1=異世界初日
むか~し昔?かはわからないけど。ある世界、ある場所に、一つの生命が産まれ落ちました。これは、その一人の男の物語。
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「ギギャー、ギギャー!!」
(あれ、ここ何処だ?)
目が覚めたら知らない天井だった。ラノベじゃよく書かれているが、彼は実際に体験するとは思ってもいなかった。
(てか、何か体も動かないし)
「ギギャー、ギギャー、ギギャー!!!」
(あー、もう!さっきから煩いんだよ!)
「ギギャ、ギギギャ!」
(…………あれ?)
彼は、思わぬ出来事に思考が止まる。
(ま、まさか…………わあっ!!)
「ギャァッ!!」
(やっぱり俺の声だー!!?)
「ギギギャギャー!!?」
彼の耳障りなしゃがれた悲鳴が、響きわたった。
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数分後、彼は何とか落ち着きを取り戻していた。体が動かせないので、寝そべったまま思考を働かせる。
(はあ、これはどういう事…………かは大体想像できるな。信じられないけど、信じるしかない、か)
彼は状況をほぼ理解していた。彼自身信じずらかったが、彼の知識の中でこの状況に当てはまるのは、一つしかなかった。
(異世界転生、だよな。なら、お決まりのアレもある筈………ステータス!)
彼の目の前に、パッと透明な板が出現する。
(おお!やっぱりあったか、ステータス!それで、俺のステータスは~?)
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名前:・・・ ゴブリンアサシン
スキル:【消音】【潜伏】【夜目】【暗殺剣】
称号:【異世界人】【女神の注目】
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(ゴブリン、ってあのゴブリンか?まあ、定番だな。アサシンだから、持ってるスキルもそれっぽいのばかりだし。でもやっぱり………)
彼が一番気になったのは、称号だった。
(異世界人はわかるけど、女神の注目?俺、女神に注目されてんの?)
女神と聞いて彼の頭に思い浮かぶのは、スタイルの良い極上の美人だ。
彼がそんな事を考えていると、次第に眠気が襲ってきて、彼は意識を底へと沈めた。
「う、嘘だ!こんな、こんな…………」
彼の表情は絶望に染まっていた。その体は、ゴブリンのものではなく、人間だった時の姿になっている。
周りは果てしなく広い真っ白な空間。ここは神の間。そこには、彼の他に一人の女性が立っていた。彼女は、そう、女神だ。
「何を言ってるんだ。そこまで落ち込まなくても良いだろう」
「良い訳ないだろう!?だって、だってお前は………………婆さんじゃないか!」
そう、彼が絶望していたのはそれが理由だった。彼は眠りに落ちた後、気づくとこの場に居た。ラノベ知識から女神に会えるのでは!と期待していた彼の目の前に現れたのは、見た目80歳位のお婆ちゃん。彼の様になっても、仕方ないのではないだろうか。
彼の婆さんという言葉に眉をピクッと動かした女神は、目付きを鋭くして言う。
「これでも若い頃は美人だったんだけどねぇ」
「そりゃ、見ればわかるけど」
そう、お婆ちゃんではあったものの、女神の容姿は整っていて、若い頃はさぞかし美人だったのだろうと思わせる。
「でも、婆さんだしなぁ」
その言葉で怒りが頂点を迎えたのか、女神は一瞬その顔を強烈に歪め、次になげやりな感じになった。
「あー、もういい。なんかスキルをあげようと思ってたけど、私が適当につけとくわ」
「え、ちょっ、待っ……………!?」
彼が慌てて女神に声をかけるも、時既に遅し。彼の意識はそこで途切れた。
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「ハッ!?」
意識が体に戻った彼は、勢いよく身を起こした。
「クソ、シッパイシタ。ッテ、アレ、シャベレテル?ソレニ、ウゴケル。ヤッター!テ、アレレ?ココ、ドコダ?」
彼が周りを見る。彼の立っている場所は、明らかに眠る前と違っていた。眠る前は壊れる寸前の小屋みたいだったが、今彼が立っているのは木々に囲まれた森の中だ。
「ナンデ、コンナトコロニ?マサカ、ステラレタ?」
そう考えても、彼はそう驚きはしなかった。彼の知識では、ゴブリンにはそういう仲間意識が低いという面もあったからだ。
しかし、だからといって、状況が好転した訳ではない。
「モッテルノハ、コシヌノト…………コレハ?」
彼が身に付けていたのは汚い腰布と、特殊な形をした短剣だった。
「コレハ、タシカ、ジャマダハルダッタカ?ナンデコンナモノガココニ?」
鑑定のような定番スキルを持っていれば調べられたのだろうが、彼はそんな便利なものは持っていない。
「ドウシタライインダ…………オソラク、イヤ、ゼッタイニオレハヨワイゾ」
彼は途方にくれたまま、森の中に立ち尽くしていた。
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それから数日後、彼は何とか生き延びていた。それも、【消音】【潜伏】【夜目】のスキルのおかげだ。
【消音】が移動時の息づかいをかなり小さくしてくれて、【潜伏】で他の生き物を避けて、【夜目】のおかげで夜間も逃げ続けられた。
しかし、それももう限界に近づいている。食料問題だ。全ての生物から逃げ回っているから、彼は寝床を確保するのが精一杯で、この世界に来てから一度も何も食べていない。
「このままじゃ、ヤバい。もう覚悟は決まった」
彼は戦う覚悟を決めていた。自分が生きるため、他の命を奪う。それは、地球の日本という国で育った者にしては、随分早い決断だった。
彼は腰についている短剣を確認し、最後にステータスを開く。
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名前:キル ゴブリンアサシン
スキル:【消音】【潜伏】【夜目】【暗殺剣】【特殊進化決定】【言語】【疾走】【危機察知】【飢餓耐性】
称号:【異世界人】【女神の注目】
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「あれ、これは………そうか、女神がスキルをくれたんだっけ」
彼は増えていたスキルを見て、そう納得する。スキルの効果はよくわからないが……………。
「まあ、文字通りの効果だろうな。だけど、これで目標が出来た。進化して強くなる!」
「キュイッ」
「うわぁっ!?」
突然背後から聴こえた声に、彼、キルは大きくその場から離れる。声の聴こえた方向を見ると、そこには……………。
「兎?なのか?」
そう、そこに居たのは兎だった。ただし、兎と判断出来るのは耳だけで、他は真ん丸の毛玉のようだったが。その姿は非常に可愛く、キルは緊張の糸を解す。
「なんだ、危険じゃなさそうだな。ほれ、こっちにこい」
「キュイィィィ♪………キュイッ!!」
「あぶなっ!?」
キルが兎を手招きすると、兎は近づいてから急に噛みついてきた。間一髪かわしたが、当たっていたら致命傷だっただろう。
(お、思いっきり危険じゃん!ってうわっ!)
「こ、こんのぉぉぉ!!」
「キュイィィィ……………!?」
キルが兎らしきものに、両手にそれぞれ短剣を握り、勢いよくきりつける。あたりどころが悪かったのか、兎はそれだけで動かなくなった。
「はぁ、はぁ………まさか、いきなりとは。それにしても、肉だ肉!」
キルは生き物を殺したという感覚よりも、極度の空腹感が勝ち、何の処理もしていない兎に食らいつく。普通なら到底食べられるものでは無いのだが、飢餓状態にあったキルには、極上の肉に感じられた。
そのまま夢中で食べていると、ガリッと固い何かを噛み砕いた様な音がなった。それと同時に、体に力が溢れる。気がつけばキルの痩せ細った体は、充分に肉がついていた。
「これは、どういう事だ?今のは………魔石、か?」
ラノベ知識から、それらしいものを引っ張り出す。そして、それは当たっていた。
「まあ、とりあえず状況を整理するかな。なんか、空腹は収まったし」