなら次の魔物にも期待出来そうだな」
キルは意気揚々と、短剣を手に周囲を警戒しながらまた山を登り出した。