4=異世界、進化
(見つけた……………)
熊の魔物に襲われた日。あれから更に数日が経っていた。あれからキルは戦闘を重ね、時には傷を負いながらも勝ってきた。
体は細身で小柄だが、最初とは違い、しなやかな筋肉がついている。短剣の扱いにも慣れ始め、少しずつ我流の短剣術が形になり始めてきた。
(これで、多分最後…………)
そう思いながら、キルは蜘蛛の魔物を見る。キルには感覚でわかっていた。こいつの魔核を食べれば進化出来る、と。
キルはここ数日で鋭さが増した目を細め、張り巡らされている糸に引っ掛からない様に。糸の合間を縫う様に蜘蛛に近づき脚の付け根を斬りつける。
「キイィィィ!?」
突然の痛みに、蜘蛛の魔物は甲高い叫び声をあげる。その間にも、キルは次の行動に移っていた。
「き、キイィィィィィィィ!?!!?」
「…………………」
斬る、斬る、斬る、斬る、斬る。キルは動きを止めずに、あらゆる方向から斬り続ける。これが、キルが考えた戦い方だった。
動きを次の動きに繋げる。動きを止めない。時には回転する様に、舞う様に。次から次へと迫る斬撃に、蜘蛛の魔物は反撃出来ない。
そして、回転しながらの一撃が、蜘蛛の首を刈り取った。
「ふーっ、やっと慣れてきたな。さて、じゃあ魔核を…………」
食料の確保に余裕が出来てからは、魔核をえぐり出してから、ちゃんと食べやすいように処理して食べていた。
キルは慣れた手つきで魔核をえぐり出し、口へ放り込む。異変は、直ぐに起きた。
「ぐっ!?がぁぁぁぁぁっっっ!!!」
キルを防ぎようのない、肉体を作り替えられるような痛みが襲う。最初はなんとか堪えていたが、やがて痛みに堪えられなくなり、キルの意識は途切れた。
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「これは…………」
目を覚ました後、キルはいつも使っている川に移動して、進化後の姿を確認していた。
体の大きさは、140cm位だろうか。緑色の肌は闇の様な黒へと変わり、瞳の色は翡翠色になっている。ゴブリンアサシンの時にはなかった角が、小さいけど額に二つ生えていた。顔の皺は完全になくなっている。それ以外はゴブリンのままだが。
変化していたのは、それだけではなかった。最初から持っていた短剣も、色は黒に。形は真っ直ぐで、少し刀身が伸びている。刀身の付け根部分には、二振り共翡翠の玉が埋め込まれていた。
そして、ステータスはこのように変化していた。
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名前:キル シャドーゴブリン
スキル:【消音】【潜伏】【夜目】【暗殺剣】【特殊進化決定】【言語】【疾走】【危機察知】【飢餓耐性】【気配隠蔽】【跳躍】【無呼吸】
称号:【異世界人】【女神の注目】【特殊進化魔物】
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シャドーゴブリン。これが、キルの新しい種族である。
「シャドーゴブリン、か。ここに来るまでに軽く動いたけど、だいぶ基礎能力が上がってるみたいだな」
そう、身体能力が上がっていた。身体能力だけではなく、魔力も上がっている。およそ十倍もだ。
「これが進化か…………これなら」
今は無理だが、近いうちにあの熊に挑める筈、と。キルは嬉しくなる。キルはその浮かれ気分のまま、食料を求めて森へと入っていった。