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絡み合うは思惑と勘違いと誤解と体

ブクマ、評価、感想ありがとうございます。とても励みになります。

「なんだ! 何が起きている!?」


 眩い光に包まれ、連続する爆発が空気を揺らし自分の声も出ているのかいないのか判然としない。逃げようとしても謎の壁に阻まれ爆炎と立ちこめる煙の中、謎の光線が集中的に愚息を襲う。


「やめろ、やめてくれぇ、このままでは愚息がァァア!! グァアア!」


 数センチ先も見えぬ煙の中、呼吸をすることもできずにルルの魔術が終わるのを辛抱強く待った。光線を受け続け辛抱たまらんと鬼神棒となった愚息は、そう長くはもちそうにない。

 私のレリックは魔力に反応し半自動的に魔力を中和し軽減する。ほとんどの魔術は私の体に触れることなくレリックによってかき消されるはずなのだが、ルルの放った魔術は中和しきれずくすぐるようなダメージを愚息に与え続けていた。


 中和できるのは体に触れた魔力や魔術に対してだけだ。服やマントは魔力を中和できずに焼けてしまうので、このままでは全裸になり、謎の光線のせいで鬼神となった発射寸前の愚息をお披露目する羽目になってしまう。

 かっこつけながら戦っていたのに最後の最後でこれではかっこがつかない。揺れる胸がこぼれるのを待ちながら黒い下着をずっと見ていたのもバレるかもしれない。見ていた証拠なんてパンプアップした愚息一つで十分だ。これ以上ないほど自分は性犯罪者だと雄弁に語り、花弁はどこだと開き直っている。


 何分経ったのか、何秒もなかったのかわからない。爆発と光線から解放された私は煙を払い即座に自分の体を確認した。服は焼け焦げてマントは完全に焼失している。辛うじて衣服は着ているが、このまま街に繰り出せば衛兵に槍を突き出されるレベルでしか残っていない。


 よくよく考えれば光線が飛んでくるなら手で愚息を隠していればよかったのだ。なぜ私は頭の後ろで手を組んで腰を突き出してしまっていたのだろう……一生の謎だ。


 改めて自分の姿を見る。マントは焼失しているので愚息は剥き出しだ。パンツとズボンは中央が吹き飛んでおり、そこがさらに焼けてしまい被害が拡大していて最早ズボンではなく厚手の靴下になっている。着ていたシャツも愚息に光線が集中したせいで胸元辺りまでなくなっていた。


 試しにシャツ引っ張ってみるが――うむ、どうやっても隠せないし誤魔化しようがないな。


「うぅ……」


 これはルルのうめき声? いや、泣き声だろうか。

 女性は泣くよりも私に抱かれて鳴いてほしいものだな……などとハードボイルドにキメている場合でもないし、服もズボンもパンツもなく、人間としての尊厳すら失っている。


 どうする、このままでは鬼勃起している愚息を見られ、勘違いではなく正当で真っ当な評価を下されルルに嫌われてしまうぞ。


 考えろ、考えるのだ――。


 煙が風に流されて消えていき、ルルの姿がうっすらと見え始める。

 姿を見られる前に逃げるか……駄目だ、私は全てを受け切ると言ったではないか。受けた感想ぐらいは言ってやらなければルルに悪い。


 ではどうすればいい、葉っぱで隠すか? いいやそれも駄目だ、それでは逆に目立ってしまう。

 逆にルルが胸と股間を葉っぱで隠して煙の中から出てきたらと考えてみろ――誘っているのかこの痴女め、ならばお望み通り隅々まで視姦してやる! と、気になって仕方なくなり目が離せなくなるだろ。

 そもそも私の愚息を隠せるような巨大な葉などない。


 では土の中に愚息を突き込み倒れた振り、負けた振りをしてほとぼりが冷めるのを待つのはどうだろう。

 これも無理があるな。土の中でミミズに絡まれでもして射精したら大事だ。ミミズに触れれば愚息が病気になり、「童貞なのに性病にかかるとか、伯がおかしいのは頭だけじゃないんですね」とハンスに言われて心の病も併発しそうだ。地球で童貞を捨てるのは夢があっていいが、私は変態であっても狂ってはいない。


 逃げることも隠すこともできないのでは、もうこのまま見せるしかないのだろうか。

 煙が散るにつれ焦りが増していく。

 どうする、どうするのだベルヴェール四十六歳!

 そうだ……樹を隠すには森である、ルルの森の中――薄い茂みの肉林に私の勃樹をぶち込んで隠してしまえばいいじゃないか! 


「いいわけがないだろ……馬鹿か私は」


 どさくさ紛れに婦女暴行など、考えうる童貞喪失(シチュエーション)妄想稽古(シミュレーション)の中でも最悪の一つ、男で童貞を失うことの次に悍ましい展開だ。

 だが私の勃樹(ツリー)を隠すために近づくというのはありだ。というかそれ以外の方法が今はない。


 ――酔いと光線による快感の余韻、それに加えて人生最大級の窮地に陥ったことで私のテンションは異常なほど高まっていた。それしか選択肢はなく、それが最善であると思いこんでしまっていた。



 そうと決まれば善は急げ、前戯は急ぐなである。

 煙が消え切る前に魔力(レリック)を足に回して飛ぶように駆け、ルルとの距離を一気に詰めて声をかけた。ルルは私の異変(はんら)に気づいたのか、下を見ようとしたのでそうはさせぬと抱き着いた。咄嗟の判断力と行動力。御師様との辛い修行の日々が活かされていると実感する。価値ある日々を過ごさせてくれた師に感謝の念に堪えない。


「どうして立っていられるの……?」

「…………」


 一瞬で勃起してるのバレた。

 御師様との辛い修行の日々などゴミ以下の価値しかなかった。詰んだわ。終わったわこれ。領主だけどお縄だわ。


 ええい、こうなったらルルの勃起(エッチ)な体に興奮してしまいました、光線も滅茶苦茶気持ちよかったのでもう一度お願いします――と正直に言って土下座しながらアンコールを頼もうか。強きを尊しとするなら、その方がかえって「欲望に素直でなんと男らしい! 気に入った、もっと凄いことをしてあげるわ!」とか好感度が上がって交姦期待度も上がるやもしれない。


 いや、まだだ、まだ諦めるには早い。勃起がバレて抱き着いた程度で私が法的闘争に負けると確定したわけではない。九割負ける気もするが、一割でも可能性があるなら諦めてなるものか。

 勃起したまま半裸で抱き着いているので状況的には誰がどう見ても私が凶悪な性犯罪者にしかみえないだろう。しかし私の服を焼き払い愚息を集中攻撃してきたのはルルの方だ。性的被害を受けたのであると強く主張し――。


「あの技を受けて、どうして平然としていられるのよ」


 ……立っているとは愚息のことではなかったのか?


「……そっちか。魔力とは違う、レリックがあると言っただろうに」


 危なくいらんことを白状するところだったぞ、まったく。


「泣いているのか……ルル」


 馬鹿な事を考えていたが、今は涙声で気丈に振舞っているルルを慰めてやらなければならない。

 何故泣いているのかはさっぱりわからないが、理由などどうでもいい。半裸で抱き着いて勃起を誤魔化している時点でこれ以上ない落ちぶれようだが、それでも女を泣せたままでいるほど私は落ちぶれていない。


「な、泣いてなんかいないわ」

「そうか。しかし――」


 あ、これは強情になっているやつだ。

 御師様が言っていた。女は見た通りの物事も、決してそうとは認めようとしない強情さを発揮することがあるのだと。そしてそんな時は素直に同意し、波風立てず無難にやり過ごすのがモテる男の秘訣だと童貞のくせに言っていた。


 だが私にはこの状況を打破するとっておきの策があった。

 ルルは褒められると尋常じゃないほど喜ぶ癖がある。それを知ったのは礼儀作法をタチバナに教えられている時だった。テーブルマナーを教わっている際に、上達が早いと一言言っただけで「パァーッ」と花が咲くように笑い、すぐに表情を戻したのである。

 あの笑顔が忘れられず私は事あるごとにルルを褒めるようになった。ハンスからは褒め過ぎだ、褒め殺しだ、褒めレイプ、伯ハラスメント――などと散々な言われようだったが私は気にしない。

 人が喜ぶのはいいことだ。プラスの感情を湧き上がらせることになんら恥じることなどない。恥じるとしたら、今この現状だ。


「――大したものだ、本当にルルは強いのだな。よくここまで体を鍛え、魔術の練度を高めたものだ」


 本心からの言葉である。

 よくもまあ私の無敵の愚息に魔術でこれほどダメージを与えたものだ。魔力が通用しないのが私の戦闘においての強みだったのだが、自惚れを自覚させてくれたこと、切に顔射したい――いや、感謝したい。


「うぅッ……」


 褒められたことでテンションが上がったのか、ルルはふんわりした悩みを涙声で打ち明け始める。

 愚息が当たらぬよう下半身の筋肉を総動員して腹にぺたりと張り付け、更に視界を遮るためにルルの頭を自身の胸に押し付けた。


 御師様の教え通り私も具体性なくふんわりと守ってやると言い、殺せなどと物騒なことを言ったことを叱るとルルは本格的に泣き始めてしまった。


 褒められると喜び、叱られて泣く。これでは姿は勃起(おとな)でも心は子供のままだな。


 泣きじゃくるルルを抱きしめたまま、愚息がぶっ放さぬよう爺やの裸体を想像しながら月を見上げて泣き止むのを待っていた。


 ふと思う。このあとどうしようか、と。

 いつまでも抱きしめているわけにはいかない。意識しないようにしていたが、長時間の美女との抱擁は愚息に毒である。なので私は苦肉の策で、苦しい言い訳を放つ。


「私は強いと言ったが……実は弱いのだ」


 私は姑息にも鬼勃起しているの酒のせいにしようとした。

 最悪の自体――ルルが愚息の異変(ぼっき)に気づいたとき、「言っただろ私は酒に弱いと! お酒のせいで愚息が馬鹿になってしまったのだ! 私はあの時確かに言ったからな!?」と、何と言われようとも反論を許さず、そうゴリゴリに押し切るつもりだった。


 意外にもルルの反応は私の思うものとは違った。街に出掛けた時のように、何が弱いのか何で弱いのかと質問攻めにあうかと思っていたが、どういうわけかルルは泣き止み、「ベルヴェール、貴方の目指している未来……その童貞は私が守るわ」と、脈略もなく、とんでもなく迷惑な宣言をした。


 何故私が童貞だと知っている。もしや童貞だと確信して決めてかかっているのか? 失礼な話だと憤るが、あっているからぐうの音も出ない。

 それよりもどうして私の童貞を守ろうとする。四十年生きたなかでも最大級の余計なお世話だ。


 そして仕舞いには


「ママって呼んで?」

「――ママ!?」


 これである。

 もうわけがわからない。童貞守護宣言の次はママと呼べなどと言いだした。

 今の状態のルルをママ呼びするのは、若干の抵抗はあるものの決していやではない。

 そりゃあ誰だって、ルルの熟れたウリ科のような胸にしゃぶりつき、「マンマ、マンマ! オンギャア!」と泣き真似をして頭を撫でられたいに決まっている。

 だがそれをすれば領民やメイドたちどころか、流石のハンスでさえ私から離れてしまうかもしれない。


 この事態、どう収拾つければいいのだ――。





「……そ、そろそろ戻りましょう。もう夜も遅いわ」

「……」


 いや無理だよ。今身体を離したら鬼勃起しているのがバレるから。


「もう少しこのままでいたい。駄目か?」

「甘えん坊ね……でもベルヴェールがそうしたいなら私はかまわないわ。私もそうしたかったし……」


 最後は消え切りそうな声でルルがなんと言ったかはっきりとは聞き取れなかった。だがよかった、これで考える時間は作れた。愚息が風邪をひく前に打開策を考えよう。


「貴方の腕の中、とても落ち着くわ……」


 私はルルの胸の柔らかさが気になって全く落ち着かない。

 ロリアナスタシアの時と同じ下着なのか、引き千切れていないのが不思議なぐらい伸びてしまっていて今にも胸が飛び出しそうじゃないか。だが仮に飛び出しても恥じることはない、私の愚息も飛び出しているのだからおあいこだ。


「そうか、ならこれからはルルの機嫌が悪いとみたらこうして頭を撫でてやればいいのだな」


 愚息を落ち着かせるためにルルを子供扱いした軽口を叩く。

 ロリアナスタシアがマリーとこんな調子でキャッキャしていたのを見た。こういう掛け合いはハンスとよくやっているので、これでキーキー騒いでくれれば私もやりやすい。


「うー……! そういう意地悪は言わないでよ……でも、そうしてくれると嬉しいわ。私は素直じゃないでしょ? だけど貴方がこうしてくれている間は素直になれる気がする……。それにベルヴェールが悪い子だったら、私も叱りながらこうしてあげるわ」


 勃起(カッワイイッ)!!

 なんだそのしおらしい反応は! いますぐ悪い子になりそうだし、愚息が勝手に悪さをしてしまいそうだ! あまりの勃起(かわい)さに愚息が腹を突き破って背骨を折りそうなほど反ってしまったぞ!


「許せ、冗談だ」

「わかってるわよ……それぐりゃい」

「りゃい?」

「ちょっと噛んだだけでしょ、もう!」


 腕の中で離れず頭をぐりぐり押し付けるルル。

 おかしい、ルルに対する印象が大きく変わり始めている。元々は妹的な、娘的な可愛さを抱いていたのだが、今は恋人(ママ)のような……。


 いかん、余計なことを考えるのはやめよう。これ以上は愚息が暴発して賢者になってしまう。

 愚息が賢者になる前に自然と角度を下げることが最優先事項――なのだが、下を向けば今にも黒下着からこぼれそうな胸があり、上を見れば満月がルルの胸を連想させる。正面を向いても感触からは逃れられず愚息は常に最高のコンディションを維持してしまう。


 だいたい愚息が小さくなれば、その過程でばれてしまいそうなもの。八方塞だ。塞ぐなら愚息でルル穴スタシアを塞ぎたいが、それができるなら四十年以上童貞でいるわけもない。

 満月の下、人気のない場所で抱き合う男女……御師様の集めていた古文書『極楽天』という色本ならばこの後は濃厚で濃密な絡み合いが始まるのだが、現実はそう甘くない。ルルは私の童貞を守るとか誰が得をするのかわからない宣言しているのだ、色本的な展開は望み薄すである。


 そうだ! 閃いたぞ!


「失礼」

「え? えッ!?」


 抱き着いて離れないルルを抱き上げる。

 ルルの生足はなんと滑々なんだ……という感想が愚息に牙を剥き、達したことのない硬さになる。


「もう夜も遅い。部屋まで送ろう」

「待って、これはお姫様抱っこ――」

「さぁルルアナスタシア姫、落ちぬよう気を付けてください」

「……本当に気づいていたのね」


 危うく生足の感触だけで果ててしまいそうだったが、ごっこ遊びに興じることで難を逃れる。

 生足の感触さえ克服すればこっちのものだ。これでルルに下腹部の盛り上がりがバレることなく裏庭から離れることができる。依然愚息は解き放たれたままだが時間も時間だ、廊下でメイドたちと出くわすことはまずないので他の者にバレる心配もない。


 いや、先ほどのルルの魔術でみな起きているかもしれない。こうしてはいられん、急いでルルを部屋へ運ぼう。


「でもやっぱり恥ずかしいわ……」

「守ると言ったのだ、暗い夜に離れるわけにはいかんだろう?」

「そ、そういうものなの?」


 知らん。暗くない夜があるかも知らん。全て勢いだ。


「過保護な気もするけど、いやじゃないわ……互いに守り合っている気がして」


 ふんわりとした理由で怒っていただけあって、ふんわりとした理由で納得してくれる。そう言えばマリーも随分とふんわりとした性格だったが、あのようなふんわりした性格でなければルルの従者は務まらないのかもしれないな。


 ルルを抱き上げて屋敷のなかへ入る。長い廊下を一歩進むごとにルルの胸が左右に揺れた。

 大袈裟に揺すって胸の動きを楽しみたかったが、露骨すぎてバレては難だ、やめておこう。そういうのは皿に乗ったワインゼリーでしよう。この視覚的記憶を脳に深く刻み込み、ワインゼリーをルルのおっぱいだと錯覚させて自室で一晩中揺らして楽しもう。料理長にはクコの実を乗せるように頼んで――。


「凄い安定感。この姿の私はそんなに軽くはないはずなのに……」

「そうか? ルルぐらいの軽さなら三日間抱えっぱなしでも苦にはならんぞ」


 何せ鬼勃起した愚息がルルの背中を支えているからな。腕の負担が殆どない。


 ルルの部屋の前に着くと爺やが扉の前で立っていた。爺やの愚物が勃っていたわけではない。勃っているのは私だけだ。


「旦那様、お召し物が焼け――いえ、何でもございません」


 爺やには一発で見抜かれた。私の愚息がパンツを突き破り露出しているのを。

 だが気を利をかして黙ってくれる辺り、長年私の執事をやっていただけはある。


「ルルアナスタシア様の部屋の掃除は済んでおります。マリーさんも部屋に送っておきましたのでご安心ください。では私はこれで」


 爺やが部屋の扉を開け、すれ違いざまに親指を立てて去っていく。

 なんの意味があるのだろう。まさか勃起した愚息が親指サイズだとでも言いたいのか!?


「…………」

「フッ」


 爺やもハンスのような冗談を言うようになってくれたか。嬉しいぞ。

 そういう雑ないじられ方は嫌いではない。


 ふとルルを見れば顔を真っ赤にしている。そう言えばこの抱き方を最初にも恥ずかしがっていたか。人に見られたとなれば顔も赤くなるだろう。


 半開きの扉を愚息で開けて部屋の中に入る。

 さて、このあとはどうしたものか。室内はご丁寧に明かりがついたままなので、下ろした瞬間にルルの背中を支えているものの正体がバレてしまう。


「今日はもう寝るんだ。明日の朝も早くから行儀のテストがあるのだろう?」

「ええ、そうね。そうさせてもらうわ……」


 よし、これで自然にランプが消せるな。

 ルルを抱いたまま壁につけられたランプのスイッチを押す。魔力で動くランプは魔力供給が途絶えて徐々に明るさを失っていった。


 あとは部屋が暗くなったらとりあえずベッドに降ろし、神速で背中を向けてこの場を去ろう――そう思った時だった。


「うっ……しまった……!」


 ベッドにルルを降ろした瞬間、酷い眩暈が私を襲う。鬼勃起した愚息に長時間血を奪われていたため、貧血をおこしてしまったのだ。加えて酔いのせいで踏ん張りがきかず態勢を維持することができなかった。


「あっ……」

「す、すまない、すぐに退く!」

「いいえ、このままでいいわ」

「ん!?」


 柔らかな感触が顔を包む。

 これは何かと問うのは野暮だろう。


「私の前では無理をしなくていい。己を偽らず、自然体のベルヴェールでいてほしいの」


 ルルが私の頭を抱き、子を慈しむように撫でる。

 自然体の私とは性欲に身を任せろという意味か?

 いいや、ルルは私の童貞を守ると言っていたのだ、きっと違う意味だろう。


「渡り鳥もずっと空を飛んでいるわけではないの。生まれ持った才能や力だけではなく、止まり木で羽を休めるから長く飛ぶことができるのよ。だから私は貴方の止まり木になりたい……私を使って休みなさい」


 なんだ、また妙に詩的でふんわりした意味不明なことを言いだしたぞ!?

 鳥は止まり木がどうたらと言っていたか……。ロリアナスタシアが相手なら「鳥なら胸肉が好きだなぁ」と適当に肉の話でもして流したところだが、今の美女アナスタシアの前ではどうもかっこつけたくなってしまう。これはなんと返せば男らしいだろうか。


「鳥ならばそうだろう。だが私は竜だ――」


 かっこよくないか!?

 自分をドラゴンとたとえるのはかっこよすぎないか!? 

 まぁ、私が言ったのは愚息(ドラゴン)のことだがな。


「バロールもあなたを竜だと言っていたわね。シャラザードには千年もの時を生きた竜がいると言われているわ……」


 おかしい、具体的に返されたぞ! 爺やが私の愚息を親指ではなく竜だと言ってくれたのはちょっと嬉しいが、四十年物と千年物では相手にすらならない。こういうときはなんと返せばいいのですか御師様! 


「その竜は大山から動かず、ただ座して世界を眺めるのみ」


 千年も生きていてやることが山に引きこもって景色を見るだけなのか……。達観しているのだろうな。


「竜が動くのは世界を動かす時。だからベルヴェールも――」


 私の竜はしょっちゅう動いている。

 そんなことよりも、ルルの目が暗闇に慣れる前に部屋から出ていきたい。話が長引けばそれだけバレるリスクが増える。


「私は竜だが、今はまだ翼もない。いつかルルを乗せて大空を舞いたいものだな」


 翼がないとは童貞の意で、ルルを乗せるとは騎乗位。そして大空を舞うとは昇天を指す。この状況で下ネタを詩的に表現することでギリギリのスリルを味わう私は根っからの性欲者だな。


「ベルヴェール……」


 私を抱いていた腕により一層力が込められる。力を誇るだけあってなかなかの腕力だ。


「今日はこのまま一緒にいてほしいの……ダメ?」

「……………………………………………………」


 ルルがそう望むなら私は一向にかまわんよ――そう言葉にしたつもりだったが、実際は何も喋れていなかったのは酔いのせいでもあり、貧血のせいでもあり、何より童貞の(さが)であった。


 私はこの誘いが何を意味しているのかわからないほど男女の色恋に疎い人間ではない。一夜限りの肉体関係(アバンチュール)を何故か心の弱っているルルは求めているのだろう。

 弱ったルルの隙につけ込んで抱くことに抵抗がないわけではない。抱いた以上責任も取り、魔王には「娘さんを私にください! 既に処女は貰っているがな!」と言ってやる覚悟もある。


 だが、愚息は萎れ、これ以上ないほど縮まっていた。


 酒を飲み過ぎたのだ。飲み過ぎたがゆえに勃起不全(マッキシング)を起こし、立ち上がることができなくなっているのだ。日に三十時間の鍛錬という矛盾をクリアしたことで手に入れた愚息の超硬度が、大量摂取したアルコールによって機能しなくなっているのだ。

 緊張が悪い方向に作用しているのもある。経験のない私には誘いを受けた後、具体的に何をしたらいいのかわからない。


 それよりも何よりも愚息が立たなければ始まらない。

 立て、立つんだ!

 愚息よ、私はお前をそんな軟弱なモノに育てた覚えはない!

 思い出せ、今日という日の為に続けてきた厳しい鍛錬の数々を!


 ――薄目で見ると女性の顔に見えなくもない壁のシミでヌイた。

 ――老婆にも若い頃はあったのだと、脳内で細胞を若返らせてヌイた。

 ――世界の女性が全て石になってしまったという設定で石を使ってヌイた。

 ――メイドが去ったあと、そこに女性器が通ったという事実をオカズにヌイた。

 ――夢精があるなら覚醒して意識のあるときでもノーハンドでイケると信じてヌイた。


 数々の困難を乗り越えてきたお前が、極上の女体を前にして何をだらしのない! 


「うぉぉお!!」

「え!? なになに!?」


 血液よ愚息に流れ込めと気合の叫びをあげる。

 ルルとできるなら貧血で死んでしまってもいい。だから立ってくれ愛息子(ぐそく)

 しかし愚息はまるで眠ってしまったかのように静かだった。


 そうだ、無茶な鍛錬など思い出さずとも目の前の極上の肉体を見えば、眠ってしまった愚息も無制限百本勝負に挑む勇士(レスラー)の様に逞しくそそりたつだろう。

 私は目を凝らしルルの姿を見ようとした。一度顔を離して胸肉見学会を行おうとしたのだが、顔に当たっていた胸の膨らみがなくなっていることに気づく。


「あれ」


 肉食のウリ科生物かと言うほど右に左に暴れていた胸はなくなり、いつもの平たい胸がそこにはあった。

 これはどういうことか……。


「ど、どうしたの?」 

「ルル、体が」

「あ、うん。魔力がなくなってしまって元に戻っちゃったわ。この姿だと本来の力が出せないからあまり好きじゃないのよね」

「…………」


 無理だ。流石に無理だ。こんな未成熟な少女では半勃起(みじゅく)な愚息であっても突き込めば殺してしまう。それ以前に性の権化のようなルルを見ていたせいで、こんなちんまい少女では性欲の欠片も湧かなくなっている。薄暗い部屋の中、黒い下着を見ても何も感じないのがその証左。


「人族は眠る前に叫ぶの? もう寝ましょう……えっと、一緒に寝てくれるのよね? 途中で部屋に帰ったりしないでね?」


 ルルは最初から本当の意味で眠るつもりだったらしいと、その段になってようやく気付く。

 私が一人で勝手に舞い上がっていただけなのだ。ルルは私の童貞を守ると言ったのだ、それで私の童貞を奪うわけもないじゃないか。いや、もしやとは思うがルルはこういった男女の知識に疎い……というよりは皆無なのではないか? 普通はいい歳の未婚の男女が一夜をともにすごすとなれば、答えはそう多くはないはずだ。戦闘狂のルルはそれを理解しておらず、私と一緒に寝たいと言ったのか。


 ではさっきからしきりに甘えてくるのも……これは父性を求めてのことか?

 そうか、ルルはホームシックなのだ。父親と離されて、寂しくなってしまったのだ。

 一人暴走して張り切っていた自分が恥ずかしい。童貞を守ると言ったのも何かの勘違いか聞き間違いで、別の意味があったのだろう。


「私が上ではルルが潰れてしまう。よし、来るといい」


 一度横に転がり、来いと言いつつ小柄な、それこそ子供そのものなルルを抱き寄せる。


「ママ……などと言っていたな。では私はルルの父親になってやる。いつでも甘えてこい」

「…………」


 抱きしめたルルは私の胸にぐりぐりと顔を押し付ける。

 可愛いものだな。いいだろう、さっきはふんわりと言ってしまったが、今度は確たる意思を持って宣言してやる。


「何があろうとも、誰がこようとも私がルルを守ってやる。困ったことがあれば私に言え、全て解決してやる」

「ベル……」



 また泣き出してしまったルルの頭を撫で、私は目を瞑った。

 さぁ寝よう。何か忘れている気がするが、それは明日考えればいい。


 翌朝――半裸姿でルルの部屋から出たところで偶然通りかかったハンスと出くわしてしまい、私は五時間にも及ぶ事情聴取を受けることとなった。

ベルヴェール・ディオール

ステータス:ピューア王国ハイルズ領領主 四十六歳童貞 甲殻類 貴公子 ルルのパパ

状態:半裸 貧血気味 二日酔い 童貞喪失未遂罪 童貞懲役四十六年判決 しがみつかれ

ルルアナスタシアから見た姿:裸だから風邪をひかないように私が温めてあげよう


ルルアナスタシア

ステータス:魔王の娘 魔族最強 吸魔の神子 勇者の子孫の婚約者 ベルのママ

状態:九歳 ツルペッタン スヤスヤ しがみつき 伸縮自在のブラ


バロール

ステータス:執事長

状態:これでシャラザードとは繋りましたね。あとは子でもなしてもらえば言うことはありません。では私たちも次に移るとしましょう……。


ハンス

ステータス:執事衆 従者

状態:怒髪天 軽蔑 


マリー

ステータス:ルルアナスタシアの従者

状態:ワイン飲酒 泥酔


リタ

ステータス:メイド 借金の形(残り10,002,000 )

状態:ワイン飲酒 泥酔


タチバナ

ステータス:メイド 戦闘狂

状態:ワイン飲酒 泥酔


パラウド

ステータス:執事衆

状態:招集


ケイン

ステータス:庭師 

状態:折角整えた裏庭がぁ……

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