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ゴブリンから始まった!  作者: 冷星 夜姫
迷宮都市シェリザル
12/18

12=迷宮都市、盗賊で実験


 盗賊のアジトを進んだキルは、直ぐに分かれ道にぶつかった。右の道からは灯りと煩い声が聴こえ、左の道からは何も聴こえない。


 (こういう場合は、普通静かな方に捕虜が居るんだよな)


 ラノベ知識からそのように判断したキルは、左の道に進む。

 今回の最優先事項は、捕虜の救出だ。キルの実験は、あくまでついででしかない。


 道を進んでいくと、檻のようなものが見えてきた。キルは岩の陰に隠れて檻を観察する。

 檻の前には、身なりの汚いオッサンが立っていた。前世のキルと同じくらいの歳だろうか。

 檻の中には、高そうな服を着たおじさんと、メイド服を着た女性が入れられている。


 (やるか)


 暇そうに欠伸をしている見張りを見たキルは、直ぐにそう決断する。

 そうと決めたキルの行動は早かった。目にも止まらないスピードで岩の陰から飛び出し、見張りがキルに気づく前に首を刈り取る。

 全ては一瞬で終わり、遅れて見張りの首が地面に落ちた。


 「お前は何者だ?」


 そこに、檻の中から明瞭な声が響く。キルが檻の中を見ると、旦那様らしき人が檻の中からキルを見つめていた。メイドさんは、突然の出来事に固まっている。


 「俺はキル。クレナルに会ってな。お前達を助けに来た」

 「助けに?お前は魔物だろう。何故我々を助ける」

 「当然見返りを貰うためさ。あと、盗賊で試したい事もあるし」


 キルの答えに、旦那様らしき人は少し考える素振りを見せた後、小さく頷いた。


 「わかった、何が欲しい?」

 「お?随分簡単に信じるんだな。俺は魔物だぞ?」

 「別にお前を信じている訳ではない。お前が嘘をついていようと、ここに居ても結果は同じだと判断したしただけだ」


 旦那様らしき人がそう答える。そう言われればキルも納得出来た。


 「俺が欲しいのは服だ。ちゃんとした服が欲しい」

 「そんな事で良いのか?わかった、ここから助け出したら、その報酬を支払うと約束しよう」

 「よし、契約成立だな。じゃあ、ちょっと下がってろ」


 キルはそう言って短剣を掴む。旦那様らしき人が奥に下がると、キルは見えない程の速さで短剣を振った。

 一瞬で何回も行われた斬撃により、檻がガラガラと崩れ落ちた。


 「ほら、さっさと出ろ。ちゃんとクレナルのところまで連れていくから」

 「ああ、了解した」

 「お待ち下さい!」


 外に進もうとしたとき、大きな声が洞窟に響いた。驚いてそちらをみると、メイドが旦那様らしき人に詰め寄っている。


 「旦那様、正気ですか!?そいつは魔物ですよ!」

 「落ち着け、ナルシャ。このまま盗賊に捕まっているよりは、こいつに着いていった方が良い」

 「いーえ、旦那様。どうかご再考を!この魔物に着いていったところで、食べられてしまうに決まってます!」


 メイドは尚も大声でわめき散らす。そんなメイドの首に、キルは短剣をつきつけた。メイドが黙る。


 「少し黙ってろ、メイドさん。そんなに煩くすると…………ちっ、遅かったか」


 向かう先から、かなりの人数の足音が聴こえてくる。メイドの大声で、気づかれてしまったのだ。


 「クソッ、おい、報酬に何か追加しとけよ!これはそっちの不手際だからな!」

 「わかっている」

 「なら良い。ちょっと下がってろ」


 後ろから気配が遠ざかるのを感じながら、キルは短剣を握る。


 「何だあ、さっきの声は。何かあったのかって、魔物!?」

 「……………」


 盗賊の声に、キルは沈黙で答える。盗賊達はそれぞれ武器を構える。同時に、キルの実験が始まった。

 最初は手前の五人。その五人に向けてキルは走り、あっという間に首を刈り取り、直ぐに後ろに下がる。


 「なっ、速!?」

 「おい、何だ今の!?」

 「ほお………」


 盗賊や旦那様らしき人が、その早業にそれぞれの感想を洩らす。

 キルはそんな事を気にせず、さっきの実験の結果を整理していた。

 さっきの実験でわかったのは、次の事だ。


・人を殺したが、罪悪感は多少あったものの、躊躇はせずに殺せた。


・人を殺したら、体に魔力が流れ込んでくる。だが、その量は魔核を食べるよりも圧倒的に少ない。


 実験結果を整理し終わったキルは、第二の実験にとりかかった。

 今度の標的は三人。キルは最初に【魔力吸引】を使い、その後また同じように首を刈り取って、また死体に【魔力吸引】を使った。

 第二実験の結果が次の事だ。


・生きているものからは、少しずつしか魔力を吸えない。


・死んで直ぐの死体に残っている魔力は一気に吸える。


・全ての魔力を吸うと、魔核と同程度の魔力が得られる。


・相手と自分の実力の差によって、【魔力吸引】の効率が変化する。


 そして今度は、最終実験に取りかかった。キルは短剣を腰にくくり、手を離した。


 「なっ!?なめてんのか、魔物がぁ!」

 「ぶっ殺せぇぇぇ!!」


 標的は、残りの盗賊六人。キルは激昂して襲いかかる攻撃を余裕で避け、【魔力吸引】を使う。

 最初は普通に動いていた盗賊も、時間が経つにつれて動きが鈍くなっていく。やがて、盗賊達は全員倒れてしまった。魔力がそこをついたのだ。


 「ま、魔力が…!何で…………!?」

 「………………」

 「なっ、ぎゃぁぁぁぁ!!?」


 だが、キルはそこから更に【魔力吸引】を使い続けた。盗賊達が苦しみの声をあげ始める。

 【魔力吸引】を使い続けるにつれ、頬が痩けて、体が細くなっていった。次に肌が干からびて、次第にはミイラのようになる。そして完全に何も吸えなくなると、盗賊達のからだは灰になってしまった。

 最終実験の結果が次だ。


・魔力が無い相手に【魔力吸引】を使った場合、生命力だと思われるものを吸いとれる。


・魔力が無い相手に【魔力吸引】を使い続けた場合、最終的に灰になる。


・【魔力吸引】で殺す事が出来る。


 全ての実験を終え盗賊を全滅させたキルは、後ろを振り返り話しかけた。


 「終わったぞ。ほら、行くぞ」

 「ああ、わかった。行くぞ、ナルシャ」

 「は、はい、旦那様…………」


 旦那様は先程と変わらぬ様子で。メイドは怯えた様子でキルの後をついていく。

 三人が去った後には、盗賊の死体だけが転がっていた。



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