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ゴブリンから始まった!  作者: 冷星 夜姫
迷宮都市シェリザル
15/18

15=迷宮都市、迷宮


 昨日と同じ客間。キルの前には、服一式が並べられていた。


 「これが、要望の服一式だ。受け取ってくれ」

 「おお!服だ。やっと、やっとまともな服が着れる………」


 ようやく服を手に入れたキルは、嬉しさから早速着替える事にした。

 用意されていたのは、肌触りの良い素材で作られた、半袖の服と長ズボンだった。ちゃんと靴も用意されていて、どれも丈夫そうだ。

 それを着たキルは、肌を除けば人に見えるくらいには似合っていた。


 「良く似合っているじゃないか。その服は魔物の素材を使って作られていてな。丈夫で動きやすい筈だ」

 「助かるよ。俺は戦うし、これは素直に有難い」

 「まだ報酬は残っているぞ。クレナル、あれを」

 「はい、こちらに」


 クレナルがテーブルの上に置いたのは……………石だった。普通の、どこにでも転がっている石。

 思わず、キルは疑いの視線をダルゼマフに向ける。


 「これが………?」

 「ああ、そうだ。一見ただの石だが、ちゃんとした魔道具でな。使い捨てだが、一日だけ姿を消すことが出来る。これがあれば、迷宮にも入れるだろう。まあ、出れないだろうが」

 「いや、十分だよ。魔人族になるまでは、迷宮の中に潜り続けるつもりだから」


 そう言ってキルは石を仕舞う。


 「じゃあ、早速行くよ。早く迷宮に行ってみたいからな」

 「そうか、気を付けろ」

 「キル様、お元気で」

 「ああ、ありがとう。魔人族になったら、また来るよ。じゃあな!」


 キルは二人に見送られながら、屋敷から出ていった。


_____________________


 (凄いな、本当に消えてる)


 姿を消したキルは、早速街の中心に向かっていた。

 魔道具の効果は無事に働いているようで、普通に歩いているが誰もキルに気づかない。キルはぶつからないように避けるので大変だが。

 スルスルと間を縫うように前に進んでいくと、やがて、街の中心に着いた。

 街の中心には大きな石板が立っていて、横の看板に「ダンジョン入り口」と書かれていた。

 石板の周りにいる冒険者らしき人達が石板に触れながら階層名を言って消えていくのを見たキルは、同じように真似をしてみた。

 すると、一瞬頭が揺れるような感覚の後、気づくと周りの景色が変わっていた。


 「っと。……無事に入れたみたいだな。って、あれ。見えてる?」


 キルの体は、はっきりと見えていた。これでは、冒険者達に見つかってしまう。キルは、さっさとこの場を離れることにした。


 (転移したから、効果が消えたのか?たぶん、別の空間にある迷宮に転移してるんだろうし)


 道を進んでいくが、幸い冒険者達には遭遇しない。手当たり次第に進んでいくと、キルは階段らしきものを見つけた。


 「これが二階層に行ける階段か?運が良いな」


 キルが階段を下りると、そこは一階層と変わらず、洞窟になっていた。

 キルは気を引き締めて、周りを警戒しながら先に進む。やがて、キルはある集団を発見した。冒険者だ。


 「ここら辺の魔物は弱いな。最初はあんなに苦労したのに」

 「仕方ないわよ。私達もあれから結構強くなったんだから」

 (装備は結構良さそうな物を着けてるけど…………高ランク冒険者?いや、中堅くらいか、この強さだと)


 冒険者のパーティーの後をつけながら、魔物を殺していく様子を見てそう判断する。

 どうやらこの冒険者達はおしゃべりなようで、色々な情報をキルに与えてくれた。


 ・この迷宮は100階層まで確認されている事。


 ・そこまで行ったのは初代勇者のパーティーだけだという事。


 ・現在この街にいる冒険者は、大半が28階層までしかいけない事。



 (重要なのは、このくらいかな。プライベートな事も聞いたけど、それは別にいいか)


 現在、既にあの冒険者パーティーとは離れている。キルが今居るのは28階層。あの冒険者パーティーは、25階層で止まっていた。

 冒険者に見つからないよう、念のため。キルは戦闘を避けながら29階層に向かっていた。

 それまでと同じく階段を見つけたキルは、黒桜を握り、階段を下りていく。29階層に着いたキルは、周りから感じる気配に、思わず笑みを浮かべた。


 「俺より少し弱いくらいか………これなら、少しは期待できるか?」


 キルは、魔物を探して歩き出す。魔物は直ぐに見つかった。

 キルが見つけたのは、ウサギの魔物だった。といっても、1mくらいの大きさで、キルからすればかなり怖かったが。

 ウサギの魔物はまだキルに気づいていない。キルは一気に首に斬りつける。ウサギは反応出来ずに、静かに命を絶たれた。

 キルは【魔力吸引】で魔核を吸い込み、死体を樹海の煌輪にしまって、次の魔物を探し出す。


 キルはその後も様々な魔物を殺していき、順調に魔核を吸収していった。


_____________________


 数日後、キルは36階層に居た。既に数えきれない程の魔物を葬り、進化まで一歩手前というところまできている。

 恐らく、あと一匹で進化出来るだろう。だが、そのあと一匹が見つからない。

 何故だろう。キルがそう思ったところで……………ドスン、と。大きな音が響いた。地面が、微かに揺れている。

 キルが震源に向かうと、そこは次の階層に向かう階段があった。その階段の前には、前世でも知っていた魔物が立っていた。


 「ブモォォォ…………」


 筋骨逞しい体を持つ、二足歩行の猛牛。ミノタウルスが、大きなボロボロの斧を持って立っている。

 ミノタウルスの目の前の地面には、血と肉片が落ちていた。


 (ミノタウルス?この階層じゃ、見たことないけど…………下から上ってきたのか?)


 キルがミノタウルスから感じる強さは、キルより少し下。だがあの斧を持っている以上、油断は出来ない。


 (生体武器……じゃないな。冒険者のやつを奪ったのか?なんにせよ、殺るなら今が好機か……………)


 キルは今までと同様、物陰から飛び出して一気に近づく。キルはいつもと同じように首を狙ったが、それは振り返ったミノタウルスの斧に防がれてしまった。

 キルはその反動を利用して回転、また斬りつける。それをミノタウルスは、またもや斧で防いだ。今回はそれだけには終わらず、ミノタウルスは斧振り下ろす。

 それから、少しの間打ち合いが続いた。このミノタウルスもそうとうな場数を踏んだのか、キルの動きについてきている。


 (だけど……………)

 「………………………」

 「ブモォォォォォォォォォオ!!??」


 キルの方が、技術も上だった。受け流し、避け、弾く。ミノタウルスの攻撃は、キルにかすりすらしなかった。代わりに、キルの斬撃はミノタウルスの体を捉えていく。

 そして、ついにキルの斬撃がミノタウルスの右腕を斬り飛ばした。片腕を失ったミノタウルスは、大きな隙をつくってしまう。

 キルは、ミノタウルスの後ろに一瞬で回り込み、首を刈り取った。


 「ブモッ………………」

 「ふぅ、終わり、と」


 ミノタウルスを傷一つ負うことなく倒したキルは、今までとは違い、魔核をえぐり出してからミノタウルスの死骸を仕舞う。

 迷宮の中では、魔物の死骸を放っておくと、迷宮に吸収されてしまうからだ。


 「じゃあ、頼むぜー」


 キルは、魔人族になれるよう【特殊進化決定】のスキルに祈りながら、少し久しぶりに魔核を呑み込む。

 すると、今までとは比べ物にならないくらいの激痛、同時に頭に鈍痛が襲った。今までになかった感覚に、キルも混乱する。

 いつもよりも長く続く進化。キルは今までより強い痛みに、魔人族になれると信じて堪えて……………進化が終わった。



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