17=迷宮都市、神託の報酬
「おい、ダルゼマフ」
あの後何事もなく迷宮から出たキルは、領主邸に来ていた。門から入ろうとしたら門番に止められてしまったため、屋敷に忍び込んでいる。
執務室らしき部屋で書類を見ていたダルゼマフは、窓の外から聞こえた声に勢いよく振り向くが、声の主がキルだとわかると窓を開けて迎え入れた。
「無事魔人族になれたようだな、キル。こんなに早いとは思わなかったぞ」
「まあな。それより、よく俺だってわかったな」
「肌の色くらいしか変わってないからな。それに声は変わっていないから、だいぶ印象は変わったが、見ればわかる」
それを聞いたキルは、ようやく進化後の自分の容姿に目を向けた。
部屋の中にあった鏡の前に立って、自分の容姿を確認する。
ダルゼマフの言った通り、大きな変化は肌が黒から色素の薄い肌色になっただけだった。
顔のつくりは以外と整ったものになっている。変わっていない身長と合わせても、かなり幼い見た目だ。15歳くらいだろう。
今までと同じく短剣も変化していた。もはや短剣ではなく片手剣になり、漆黒の刀身は光を反射して薄い桜色に輝いている。
「へぇー、結構格好いいじゃん。特に文句はないな、うん」
「それはいいが、せっかくだ。そろそろ昼食の時間だ。食べていくか?」
「ああ、お願いするよ。今は丁度腹が減ってるからな」
「旦那様、失礼しま……何奴っ!?」
ダルゼマフと丁度話終わったところで、クレナルが部屋に入ってきた。キルを見たダルゼマフは、警戒を露にキルを睨む。
「よお、クレナル。久しぶりだな」
「その声は………キル様、ですか?もう魔人族になられたので?」
「そのようだ。クレナル、キルも昼食を一緒にとる事になった。至急用意を」
「畏まりました」
クレナルはそう言うと足早に去っていった。
クレナル一緒に部屋に向かうと、既に二人分の食事が用意されていた。
「あの短時間で用意したのか………流石、領主様の使用人、ってところか?」
「我が家の家臣は優秀だからな。それより早く座れ。せっかくの料理が冷めてしまう」
その言葉にキルは椅子に座り、食事を始める。その食事はかなり美味しく、キルとダルゼマフの会話も楽しい時間となった。
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昼食を食べ終わったキルは前回と同じ部屋に案内された。
「ふぅー、旨かった。久々だったな、ちゃんとした飯は」
『それは何よりです、キルさん。スキルと報酬の確認をすると言っていましたが、始めますか?』
『ああ、よろしく頼むよ。最初は新しいスキルからな』
キルは意識を切り替えて、ガブリエルの話を聞く。
『では、最初は【暗殺術】ですね。【暗殺術】は、【無音】【潜伏】【夜目】【暗殺剣】【気配隠蔽】が統合されたスキルです。統合前のスキルの効果に加え、殺しに関する全ての行動に補正がかかります』
『【俊敏】は、【疾走】と同じく速度を上げる効果を持っています』
『【風魔法】は、基本属性魔法の一つです。魔力を消費して風を生み出し、自在に操れます。対象を切る魔法が多いですね』
『【斬撃】は、斬撃に補正がかかります。よく斬れるようになります』
『【回避】は、回避に補正がかかります。回避が上手くなります』
『スキルの説明は、これで終わりです』
『ありがとうな、ガブちゃん』
『だから、ガブちゃんはやめてください!』
『じゃあ、リエル?』
『まあ、それなら…………』
実際、キルはリエルの説明でかなりスキルを理解出来ていた。ガブリエルというスキルの凄さを、キルは改めて認識する。
『じゃあ、次は神託の報酬だけど……いくつあるんだ?』
『二つですね。報酬を受けとりますか?』
『ああ、そうしてくれ』
キルがそう言うと、ベッドの上に白い穴が空いて、そこから二つの光が落ちた。穴は、役目を終えると直ぐに消える。
『こうやって受け取るのか………リエル。報酬の説明を』
『はい、一つ目は【深淵の鞘】です』
『これか』
キルはそう言って、二つの鞘を掴む。
鞘は真っ黒で、短剣くらいの長さだった。
『その鞘は、どんな長さの剣でも収める事が出来る優れものです』
『ふーん、あ、入った』
キルが剣を入れると、確かに全ての入りきった。
キルは腰にくくりつけながら、言う。
『これ、凄いな。神託の報酬って、毎回こんななのか?』
『ものによりますね。それでも、凄いのは確かですが。そして、二つ目は【暗闇の外套】です』
キルは外套を手に取る。
外套は真っ黒で、丈は膝下まで。フードもついていて、被ると目元を隠す事が出来た。
『これはどんなものなんだ?』
『壊れる事は絶対になく、フードを被ると気配を薄める事が出来ます』
『壊れない、か。凄いな、これからは、神託は優先的にクリアしていくか』
外套を身に付けたキルは、フードを被って部屋から出る。キルは、ダルゼマフの居る書斎に向かった。
「ダルゼマフ、入るぞ」
「キルか。どうかしたのか?」
「もう屋敷を出ようと思ってな。挨拶に来たんだ」
「そうか。では、クレナルにも伝えておこう」
「よろしく頼むよ。そうだ、あのメイドはどうしたんだ?」
キルはふと、盗賊討伐の時にダルゼマフと一緒に助けたメイドを思い出す。確か、キルを怖がっていたが……………
「ナルシャか。あいつは、私が屋敷にお前を招き入れた事を他の貴族に密告しようとしてな。罰として解雇した。今ごろは、故郷でゆっくり暮らしているのではないか?」
「あいつがねー。ま、ならいいや。じゃあな、ダルゼマフ。元気でな」
「ああ、また会おう、キル」