3=異世界、強敵
「おわぁぁっ!?」
「グルァァァァ!!!」
ドゴッ、と。熊らしき魔物が雄叫びをあげながら、手を地面に叩きつける。ギリギリよけれたキルがそこを見ると、地面には亀裂が走り、大きな砂煙を起こしていた。
(ヤバすぎだろ、あれ。いくら何でも、いきなりあれはないだろ!?)
「グルゥゥゥ」
「うっ、何だ?」
熊らしき魔物が振り返り、キルがその目を見ると、突然キルの体が重くなった。
熊らしき魔物は混乱しているその隙を見逃さず、今度は左腕で横に凪ぎ払った。それをもろにくらったキルは勢いよく後ろに吹き飛ばされ、何本か木を折りながらやがて止まり、地面に崩れ落ちた。
何とか力を振り絞り立ち上がるが、実際、戦えそうにはない。
(くるなら、来い!)
キルが開き直って熊らしき魔物を睨み付けると、魔物はキルを一瞥して、何もせずに洞窟へと入っていった。
「何だったんだ、あいつは」
危険が去った事で体から力が抜け、近くの木にもたれかかりながら考える。
(多分、あの洞窟はあいつのすみかだったんだ。俺がそこに勝手に居たから、攻撃された)
キルは熊らしき魔物が最初に攻撃した地面を見る。
(あいつは、かなり強い。俺よりも格段に)
キルはその場から離れながら、ある決意をした。いずれ、あの魔物を倒してやると。
(待ってろよ、熊。直ぐに強くなって、倒してやるからな)
キルは、その傷ついた体を引きずりながら、別の魔物を探して、森を進んでいった。
_____________________
(居た…………)
キルは、その小さい体で茂みに隠れながら、その視線の先にいる魔物を見る。その魔物は、最初に戦った、あの兎っぽい魔物だった。
キルはあの後、魔物を探しながら考えた。自分に合った最適な、最も確実な戦い方は何か。それに気づくのは簡単だった。なにせ、種族に書いてあったのだから。
だから、キルはその戦い方を考えた。どうすれば隠れられるのか、どうすれば音をたてないのか、どうすれば速く動けるのか、どうすれば斬れるのか…………。
キルはそう考えた瞬間から、【消音】を発動しながらも音をたてないように、【潜伏】を発動しながらも気配を消すように心がけた。
そのおかげか、目の前の魔物には、いまだに気づかれていない。
「………………」
「キュッ!?」
茂みから飛び出して魔物に斬りかかるが、直前で気づかれかわされてしまう。魔物は、唸りながらキルを睨んでいる。
「……………」
「キュッ!?キュゥッ!?」
キルは気を抜かず、動きを止めずに斬りつけ続ける。魔物は離れようと移動するが、【疾走】を使い続けているキルからは逃れられない。次第に、魔物は攻撃をくらうようになった。
数分後、体を深く切り裂かれた魔物が地面に倒れ、動かなくなった。戦闘が終わり、キルは短剣を腰にくくりつけ、深く息を吐く。それと同時に、ぶわっと、キルの体から汗がふきだした。呼吸が激しくなり、鼓動が早くなる。
「ハァ、ハァ、ハァ……………な、なんとか勝てた」
兎っぽい魔物にも、かなりてこずった。キルが最初に勝てたのが、運が良かったのだとわかる。キルは自分が弱いと再確認しながら、兎っぽい魔物にかじりつく。また魔核を食べた感覚と共に、体に力が満ち溢れ、体の傷が粗方治っていた。
「これで、また一歩進んだ………もっとだ。もっと強くなる」
キルは勝利と同時に決意を強くし、また魔物を探して歩き始めた。